
執筆者:辻 勝
会長税理士
相続税の税務調査|入りやすい5ケースと対策を税理士解説

相続税の税務調査は「論点がある申告」に入ります
相続税の税務調査は、全件に機械的に入るものではなく、資料情報から「申告額が過少の可能性がある」「無申告の疑いがある」と判断された案件に重点的に実施されます。つまり、税務調査リスクの本質は「財産の把握」「評価」「生前対策の整合性」に論点が残っていないか、です。
特に、開業医・経営者・地主など資産構成が複雑な方は、土地評価・名義預金・生前贈与が同時に絡みやすく、申告時点での設計がそのまま調査リスクを左右します。
当法人(税理士法人 辻総合会計)でも、相続税申告後の問い合わせや調査対応を行う中で、「税務署が見ているポイントは毎年ほぼ同じ」である一方、「制度改正で見られ方が変わる論点」もあると実感します。事前に入りやすい型を把握し、対策の優先順位を付けておくことが最も実務的です。
相続税の税務調査とは
税務調査の種類(実地調査と簡易な接触)
相続税の確認は、大きく次の2つで進みます。
- 実地調査:税務署側が訪問し、面談・資料確認を行う本格的な調査
- 簡易な接触:電話・文書・来署依頼などで、特定論点を確認する接触
実務上の感覚としては、「資料の整合性が取れているか」「財産の帰属に疑義がないか」を見極めたうえで、必要に応じて実地調査に進む、という流れが多いです。
税務調査で見られる基本テーマ
調査の着眼は多岐にわたりますが、頻出は次の領域です。
- 財産の漏れ:預貯金・有価証券・保険・貸付金・未収入金など
- 帰属の否認:名義預金、家族名義の証券口座、金庫内現金
- 評価の妥当性:土地(路線価・倍率・地積・形状補正)、非上場株式
- 特例適用の要件:小規模宅地等の特例、配偶者の税額軽減 等
- 生前対策の整合:贈与・相続時精算課税・契約書と資金移動の一致
相続税 税務調査 確率は?数字の見方と注意点
「相続税の税務調査は何%くらいですか?」という相談は多いのですが、結論として、確率を単純な割合で捉えるのは危険です。理由は、調査はランダムではなく、資料情報で論点があると見込まれた案件に優先的に入るからです。
ただし、肌感覚ではなく規模感を持つために、公開資料から概算することは有効です。例えば、相続税の申告書提出に係る被相続人数(全国)は年間で十数万件規模です。一方で、実地調査は年8千件台が公表されています。
この数字だけ見ると「数%程度」と見えるかもしれませんが、実務では「リスク要因を複数持つ申告ほど、体感的な確率が跳ね上がる」と理解してください。
公表統計(把握しておきたい3つの数字)
相続税の調査関連の統計は、リスク説明のベースになります。
| 区分 | 指標 | 目安(公表資料ベース) | 実務での読み方 |
|---|---|---|---|
| 実地調査 | 実地調査件数 | 8,556件 | 本格調査は選別されている |
| 実地調査 | 1件当たり追徴税額 | 859万円 | 調査になると金額が大きい傾向 |
| 申告事績 | 課税割合 | 約10%前後 | 申告対象は死亡者の一部 |
※上記は国税庁の公表資料から要点を抜粋したものです。年により増減します。
調査が入りやすい5つのケース
ここからが本題です。「調査が入りやすい案件」の典型を5つに絞って整理します。複数当てはまる場合は、リスクが相乗的に上がると考えてください。
ケース1:預貯金が多いのに申告財産が少ない(名義預金を疑われる)
被相続人の生前所得・事業収入・医業収入が相応にあるにもかかわらず、申告財産(特に預貯金)が少ない場合、税務署はまず資金の行方を確認します。ここで問題になりやすいのが名義預金です。
典型例:
- 家族名義の口座に被相続人資金が流入している
- 通帳・印鑑・ネットバンキングを被相続人が管理していた
- 贈与契約書がなく、贈与税申告もない
対策の要点は「帰属の説明」です。名義ではなく、誰が管理し、誰が使えたかで判断されます。
ケース2:土地の評価が難しい(形状・接道・貸家建付地・特例絡み)
相続税の論点で最も揉めやすいのが土地です。土地評価は、路線価や倍率という入口が同じでも、個別事情で大きく動きます。
調査リスクが上がる場面:
- 不整形地、間口狭小、奥行長大、無道路地など補正が多い
- 賃貸アパート併用地(貸家建付地)で権利関係が複雑
- 小規模宅地等の特例の要件(同居・生計一・事業継続)にグレーがある
土地は「資料で勝負」になります。測量図、賃貸借契約書、固定資産税課税明細、現況写真、利用状況の説明資料を最初から整えることが重要です。
ケース3:生前贈与が多い(相続開始前の加算・資金移動の不自然さ)
近年は生前贈与の論点がより重要になっています。特に、暦年贈与については加算対象期間が見直され、相続税との接続が厳密化しています。
注意点:
- 令和6年(2024年)以後の贈与は、加算対象期間が段階的に延長され、将来的に相続開始前7年以内が対象になります
- 贈与の事実(契約・資金移動・受贈者の管理)が弱いと、贈与そのものが否認されやすい
「毎年110万円ずつ渡したつもり」でも、実態が伴わなければ調査では通りません。贈与は記録と実態のセットです。
ケース4:同族会社・個人事業の財産が絡む(役員貸付金・非上場株式)
開業医やオーナー企業では、「個人と法人(事業)の財布が混ざる」ことが起きがちです。税務署は次を強く見ます。
- 役員貸付金・借入金の実態(契約・返済・利息)
- 会社名義資産の私的利用(車両・不動産・保険)
- 非上場株式の評価と、株主構成の整合性
実務では、帳簿・契約・資金繰り表など企業側の証拠が揃っているかが分水嶺になります。
ケース5:海外資産・国外取引がある(情報連携で把握されやすい)
海外資産は、情報連携の進展により見えやすくなっています。海外口座、海外証券、国外不動産、暗号資産などがある場合は、申告漏れリスクが上がります。
調査で問われやすいポイント:
- 申告時点の保有残高の把握方法(残高証明・取引報告書)
- 為替換算の基準
- 財産の取得原資(国内からの送金・投資の履歴)
海外資産は「後から思い出す」が最も危険です。最初の財産目録で棚卸しを徹底しましょう。
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相続税 調査 対策|申告前・申告後の実務チェック
対策は「申告の品質」を上げること、そして「説明可能性」を確保することに尽きます。ここでは、現場で効果が高い順に整理します。
申告前:リスクを潰すチェックリスト
- 預貯金:過去入出金の大きな動き(現金引出・振込)を説明できるか
- 名義:家族名義口座・証券の棚卸しをしたか
- 土地:評価の前提資料(地積・接道・利用区分・賃貸状況)を揃えたか
- 贈与:贈与契約書、振込記録、受贈者の管理状況が一貫しているか
- 会社:役員貸付金等の残高理由が説明できるか
申告後:調査通知が来たらの手順(ステップ形式)
Step 1: 調査の範囲と意図を把握する
「実地調査」か「簡易な接触」か、対象税目(相続税・贈与税)と対象期間、論点(預金、土地、贈与など)を整理します。
Step 2: 証拠資料を論点別に束ねる
財産目録の根拠資料、評価資料、贈与・貸付の契約書、通帳コピー、残高証明などを論点別にセット化します。
Step 3: 説明ストーリーを作る(誰が見ても同じ結論になる形)
資金の流れ・管理状況・契約関係を時系列で説明できる形にします。特に名義預金は「管理・支配」を中心に組み立てます。
Step 4: 当日は答え過ぎないが原則
聞かれたことに事実で答える。推測で補わない。追加提出の要請があれば、期限と範囲を明確にして対応します。
Step 5: 指摘事項は論点の切り分けをして是正する
評価の見直しなのか、帰属の否認なのか、単純ミスなのかで対応が変わります。必要なら修正申告を検討します。
匿名ケーススタディ(現場でよくある例)
医療法人のある院長の相続で、申告財産の預貯金は少なめ。一方で、相続人(子)の口座に多額の残高がありました。通帳と印鑑は被相続人が保管し、入出金も被相続人主導。贈与契約書は未整備。
調査では名義預金として帰属が争点となり、最終的に一部が相続財産に認定され修正申告へ。結論としては、「贈与の実態(受贈者の管理)を作れていなかった」ことが敗因でした。生前の段階で、管理移転と記録化ができていれば、調査リスクも追徴も抑えられた可能性があります。
よくある質問
Q: 相続税の税務調査はいつ頃入りやすいですか?
Q: 税務署から電話や手紙が来たら、すぐに税理士へ相談すべきですか?
Q: 生前贈与は110万円以下なら調査で問題になりませんか?
Q: 土地評価で指摘されたら必ず追徴になりますか?
まとめ
- 相続税の税務調査はランダムではなく、論点が見込まれる申告に重点的に実施される
- 調査が入りやすい典型は、名義預金、土地評価、生前贈与、同族会社、海外資産の5領域
- 公表統計では実地調査は年8千件台、1件当たり追徴は数百万円規模になり得る
- 対策は「財産の棚卸し」「評価根拠の整備」「贈与・貸付の実態と記録の一致」に集約される
- 調査通知後は、論点整理→資料の束ね方→説明ストーリーの順で初動品質を上げる
参照ソース
- 国税庁「令和5事務年度における相続税の調査等の状況」: https://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2024/sozoku_chosa/pdf/sozoku_chosa.pdf
- 国税庁「令和6年分 相続税の申告事績の概要」: https://www.nta.go.jp/information/release/kokuzeicho/2025/sozoku_shinkoku/pdf/sozoku_shinkoku.pdf
- 国税庁 タックスアンサー「No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4161.htm
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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