
執筆者:辻 勝
会長税理士
在宅薬学総合体制加算の2026改定|要件と損益試算を税理士が解説

在宅薬学総合体制加算の2026改定で何が変わる?
在宅薬学総合体制加算の2026改定の結論は、「体制」だけでなく「実績」まで含めて評価を組み替え、加算2の施設基準を再設計することです。とくに、単一建物(いわゆる施設在宅)の扱いが明確に分かれ、同じ在宅でも収益構造が変わります。
在宅対応を強化している薬局にとっての論点は2つです。
- 加算1は点数が増える一方、要件が見直されます(満たせるか)。
- 加算2は「単一建物の評価区分」と施設基準が変わり、届出・維持の難易度が上がる可能性があります(採算が合うか)。
在宅薬学総合体制加算とは(算定の前提)
在宅薬学総合体制加算は、地方厚生局へ届出を行い、施設基準に適合する保険薬局が「厚労大臣が定める患者」に調剤を行った場合に所定点数へ上乗せされる加算です。現場感としては、在宅患者訪問薬剤管理指導(医療保険)や居宅療養管理指導(介護保険)を安定運用できる薬局を、外来調剤の点数で評価する仕組み、と捉えると分かりやすいでしょう。
2026改定のポイント(加算1・加算2・単一建物)
ポイント1:加算1は「30点」へ(評価が増える)
資料上、改定案では在宅薬学総合体制加算1が30点となり、現行(15点)から増点します。加算1は「広く在宅対応している薬局」の底上げに位置づけられ、まずは届出可能かどうかが最初の分岐点になります。
ポイント2:加算2は「単一建物1人」と「それ以外」で評価を分ける
加算2は、訪問対象が単一建物診療患者(居住者)1人の場合と、それ以外の場合で評価を区分します。改定案では、
- 単一建物診療患者(居住者)が1人:100点
- それ以外:50点
と整理されます。つまり、施設在宅でも「同一建物に多数」ではなく、個別性の高い訪問(単一建物1人)が相対的に厚く評価される設計です。
ポイント3:加算2の施設基準が再設計(無菌設備基準の廃止+実績・人員の追加)
加算2の施設基準は、無菌製剤処理設備に関する基準を廃止する一方で、次のような要素が追加されます。
- 単一建物診療患者が1人の場合の訪問薬剤管理指導の算定回数
- 麻薬調剤、無菌製剤処理等の実績
- 常勤換算薬剤師数の基準
ここは「設備投資でクリア」ではなく、実績の積み上げと人員配置でクリアする方向に見えます。結果として、届出できても翌年度に実績不足で維持できない、というリスク管理が重要になります。
要件の見直しを経営KPIに落とす(チェック観点)
在宅薬学総合体制加算は、届出の可否よりも「維持できるか」が経営上のボトルネックになりやすい加算です。税理士法人 辻総合会計でも、在宅強化薬局の相談は「届出したが翌年落ちた」「在宅担当の退職で要件未達になりそう」が典型です。
チェック観点は次の3層です。
- 体制:在宅訪問に対応する薬剤師配置、緊急対応の回し方、他職種連携
- 実績:医療保険(訪問薬剤管理指導等)+介護保険(居宅療養管理指導等)の算定回数
- 収益:加算の増点が人件費・移動時間・夜間対応コストを上回るか
損益シミュレーション(点数×件数でざっくり把握)
診療報酬の基本は「点数×10円」です。ここでは、改定案で明示されている点数差(加算1:15→30点)を使い、月次の増収ポテンシャルを簡易試算します(実際は特別調剤基本料Aの扱い、対象患者範囲、算定条件の詳細で変動します)。
試算の前提
- 1点=10円
- 加算1の増点:+15点(=+150円)/対象調剤1回
- 対象調剤回数:在宅薬学総合体制加算の対象患者に対する調剤回数(ここが薬局ごとに差)
ケース別:月間増収(加算1の増点分だけを見る)
| 月間の対象調剤回数 | 増点(+15点) | 月間増収(概算) | 年間増収(概算) |
|---|---|---|---|
| 200回 | +15点/回 | 200×150円=30,000円 | 36万円 |
| 500回 | +15点/回 | 500×150円=75,000円 | 90万円 |
| 1,000回 | +15点/回 | 1,000×150円=150,000円 | 180万円 |
この増収に対して、在宅の追加コスト(移動時間、車両費、担当薬剤師の確保、夜間携帯、書類作成時間)がどの程度かかっているかを突き合わせるのが実務です。加算2の届出・維持はさらに実績・人員基準が絡むため、増収だけでなく「維持コスト」まで含めて見ます。
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実務の進め方(届出判断〜運用までの手順)
Step 1: 自薬局の在宅実績を棚卸しする
直近12か月の算定回数を、医療保険(訪問薬剤管理指導等)と介護保険(居宅療養管理指導等)で分け、単一建物(施設)と個人宅の構成比まで出します。
Step 2: 加算1・加算2のどちらを狙うか決める
加算1は「広く在宅」向け、加算2は「高度な在宅の体制・実績」向けになりやすい設計です。加算2は要件追加があるため、維持可能性を優先して選びます。
Step 3: 人員配置(常勤換算)と当番設計を固める
在宅は属人化すると崩れます。常勤換算の薬剤師数、開局時間帯の複数配置、緊急対応のローテーションを、制度要件と離職リスクを前提に設計します。
Step 4: 収益KPIを設定して月次で検証する
「加算の増収」だけでなく、在宅1件あたりの移動時間、1訪問あたりの作業時間、キャンセル率、夜間対応回数をKPI化し、粗利で見ます。ここができると、改定が来ても手元で影響額を即時試算できます。
旧制度との比較(どこが落とし穴か)
| 観点 | 現行 | 2026改定案(資料ベース) | 実務インパクト |
|---|---|---|---|
| 加算1の点数 | 15点 | 30点 | 対象調剤が多い薬局ほど増収 |
| 加算2の評価 | 50点(区分の中心) | 単一建物1人:100点/それ以外:50点 | 施設在宅の質で差がつく |
| 加算2の施設基準 | 無菌設備などの要件が中心 | 無菌設備基準の廃止+実績・人員等の追加 | 設備より運用実績・人員が重要に |
| リスク | 届出後の維持 | 要件追加で維持難易度が上がる可能性 | 年度途中の人員変動に弱い |
よくある質問
Q: 加算2は「施設在宅が多い薬局」ほど有利ですか?
Q: 無菌製剤処理設備の基準が廃止されるなら、設備投資は不要になりますか?
Q: 収益試算は何から始めればよいですか?
まとめ
- 2026改定案では、在宅薬学総合体制加算は要件と評価の見直しが行われる
- 加算1は15点→30点へ増点し、対象調剤が多いほど増収効果が出やすい
- 加算2は単一建物1人とそれ以外で評価を分け、施設基準も再設計される
- 届出判断は「取れるか」ではなく「翌年も維持できるか(実績・人員)」で決める
- 影響試算は、点数差×対象調剤回数で増収を出し、在宅の追加コストと合わせて粗利で検証する
参照ソース
- 厚生労働省「中央社会保険医療協議会 総会(第647回)議事次第(資料:総-1個別改定項目について)」: https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_70414.html
- 厚生労働省「総-1 個別改定項目について(PDF)」: https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001655176.pdf
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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