
執筆者:辻 光明
代表税理士
事業承継税制2026期限延長|特例承継計画の締切と対策を税理士が解説

事業承継税制2026の期限延長は「計画提出」だけが先に延びます
事業承継税制(特例)の期限延長でまず押さえるべき結論は、「特例承継計画の提出期限」と「贈与・相続の適用期限」は別物で、延長の中心は“計画提出側”だという点です。
経営者にとっての問題は、期限が延びたことで安心して準備を先送りし、結果として株価対策・後継者育成・金融機関対応が間に合わなくなることです。
制度は一見「税金がゼロになる」ように見えますが、実務は都道府県の認定、申告、報告がセットで動くため、段取りを誤ると納税猶予の取りやめリスクにも直結します。延長を“猶予期間”ではなく“準備のための追加時間”として使う発想が重要です。
事業承継税制とは何か(納税猶予・免除の基本)
事業承継税制は、後継者が非上場株式(法人版)や事業用資産(個人版)を贈与・相続等で取得した際、一定要件のもとで贈与税・相続税の納税を猶予し、後継者の死亡等により猶予税額が免除され得る制度です。国税庁も、制度趣旨を「納税猶予・免除」の枠組みとして整理しています。
- 法人版:非上場株式等が対象(納税猶予・免除)
- 個人版:青色申告の事業に係る一定の事業用資産が対象(納税猶予・免除)
「免除」まで到達するには、継続保有や報告などの運用要件が続きます。税負担だけでなく、ガバナンス・資本政策・後継者の覚悟を含めた設計が必要です。
特例承継計画の提出期限はいつまで延長されたか
2026年度税制改正大綱の資料では、事業承継税制(特例措置)について、承継計画の確認申請(提出)の期限を延長することが示されています。ポイントは以下です。
- 法人版:特例承継計画の提出期限が「令和9年(2027年)9月末」まで
- 個人版:特例承継計画の提出期限が「令和10年(2028年)9月末」まで
同資料には、適用期限(贈与・相続で実際に承継を行う期限)も併記されており、法人版は「令和9年(2027年)12月31日まで」、個人版は「令和10年(2028年)12月31日まで」という整理になっています。
計画提出期限と適用期限の違いを比較(いちばん間違えやすい論点)
「提出期限」と「適用期限」を混同すると、ギリギリに計画だけ出して、承継の実行・認定・申告準備が間に合わない事故が起きます。違いは次の表の通りです。
| 区分 | 期限の対象 | 期限の意味 | 今回の延長後(目安) |
|---|---|---|---|
| 計画提出期限 | 特例承継計画 | 都道府県へ提出し確認を受ける期限 | 法人版:2027年9月末/個人版:2028年9月末 |
| 適用期限 | 贈与・相続等の実行 | 特例措置で承継(贈与・相続等)を行える期限 | 法人版:2027年12月31日/個人版:2028年12月31日 |
| 申告・提出実務 | 贈与税・相続税申告、認定書写し等 | 実行後に税務署へ申告・添付、以後報告が継続 | 期限は案件ごと(申告期限・報告期限に従う) |
計画提出が間に合っても、承継の実行が適用期限を過ぎれば特例は使えません。また、認定や書類不備で「申告期限の2か月前までに認定申請」などの運用上の制約が出るため、締切直前はリスクが上がります。
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期限が延びても「今すぐ動くべき理由」—実務のボトルネックは税以外にある
期限延長は朗報ですが、当法人(税理士法人 辻総合会計)での事業承継支援の現場感として、詰まるのは次の3点です。
理由1:株価・評価は「短期で下がらない」ことが多い
非上場株式の評価は、業績・純資産・類似業種など複合要素で決まります。
「あとで利益が落ちれば株価も下がるはず」という期待で先送りすると、逆に増益・資産増で評価が上がるケースが珍しくありません。株価対策は“打った施策が評価に反映されるまで時間がかかる”のが実務です。
理由2:後継者・役員体制・金融機関の合意形成に時間がかかる
税制だけで承継は完結しません。代表交代、議決権設計、個人保証、借入条件の見直しなど、関係者合意に数か月〜1年単位を要します。期限延長分は、ここに投入すべき時間です。
理由3:都道府県の認定・書類整備は“差し戻し”が起きる
特例承継計画は、認定経営革新等支援機関の指導・助言を受けて作成し、都道府県へ提出して確認を受けます。記載の整合性や添付の不足で差し戻しが起きると、締切間際はリカバリーが難しくなります。
事業承継税制の進め方(特例承継計画から申告までの手順)
期限延長を活かすには、手続きを工程表に落とすことが有効です。
Step 1: 対象判定(法人版/個人版、特例/一般)
- 法人:非上場株式の保有状況、後継者要件、会社要件の一次判定
- 個人:青色申告、対象資産(事業用資産)の範囲、除外事業の確認
Step 2: 株価・資産評価の試算と、承継スキームの設計
- 株価試算(直近決算ベース)
- 贈与・相続・持株会社・種類株などの選択肢比較
- 後継者の議決権確保と、他相続人への配慮
Step 3: 特例承継計画の作成・提出(認定支援機関の関与)
- 計画に「承継予定時期」「経営見通し」「事業計画」等を反映
- 都道府県へ提出し確認を取得(書類不備の差し戻しリスクを前提に余裕を確保)
Step 4: 都道府県の認定申請〜贈与・相続の実行
- 認定申請のタイミングを申告期限から逆算
- 贈与契約、株式移転、役員・代表交代、議事録整備
Step 5: 税務申告と、その後の報告運用(継続管理)
- 贈与税・相続税申告で必要書類を添付
- 以後、年次報告・継続届出等の運用を継続
- 要件未達・手続漏れがあると納税猶予の取りやめにつながるため、管理体制を作る
よくある質問
Q: 期限延長で、特例承継計画は「2027年9月末までに出せばOK」ですか?
A:
法人版は計画提出期限が2027年9月末、個人版は2028年9月末という整理です。ただし、実際に贈与・相続等を行う「適用期限」は別にあり、法人版は2027年12月31日まで、個人版は2028年12月31日までとされています。計画提出だけ間に合っても、承継実行が適用期限を過ぎると特例は使えません。Q: 「提出期限」と「適用期限」、どちらを優先してスケジュールを組むべきですか?
A:
実務は「適用期限(承継実行の締切)」をゴールに、申告期限・認定の準備期間・差し戻しリスクを織り込んで、計画提出を前倒しします。特に都道府県認定や添付書類整備は時間を要するため、締切直前の提出は避けるのが安全です。Q: 事業承継税制は使えば税金が完全にゼロになりますか?
A:
「納税猶予」であり、要件を満たし続けることで免除に至る制度です。要件未達や届出漏れがあると猶予の取りやめとなり、利子税を含めた納付が必要になる場合があります。個別の事情でリスクが変わるため、制度設計と運用管理が前提です。まとめ
- 2026改正のポイントは、特例承継計画の提出期限が延長されたこと(法人版:2027年9月末、個人版:2028年9月末)
- 一方で、承継(贈与・相続等)の適用期限は別管理(法人版:2027年12月31日、個人版:2028年12月31日)
- 期限延長で重要なのは「先送り」ではなく、株価試算・後継者体制・金融機関調整の時間を確保すること
- 手続は「設計→計画→認定→実行→申告→報告運用」の順で、差し戻しリスクも見込んで前倒しが安全
- 最終判断は個別要件で変わるため、制度適用と運用負担を含めて専門家と工程表を作るのが合理的
参照ソース
- 経済産業省「令和8年度税制改正について(資料PDF)」: https://www.meti.go.jp/main/zeisei/zeisei_fy2026/zeisei_k/2026_r8zeiseikaiseigaiyo01.pdf
- 国税庁「法人版事業承継税制」: https://www.nta.go.jp/publication/pamph/jigyo-shokei/houjin.htm
- 国税庁「個人版事業承継税制」: https://www.nta.go.jp/publication/pamph/jigyo-shokei/kojin.htm
この記事を書いた人

辻 光明
代表税理士
税理士 / 認定経営革新等支援機関
税理士法人 辻総合会計の代表。クリニック開業支援・医療法人設立・クラウド会計導入を得意とし、オンラインでの税務顧問サービスを推進。
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