
執筆者:辻 勝
会長税理士
年収の壁2026:103→123→160の実務|税理士が解説

結論:103→123→160は「壁の種類」が違います
「年収の壁103万円が123万円や160万円になった」と言われますが、同じ壁が一気に移動したわけではありません。税制改正で動いたのは主に「所得税(扶養の判定)」と「所得税(本人が課税されるライン)」で、社会保険(106万円・130万円等)は別の制度です。
令和7年度税制改正は原則として令和7年12月1日に施行され、令和7年分以後の所得税(年末調整等)から実務が変わります。
103万→123万→160万の変遷タイムライン(何がどこで動いたか)
1)103万円(改正前の基本形)
改正前は、給与収入が一定以下なら「給与所得控除(最低55万円)+基礎控除48万円」で所得税の課税所得が0になりやすく、結果として「103万円」が象徴的に扱われてきました。
2)123万円(扶養(税)の判定ラインが引上げ)
扶養控除等の対象となる扶養親族等の所得要件が、合計所得金額48万円以下(給与収入103万円以下)から、合計所得金額58万円以下(給与収入123万円以下)へ改正されています。
つまり「123万円」は、主に扶養に入れる/入れない(所得税の扶養控除・同一生計配偶者等)の判定が動いた、という理解が実務的です。
3)160万円(本人の所得税がかかり始める目安)
給与所得控除の最低保障額が55万円→65万円へ引き上げられ、加えて低所得層の基礎控除が大きく増えています。
給与収入が低い層では、基礎控除が95万円となり(一定の合計所得金額以下)、65万円の給与所得控除と組み合わさって、給与収入ベースで「160万円」付近まで所得税がかかりにくい構造になります。
そもそも「年収の壁」は3系統あります(比較表)
| 壁(代表値) | 何の判定か | 動いた理由 | 経営者が困るポイント |
|---|---|---|---|
| 123万円(税の扶養) | 扶養控除・同一生計配偶者など「扶養(税)」の所得要件 | 扶養親族等の所得要件が48万→58万(給与換算103→123) | 扶養申告書・年末調整の確認項目が増える |
| 160万円(本人の所得税) | 本人の所得税がかかり始める目安(給与所得控除65+基礎控除の増) | 基礎控除の見直し、給与所得控除最低保障の引上げ | 「税が怖いから働かない」が変わり、シフト希望が増える |
| 106万円/130万円(社会保険) | 社保加入や扶養(健保)に関わる判定 | 被用者保険の適用拡大等の政策 | 税より手取りインパクトが大きい(本人・会社負担) |
院長・経営者が実務でやるべき3つの対応(給与設定・社保・年調)
対応1:給与レンジを「税」と「社保」で分けて設計する
まず結論として、スタッフの「働き控え」は税よりも社会保険で起きやすいです。
そのため、給与レンジは次の2レーンで設計すると整理しやすいです。
- レーンA:扶養(社保)を維持したい層(短時間・学生・配偶者など)
- レーンB:社保加入してしっかり働きたい層(中核パート・準社員化など)
厚労省は「年収の壁」対応として、106万円の壁への対応や被用者保険の適用拡大などを案内しています。
対応2:社会保険の説明資料を院内仕様で持つ
社保は本人負担+事業主負担があるため、給与を少し上げただけで「手取りが増えにくい」と感じる局面が出ます。
採用・定着の観点でも、以下を院内の標準説明にしておくと揉めにくいです。
- 社保加入の条件(会社規模・所定労働時間等の論点)
- 加入後のメリット(傷病手当金、将来年金など)
- 扶養(健保)の判定と、130万円付近の注意点
対応3:年末調整(扶養・特定親族)の書類フローを更新する
令和7年12月以後の年末調整で、基礎控除・給与所得控除の改正が反映されます。
また、扶養親族等の所得要件の改正により、従業員が「新たに扶養控除等の対象となる親族」を持つケースが出ます(申告書の提出・記載確認が重要)。
さらに、19〜23歳の親族に関する「特定親族特別控除」も新設されています。
Step 1: 扶養関係の聞き取り(11月〜12月初旬)
「扶養(税)」の判定ラインが103→123へ動くため、これまで対象外だった親族が対象になる可能性を洗い出します。
Step 2: 申告書の回収・記載チェック(12月給与前)
扶養控除等申告書、(該当者は)特定親族特別控除申告書など、必要書類の提出漏れを潰します。
Step 3: 年末調整の計算・精算(12月〜年末)
改正後の控除額(基礎控除・給与所得控除)に基づいて精算します。
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クリニックのパート(看護師・受付)影響シミュレーション
ここでは「税の壁」と「働き方」の目安を掴むため、年収を時給×時間でざっくり置きます(賞与なし、52週換算)。
ケースA:受付(時給1,300円)
- 週18時間:1,300×18×52=1,216,800円(約121.7万円)
- 税の扶養(123万円)に近いゾーン
- 週20時間:1,300×20×52=1,352,000円(約135.2万円)
- 税の扶養を外れる可能性が高い(家計全体で再設計が必要)
ケースB:パート看護師(時給1,800円)
- 週16時間:1,800×16×52=1,497,600円(約149.8万円)
- 週17時間:1,800×17×52=1,591,200円(約159.1万円)
- 160万円近辺で「所得税がかかりにくい」構造に寄る一方、社保側の論点が先に効いてくることが多い(勤務条件次第)。
「何もしないと損するケース」の実例(経営側の落とし穴)
実例1:扶養(税)の拡大を周知せず、年末調整で差戻し
扶養親族等の所得要件が変わっているのに、院内の案内が従来の「103万円」のままだと、申告書の内容が揃わず年末調整が荒れます。
結果として、従業員の不満(還付が遅い等)や、事務工数の増大につながります。
実例2:シフト希望が増えるのに、社保の説明がなく離職
「税が160万円まで大丈夫そう」と聞いたスタッフが働く時間を増やし、結果として社保加入が現実化する局面で、説明不足だと「手取りが思ったより増えない」と不信感が出ます。
よくある質問
Q: 103万円の壁はもう存在しないのですか?
Q: 160万円まで働いても社会保険に入らなくていい?
Q: クリニック側で最優先の対応は?
Q: この記事の数字だけで給与設計を決めてよいですか?
まとめ
- 103→123→160は「同じ壁が動いた」のではなく、税の扶養と本人の所得税で論点が違う
- 扶養(税)の所得要件は48万→58万に改正され、給与換算で103→123が根拠
- 給与所得控除の最低保障が55万→65万、基礎控除も見直され、所得税は160万円近辺までかかりにくい構造が生まれる
- 社会保険(106/130等)は別系統で、手取り・会社負担に直結するため院内説明が重要
- 経営者の実務は「給与設計」「社保説明」「年末調整フロー更新」の3点をセットで行う
参照ソース
- 国税庁「令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について」: https://www.nta.go.jp/users/gensen/2025kiso/index.htm
- 国税庁「令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について(源泉所得税関係)(PDF)」: https://www.nta.go.jp/publication/pamph/gensen/0025004-025.pdf
- 厚生労働省「『年収の壁』への対応」: https://www.mhlw.go.jp/stf/taiou_001_00002.html
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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