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相続・事業承継コラム
作成日:2026.02.27
辻 勝

執筆者:辻 勝

会長税理士

認知症不動産が売れない理由|後見vs家族信託を税理士解説

9分で読めます
認知症不動産が売れない理由|後見vs家族信託を税理士解説

認知症の親の不動産が「売れない」結論

認知症などで親の判断能力(意思能力)が低下すると、売買契約が後から無効・取消しになるリスクが高まり、買主・仲介会社・金融機関が取引を進められません。つまり「親名義のまま、親が有効に意思表示できない状態」では、不動産売却が実務上ストップしやすいのが現実です。

この状況を打開する代表的な選択肢が、(1) 成年後見(法定後見)を申立てて後見人に売却を任せる、(2) 判断能力があるうちに家族信託で受託者に管理・処分権限を託しておく、の2つです。税理士法人 辻総合会計でも、相続・資産管理の現場で「売るべき時に売れない」相談が増えています。

認知症で不動産売却が止まる典型パターン(認知症 不動産売れない)

署名できても「意思能力」が争点になる

認知症の進行度合いによっては署名・押印ができても、契約内容を理解していたかが争点になります。結果として買主側の法務審査やローン審査が通りづらく、契約締結が見送られがちです。

共有・相続登記未了が絡むと一気に複雑化

親単独名義ならまだ整理しやすい一方、共有名義や相続登記未了が混ざると、同意者が増え、手続が雪だるま式に難しくなります。「売却」だけでなく「相続対策」として全体設計が必要です。

ここがポイント
「とりあえず施設費用のために売りたい」と急ぐほど、後見・信託・任意後見・遺言・相続登記の整合が取れず、時間も費用も増えます。最初に何のために売るか(資金化/住み替え/相続整理)を言語化するのが近道です。

成年後見で不動産を売る流れ(成年後見 家族信託 比較の前提)

成年後見(法定後見)とは

成年後見制度は、判断能力が十分でない方を法律面で支援するため、家庭裁判所が後見人等を選ぶ制度です(後見・保佐・補助の類型あり)。

「居住用不動産」の処分は家庭裁判所の許可が必要

後見人等が本人の居住用不動産を処分(売却、抵当権設定、賃貸借の締結・解除など)するには、家庭裁判所の許可が必要で、許可なく処分すると無効となり得ます。
この「許可が必要」という点が、成年後見で売却が遅くなりやすい最大要因です。

ここがポイント
実務の落とし穴は「居住用」に該当するかです。本人が現在施設入所中でも、将来居住可能性がある等で居住用に含まれることがあります。該当性は個別事情で判断されるため、早めに裁判所手続の見通しを立てます。

家族信託とは何か(認知症 不動産売却の事前設計)

家族信託は、財産(不動産・預金等)を信頼できる家族等に託し、あらかじめ定めた信託目的に従って管理・処分・承継する財産管理手法です。判断能力が低下した場合でも、信託目的に応じて柔軟に活用できるとされています。

ポイントは「判断能力があるうちに」契約して、受託者(多くは子)が売却・賃貸・修繕などの実務を動かせる状態を作ることです。ここが成年後見との決定的な違いになります。

家族信託でよくある設計ミス

  • 信託目的が曖昧で、売却・住み替え・資金使途が説明できない
  • 受託者の権限が不足し、結局動けない
  • 受益者(利益を受ける人)設計が不適切で、税務・相続の整合が崩れる

成年後見 vs 家族信託:2026年時点の実務比較表

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比較軸成年後見(法定後見)家族信託
開始タイミング判断能力低下後でも申立可能原則、判断能力があるうちに契約
売却の可否後見人等が売却手続を主導。居住用処分は裁判所許可が必要受託者が信託目的・契約に従い売却実行(設計次第)
監督・透明性裁判所の監督が前提契約・受託者運用で担保(第三者監督の設計も可)
スピード感申立~選任~許可まで時間がかかりやすい契約後は売却の意思決定が速い(ただし事前準備に時間)
コスト感申立費用+運用コスト(報酬等)になりやすい契約作成・登記等の初期コストが中心(運用は設計次第)
向いているケースすでに認知症が進行し、事前対策が間に合わないまだ判断能力があり、将来の売却・資金化も含めて設計したい

※費用・期間は地域・事案・専門職関与の有無で大きく変わります。比較検討は「目的」と「現時点の判断能力」の2点から始めるのが合理的です。

どちらを選ぶべきか:判断フレーム(家族信託 成年後見 比較)

1) いま親は契約できる状態か

  • まだ意思能力がある:家族信託(または任意後見等)の検討余地が大きい
  • すでに意思能力が不十分:成年後見(法定後見)が現実解になりやすい

2) 売却の目的は何か(資金化/相続整理/住み替え)

  • 施設費用の捻出:売却時期・最低売却額・資金管理のルールが重要
  • 相続整理:遺言・相続登記・共有解消まで一体で設計が必要
  • 住み替え:居住用処分許可の要否や、居住実態の説明が焦点

「売れない」問題は手続論ではなく設計論です。売却の目的とゴール(誰が・いつまでに・いくら必要か)を決めることで、後見・信託・任意後見のどれが最短かが見えます。

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Step 1: 現状整理(名義・共有・ローン・居住実態)
登記名義、共有者の有無、抵当権、親の居住実態(施設入所の経緯)を整理します。

Step 2: 親の判断能力を把握(医療・介護情報の整理)
診断名だけでなく、契約内容を理解できるかが重要です。可能なら早期に専門家面談を行います。

Step 3: ルート選定(成年後見 or 家族信託)
間に合うなら家族信託、間に合わないなら成年後見を軸に検討します。

Step 4: 売却実行の通る形を作る
成年後見なら、居住用処分許可の要否と必要資料(査定書等)を前提にスケジュール化します。
家族信託なら、信託目的・権限・受益者設計を固め、受託者が迷わず動ける条項に落とし込みます。

ケーススタディ(匿名化)

当法人で多いのは、親が施設入所後に「自宅を売って費用に充てたい」となり、買主は見つかったのに契約直前で止まるケースです。親の意思能力が十分でないと判断され、法定後見の申立て→後見人選任→居住用処分許可の段取りが必要になりました。結果として、売却までの期間が延び、つなぎ資金(立替・短期借入・親族間調整)が課題になりました。

逆に、早期に家族信託を組んでいたケースでは、受託者(子)が売却・賃貸の判断を迅速に行え、施設費用の資金計画も崩れにくい傾向があります。ただし、信託は条項設計がすべてで、税務・相続の出口まで見据えないと新たな火種になります。

よくある質問

Q: 認知症になってから家族信託はできますか? ▼
一般に、家族信託は契約なので、本人が契約内容を理解して有効に意思表示できることが前提です。判断能力が不十分な場合は、成年後見(法定後見)を検討するのが通常です。
Q: 成年後見で不動産を売るとき、必ず裁判所の許可が必要ですか? ▼
本人の「居住用不動産」の処分は家庭裁判所の許可が必要で、許可なく処分すると無効となり得ます。売却が居住用に該当するか、どの資料が必要かは事案により異なります。
Q: 任意後見は家族信託の代わりになりますか? ▼
任意後見は、本人が判断能力を有するうちに公正証書で契約し、判断能力低下後に家庭裁判所が任意後見監督人を選任して効力が生じる制度です。財産管理の枠組みとして有効ですが、売却権限の設計や監督、他の相続対策との整合まで含めて検討が必要です。

まとめ

  • 認知症で意思能力が低下すると、親名義不動産は実務上「売れない」状態になりやすい
  • 成年後見は事後対応として有効だが、居住用不動産の処分は裁判所許可が必要で時間がかかりやすい
  • 家族信託は事前対策として、受託者に管理・処分を託せる点が強み
  • 判断能力が残っているか、売却目的は何かで最適解は変わる
  • 後見・信託・任意後見・遺言・登記を一体で設計すると「売るべき時に売れる」確率が上がる

参照ソース

  • 裁判所「成年後見制度(後見・保佐・補助)の概要を知りたい方へ」: https://www.courts.go.jp/saiban/koukenp00/koukenp1/index.html
  • 裁判所「成年被後見人等の居住用不動産の処分についての許可」: https://www.courts.go.jp/saiban/syurui/syurui_kazi/kazi_25_04/index.html
  • 法務省「任意後見制度について(Q&A)」: https://www.moj.go.jp/MINJI/a03.html
  • 法務局(法務省)「家族信託とは?(PDF)」: https://houmukyoku.moj.go.jp/kobe/content/001451073.pdf

この記事を書いた人

辻 勝

辻 勝

会長税理士

税理士 / 行政書士

税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。

ご注意事項

本記事の内容は、公開日時点における一般的な情報提供を目的としており、 特定の個人や法人に対する専門的なアドバイスを構成するものではありません。

税務・会計・法務等に関する具体的なご相談については、 必ず資格を持った専門家にご確認ください。 本記事の情報に基づいて行われた判断や行動により生じた損害について、 当事務所は一切の責任を負いかねます。

記事の内容は法令の改正等により変更される場合があります。 最新の情報については、関係省庁の公式サイト等でご確認ください。

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