
執筆者:辻 光明
代表税理士
創業融資の事業計画書の書き方|数値設計のポイントを税理士が解説

導入:創業融資を左右するのは「数字の説明力」です
創業融資の事業計画書は、単なる夢やアイデアの資料ではなく、金融機関に「この事業は返済できる」と納得してもらうための説明書です。起業家にとっての課題は、情熱はあるのに、売上の根拠や返済可能性が書面で伝わらず、面談前に評価が落ちてしまう点にあります。本記事では、創業融資で見られる観点を踏まえ、計画書の型と数字の作り方を具体的に解説します。
事業計画書とは:審査資料であり、経営の設計図
事業計画書(創業計画書)は、事業内容・市場・強み・資金計画・収支計画を一貫したストーリーで示す資料です。融資審査では「資金の使い道が妥当か」「計画が実現可能か」「返済原資が確保できるか」を確認するために使われます。
一方で、作成者側にとっても、事業の勝ち筋とボトルネックを言語化し、開業後の意思決定をブレさせないためのツールになります。税理士法人 辻総合会計でも、創業期の顧問先支援の現場で「計画書を作ったことで、資金繰りと採用計画の矛盾に早期に気づけた」という相談が少なくありません。
創業融資の審査で見られるポイント
見られるのは「事業の魅力」より「返済までの再現性」
審査の核心は、資金使途と返済計画が収支と整合しているかです。次の観点がセットで評価されます。
- 市場・顧客:誰の何の課題を解決し、いくらで売るのか
- 強み:なぜ自社が選ばれるのか(経験、立地、差別化、導線)
- 体制:誰が、いつまでに、何をやるのか(役割・外注先・採用)
- 数字:売上の作り方、原価・固定費、利益、返済余力
ありがちな「良い/悪い」の違いを比較
| 項目 | 通りやすい計画書(例) | 落ちやすい計画書(例) |
|---|---|---|
| 売上計画 | 客単価×客数×稼働日で算出し、根拠資料を添付 | 「半年で月商300万円」など宣言だけ |
| 競合比較 | 競合の価格・立地・強みを調査し差別化 | 競合分析がない、または感想のみ |
| 費用計画 | 家賃、人件費、広告費など固定費が現実的 | コストが薄い、見積もりがない |
| 返済計画 | 借入条件に基づき返済額と資金繰りを確認 | 返済額の記載がない、黒字前提 |
事業計画書の書き方:融資担当者が読みやすい順序と手順
ここでは、初めてでも漏れなく作れる実務手順を示します。テンプレートに当てはめるだけでなく、各パートが一つのストーリーになるように組み立てます。
Step 1: 事業概要を1ページで言い切る
- 事業の対象(誰に)
- 提供価値(何を)
- 収益モデル(いくらで)
- 開業時期と拠点(いつ・どこで)
最初の段落で「読み手がイメージできるか」を意識します。
Step 2: 市場・競合を数字で示す
商圏、ターゲット、競合店舗数、価格帯を具体化します。可能なら、現地観察やネット調査の結果を箇条書きにし、差別化の根拠にします。
Step 3: 売上計画を分解して根拠化する
売上は「単価×数量×稼働」で作ります。例えば飲食なら「客単価3,000円×1日30名×月25日=月225万円」。この分解ができると、広告費や人員配置も説明しやすくなります。ここが売上の根拠の中核です。
Step 4: 原価・固定費を見積書ベースで積む
- 原価率(仕入、外注)
- 固定費(家賃、通信、リース、保険)
- 人件費(採用時期、時給・月給、社会保険)
- 税金・会計(顧問料、決算費用)
見積書が取れない項目は、相場の出典をメモし、面談で説明できるようにします。
Step 5: 借入金の返済額を先に確定し、資金繰りで検証する
借入500万円、5年返済、年2.0%なら、元利均等返済の月返済は約8.8万円です。利益が出ても、運転資金が不足すれば返済はできません。月次で「売上入金のタイミング」「支払(家賃・仕入・給与)」「返済」を並べ、資金ショートがないか確認します。
Step 6: リスクと打ち手を書く
想定外は必ず起きます。「売上が計画比80%の場合」「採用が遅れる場合」など、下振れシナリオと手当(広告費の増減、固定費の圧縮、追加資金の確保)を書きます。ここが数字の整合性の最終チェックになります。
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失敗しやすいポイントと注意点
売上の上振れだけが目立つ
「開業3か月で黒字化」など、結果だけの記載は逆効果になりがちです。分解式(単価×数量×稼働)と、集客手段の実行計画をセットで示します。
資金使途が曖昧、または混在している
設備資金と運転資金が混ざると、妥当性が評価しづらくなります。設備は見積書、運転資金は「何か月分の固定費か」を明確にします。
自己資金の説明が弱い
通帳残高だけでなく、貯蓄の経緯、資金移動の理由、家計の固定費を説明できるようにします。自己資金は「返済の姿勢」と「資金繰り余力」のシグナルになります。
税金・社会保険を落としている
創業直後でも、住民税・事業税、社会保険料、消費税(将来の課税事業者化)など、キャッシュアウト要因があります。損益では黒字でも、資金繰りでは赤字になる典型なので注意が必要です。
税理士に相談すべきタイミングと依頼の仕方
事業計画書は自作できますが、次のケースでは専門家レビューの投資対効果が高くなります。
- 数字が苦手で、収支と資金繰りの整合が不安
- 設備投資が大きく、運転資金の余裕が少ない
- 既存借入や家計負担があり、返済余力の説明が難しい
- 面談での説明に自信がない
税理士法人 辻総合会計では、計画書の文章添削よりも「数字の前提条件」「資金繰りの波」「税・社保のキャッシュアウト」を中心にレビューし、面談で突っ込まれやすい論点を事前に潰す支援を行っています。個別事情で最適解は変わるため、必要に応じてスポット相談を活用するとよいでしょう。
よくある質問
Q: 自己資金はどれくらい用意すべきですか?
A:
一律の正解はありませんが、最低限「開業費+運転資金の初期赤字を吸収できる額」が必要です。自己資金が少ない場合は、投資額の圧縮や、黒字化までの期間を短くする設計(固定費の見直し、段階採用)をセットで示すと説明力が上がります。Q: 売上予測の根拠は何を用意すると良いですか?
A:
立地・商圏データ、競合の価格帯、予約見込み、既存顧客の引継ぎ見込み、広告施策と想定反応率などが有効です。少なくとも「単価×客数×稼働日」の分解と、客数の根拠(集客導線)を一緒に説明できる状態を作ります。Q: 面談でよく聞かれる質問は何ですか?
A:
「なぜこの事業をするのか」「競合との差は何か」「売上の根拠は」「固定費はどこまで下げられるか」「最悪ケースの対応は」などです。計画書の順番で説明できるよう、1分要約と、数字の前提メモを用意するとスムーズです。まとめ
- 事業計画書は「事業の魅力」よりも返済可能性と再現性を示す資料
- 売上は単価×数量×稼働に分解し、根拠と集客導線をセットで書く
- 固定費・税金・社会保険を含め、資金繰りで返済を検証する
- 下振れシナリオと打ち手を書き、数字の整合性を担保する
- 不安がある場合は、数字と面談論点に強い専門家レビューが有効
参照ソース
- 中小企業庁「創業・起業支援(施策情報)」: https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/sogyo/
- 中小企業庁(ミラサポplus)「事業計画の作り方」: https://www.mirasapo-plus.go.jp/guide/
- 経済産業省「創業支援等事業計画(制度概要)」: https://www.meti.go.jp/policy/local_economy/sogyo/
この記事を書いた人

辻 光明
代表税理士
税理士 / 認定経営革新等支援機関
税理士法人 辻総合会計の代表。クリニック開業支援・医療法人設立・クラウド会計導入を得意とし、オンラインでの税務顧問サービスを推進。
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