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相続・事業承継コラム
作成日:2025.03.24
更新日:2026.01.02
辻 勝

執筆者:辻 勝

会長税理士

事業承継と相続の違い|後継者への引継ぎ方法を税理士が解説

8分で読めます
事業承継と相続の違い|後継者への引継ぎ方法を税理士が解説

結論:事業承継と相続の違いとは

事業承継とは、会社・事業を「経営」と「資産(株式・事業用資産)」の両面で次世代へ引き継ぎ、事業を継続・発展させる取組です。一方、相続は、被相続人の死亡により財産・権利義務を相続人が承継する制度です。つまり、経営者にとっての課題は「相続税の申告」だけではなく、経営権の移転と後継者の育成、そして家族・株主・従業員の利害調整が同時に発生する点にあります。

事業承継と相続の違いを比較で整理

「何が違うのか」を誤解すると、相続対策はできたのに経営が不安定になる、あるいは経営は継いだのに納税資金が足りない、といった事故が起こります。まずは全体像を比較で押さえましょう。

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項目事業承継相続
目的事業の継続・成長(経営の引継ぎ)財産の承継(分け方の決定)
対象経営権、株式、事業用資産、取引関係、人材財産全般(預金・不動産・株式など)
タイミング生前から計画的に実行(数年単位)死亡により開始(期限管理が重要)
主な関係者後継者、役員、従業員、金融機関、取引先相続人、受遺者、遺言執行者
主要ドキュメント承継計画、株式移転契約、役員体制、M&A契約等遺言書、遺産分割協議書、相続税申告
税務論点自社株評価、納税猶予等(制度要件が厳格)相続税・贈与税、特例適用可否
ここがポイント
相続は「財産の引継ぎ」ですが、事業承継は「経営の引継ぎ」です。相続対策だけを先行させると、株式は移ったのに社内外が納得していない、という状態になりやすい点に注意が必要です。

後継者への引継ぎ方法は3類型(親族内・従業員・第三者)

事業承継の形は大きく3つです。どれを選ぶかで、必要な準備とリスクが変わります。

親族内承継(子・親族へ)

  • メリット:価値観が近く、長期視点で育成しやすい
  • 注意点:相続人間の公平感(自社株・不動産・現預金の配分)に配慮が必要
  • 実務の要点:遺言・生前贈与・株式の集約で株式の分散を防ぐ

従業員承継(役員・幹部へ)

  • メリット:事業理解が深く、従業員・取引先が受け入れやすい
  • 注意点:株式取得資金(買い取り資金)と金融機関調整がボトルネックになりやすい
  • 実務の要点:株式譲渡価格の妥当性、資金調達スキーム(借入・持株会等)の設計

第三者承継(M&A)

  • メリット:後継者不在でも継続可能、成長投資を得られる場合がある
  • 注意点:譲渡後の雇用・取引継続、表明保証、情報管理(DD対応)
  • 実務の要点:企業価値評価、譲渡条件(ロックアップ、退職金・役員処遇)の交渉

税務・法務の要点:自社株、遺言、事業承継税制

「承継の実行」で詰まりやすいのは、税金と法務の論点です。ここを先に押さえると、スケジュールが立てやすくなります。

自社株(非上場株式)の移転設計が核心

非上場会社の場合、株式は「経営権そのもの」です。株式が相続で分散すると、議決権が割れ、意思決定が止まります。対策としては、後継者へ株式を集約しつつ、他の相続人には代償財産(現預金、不動産、保険金等)でバランスを取る設計が基本になります。

遺言を使って「争い」と「分散」を抑える

親族内承継では、遺言の有無で実務の難易度が大きく変わります。自筆証書遺言については法務局の保管制度もあり、紛失・改ざんリスクの低減や手続の円滑化に資する選択肢になります。法務局での保管制度の概要・手続は法務省の案内を参照してください。

事業承継税制(納税猶予)の使いどころ

一定の要件を満たす場合、非上場株式等に係る贈与税・相続税について納税猶予(一定の場合に免除)となる制度があります。制度は「特例措置」と「一般措置」等に分かれ、適用前提として認定や計画提出などの要件管理が重要です。特例措置の適用期限等も含め、国税庁・中小企業庁の最新情報を必ず確認してください。

ここがポイント
納税猶予は「税金がなくなる」と同義ではなく、要件未充足で猶予税額の納付が発生し得ます。経営状況や雇用要件など、運用フェーズの管理まで含めて設計することが重要です。

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後継者への引継ぎ手順(実務の進め方)

現場で多い失敗は、「税金の試算」か「株式移転」だけを先に進めてしまい、関係者調整が後手に回ることです。税理士法人 辻総合会計では、相続と事業の論点を横断して、次の順で整理する支援が多くなっています。

Step 1: 現状把握(株式・財産・関係者)

株主構成、議決権比率、相続人の範囲、会社資産と個人資産、借入の個人保証などを棚卸しします。ここで「誰が何を持っているか」を可視化しないと、後の設計が破綻します。

Step 2: 承継方針の確定(誰に、何を、いつ)

親族内・従業員・M&Aのどれを基本線にするかを決めます。併せて、後継者の権限移譲(代表交代、役員体制)と資産移転(株式、事業用資産)のタイミングを切り分けます。

Step 3: 税務シミュレーション(相続税・贈与税・納税資金)

株式評価と相続税見込、贈与実行時の税負担、納税資金の確保策(生命保険、配当設計、退職金等)を試算します。制度適用(事業承継税制等)を検討する場合は、要件に沿った計画を同時に整備します。

Step 4: 法務・契約の整備(遺言、株式移転、社内ルール)

遺言の作成、株式譲渡契約・贈与契約、種類株式や株主間契約の検討、取締役会・定款の整備等を行います。親族内承継では、相続人間の納得形成(説明の場づくり)もこの段階で実施します。

Step 5: 実行とモニタリング(引継ぎ後の運用)

代表交代後の意思決定フロー、金融機関対応、猶予制度を使う場合の要件管理、緊急時の代替体制(万一の二次承継)を運用として定着させます。ここまで含めて「承継が完了」です。

よくある質問

Q: 事業承継は相続が起きてから考えても間に合いますか? ▼

A:

間に合う場合もありますが、一般的には不利になりやすいです。相続開始後は手続期限(相続税申告等)に追われ、株式分散や遺産分割の対立が顕在化しやすく、金融機関・取引先への説明も同時進行になります。生前に方針と株式集約の道筋を作る方が、コストもリスクも下がります。
Q: 後継者が決まっていない場合、まず何から始めるべきですか? ▼

A:

「現状把握(株主構成・財産・保証)」と「選択肢の整理(親族・従業員・M&A)」から始めます。後継者探索を並行しつつ、どのルートでも共通して必要になる資料整備(決算の透明化、契約書整備、管理体制の見直し)を先行すると、後で手戻りが減ります。
Q: 事業承継税制(納税猶予)は使えば必ず得になりますか? ▼

A:

一概には言えません。猶予のメリットは大きい一方、認定・計画提出、承継後の要件管理など運用負担があります。会社の利益水準、雇用、株式移転の時期、将来の売却可能性などを踏まえ、通常の生前贈与・相続設計と比較して判断します。

まとめ

  • 事業承継は「経営」と「資産」を一体で引き継ぐ取組、相続は「財産承継」の制度
  • 引継ぎ方法は親族内承継・従業員承継・第三者承継(M&A)の3類型で、準備が異なる
  • 非上場会社は株式が経営権のため、株式分散を防ぐ設計が重要
  • 遺言や保管制度の活用で、相続手続の混乱と争いを抑えやすい
  • 事業承継税制は有効だが要件管理が必須。税務・法務・運用を一体で設計する

参照ソース

  • 国税庁「事業承継税制特集」: https://www.nta.go.jp/publication/pamph/jigyo-shokei/index.htm
  • 中小企業庁「法人版事業承継税制(特例措置)」: https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/shoukei_enkatsu_zouyo_souzoku.html
  • 中小企業庁「事業承継ガイドライン(PDF)」: https://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/shoukei/download/shoukei_guideline.pdf
  • 法務省「自筆証書遺言書保管制度について」: https://www.moj.go.jp/MINJI/minji03_00051.html
  • 中小機構「事業承継・引継ぎポータルサイト」: https://shoukei.smrj.go.jp/

この記事を書いた人

辻 勝

辻 勝

会長税理士

税理士 / 行政書士

税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。

ご注意事項

本記事の内容は、公開日時点における一般的な情報提供を目的としており、 特定の個人や法人に対する専門的なアドバイスを構成するものではありません。

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