
執筆者:辻 勝
会長税理士
相続税の債務控除一覧|借金・医療費の差し引き方

相続税の債務控除とは|結論:死亡時点で確実な負債等を遺産から差し引く
相続税の「債務控除」とは、被相続人(亡くなった方)が死亡した時点で負っていた借入金や未払金など、確実と認められる債務を遺産総額から差し引いて相続税を計算する仕組みです。加えて、債務ではありませんが葬式費用も一定範囲で遺産から控除できます。
誰にとって何が問題かというと、「通帳残高や不動産評価は把握できても、借金・未払税金・医療費などのマイナス財産を拾い漏らして相続税を過大に申告してしまう」点が大きなリスクです。現場では、領収書や請求書の整理不足で控除漏れが起きやすく、逆に根拠が弱い控除を入れて税務調査で否認されるケースも見られます。
税理士法人 辻総合会計では、相続税申告の実務で「債務控除の範囲」と「証拠の作り方(残し方)」が税額を左右する場面を多く経験しています。本記事では、相続税の計算で差し引ける債務・費用を一覧化し、手順と注意点まで整理します。
相続税 債務控除一覧|控除できる借金・未払い税金・医療費
債務控除の原則は、「死亡時点で存在し、かつ確実な債務」です。典型例は次のとおりです(後述の控除できないものも必ずセットで確認してください)。
| 区分 | 代表例 | 実務上のポイント(証拠) |
|---|---|---|
| 借入金(ローン) | 住宅ローン、事業性融資、カードローン | 残高証明書、返済予定表、金銭消費貸借契約書 |
| 未払金 | 入院費・治療費の未払い、介護施設利用料、公共料金、家賃 | 請求書・明細、引落予定、契約書、口座引落履歴 |
| 未払税金等 | 被相続人に課される所得税・住民税など(死亡後に相続人が納付するもの) | 納付書、確定申告書控、通知書。延滞税・加算税は原則不可 |
| 保証債務(条件あり) | 連帯保証など | 「実際に負担が生じる見込み」の立証が重要(個別判断) |
相続税 借金 控除|ローン・クレカ・個人借入はどこまでOK?
- 金融機関のローン(住宅ローン、事業融資、マイカーローン等)
- クレジットカードの未払残高(ショッピング・分割等)
- 個人間の借入(親族・知人からの借金)
- ただし、親族間は特に「実態」の立証が求められます。借用書、返済記録(振込)、利息設定の有無など、形式と実態の両面がポイントです。
実務で多いのは「カード利用は家計支出と混ざっていて見落とす」ケースです。死亡月の利用分(未確定分)が残ることもあるため、カード会社の明細・請求書を必ず確認します。
未払い税金は相続税で引ける?|延滞税・加算税は要注意
被相続人に課される税金で、死亡後に相続人が納付することになった所得税などは、死亡時点で確定していないものでも債務控除の対象になり得ます。一方で、相続人の責任で発生する延滞税・加算税などは、原則として遺産から差し引けません。
実務では「準確定申告(1月1日〜死亡日まで)の所得税・復興特別所得税」「住民税(特別徴収の残額等)」「固定資産税の未納分」などを、納付書や通知書ベースで拾い上げます。
未払医療費・介護費は相続税の債務控除になる
最後の入院費、手術費、薬代、介護サービス費、施設利用料などで、死亡時点で未払いの請求が確定しているものは、債務控除の対象になり得ます。
ポイントは「死亡日現在の未払分」であることです。死亡後に相続人が自己判断で追加したサービス(グレードアップ費用など)が混ざると説明が難しくなるため、請求書の期間・名義・内訳を分けて保管します。
相続税 葬式費用|控除できる範囲・できない範囲
葬式費用は債務ではありませんが、相続税計算上は遺産から差し引けます。国税庁が例示する通常の葬式費用には、火葬・埋葬・納骨費用、遺体(遺骨)の回送費用、通夜等の通常必要な費用、読経料などが含まれます。
一方で、次のような支出は葬式費用に含まれない(控除できない)と整理されています。
| 区分 | 控除できる | 控除できない |
|---|---|---|
| 儀式関連 | 火葬・埋葬・納骨、通夜等の通常必要費用、読経料等 | 初七日など法事費用 |
| 返礼・贈答 | (基本的に該当しない) | 香典返し費用 |
| 墓地・墓石 | (基本的に該当しない) | 墓石・墓地の購入費、墓地を借りる費用 |
「どこまでが葬式か」は感覚で判断しやすい部分ですが、税務上は線引きが明確です。領収書を項目別に分け、葬儀社・寺院・火葬場・搬送会社など支払先ごとに整理すると、申告時の説明がスムーズです。
相続税 マイナス財産の注意点|控除できない債務・ありがちな否認パターン
債務控除で失敗しやすいのは、「差し引けないものを入れてしまう」か「差し引けるのに拾い漏らす」かの二択です。否認・揉め事を避けるため、次の論点は必ず押さえましょう。
非課税財産に対応する債務は控除できない
国税庁の整理では、被相続人が生前に購入したお墓の未払代金など、非課税財産に関する債務は遺産総額から差し引けません。
「墓石を買った=支払いが残っているから控除できる」と考えがちですが、非課税財産とセットで取り扱われる点が落とし穴です。
相続人の責任で生じたペナルティは原則控除不可
延滞税・加算税などは、相続人側の事情(期限後納付など)で発生し得るため、原則として遺産から差し引けません。納付書を見て「税金だから全部OK」と短絡しないことが重要です。
親族間貸借・立替精算は「証拠」が勝負
よくある相談として、「同居の子が生活費や医療費を立替えていた」「親族からお金を借りていたが返済していない」というケースがあります。控除できる可能性はありますが、税務上は確実な債務の立証が必須です。
少なくとも、立替明細、領収書、精算の合意(書面)、振込記録など、第三者が見ても合理的に追える形に整える必要があります。
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債務控除の手順|集める資料と申告の流れ(ステップ形式)
相続税申告の現場で再現性が高い進め方を、ステップで整理します。
Step 1: マイナス財産の棚卸(死亡日時点)
- 借入金:金融機関ごとに残高証明書を取得
- 未払金:医療費・介護費・公共料金・家賃など、請求書と対象期間を整理
- 未払税金:準確定申告の税額見込み、住民税・固定資産税の通知を収集
- 葬式費用:葬儀社・寺院・火葬場・搬送会社など支払先ごとに仕分け
Step 2: 「控除できる/できない」を仕分け
- 非課税財産に対応する債務(例:墓石の未払)は除外
- 香典返し・法事費用など、葬式費用に含まれないものは除外
- ペナルティ(延滞税・加算税)が混ざっていないか確認
Step 3: 相続人ごとの負担関係を確定する
債務控除は「誰がその債務等を負担するか」が重要です。相続分・遺産分割協議の内容と整合するよう、負担者と金額を整理します(包括受遺者がいる場合は特に注意)。
Step 4: 相続税申告書へ反映し、証憑を保管する
申告書に計上するだけでなく、税務署からの照会に備えて「残高証明」「請求書」「領収書」「契約書」「納付書」等を申告後も保管します。データ保管(スキャン)も有効ですが、原本が必要な場面に備え、一定期間は原本も残すと安心です。
よくある質問
Q: 相続税の債務控除は、亡くなった後に届いた請求書でも対象になりますか?
Q: 葬式費用として控除できる読経料やお布施は、領収書がなくても大丈夫ですか?
Q: 墓地や墓石の購入費は、葬式費用として控除できますか?
Q: 親族からの借金(口約束)も相続税で控除できますか?
まとめ
- 債務控除は「死亡時点で存在し、確実と認められる借入金・未払金等」を遺産総額から差し引く
- 未払税金は対象になり得るが、延滞税・加算税などは原則控除できない
- 未払医療費・介護費は、請求期間と死亡日を突合して死亡時点までの未払分を整理する
- 葬式費用は一定範囲で控除できるが、香典返し・墓地墓石・法事費用は対象外
- 争点は「控除できる範囲」よりも「証拠の揃え方」。残高証明・請求書・領収書の整備が重要
参照ソース
- 国税庁「No.4126 相続財産から控除できる債務」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4126.htm
- 国税庁「No.4129 相続財産から控除できる葬式費用」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4129.htm
- 国税庁「相続税法基本通達 第13条《債務控除》関係」: https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/sisan/sozoku2/02/03.htm
- e-Gov法令検索(相続税法の条文検索): https://laws.e-gov.go.jp/
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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