
執筆者:辻 勝
会長税理士
生前贈与と相続どっちが得?税金シミュレーション|税理士が解説

生前贈与と相続どっちが得?結論と考え方
生前贈与と相続の「どっちが得か」は、単純な税率比較では決まりません。結論としては、相続税が課税されそうな資産規模で、かつ「早めに贈与を開始できる」家庭ほど、生前贈与が有利になりやすい傾向があります。一方、相続税がかからない・または配偶者控除等で実質負担が軽い場合は、無理な贈与が逆効果になることもあります。
税理士法人 辻総合会計でも、相続対策の相談で多いのは「暦年贈与をしているが、いつの贈与が相続税に戻るのか」「相続時精算課税に切り替えるべきか」という論点です。制度改正を踏まえると、贈与の設計(期間・名義・目的)が以前より重要になっています。
生前贈与とは|贈与税の基本と「生前贈与 節税」の限界
生前贈与とは、存命中に財産を移転することです。代表的なのは「暦年課税(毎年の贈与)」と「相続時精算課税(選択制)」の2つです。
暦年課税の基本:毎年の基礎控除と税負担イメージ
暦年課税では、1月1日〜12月31日の1年間に受けた贈与の合計から、基礎控除を差し引いて贈与税を計算します。少額を長期間で分散できれば、課税を抑えながら資産移転できるのが強みです(贈与税の仕組み・税率は国税庁の解説参照)。
ただし、近年の重要ポイントは「相続直前の贈与は相続税に戻り得る」点です。節税目的で直前だけ行う贈与は、期待どおりに効かないケースが増えています(後述)。
相続時精算課税の基本:選ぶと戻れない制度設計
相続時精算課税は、一定の要件のもとで選択できる贈与税制度で、贈与時の税負担を抑えつつ、最終的には相続時に合算して精算します。令和6年以後の贈与では、相続時精算課税にも年110万円の基礎控除(制度内控除)が設けられるなど、実務上の使い勝手が変化しています。いっぽうで、一度選択すると暦年課税に戻れない点が最大の注意点です(国税庁の制度説明参照)。
相続とは|相続税の基本と「贈与税 相続税 比較」の前提
相続税は、相続や遺贈で取得した財産に課税されます。重要なのは、まず基礎控除で「そもそも相続税がかかるか」を判定することです。
相続税の基礎控除(かかる・かからないの分岐点)
相続税の課税は、課税価格の合計額から基礎控除を差し引いて課税遺産総額を計算します。基礎控除は、
3,000万円+600万円×法定相続人の数
で算定します(国税庁の計算方法参照)。
ここで相続税がかからない規模であれば、贈与税を払ってまで急いで移転する合理性は下がります。逆に、相続税がかかる規模であれば、早めの贈与設計が効きやすくなります。
「税率の比較」だけでは結論が出ない理由
贈与税は一般に累進が強く、相続税より税率が高い局面が多いです。にもかかわらず生前贈与が有効になり得るのは、以下の要因があるためです。
- 早期移転により、将来の値上がり分を相続財産から外せる
- 少額分散で贈与税の課税を抑えやすい
- 相続の分割紛争を予防しやすい(ただし別途配慮が必要)
税金シミュレーションで比較|生前贈与 vs 相続のざっくり試算
ここでは考え方を掴むため、単純化したモデルで比較します(実務では財産評価、配偶者税額軽減、各種控除・特例、保険金・退職金の非課税枠等で結果が大きく変わります)。
前提ケース
- 被相続人の正味財産:1億円(現預金中心と仮定)
- 相続人:配偶者+子2人(法定相続人3人)
- 10年間、子2人へ毎年一定額を贈与する案を比較
比較表:どこで差が出るか
| 観点 | 生前贈与(暦年中心) | 相続(贈与なし) |
|---|---|---|
| 税の発生タイミング | 贈与の都度(相続前に一部精算される場合あり) | 相続時にまとめて |
| 税負担の設計 | 分散しやすいが制度制約あり | 控除・軽減が使える場合あり |
| 相続直前の効果 | 一定期間内は相続税に加算 | 影響なし |
| 実務リスク | 名義・証拠(贈与契約書等)が重要 | 遺産分割で揉めると長期化 |
試算(概算):10年贈与をした場合のイメージ
- 相続のみ(贈与なし)
- 基礎控除:3,000万円+600万円×3人=4,800万円
- 課税対象の目安:1億円−4,800万円=5,200万円(ここから各人配分で税率計算)
相続税は課税遺産総額を法定相続分で按分して税率を当てる方式のため、単純な「1億円×税率」にはなりません。
- 10年間の贈与(子2人へ毎年贈与)
- 贈与額を分散できれば贈与税が抑えられる可能性がある一方、相続直前の贈与は相続税に戻る点に注意が必要です。
- 令和6年以後の贈与は、暦年課税で受けた贈与のうち、相続開始前7年以内の贈与が相続税の計算上加算対象となります(国税庁の解説参照)。
このため、10年続けても「最後の7年分」は相続税計算に影響し得ます。逆に言えば、早く始めた分(7年より前)は、相続税への影響を受けにくい期間が生まれます。
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生前贈与が有利になりやすいケースと注意点
生前贈与が効きやすい家庭
- 相続税が課税される見込みが高い(基礎控除を大きく超える)
- 10年単位で早くから移転できる(7年加算を踏まえた期間設計が可能)
- 値上がりが見込まれる資産(収益不動産・自社株等)がある
- 相続人間のバランス調整が必要(介護負担等も含め、早期に整理したい)
典型的な落とし穴
- 形式だけの名義移転(実態が伴わない)で否認リスクが上がる
- 贈与契約書・資金移動の証拠がない
- 相続時精算課税を選んだ後に「やっぱり暦年に戻したい」ができない
- 生活資金が不足し、老後資金を毀損する
判断手順|わが家は生前贈与と相続どっちが得か(ステップ形式)
Step 1: 相続税がかかるかを先に判定する
基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)で一次判定し、課税見込みを把握します(国税庁の計算方法参照)。
Step 2: 贈与できる期間(年数)を置く
相続開始前7年以内の贈与が加算対象となり得るため、何年前倒しできるかが重要です(国税庁の解説参照)。
Step 3: 贈与の手段を決める(暦年/精算課税/特例)
相続時精算課税は制度上のメリットがある一方で、選択後は変更できないため、家族全体の資金計画と合わせて検討します(国税庁の制度説明参照)。
Step 4: 実行ルール(証拠・管理・分割方針)を固める
贈与契約書、振込記録、管理口座、将来の遺産分割方針(遺言等)まで整備し、税金だけでなく揉めない設計にします。
よくある質問
Q: 生前贈与は毎年少額なら相続税対策として確実ですか?
Q: 相続時精算課税は選んだ方が得ですか?
Q: 税金以外で、贈与と相続の判断で見落としがちな点は?
まとめ
- 「生前贈与と相続どっちが得か」は、資産額・相続人構成・贈与の期間で結論が変わる
- まず相続税の基礎控除で、課税見込みを判定する
- 暦年贈与は分散メリットがある一方、相続開始前7年以内の贈与は相続税に加算対象となり得る
- 相続時精算課税は使いどころがあるが、選択後に暦年へ戻れない点が最大の注意点
- 税額だけでなく、証拠整備と「揉めない設計」まで含めて判断する
参照ソース
- 国税庁「No.4152 相続税の計算」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4152.htm
- 国税庁「No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4161.htm
- 国税庁「No.4103 相続時精算課税の選択」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4103.htm
- 国税庁「No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/zoyo/4408.htm
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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