
執筆者:安田 駆流
社会保険労務士
看護師給与相場の決め方【2026】クリニック向け

クリニック経営・労務の個別相談
この記事の内容を、自院の人件費・労務設計に落とし込む相談をする
給与設計、社会保険、採用コスト、月次損益への影響を、税務・経営面から整理します。
看護師給与は全国平均ではなく採用圏で決める
結論として、クリニックの看護師給与は全国平均だけで決めてはいけません。厚生労働省の賃金構造基本統計調査は大きな基準になりますが、実際の応募は「通勤できる範囲の求人」と比較されます。自院の採用圏、診療科、勤務時間、業務範囲で補正して決める必要があります。
院長がよく悩むのは、「相場より低いと応募が来ないが、高くしすぎると既存スタッフとのバランスが崩れる」という点です。これは採用時の給与だけで解決しません。基本給、資格手当、職務手当、賞与、昇給、社会保険料まで含めた賃金表に落とし込む必要があります。
2026年は物価上昇、最低賃金の上昇、医療機関の賃上げ対応、ベースアップ評価料の運用が重なり、求人票の給与表示だけを直しても十分ではありません。辻総合会計グループでは、クリニック顧問先400社の相談経験を踏まえ、給与相場を月次損益と採用予算に接続して確認します。

給与相場を見るときの5つの補正軸
結論として、看護師給与は「平均給与」ではなく、5つの補正軸で調整します。採用圏、診療科、業務範囲、勤務条件、既存スタッフとの均衡です。この5つが曖昧なまま給与を決めると、応募は増えても入職後の不満が残ります。
1つ目は採用圏です。駅前、郊外、車通勤圏、近隣病院の有無で比較対象が変わります。応募者は全国平均ではなく、自宅から通える範囲で求人を見ます。近隣の病院、クリニック、訪問看護ステーション、介護施設がどの水準を出しているかを確認します。
2つ目は診療科です。一般内科と美容、透析、内視鏡、整形外科、訪問診療では求める経験が異なります。業務範囲が広いほど給与だけでなく教育体制、手当、勤務時間の説明が必要になります。
3つ目は業務範囲です。採血、注射、点滴、検査補助、処置介助、在庫管理、患者説明、診療補助、訪問同行など、どこまで求めるかで給与の意味が変わります。求人票では「看護業務全般」とまとめず、実際に任せる業務を分けます。
4つ目は勤務条件です。午前診だけ、午後診あり、土曜勤務、夜診、残業、休憩時間、急なシフト変更の有無によって応募者の受け止め方は変わります。条件が厳しい場合は、給与だけでなく休みや働き方の納得感を作る必要があります。
5つ目は既存スタッフとの均衡です。新規採用者だけを高く設定すると、既存スタッフの離職リスクが高まります。採用給与を上げるなら、既存スタッフの昇給ルール、賞与、職務手当も同時に確認します。
この補正を行うと、給与を上げるべき求人と、給与以外の条件を直すべき求人が分かれます。たとえば応募が少ない原因が夜診や土曜勤務にある場合、基本給だけを上げても費用対効果は限定的です。逆に業務範囲が広いのに給与が近隣平均並みなら、職務手当や評価項目で説明できる形にした方が納得感を作りやすくなります。
| 補正軸 | 確認する内容 | 数字に落とす項目 |
|---|---|---|
| 採用圏 | 近隣求人、通勤時間、競合施設 | 基本給、時給 |
| 診療科 | 必要経験、処置、専門性 | 資格手当、職務手当 |
| 業務範囲 | 採血、検査、在庫管理など | 手当、評価項目 |
| 勤務条件 | 土曜、夜診、残業、休憩 | 時給換算、残業見込み |
| 既存均衡 | 既存スタッフの給与差 | 昇給、賞与、改定時期 |
常勤とパートを同じ時給換算で比較する
結論として、常勤看護師とパート看護師は、月給と時給の見た目で比較してはいけません。常勤は賞与、社会保険料、退職金制度、教育時間、シフト安定性を含めて見ます。パートは時給だけでなく、出勤日数、扶養、社保適用、急な欠勤時の代替コストを見ます。
たとえば常勤の月給が高く見えても、外来枠を安定して回せる、検査枠を増やせる、院長や主任の負担を下げられるなら、採用効果は給与差だけでは測れません。一方で、パート中心の体制は固定費を抑えやすい反面、シフト調整や教育の手間が増えることがあります。
比較するときは、1か月単位ではなく12か月で見ます。給与、賞与、法定福利費、採用費、教育時間、残業削減効果、診療収入への影響を並べます。看護師1名を採用することで診療単価や患者数がすぐ増えるとは限らないため、売上増は保守的に置くのが安全です。
税理士法人 辻総合会計グループが支援する場合も、「どちらが得」と断定するのではなく、診療科、患者数、スタッフ構成、月次損益に合わせて複数パターンを比較します。採用は人の問題ですが、継続雇用は数字の問題でもあります。
賃金表に落とす手順
結論として、求人票に載せる給与を決める前に、院内の賃金表を作ります。賃金表がないまま応募者ごとに給与交渉をすると、後から説明できない差が生まれます。小規模クリニックでも、簡単な表で十分です。
Step 1: 職種と等級を分ける
看護師、准看護師、医療事務、受付、リーダー職などを分けます。看護師の中でも、通常外来、処置が多い診療科、訪問同行、主任候補を同じ給与帯にしないことが重要です。
Step 2: 基本給と手当を分ける
基本給を上げるのか、資格手当や職務手当で調整するのかを分けます。賞与や残業単価、社会保険料に影響するため、採用条件だけで決めないようにします。
Step 3: 昇給条件を言葉にする
入職時の給与だけでなく、6か月後、1年後、2年後に何を満たすと昇給するのかを整理します。教育担当、検査補助、在庫管理、レセプト補助など、職務の広がりに連動させると説明しやすくなります。
Step 4: 月次損益に反映する
採用予定者の給与を、12か月の人件費予算に入れます。紹介料や求人媒体費がある場合は、初年度費用として別枠で見ます。採用後に「思ったより利益が残らない」とならないための工程です。
ベースアップ評価料と給与改定の関係
結論として、ベースアップ評価料を検討しているクリニックは、既存スタッフの賃上げと新規採用者の給与を同じ表で扱うべきです。既存スタッフだけを上げる、新規採用者だけを高くする、どちらも不公平感や収支悪化につながる可能性があります。
ベースアップ評価料は診療報酬上の制度であり、算定や届出の判断は公式資料と厚生局確認が前提です。ただし、経営面では「どの職種に、どの時期に、どれだけ賃上げするか」を月次損益に反映する必要があります。
新規採用者の給与を近隣相場に合わせると、既存スタッフの給与改定も必要になることがあります。そこで、採用前に既存スタッフの給与分布を確認し、採用給与、昇給、賞与、手当の整合を取ります。制度対応と採用活動を別々に進めると、後で説明が難しくなります。
辻総合会計グループでは、給与表、採用予定、ベースアップ評価料、月次資金繰りを一体で確認します。医療上の算定判断を代替するものではなく、経営判断に必要な数字を整理する支援です。
よくある質問
Q: 看護師給与は近隣求人に合わせればよいですか?
Q: パート看護師の時給を上げれば応募は増えますか?
Q: 既存スタッフより新規採用者の給与が高くなってもよいですか?
Q: 税理士法人に給与設計を相談する意味は何ですか?
まとめ
- 看護師給与は全国平均ではなく、採用圏と業務範囲で補正する
- 常勤とパートは時給換算、賞与、社保、教育コストまで含めて比較する
- 求人票に載せる前に、院内の賃金表を作る
- ベースアップ評価料と採用給与は同じ表で整合を確認する
- 給与設計は採用だけでなく、既存スタッフの定着と月次損益に影響する
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参照ソース
- 厚生労働省「賃金構造基本統計調査」: https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/
- 厚生労働省「地域別最低賃金の全国一覧」: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/minimumichiran/
- 厚生労働省「ベースアップ評価料関係」: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188411_00053.html
この記事を書いた人

安田 駆流
社会保険労務士
社会保険労務士
税理士法人 辻総合会計グループの社会保険労務士。就業規則、雇用契約、勤怠・給与計算まわりの労務実務を担当し、クリニック・中小企業の職場ルール整備を支援する。
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