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中小企業向けコラム
作成日:2026.02.08
辻 光明

執筆者:辻 光明

代表税理士

103万円の壁→178万円で中小企業人件費は?|税理士が解説

10分で読めます
103万円の壁→178万円で中小企業人件費は?|税理士が解説

103万円の壁が178万円に引き上がると、結論として「中小企業の人件費が自動的に増える」わけではありません。変わるのは主に、パート・アルバイト側の就業調整(働き控え)の動機であり、企業側は労働時間の増加に応じて賃金総額が増える可能性があります。一方で社会保険の壁(106万円・130万円など)は別軸で残るため、税だけ見てシフトを組むと手取り逆転やトラブルが起きます。

本記事では、178万円への課税最低限の引上げが「採用」「シフト」「給与計算(源泉)」に与える影響を、実務目線で解説します。

そもそも「103万円の壁」「178万円」とは(税の話)

「103万円の壁」は、主に次の2つが混ざって語られがちです。

  • 本人に所得税がかかり始める目安(課税最低限)
  • 家族側(扶養する側)の控除要件(扶養控除等の所得要件)

令和8年度税制改正の大綱では、中低所得者に配慮しつつ、所得税の課税最低限を178万円まで特例的に先取りして引き上げる方針が示されています。適用時期や源泉徴収の反映タイミングにも注意が必要です。

また、直近の「年収の壁」対策として、配偶者特別控除の満額水準(給与)を160万円に引き上げ、扶養基準の見直し(103万円→123万円)などが整理されています。

ここがポイント
「178万円」は“税(所得税)の課税最低限”の議論です。社会保険(厚生年金・健康保険)の加入ラインは別制度で動くため、企業実務では必ず両方をセットで管理します。

中小企業の人件費はどう変わる?結論:増えるのは「働いた分」

1) 賃金単価が同じなら、コストは「追加労働時間×時給」

178万円への引上げで起こりやすいのは、これまで「年末に103万円を超えないように休む」運用が緩み、年末の欠勤・シフト穴が減ることです。

  • 企業側のメリット:繁忙期に人手を確保しやすい、採用の“実働力”が上がる
  • 企業側のコスト:働いた時間が増えれば賃金総額が増える(当たり前ですがここが本質)

つまり、制度変更=自動で人件費増ではなく、「追加稼働をどう設計するか」が差になります。

2) 「税の壁」が上がっても、社会保険の壁が残る

就業調整の主因は所得税よりも社会保険(106万円・130万円)であるケースが多いです。厚労省は「年収の壁」への対応として、106万円の壁の撤廃や企業規模要件の段階的撤廃など、適用拡大の方向性を示しています。

中小企業では特に、次のミスマッチが起こりがちです。

  • 税の壁が上がったので「もっと働ける」と考えた
  • しかし週20時間超・月額8.8万円相当等で社保加入に近づき、手取りが想定より伸びない
  • 結果として「やはり勤務時間を抑えたい」と戻る

このため、採用・シフト設計は「税だけでなく社会保険も含む手取りの最適化」で組み直すのが安全です。

採用・雇用戦略への影響:求人の見せ方が変わる

「扶養内OK」の設計は二段階へ

従来の「103万円以内」という表現は、178万円への引上げが実現すると実態とずれます。求人票や面接時の説明は、次のように二段階に分けるのが現実的です。

  • 税:どこまでなら所得税が発生しにくいか(課税最低限の考え方)
  • 社保:どこで加入ラインに近づくか(106/130等、勤務時間・企業規模等も絡む)

実務で増える相談(現場あるある)

税理士法人 辻総合会計でも、直近の壁対策(160万円・123万円等)の周知が進むにつれ、次の相談が増えています。

  • 「学生アルバイトを増やしたいが、親の扶養に影響しないラインがわからない」
  • 「年末のシフト調整が要らなくなるなら、固定シフトにしたい」
  • 「扶養手当(社内ルール)をどう見直すべきか」

官邸の整理でも、扶養基準の見直しは企業の配偶者手当の支給基準にも影響し得る点が触れられています。

給与計算(源泉徴収)はどう変わる?:反映時期に注意

所得税の壁が動くと、給与計算担当者が影響を受けるのは主に以下です。

  • 扶養控除等申告書の取扱い(扶養親族の判定や年末調整)
  • 源泉徴収税額表(月額表・日額表・賞与表)の適用

国税庁は源泉徴収税額表を公表しており、実務ではこの表に基づき源泉所得税を控除します。
また、基礎控除・給与所得控除等の見直しは国税庁の特設ページでも整理されています。

さらに、令和8年度税制改正の大綱では、改正の適用時期や源泉徴収への反映について「年末調整からの対応」等、事務負担への配慮が記載されています。

ここがポイント
「制度は令和8年分から」「源泉は令和9年1月以後支払分から」など、税目・手続ごとに反映タイミングがずれることがあります。給与計算は“いつの給与から表が変わるか”を必ず確認してください。

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中小企業がやるべき実務対応(チェック手順)

Step 1: 自社の“壁”を棚卸しする(税・社保・手当)

  • 税:扶養・配偶者控除/特別控除の社内説明資料を更新(「103」固定の説明を撤廃)
  • 社保:週所定労働時間、月額賃金、企業規模要件などの該当有無を整理
  • 手当:配偶者手当・家族手当の支給基準が「年収○円」になっていないか確認

Step 2: シフト設計を“年末調整リスク”から逆算する

  • 年末だけ勤務を落とす運用から、通年の平準化へ
  • 扶養判定が必要な従業員は、月次で見込み年収を共有(本人の意向も確認)

Step 3: 給与計算(源泉)と説明フローを更新する

  • 源泉徴収税額表・年末調整手順書の改訂点を確認
  • パート向けに「税」と「社会保険」を分けた説明テンプレを配布(窓口を一本化)

比較表:企業実務で“影響が出る点”まとめ

←横にスクロールできます→
項目103万円の壁中心の運用178万円(課税最低限引上げ)後に見直したい運用
就業調整年末に急減(勤務抑制が集中)年末の抑制が緩和しやすい(ただし社保要因が残る)
採用「扶養内=103万円以内」の固定観念「税のライン」と「社保のライン」を分けて提示
人件費年末の穴埋めで単発コスト増稼働が増えれば賃金総額は増えるが計画的に配置可能
給与計算既存の源泉・年調フローで回る源泉表の改訂タイミング・説明資料の更新が重要
従業員の不満「超えると損」と誤解が残りやすい手取り説明が重要(税より社保で逆転する場合あり)

よくある質問

Q: 178万円になったら、会社負担(社会保険料)も増えますか? ▼

A:

178万円は所得税の課税最低限の話であり、それ自体が会社負担の社会保険料を直接増やすものではありません。ただし、従業員の勤務時間が増えて被用者保険の加入要件に近づけば、会社負担の保険料が発生する可能性があります。社会保険の適用拡大の方向性も踏まえ、税と社保を分けて設計してください。
Q: 求人票の「扶養内OK」はどう書き換えるべきですか? ▼

A:

「年収103万円以内」と固定で書くと、制度変更後に誤解を招きます。「税の扶養・課税の目安」と「社会保険の加入ライン」を分け、面接時に本人の希望(時間・手取り・加入意向)を確認する運用が安全です。政府の「年収の壁」整理でも、税と社保の壁が併記されています。
Q: 給与計算担当は何を一番注意すべきですか? ▼

A:

源泉徴収の反映タイミングです。税制改正の適用年分と、源泉徴収税額表の適用開始(支払時期)がずれることがあります。国税庁の源泉税額表と、改正内容の特設ページ・税制改正大綱の記載を必ず突合してください。

まとめ

  • 178万円への引上げは「税(所得税)の課税最低限」が主題で、企業の人件費が自動増加するわけではない
  • コストが増えるのは、就業調整が緩んで稼働が増えた分(追加労働時間×賃金)
  • 実務では社会保険(106万円・130万円等)の壁が残り、手取り逆転の説明が重要
  • 求人・面接・社内説明は「税のライン」と「社保のライン」を分けると混乱が減る
  • 給与計算は源泉徴収の反映時期(表の改訂)を最優先で確認する

参照ソース

  • 財務省「令和8年度税制改正の大綱(令和7年12月26日閣議決定)」: https://www.mof.go.jp/tax_policy/tax_reform/outline/fy2026/20251226taikou.pdf
  • 首相官邸「『年収の壁』対策」: https://www.kantei.go.jp/jp/headline/nennsyuunokabe/index.html
  • 国税庁「令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について」: https://www.nta.go.jp/users/gensen/2025kiso/index.htm
  • 国税庁「令和7年分 源泉徴収税額表」: https://www.nta.go.jp/publication/pamph/gensen/zeigakuhyo2024/02.htm
  • 厚生労働省「『年収の壁』への対応」: https://www.mhlw.go.jp/stf/taiou_001_00002.html

この記事を書いた人

辻 光明

辻 光明

代表税理士

税理士 / 認定経営革新等支援機関

税理士法人 辻総合会計の代表。クリニック開業支援・医療法人設立・クラウド会計導入を得意とし、オンラインでの税務顧問サービスを推進。

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記事の内容は法令の改正等により変更される場合があります。 最新の情報については、関係省庁の公式サイト等でご確認ください。

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