
執筆者:辻 勝
会長税理士
精神科開業収益の外来モデル2026年版|単価と回転率を税理士が解説

はじめに:精神科の収益は「単価×回転率」です
精神科クリニックの収益設計は、結局のところ「診療単価(1人あたり)×患者回転率(1日患者数)」に集約されます。設備投資が比較的少ない一方、診療時間が伸びやすく、回転率が経営のボトルネックになりがちです。税理士法人 辻総合会計では、開業支援・医療法人顧問の現場で「単価は悪くないのに利益が残らない」ケースを数多く見てきました。本記事では、保険診療を前提に、単価の分解と回転率の現実的な設計方法を整理します。
精神科の診療単価とは:何で決まるか(心療内科・精神科共通)
精神科外来の診療単価は「初診か再診か」「精神療法(通院・在宅精神療法など)の算定」「処方・検査の有無」で大きく変動します。ここでいう単価は、レセプト上の総点数(概算)をイメージしてください(1点=10円換算が基本、自己負担割合や公費で患者負担は変動)。
単価を分解すると見える「作れる売上」「作れない売上」
単価は次の積み上げです(例示であり、算定可否・点数は届出や算定要件により変わります)。
- 基本診療料:初診料/再診料
- 精神科領域の医学管理・精神療法:通院・在宅精神療法 等
- 処方:院外処方(処方箋料等)/院内処方
- 検査:心理検査、血液検査、心電図など(クリニック方針で実施頻度が変わる)
- 加算:時間外、特定疾患管理、医療DX関連 等(届出・運用が前提)
ポイントは、単価の中心は「精神療法」になりやすい一方で、そこは監査・個別指導でも見られやすい領域であることです。算定根拠(診療録の記載、実施内容、時間・頻度の整合性)が重要です。
患者回転率とは:精神科が「回しにくい」理由と現実的な目安
患者回転率は、端的には「1時間に何人診るか」「1日何枠で回すか」です。精神科が回しにくい理由は明確で、診察が長くなりやすいからです。
初診は長い、再診でもブレる
一般的に、初診は情報量が多く、家族背景・既往・服薬歴・安全確認などを丁寧に行うため時間がかかります。再診は短くできる一方、症状の波や生活課題の相談で時間が伸びます。結果として、完全に工業製品のような回転設計は難しく、「診療の質と回転率の最適点」を探ることになります。
回転率の設計で見るべきKPI(最低限)
- 初診比率(初診患者数÷総患者数)
- 再診の平均診察分(中央値で管理)
- No-show率(予約枠の目減り)
- 再診頻度(患者1人あたり月何回)
- 処方日数とフォロー間隔(30日・56日など運用方針)
収益モデルの作り方:単価×患者数でシミュレーションする
ここからが経営設計の本題です。精神科は「単価が高い日」と「患者数が多い日」の両立が難しいため、複数パターンで設計します。
モデル別:単価・回転率の比較(例)
下表は、外来中心の精神科クリニックを想定した「設計の考え方」です(点数・単価は概算レンジ、月20診療日想定)。
| モデル | 想定診療スタイル | 1人あたり単価(概算) | 1日患者数(目安) | 月商イメージ |
|---|---|---|---|---|
| 高回転型 | 再診中心・短時間・予約厳格 | 4,000〜6,500円 | 45〜70人 | 360万〜910万円 |
| バランス型 | 初診と再診の比率を管理 | 5,000〜8,000円 | 30〜50人 | 300万〜800万円 |
| 低回転・丁寧型 | 初診比率高め・心理支援厚め | 6,500〜10,000円 | 20〜35人 | 260万〜700万円 |
重要なのは「月商レンジ」より、利益が残る構造かどうかです。人件費(受付・看護・心理職)、家賃、リース、広告費、電子カルテ等の固定費を置いた上で、損益分岐点患者数を逆算します。
売上の式を最初に固定する
- 月商 =(初診単価×初診数+再診単価×再診数)+検査等
- 初診数 =(初診枠×稼働率)×診療日数
- 再診数 =(再診枠×稼働率)×診療日数
この式が定まると、「広告費を増やすべきか」「予約枠を変えるべきか」「再診間隔をどうするか」が数値で議論できます。
失敗しない設計手順:開業前にやるべき3ステップ
精神科の収益設計は、気合ではなく運用設計です。以下の順で作るとブレにくくなります。
Step 1: 診療方針を時間で定義する
「初診30分、再診7分」など、理想ではなく現実の中央値で定義します。院長が疲弊しない前提が最優先です。
Step 2: 予約枠を初診比率で設計する
初診を取りすぎると回転率が落ち、再診のフォローが詰まります。逆に初診が少なすぎると新患流入が弱くなります。初月〜6か月は初診比率を高めに、安定期は再診運用で平準化するなど、フェーズで設計します。
Step 3: 単価は「算定要件に沿って」上げる
単価を上げる発想は必要ですが、算定要件から逆算しないと監査リスクが増します。診療録・予約管理・スタッフ配置まで含めて、無理なく算定できる形にします。
税理士の視点:精神科特有の「収益に直結する管理ポイント」
精神科のPL(損益計算書)で効く論点は、一般内科と少し違います。
1)人件費は「時間単価」で見る
受付人数を増やしても診療枠が増えなければ意味がありません。心理職・看護師を入れる場合は、算定や診療品質に寄与しているかを、稼働時間あたりで検証します。
2)キャンセル率(No-show)が利益を削る
No-showはそのまま売上の欠損です。前日リマインド、当日枠の再配分、キャンセルポリシーの明確化など、運用で改善します。
3)自費併設は「保険運用と分けて」設計する
カウンセリング等を自費で併設する場合、予約導線・会計導線・記録を明確に分けます。保険と自費の混在は説明不足が起きやすく、トラブルコストが増えます。
よくある質問
Q: 精神科は1日何人診れば黒字化しますか?
Q: 診療単価を上げるコツはありますか?
Q: 心療内科と精神科で収益モデルは違いますか?
まとめ
- 精神科の収益は「診療単価×患者回転率」で決まり、回転率が最大の制約になりやすい
- 単価は初再診、精神療法、処方・検査、加算の積み上げだが、要件に沿った運用が前提
- 回転率は初診比率・診療時間の中央値・No-show率で大きく変わる
- 開業前に「時間」「初診比率」「運用可能な算定」の順でモデルを作ると失敗しにくい
- 2026年4月の改定を見据え、単価を過度に盛らず複数シナリオで資金計画を組む
参照ソース
- 厚生労働省「別表第一 医科診療報酬点数表(令和6年10月1日施行)」: https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001276106.pdf
- 厚生労働省「令和6年度診療報酬改定(中医協 参考資料)」: https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001479587.pdf
- e-Stat(政府統計の総合窓口)「患者調査 令和5年患者調査(精神科病院の推計患者数等)」: https://www.e-stat.go.jp/index.php/dbview?sid=0004026052
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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