
執筆者:辻 勝
会長税理士
内科開業ガイド2026年版|成功のポイント|税理士が解説

内科の開業は、医師としての診療力だけでなく「経営としての設計力」が成果を左右します。特に問題になりやすいのは、開業資金と運転資金の見積り不足、診療圏に対する過大な患者数想定、届出・保険指定の段取り遅れです。本記事では、内科医が独立してクリニックを開業する際に、何をどの順で決めるべきかを、実務の観点で体系化します。勤務医から開業医へ移る方が、融資審査と開院後の資金繰りでつまずかないための要点を押さえましょう。
内科開業とは?勤務医との違いと成功条件
内科の開業(内科医の独立)は、診療行為に加えて「事業としての意思決定」を自ら負うことです。代表例が、固定費の設計、採用・労務、レセプト運用、設備投資、税務・会計です。勤務医の延長線で考えると、開院後のキャッシュ不足が起きやすくなります。
成功条件はシンプルで、(1)診療圏に見合う患者数を現実的に置く、(2)固定費を売上の伸びに合わせて段階化する、(3)資金繰りを月次で可視化する、の3点です。開業前に「患者数×単価×稼働日」で売上が決まる構造を把握すると、判断が速くなります。
内科クリニックの提供価値を言語化する
内科は競合が多い地域もあり、差別化は「医療の質」だけでは伝わりにくい傾向があります。そこで、診療メニュー(生活習慣病、発熱外来、在宅、健診・予防接種など)と提供体制(予約導線、待ち時間、検査対応)をセットで設計します。
「誰に、何を、どの体験で提供するか」を文章に落とすと、物件選定・スタッフ採用・Web導線まで一貫します。開業後に方向転換を繰り返すコストを避けられます。
内科クリニックの開業資金と資金計画の考え方
内科の開業資金は、物件状態(居抜き/スケルトン)、検査機器(レントゲン、超音波、心電図、血液検査の外注/内製)、内装グレード、IT(予約・問診・レセプト)で大きく振れます。重要なのは「初期投資の大小」よりも、運転資金を含めた総資金の設計です。
目安としては、初期投資(内装・機器・保証金等)に加え、開院後3〜6か月分の固定費を確保する設計が堅実です。レセプト入金のタイムラグや、想定より患者数が立ち上がらない局面に耐えるためです。
居抜き物件とスケルトン物件の比較
物件は資金計画と開院スケジュールに直結します。内科は待合・動線・感染対策の設計が重要なため、見た目の賃料だけで選ぶと後悔します。
| 項目 | 居抜き物件 | スケルトン物件 |
|---|---|---|
| 初期費用 | 抑えやすい(内装流用) | 大きくなりやすい(フル内装) |
| 工期 | 短くなりやすい | 長くなりやすい |
| 自由度 | 制約が残る(動線・配管) | 高い(設計自由) |
| 向くケース | 早期開院・投資圧縮 | コンセプト重視・検査導線最適化 |
| 注意点 | 隠れ不具合・改修費 | 仕様追加で膨らみやすい |
設備投資は「収益化の順番」で決める
検査機器やシステムは、導入すると固定費(リース料、保守料、消耗品)が継続します。開院直後から必須のもの、患者数が増えてから効くものを分け、段階導入も選択肢です。
判断軸は「患者体験の改善」「診療効率の改善」「単価/算定機会の増加」のどれに効くかです。効果が複数重なる投資は優先度が上がります。
内科開業の手順|届出・保険指定・税務の段取り
内科開業は、設計→契約→工事→採用→届出→内覧→開院の順で進みます。実務で詰まりやすいのは、保険指定のスケジュールと、システム導入(オンライン資格確認やレセプト)です。保険医療機関の指定は開院月に影響するため、最初に逆算しておくことが重要です。
Step 1: 事業計画(診療圏・売上・固定費)を作る
患者数の根拠(人口、競合、導線)と、診療メニュー別の単価・稼働を置きます。損益計算書だけでなく、月次の資金繰り表まで作ると融資審査が通りやすくなります。
Step 2: 物件契約・設計(感染対策と動線を最優先)
内科は発熱対応や高齢者動線も含め、待合・隔離・検査導線を設計します。後から直すと費用も休診リスクも大きくなります。
Step 3: 人材採用・運用設計(受付/看護/レセプト)
採用難の地域ほど、業務設計(受付オペレーション、予約・問診、電話対応)が重要です。属人化すると、退職で運用が崩れます。
Step 4: 行政手続き・保険指定の申請を進める
診療所の開設に係る届出(管轄保健所等)と、保険診療を行うための指定申請(地方厚生(支)局)をスケジュール管理します。税務署への開業関連手続きも、早期に段取りすると会計運用が安定します。
Step 5: 開院前リハーサル(レセプト、導線、クレーム対応)
開院前に、予約〜受付〜診察〜会計まで通しで動かします。想定外の滞留ポイントが見つかり、開院後の混乱を減らせます。
内科開業の年収はどう決まる?損益分岐点から逆算する
「内科 開業 年収」は平均値で判断しにくく、院内の構造で決まります。年収(手取り)は、院の利益から税金と社会保険、借入返済、設備更新を差し引いた残りです。したがって、まず損益分岐点(固定費を回収できる売上)を把握することが先決です。
年収を上げる王道は、(1)患者数(再来率・紹介・利便性)、(2)単価(検査・生活習慣病管理・健診等の設計)、(3)生産性(予約・問診・スタッフ分担)、の改善です。特に内科は慢性疾患の継続通院があるため、再来率と院内導線が効きます。
年収シミュレーションの作り方(例)
具体的には、次の順で数字を置くと現実的になります。
- 1日患者数(新患/再来の内訳)
- 1人当たりの平均単価(診療メニュー構成)
- 月の稼働日数
- 固定費(家賃、人件費、リース、IT、広告、保守)
- 変動費(検査外注、消耗品等)
この枠組みで月次損益と月次資金繰りを並べると、「黒字なのに資金が減る」事態を事前に避けられます。税理士法人 辻総合会計では、開業後の月次試算表を早期に整備し、数字で経営判断できる状態を重視します。
医療機関専門の税理士にご相談ください
40年以上の実績。クリニック・医療法人の経営を税務・会計の両面からサポートします。
平日 9:15〜18:15(土日祝休業)
失敗しない内科開業のポイント|よくある落とし穴と対策
内科開業で多い失敗は、患者数が想定より伸びないこと自体よりも、固定費が重すぎて耐えられないことです。特に人件費と借入返済は一度決めると下げにくく、資金繰りを圧迫します。
対策は「段階化」です。採用はピークに合わせず、予約枠・受付導線・スタッフ教育で処理能力を上げながら、需要に合わせて増員します。設備も同様に、最初からフルスペックにせず、増患後に投資する選択肢を残します。
集患はマーケティングより「診療体験」の設計
開業直後は広告に頼りがちですが、内科は立地と利便性が強い領域です。予約・問診・待ち時間・説明のわかりやすさが再来率に直結します。Web予約や事前問診は、患者満足とスタッフ負荷の両面に効きます。
また、地域連携(近隣薬局、他科、健診機関)を意識すると、紹介と在宅・検査の導線が整い、売上の安定に寄与します。
税務・会計は「開業直後」ほど差が出る
開業時は支出が多く、会計処理(資産計上と費用計上、減価償却、消費税区分、役員報酬設計等)で手残りが変わります。加えて、資金繰りと納税資金の確保は別管理が必要です。
開業初年度から月次で数字を締めると、広告費や人件費の打ち手が早くなり、結果として年収(可処分利益)も安定しやすくなります。
よくある質問
Q: 内科クリニックの開業資金は、どこで差が出ますか?
A:
物件(居抜き/スケルトン)、検査機器の内製/外注、内装仕様、IT(予約・問診・レセプト)の選択で差が出ます。重要なのは初期費用だけでなく、開院後の固定費と運転資金を含めて設計することです。Q: 内科開業の年収は、開院1年目から期待できますか?
A:
1年目は患者数の立ち上がりと固定費の重さで振れます。損益分岐点を把握し、採用や投資を段階化し、月次で資金繰りを管理すると安定しやすくなります。数値は立地・診療メニュー・体制で大きく変わるため、個別にシミュレーションすることが現実的です。Q: 保険診療を開始するために重要な手続きは何ですか?
A:
診療所の開設に係る届出(保健所等)に加え、保険診療を行うための保険医療機関の指定申請(地方厚生(支)局)が重要です。オンライン資格確認やレセプト体制も含め、開院月から逆算して準備します。まとめ
- 内科開業は診療力に加え、資金繰り・固定費設計・手続き段取りが成否を分ける
- 開業資金は初期投資だけでなく、運転資金(開院後の固定費耐久力)まで含めて設計する
- 物件と動線は後戻りコストが大きいので、感染対策と運用効率から先に決める
- 年収は平均値ではなく、損益分岐点と月次キャッシュフローから逆算して管理する
- 開業直後から月次で数字を締めると、打ち手が早くなり経営が安定しやすい
参照ソース
- 厚生労働省「医療法」: https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=80090000&dataType=0&pageNo=1
- 厚生労働省(地方厚生局)「保険医療機関・保険薬局の指定等に関する申請・届出」: https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kantoshinetsu/shinsei/shido_kansa/hoken_shitei/index.html
- 国税庁「A1-5 個人事業の開業届出・廃業届出等手続」: https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/shinkoku/annai/04.htm
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
ご注意事項
本記事の内容は、公開日時点における一般的な情報提供を目的としており、 特定の個人や法人に対する専門的なアドバイスを構成するものではありません。
税務・会計・法務等に関する具体的なご相談については、 必ず資格を持った専門家にご確認ください。 本記事の情報に基づいて行われた判断や行動により生じた損害について、 当事務所は一切の責任を負いかねます。
記事の内容は法令の改正等により変更される場合があります。 最新の情報については、関係省庁の公式サイト等でご確認ください。
