
執筆者:辻 勝
会長税理士
かかりつけ薬剤師加算2026改定|残薬調整・疑義照会の新評価

かかりつけ薬剤師がいると「20点」変わる結論
2026年改定では、残薬調整や疑義照会(処方照会)に相当する対人業務の評価が再設計され、かかりつけ薬剤師が関与すると30点→50点へ上がる新加算が提示されています。差は20点で、1点10円換算なら1件あたり200円の増収インパクトです。
薬局経営で重要なのは「点数が増える」ことより、算定のために必要な運用(患者同意・薬歴・照会の質)と、人材戦略(配置・育成・定着)を同時に設計することです。
本記事では、新設加算の要件と取り切るための現場設計、さらに人材投資の回収(ROI)を、薬局の管理者・経営者向けに整理します。
新設の2加算とは:残薬と有害事象を別建てで評価
2026年改定案では、従来の枠組みから見直しが入り、次の2つが新設されています。いずれも「かかりつけ薬剤師」か「それ以外」で評価が分かれ、基本は50点(かかりつけ薬剤師)/30点(その他)です。
調剤時残薬調整加算(新設)
- 対象:調剤管理料を算定する患者で、残薬が確認された患者
- 要件:情報収集により残薬が確認され、処方医の指示または照会結果に基づき、残薬調整のために調剤日数の変更が行われた場合(原則「7日分以上相当」の変更)
- 点数:区分により50点または30点(かかりつけ薬剤師による場合は50点の区分がある)
改定案では、算定要件の中で「7日分以上」を原則としつつ、6日分以下でも理由を明細書に記載すれば算定可能とする整理が示されています。運用上は、残薬確認の聞き取り・薬歴の整備・照会の妥当性が監査のポイントになりやすい領域です。
薬学的有害事象等防止加算(新設)
- 対象:調剤管理料を算定する患者で、残薬以外に処方医へ確認すべき点がある処方箋が交付された患者
- 要件:薬剤服用歴や、電子処方箋の仕組み等を用いた重複投薬確認等に基づき、処方医への照会の結果、処方変更が行われた場合
- 点数:区分により50点または30点(かかりつけ薬剤師による場合は50点の区分がある)
ここは「疑義照会をした」だけでは足りず、照会の結果として処方変更に至ったことが要点です。したがって、照会の質(論点の明確さ、代替案の提示、患者背景の提示)が収益にも直結します。
30点と50点の違い:どこで「かかりつけ薬剤師」が効くのか
新加算は同じ業務でも誰が関与したかで評価が変わります。実務では、次の論点が重要です。
- 「かかりつけ薬剤師」としての要件・同意・体制が整っているか
- 当該患者に対して、当該薬剤師が継続的・一元的管理をしている証跡(薬歴)があるか
- 照会内容が、単なる形式照会ではなく、薬学的判断に基づくものか
- 変更(残薬なら日数変更、有害事象なら処方変更)まで到達しているか
かかりつけ薬剤師がいる薬局でも、対象患者が「かかりつけ同意済み」になっていなければ50点側に乗りません。つまり、20点差は「人がいる」だけでなく「患者基盤と運用ができている」薬局にだけ落ちる設計です。
収益インパクトの見方:20点差を月次KPIに落とす
20点(200円)差は小さく見えますが、対象件数が積み上がると固定費(人件費)を賄う原資になります。経営判断では、次の3KPIを置くとブレません。
- 残薬調整の対象発見率(残薬の聞き取り実施率×残薬確認率)
- 照会→変更率(照会件数のうち処方変更・日数変更に至った割合)
- かかりつけ化率(対象患者のうち、同意取得+運用継続できている割合)
以下は、意思決定に使いやすい比較表です(点数差の構造を型で覚えるのが目的です)。
| 新加算 | 目的 | トリガー(発生条件) | 変更のゴール | 点数(概念) |
|---|---|---|---|---|
| 調剤時残薬調整加算 | 残薬の是正・日数調整 | 残薬を確認し、医師の指示/照会結果に基づく日数変更 | 調剤日数の変更(原則7日分以上) | かかりつけ関与で50点枠、その他30点枠 |
| 薬学的有害事象等防止加算 | 相互作用・禁忌等の防止 | 残薬以外の確認事項があり照会 | 処方変更 | かかりつけ関与で50点枠、その他30点枠 |
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取り切るための運用設計:残薬・疑義照会を標準化する
ここからが人材戦略と直結します。新加算は個人の腕に依存しやすいので、属人化を潰しながら質を上げる設計が必要です。
Step 1: 対象抽出を受付時に固定する(聞き取りの定型化)
- 残薬:前回処方の残数、服用中断理由、副作用、飲み忘れ頻度を必ず聞く
- 有害事象:併用禁忌・重複・腎機能/肝機能・妊娠授乳・高齢者リスク等の観点でチェック項目を固定する
- ここでの狙いは、ベテランの「勘」をチェックリスト化し、新人でも拾える確率を上げることです。
Step 2: 薬歴テンプレを2系統に分ける(残薬用/有害事象用)
- 残薬用:残薬量、原因仮説、調整案(例:日数変更、用法再指導)、医師への確認事項
- 有害事象用:論点(禁忌・相互作用等)、患者背景、提案(代替薬・用量調整等)、照会結果
- 監査では「なぜ照会が必要だったか」が問われるため、論点が一行で説明できる記録が強いです。
Step 3: 照会の勝ち筋を型にする(提案型コミュニケーション)
- 単なる確認でなく、薬学的根拠+代替案をセットで伝える
- 医師側の意思決定コストを下げると、変更率が上がりやすい
- 変更率が上がると、点数だけでなく「処方元からの信頼」も積み上がります
Step 4: かかりつけ化を「同意取得→継続管理→成果共有」で回す
- 同意取得はゴールではなく、継続管理のスタート
- 成果(残薬削減、処方変更、受診勧奨等)を患者と共有し、継続理由を作る
- ここが弱いと、50点枠に入る前に患者が離脱します
人材戦略とROI:採用より配置と育成で回収する
新加算は、薬剤師の対人業務に重心を移す改定の流れに沿っています。したがって、人材戦略は「増員」だけでなく「業務設計の組み替え」が主戦場です。
- 役割分担:受付・入力等の対物業務を再配置し、薬剤師の対人時間を捻出する
- 育成設計:残薬・照会のケーススタディを毎週回し、照会文面のレビューを行う
- 定着設計:かかりつけ患者の担当制(緩やかな主担当)で、継続管理の責任線を明確化する
ROIを評価するなら、次のように増収だけでなく工数と品質を同時に見ます。
- 50点枠の算定件数×(50点-30点)=「人材投資の回収原資」
- 照会→変更率の上昇=「算定の質」
- 薬歴不備・返戻・クレームの減少=「リスクコストの削減」
単純な増収だけで判断すると、形式照会の増加や薬歴負担で現場が疲弊し、離職リスクが上がります。新加算は稼ぎ方より回し方が勝敗を分けます。
よくある質問
Q: 20点差は「かかりつけ薬剤師が在籍していれば」自動で取れますか?
Q: 残薬調整は何日分の変更が必要ですか?
Q: 疑義照会は「照会した」だけで新加算になりますか?
Q: 人材確保が難しい場合、最初に手を付けるべきことは?
まとめ
- 2026年改定では、新設の2加算で「かかりつけ薬剤師の関与」により30点→50点(差20点)の評価差が提示されている
- 調剤時残薬調整加算は「残薬確認→照会/指示→日数変更」、薬学的有害事象等防止加算は「残薬以外→照会→処方変更」が骨格
- 取り切る鍵は、聞き取り・薬歴・照会をテンプレ化し、変更率をKPIで管理すること
- 人材戦略は採用だけでなく、対物業務の再配置とケースレビューで再現性を高めるのがROI面で有利
- 実際の算定は個別事情で異なるため、施設基準・要件・記録整備を前提に運用設計を行う
参照ソース
- 厚生労働省「中央社会保険医療協議会 総会(第647回) 議事次第」: https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_70414.html
- 厚生労働省「中医協 総-1 個別改定項目について(PDF)」: https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001655176.pdf
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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