
執筆者:辻 勝
会長税理士
開業前の資料チェックリスト|融資・事業計画を税理士が解説

開業前に税理士へ資料を渡す意味とは
開業前に税理士へ渡すべき資料の核心は、「融資審査で説明できる数字」と「開業後に破綻しない運用設計」を同時に整えることです。資料が揃うほど、融資の説明力が上がり、税務・経理の初期設計(口座、会計処理、役員報酬や事業主借/貸の整理など)も早期に固まります。
特にクリニックや士業事務所のように固定費が高い業態では、資金繰り表と収支の前提(患者数・単価・稼働日数など)が曖昧なまま融資を進めると、開業後の資金ショートにつながりやすくなります。
当法人(税理士法人 辻総合会計)では、医療系を含む開業支援を30年以上行う中で、融資が通った後に「運転資金が想定より足りない」「リースと現金支出のタイミングがズレた」といった相談が繰り返し発生することを確認しています。早期に資料を共有し、数字の筋を整えるのが最短ルートです。
税理士へ渡すべき資料チェックリスト(融資・事業計画)
ここでは、税理士が融資サポートと事業計画の検証を行うために、最低限必要になる資料を「必須」と「あると強い」に分けて整理します。可能ならPDF化し、ファイル名を統一して共有すると作業が一気に進みます。
1) 事業の前提を示す資料(必須)
- 開業コンセプト(診療方針、想定患者層、提供サービス、差別化要素)
- 開業予定地・商圏情報(駅距離、人口動態、競合医院/店舗、導線)
- 診療日・営業時間・体制(医師数、スタッフ数、想定シフト)
- 価格・単価の根拠(保険/自費の比率、平均単価の想定根拠)
- 開業スケジュール(物件契約、内装、機器納品、採用、開院日)
- 許認可・届出の想定(保健所・厚労関連、開業届など)
ポイントは、数字以前に「何を、誰に、どの体制で提供するか」を明確にすることです。ここが曖昧だと、後述の収支計画が机上の空論になります。
2) 初期投資と資金調達の資料(必須)
- 見積書一式(内装工事、医療機器/設備、IT、看板、什器備品)
- 物件関連資料(賃貸借契約書案、保証金、家賃、共益費、更新条件)
- リース/割賦の提案書(支払開始月、月額、総額、保守の有無)
- 自己資金の証跡(通帳コピー、資金移動の履歴が分かるもの)
- 借入予定の条件整理(希望額、返済期間、据置、金利想定)
- 既存借入の一覧(住宅ローン等:残高、返済額、返済期間)
初期投資は「契約したら戻らない支出」が多い領域です。税理士が全体を見て、投資順序と支払タイミングを並べ替えられるよう、見積書は可能な限り揃えます。
3) 損益と資金繰りの資料(必須)
- 月次の売上予測(開業月から12〜24か月)
- 固定費一覧(家賃、人件費、リース、保守、通信、広告、顧問料)
- 変動費の前提(材料費、外注費、決済手数料など)
- 税・社会保険の前提(個人事業/法人、役員報酬、給与)
- 資金繰り表(最低12か月、できれば24か月)
- 資金残高の推移(最低残高がいくらになるかの見える化)
「損益(儲かるか)」と「資金繰り(払えるか)」は別物です。黒字でも、納税や賞与、リース開始、内装追加工事で資金が詰まることがあります。
4) 融資面談・審査で効く補強資料(あると強い)
- 職歴・実績資料(資格、勤務先、実績、得意分野、症例/対応実績の概要)
- 集患計画(広告媒体、紹介導線、Web施策、開業前後のKPI)
- 採用計画(募集要項、採用単価の見込み、研修計画)
- リスク整理(想定外の売上未達、スタッフ退職、工期遅延への対応)
- 家計の状況(生活費、教育費など)※必要に応じて
補強資料は「説得力」を作ります。たとえば「なぜこの立地で勝てるのか」「なぜこの稼働率を実現できるのか」を、言葉ではなく根拠で支えるためです。
融資で重視される資料と、税理士が見る観点の違い
同じ資料でも、融資側と税理士側では見方が異なります。ここを理解すると、準備の優先順位が上がります。
| 項目 | 融資(金融機関)が見たいこと | 税理士が見たいこと |
|---|---|---|
| 売上予測 | 根拠があるか、過大でないか | 会計・税務の前提として妥当か |
| 固定費 | 売上未達でも耐えられるか | 固定費の構造と削減余地 |
| 初期投資 | 投資過多で返済不能にならないか | 減価償却・リース判定、支払時期の管理 |
| 資金繰り表 | 返済を含めて資金が回るか | 納税・社会保険・賞与等の季節性の反映 |
| 自己資金 | 生活防衛資金が残るか | 事業用/私用の分離、資金移動の説明可能性 |
「融資が通る資料」だけを作ると、開業後の運用で詰まります。逆に「税務だけ最適」でも、審査で説明が弱いと資金が確保できません。両方の視点で整えるのが実務です。
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税理士へ渡すまでの進め方(手順)
資料を揃えるだけでなく、「渡し方」を整えると精度が上がります。おすすめの流れは次の通りです。
Step 1: 資料をフォルダ分けして棚卸しする
- 事業前提(コンセプト、商圏、スケジュール)
- 初期投資(見積・契約・リース)
- 収支(売上・費用・人員)
- 資金(自己資金、借入、既存返済)
- 補強(職歴、集患、採用)
ファイル名は「日付_会社名_資料名(版)」のように揃えると、差し替え時の混乱が減ります。
Step 2: 数字の前提メモを1枚作る
たとえばクリニックなら、以下を1枚にまとめます。
- 1日患者数(平均/繁忙期)と稼働日数
- 保険/自費の比率と平均単価
- スタッフ体制(受付、看護、技師など)と人件費レンジ
- 内装・機器の追加投資の可能性
- 返済開始月と据置の想定
この1枚があると、税理士が「どこを検証すべきか」を即座に判断できます。
Step 3: 資金繰り表を税理士と一緒に固める
資金繰り表は、最初から完璧である必要はありません。重要なのは、次の論点を税理士がチェックできる形にすることです。
- 支払タイミング(着手金・中間金・残金、納品月、リース開始月)
- 売上の立ち上がり(開業直後の低稼働を織り込む)
- 税金・社会保険の発生タイミング(半年〜1年後に効いてくる)
- 最低資金残高と安全余裕(何かあった時に耐えられるか)
Step 4: 面談用に「説明ストーリー」を整える
融資面談では、資料の中身よりも「整合性」が問われます。税理士は、事業計画の数字と説明の筋が通るように調整します。
- なぜこの立地・診療圏なのか
- なぜこの売上の立ち上がりなのか
- なぜこの人員計画なのか
- 返済しながら運営できる根拠は何か
よくある質問
Q: 事業計画書は税理士に作ってもらうものですか?
Q: 見積書が未確定でも相談して良いですか?
Q: 自己資金はいくら残すべきですか?
まとめ
- 税理士へ渡す資料は「融資の説明力」と「開業後の運用設計」を同時に整えるために必要
- 必須は、事業前提・初期投資・収支計画・資金繰り表・自己資金と既存借入の整理
- 融資と税理士では資料の見方が異なるため、整合性の取れたストーリーが重要
- 資料はフォルダ分けと前提メモ1枚で、検証スピードが大きく上がる
- 早期相談により、投資順序・据置期間・運転資金を含めた安全な設計が可能
参照ソース
- 国税庁「個人事業の開業・廃業等届出書(情報)」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/tokushu/kaigyo/index.htm
- ミラサポplus(中小企業庁): https://mirasapo-plus.go.jp/
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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