
執筆者:辻 勝
会長税理士
相続放棄とは?手続き・期限・必要書類【2026年版】|税理士が解説

相続放棄とは?結論と効果をまず押さえる
相続放棄とは、相続人が「プラスの財産もマイナスの財産も引き継がない」意思を、家庭裁判所に申述する手続きです。相続放棄が受理されると、その人は初めから相続人ではなかったものとして扱われ、原則として借金・保証債務などの負担を免れます。
ただし、相続放棄は「遺産分割で何ももらわない」とは別物です。遺産分割は相続人であることを前提に分け方を決めますが、相続放棄は相続人の地位そのものから外れる点が決定的に違います。
相続の選択肢(単純承認・限定承認・相続放棄)の違い
相続開始後、相続人が取り得る代表的な選択肢は次の3つです。判断を誤ると取り返しがつかないため、違いを最初に整理しておきましょう。
| 項目 | 単純承認 | 限定承認 | 相続放棄 |
|---|---|---|---|
| 借金・保証債務 | 全額引き継ぐ | 相続で得た財産の範囲で負担 | 引き継がない |
| 手続き | 原則不要(行為で成立することも) | 家庭裁判所へ申述(共同相続人全員が原則) | 家庭裁判所へ申述(各人で可) |
| 向いている場面 | 資産超過が明確 | 資産・負債が不明だが資産が残る可能性 | 債務超過が濃厚、関与を断ちたい |
相続放棄を検討すべき典型ケース
相続放棄が実務上よく検討されるのは、次のようなケースです。税理士法人 辻総合会計でも、相続税申告に至る前段階として「債務の有無」「保証の有無」「不動産の維持負担」を整理し、放棄の要否を判断材料として提示する場面が少なくありません。
- 借入金、カードローン、消費者金融など債務が多い(いわゆる債務超過)
- 連帯保証人になっていた可能性がある(事業者・医院オーナーの相続で多い)
- 空き家・山林など、維持費や処分負担が重い不動産が中心
- 相続人同士の関与を避けたい(遺産分割協議に参加したくない)
ポイントは、「負債があるかもしれない」段階でも期限は進むという点です。財産調査が間に合わない可能性があるなら、後述の「熟慮期間の伸長」も含め、早期に動く必要があります。
相続放棄の期限は3か月|起算点と伸長の考え方
相続放棄の申述期間は、原則として「自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月以内」です。死亡日から自動的に3か月と決め打ちではなく、相続人として相続開始を知った時点を起算点とする考え方が基本になります。
「知ったとき」=いつ?実務で迷いやすいパターン
- 亡くなった事実を知った日
- 自分が相続人であることを知った日(疎遠・前婚の子などでズレることがある)
- 債務の存在を知った日(争いになりやすいので、客観資料の確保が重要)
期限に間に合わないときの選択肢(熟慮期間の伸長)
3か月以内に財産調査が終わらない場合、家庭裁判所に「相続の承認又は放棄の期間の伸長」を申し立てることがあります。実務上は、借金の有無が不明、資料収集に時間がかかる、遠方で調査が難航など、合理的理由を整理して申立てを検討します。
相続放棄の手続き|申述の流れ・費用・必要書類
相続放棄は、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に申述します。提出は持参だけでなく郵送でも行える運用が一般的です(裁判所の案内に従ってください)。
手続きの流れ(Step形式)
Step 1: 相続財産・債務の一次調査をする
預金・不動産・保険・借入・保証など、判明している範囲で棚卸しします。特に保証債務は見落とされやすいため、契約書・請求書・金融機関からの郵送物を確認します。
Step 2: 期限(3か月)を確定し、方針を決める
起算点の整理(いつ知ったか)と、間に合わない場合の伸長の要否を検討します。
Step 3: 相続放棄申述書を作成する
裁判所の書式(相続放棄申述書)を用い、被相続人・申述人・相続関係、放棄理由などを記載します。
Step 4: 必要書類を収集して家庭裁判所へ提出する
戸籍等は取得に日数がかかることがあるため、早めの手配が重要です。
Step 5: 裁判所からの照会に回答し、受理通知を受け取る
裁判所から追加資料の求めや照会書が来ることがあります。期限内に回答し、受理通知書を保管します(金融機関・債権者対応で提示を求められることがあります)。
費用の目安(申述に必要な費用)
- 収入印紙800円分(申述人1人につき)
- 連絡用の郵便切手(必要額は裁判所により異なる)
「郵便切手の金額は裁判所ごとに違う」ため、提出先の家庭裁判所の案内で確認します。
必要書類(標準例)
裁判所の案内では、共通して求められやすい書類と、相続順位により追加となる書類が整理されています。代表例は次のとおりです。
- 共通
- 被相続人の住民票除票または戸籍附票
- 申述人(放棄する方)の戸籍謄本
- 追加(例)
- 配偶者・子の場合:被相続人の死亡の記載がある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
- 第二順位・第三順位の場合:被相続人の出生から死亡までの戸籍一式など、範囲が広くなることが多い
戸籍等は一式になると収集が重くなるため、実務では「法定相続情報一覧図」を併用できるかを家庭裁判所に確認し、効率化するケースもあります。
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失敗しやすい注意点|やってはいけない行為と実務の落とし穴
相続放棄は「期限内に申述書を出す」だけでは足りず、その前後の行動でリスクが生じます。次のポイントは、早い段階で押さえておきましょう。
単純承認とみなされるリスク行為
相続財産を処分したり、債務を積極的に弁済したりすると、単純承認と評価される可能性があります。典型的には、遺産の売却、車の名義変更、借金の一括返済などです。遺品整理も、換価や処分に踏み込むと争点化し得るため慎重に行います。
放棄しても「次の相続人」へ移る
相続放棄をすると、その人の取り分が消えるのではなく、次順位の相続人に相続権が移ります。結果として、親族に突然負担が移ることがあるため、関係者への説明とコミュニケーション設計が重要です。
放棄は原則として撤回できない
相続放棄は、受理後に「やっぱり取り消したい」と思っても原則として戻せません。判断前の情報収集(借金・保証・不動産負担)が核心です。
よくある質問
Q: 相続放棄は死亡日から3か月ですか?
A:
原則は「自己のために相続の開始があったことを知ったときから3か月」です。死亡日と一致することも多い一方、相続人であることを後から知った場合などは起算点が問題になります。迷う場合は、客観資料の整理と専門家相談をお勧めします。Q: 相続人が複数います。申述はまとめてできますか?
A:
相続放棄は各人が家庭裁判所に申述する手続きで、基本的に「1人1通」で提出します。家族全員が放棄する場合でも、提出物と費用(収入印紙)は人数分を前提に準備します。Q: 申述書は郵送でも提出できますか?
A:
一般に郵送提出の運用があります。もっとも、裁判所ごとに案内や必要な郵便切手の内訳が異なるため、提出先家庭裁判所の案内に従ってください。Q: 未成年の子が相続放棄する場合はどうなりますか?
A:
未成年者は法定代理人が代理して申述します。ただし、法定代理人と未成年者が共同相続人で未成年者のみ放棄する場合など、利益相反となり「特別代理人の選任」が必要になることがあります。早めに裁判所または専門家へ確認してください。まとめ
- 相続放棄は、相続人が財産も借金も引き継がない意思を家庭裁判所に申述する手続き
- 期限は原則「相続開始を知ったときから3か月」で、調査が間に合わない場合は伸長を検討
- 費用は収入印紙800円(1人につき)+郵便切手(裁判所ごとに異なる)
- 必要書類は戸籍・住民票除票等が中心で、相続順位により追加書類が増える
- 相続財産の処分や債務弁済など、単純承認リスク行為を避けることが重要
参照ソース
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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