
執筆者:辻 勝
会長税理士
診療報酬改定2026の患者負担増|税理士が解説

診療報酬改定2026で患者負担と保険料は「増える」のが結論
2026年度(令和8年度)診療報酬改定は、医療機関の収入(診療報酬)が増える一方で、患者の自己負担や保険料も増える方向で進んでいます。
特にポイントは、改定率がプラスであることに加え、入院時の食費・光熱水費の基準額引上げなど、患者側で体感しやすい負担増が同時に起きる点です。
税理士法人 辻総合会計では、クリニックの月次・資金繰り・収益改善の現場支援を継続してきました。現場感としては「制度の数字」よりも「患者の体感負担」と「来院行動の変化」が経営に効く局面が増えています。
本記事では、改定の全体像と、患者別の窓口負担シミュレーション、そしてクリニック経営者としての実務対策を整理します。
まず押さえるべき「改定率」と、なぜ患者側の負担が増えるのか
改定率(公式に確認できる骨格)
令和8年度の診療報酬改定では、診療報酬がプラス改定となっています。
資料では、診療報酬+3.09%(令和8・9年度の2年度平均)、令和8年度は+2.41%、令和9年度は+3.77%という整理が示されています(施行時期の注記もあり)。また、薬価等はマイナス(薬価▲0.86%など)も併記されています。
この「診療報酬が上がる=医療費総額が増えやすい」構造が、最終的に次の3ルートで国民負担に跳ねます。
- 患者の窓口負担(自己負担)
- 健保・国保等の保険料(事業主負担も含む)
- 公費(税)
「医療機関の収入が増えるのに、患者負担も増える」矛盾の正体
よく誤解されるのが「診療報酬が上がる=医療機関が潤う=患者は関係ない」という見方です。
実際には、医療費は保険財政で賄われるため、増えた医療費の原資をどこかで負担します。加えて、今回の改定では、食費・光熱水費の基準額引上げのように、患者が直接支払う項目が明示されています。これは「窓口で体感する負担増」になりやすい論点です。
1.1兆円/保険料5,500億円/窓口1,500億円はどう読むべきか
SNSや解説投稿で「負担増1.1兆円」「保険料5,500億円」「窓口負担1,500億円」といった内訳つきの数字が拡散することがあります。
ただし、これらは資料の切り取りや前提(医療費総額、国費の組み方、薬価等の扱い、年度跨ぎ)で変わり得るため、経営判断に使う際は「公式資料でどこまで確定しているか」を必ず分解して確認してください。
ここでの実務的な読み方は次の通りです。
- 「総額○兆円」は、改定の方向感としては参考になるが、自院・自社への影響は別物
- 自院は「点数改定で収入が増える項目」と「患者が負担増を感じやすい項目」が一致しないことが多い
- 企業(健保)側は「保険料率」よりも「標準報酬月額×対象人数」で効いてくるため、総額の議論を自社の人件費に落とす必要がある
患者別の窓口負担シミュレーション(1割・2割・3割)
ここでは「患者が支払う窓口負担」がどれくらい増え得るかを、3つの代表ケースで見ます。
診療報酬点数そのものは個別診療で異なるため、まずは患者が体感しやすい「入院時の食費・光熱水費」から示し、そのうえで一般的な医療費×負担割合の計算式でイメージを固定します。
シミュレーション前提(食費・光熱水費)
公開資料では、入院時の食費基準額が40円/食引き上げ、光熱水費基準額が60円/日引き上げと整理されています(患者負担の扱いについても注記あり)。
- 食費:40円/食(原則)
- 光熱水費:60円/日(原則)
ケースA:7日入院・1日3食の患者(食費+光熱水費)
- 食費増:40円×3食×7日=840円
- 光熱水費増:60円×7日=420円
- 合計:1,260円(原則の増分イメージ)
※所得区分・指定難病等で扱いが異なる可能性があります。
受診の自己負担(外来・検査・処置等)の基本計算
自己負担は、原則として「保険診療の総額×自己負担割合」で概算できます。
- 1割負担:総額×10%
- 2割負担:総額×20%
- 3割負担:総額×30%
ケースB:月の保険診療総額が10,000円相当増えた場合(仮)
改定や算定変更の影響で、仮に月あたりの保険診療が10,000円増えたとすると、
| 自己負担割合 | 月の追加負担(概算) | 年換算(概算) |
|---|---|---|
| 1割 | 1,000円 | 12,000円 |
| 2割 | 2,000円 | 24,000円 |
| 3割 | 3,000円 | 36,000円 |
この表が示す通り、同じ改定でも「患者属性(負担割合)」で体感が変わります。クリニック経営の視点では、3割負担の現役世代が受診控えに反応しやすい点に注意が必要です。
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クリニック経営者が直面する「患者が来なくなるリスク」と対策
患者負担が増える局面では、単に価格弾力性(受診控え)が起きるだけでなく、患者の行動が次のように変わります。
- 症状が軽い段階で受診しない(受診の後ろ倒し)
- 処方日数が長い医療機関へ流れる(通院回数を減らしたい)
- 予約が取りやすい・待ち時間が短い医療機関へ移る(負担増の中で時間価値が上がる)
ここから先は、経営側の打ち手です。重要なのは「値上げ環境でも選ばれる理由」を作ることです。
対策の基本フレーム(集患・DX・単価改善)
以下の3本柱で設計すると、実務に落ちやすくなります。
| 論点 | 患者の不満 | クリニック側の打ち手 |
|---|---|---|
| 価格(負担増) | 「支払いが増えた」 | 受診頻度を最適化する説明、重症化予防の価値訴求 |
| 時間 | 「待つのが嫌」 | 予約導線の改善、問診DX、院内オペ短縮 |
| 不確実性 | 「結局いくら?」 | 概算提示、次回来院目安の提示、薬・検査の目的説明 |
実務で効く「対策の手順(ステップ形式)」
Step 1: 影響の見える化(院内データで分解)
- 改定で増える点数:初再診・入院基本料・加算等(自院の算定状況で抽出)
- 患者が不満を言いやすい負担:食費・光熱、頻回受診、薬剤費比率
- 属性別:1割/2割/3割の患者構成(年齢・保険種別)
Step 2: 受診導線と待ち時間のボトルネックを潰す
- Web予約・事前問診・自動精算など、患者が体感するDXを優先
- 受付〜診察〜会計の滞留時間を測定し、院内KPIに落とす
Step 3: 単価改善は「説明」と「同意」をセットにする
- 検査・指導・在宅等の算定は、患者理解がないと離脱要因になる
- 「何のために必要か」「次にどう良くなるか」を短く定型化する
Step 4: 保険者・企業対応(健保・総務)も同時に動かす
- 企業側は「保険料=人件費の一部」です。改定の論点を社内共有し、健康経営・受診勧奨・重症化予防とセットで設計します。
2年に1回から「毎年改定」議論が出ると何が起きるか(将来展望)
診療報酬は原則2年に1回の改定ですが、物価・賃金の変動が大きい局面では「頻度の見直し」論点が浮上しやすくなります。
仮に毎年改定に近づくと、経営側の実務は次のように変わります。
- 収益予測の期間が短くなる(投資回収計画が難しくなる)
- 算定要件の変更への追随コストが増える(医事・事務負荷)
- 収入の増減が施設基準・運用により左右されやすくなる
したがって、月次試算表でのモニタリングと、算定・オペレーションの標準化(DX)が、従来より重要になります。
よくある質問
Q: 2026年度改定で、患者の窓口負担は必ず増えますか?
Q: 1割負担の高齢者でも影響は大きいですか?
Q: クリニックは収入が増えるなら、経営は楽になりますか?
Q: 企業の社会保険担当者は何を準備すべきですか?
まとめ
- 診療報酬改定2026はプラス改定で、医療費総額が増えやすい構造にある
- 患者の体感負担として、入院時の食費40円/食、光熱水費60円/日の引上げは影響が読みやすい
- 窓口負担は「医療費増分×1割/2割/3割」で概算でき、現役世代ほど受診控えが起きやすい
- クリニック経営は「負担増で来院が減るリスク」を前提に、集患・DX・単価改善をセットで設計する
- 将来、改定頻度が上がる議論が進むほど、月次モニタリングと運用の標準化が重要になる
参照ソース
- 厚生労働省「令和8年度診療報酬改定について」: https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_67729.html
- 厚生労働省「診療報酬改定について(令和7年12月24日)」: https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001620952.pdf
- 財務省「令和8年度予算のポイント」: https://www.mof.go.jp/policy/budget/budger_workflow/budget/fy2026/seifuan2026/01.pdf
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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