
執筆者:辻 勝
会長税理士
看護補助者・事務職員の賃上げ5.7%|2026年改定の上乗せ措置と原資確保の実務

看護補助者・事務職員「5.7%」は何の数字?2026年改定の位置づけ
令和8年度(2026年度)改定では、医療現場の賃上げを後押しする枠組みの中で、看護補助者と事務職員は他産業との人材獲得競争が強いことを踏まえ、一般の医療関係職種よりも高い水準である「5.7%」のベースアップ実現を支援する考え方が示されました。看護補助者 賃上げ 5.7%という検索が増えているのは、この“上乗せ”が明確化されたためです。
一方で、制度は「勝手にお金が入る」ものではありません。賃上げ原資は、(1)診療報酬での手当(例:ベースアップ評価料の考え方の継続・拡充や配分見直し)、(2)給付金等の支援、(3)税制(賃上げ促進税制)などを組み合わせて作るのが現実的です。
ポイント(まず押さえる)
「5.7%」は“目標水準(ベースアップの支援水準)”の議論であり、院内では 賃金規程・支給設計・算定(届出)・実績報告まで落とす必要があります。
なぜ看護補助者・事務職員が上乗せ対象なのか
看護補助者や医療事務は、採用市場で介護・サービス業・一般事務などと競合しやすく、相対的に離職・採用難が起きやすい職種です。医療機関側が「診療報酬の範囲だけで賃上げしよう」とすると、原資不足になりやすいのが実務上のボトルネックです。
そこで2026年改定の議論では、医療現場の生産性向上の取組とあわせて、賃上げ(ベースアップ)を確実に実現する仕組みづくりが重視され、看護補助者・事務職員に対しては上乗せで支援する方向が示されています。事務職員 ベースアップが焦点になりやすいのは、これまで賃上げ評価の対象設計が複線化してきたためです(基本料等での措置、評価料での措置など)。
原資確保の全体像:3つの財布で組み立てる
賃上げ原資は、次の3つを“同時に”設計すると現場が回ります。
| 財布(原資) | 具体例 | 使いどころ |
|---|---|---|
| 診療報酬 | ベースアップ評価料(外来・在宅/入院など)や基本料等の配分 | 毎月の賃金(定期昇給・ベースアップ)に直結 |
| 給付金・補助 | 生産性向上・職場環境整備等の支援事業(機器導入・業務改善) | “固定費化しない投資”で賃上げ余力を作る |
| 税制 | 賃上げ促進税制(給与等支給額増加→税額控除) | 賃上げの実行後に“税負担を軽くする” |
医療機関 賃上げを成功させるコツは、「診療報酬だけで5.7%を賄う」のではなく、業務改善→利益体質化→ベースアップを継続という順に設計することです。
【手順】5.7%の賃上げ原資を見積もる(実務で使う計算)
ここからは、院内で“数字”に落とす手順です。最初に、看護補助者・事務職員の賃上げ必要額を、ざっくりでも出してください。
ステップ1:対象職員を確定する(常勤換算の考え方)
- 看護補助者:病棟・外来で補助業務を担う職員(雇用形態は施設の実態に合わせる)
- 事務職員:医療事務、受付、会計、レセプト、総務等(院内で区分を統一)
- 非常勤が多い場合は、**常勤換算(FTE)**で管理すると制度設計がブレにくい
ステップ2:賃上げ必要額(年額)を試算する
中医協資料では、目標とするベースアップに必要な財源の考え方として、**「月額給与の約15か月分 × 目標率」**のロジックが示されています。これを院内試算に転用するとスムーズです。
試算例(イメージ)
- 看護補助者:平均月給 22万円、FTE 8人
- 事務職員:平均月給 24万円、FTE 6人
- 目標率:5.7%
計算(年額のイメージ)
- 看護補助者:22万円 × 15 × 5.7% × 8人 = 22×15=330万円/人 → 330万円×0.057=18.81万円/人 → ×8=約150.5万円
- 事務職員:24万円 × 15 × 5.7% × 6人 = 24×15=360万円/人 → 360万円×0.057=20.52万円/人 → ×6=約123.1万円
合計:約273.6万円(年額ベースの目安)
注意(ここでズレやすい)
「5.7%」は“全員の基本給を一律5.7%上げる”とイコールではありません。
実務では、(1)基本給、(2)手当、(3)賞与、(4)法定福利費の増加まで含めた設計が必要です。看護補助者 賃上げで揉めやすいのは、手当配分を後回しにして不公平感が出るパターンです。
ステップ3:月次で回る形に割り戻す
年額が出たら、次のいずれかで月次に落とします。
- 毎月一定(固定)で上げる:運用が簡単。資金繰り管理もしやすい
- 半期・年度で調整:評価制度と合わせやすいが、説明責任が増える
“固定費化”が怖い場合は、賃上げの一部を手当・処遇改善枠として設計し、翌年度の収支を見て再配分する方法も有効です。
診療報酬での原資確保:ベースアップ評価料を「取りこぼさない」
賃上げ原資の柱は、引き続き診療報酬です。とくに外来中心の診療所では、まず ベースアップ評価料の届出・算定の可否を確認してください。
1) まだ届出していない場合:今からでも届出→翌月から算定
厚労省の特設ページでは、未届出の医療機関でも「今からでも届出でき、届出の翌月から算定できる」旨が整理されています。
また、様式が簡素化された専用様式や記載例、届出後の流れも公開されています。
実務ポイント
- 「評価料Ⅰだけ」から始めて、運用に慣れたら拡張する
- “届出→算定→賃金改善→実績報告”の一連を、会計・労務で一本化する
- 賃金改善の定義(基本給・手当・賞与の扱い)を就業規則・賃金規程で整合させる
2) すでに届出している場合:2026年の上乗せに向けて「配分設計」を見直す
2026年改定のポイントは、幅広い職種の賃上げ実効性を担保する設計です。看護補助者・事務職員の上乗せ(5.7%)を狙うなら、院内で次を準備しておくと強いです。
- 職種別の賃上げ実績が追える(給与台帳の区分が整っている)
- 人件費率・部門別収支が月次で見える(賃上げ余力を説明できる)
- 生産性向上の取組が“成果”として示せる(後述の給付金や金融機関説明でも使える)
給付金で“投資”を行い、賃上げ余力を作る(生産性向上の支援)
賃上げを継続するには、業務のボトルネックを潰して「同じ人数で回る」体制に近づける必要があります。厚労省の「医療施設等経営強化緊急支援事業」では、生産性向上・職場環境整備等を給付金で支援し、処遇改善につなげる目的が示されています。
投資メニュー例(クリニックで効くもの)
- 受付・会計の省力化:自動精算機、Web問診、予約・呼出システム
- レセプト周辺:OCR、点検支援、マスタ運用の標準化
- 物品管理:棚卸の省力化、発注の自動化
“固定費(人件費)を上げる”前に、“変動費(外注・残業・ミス)を減らす”設計を入れると、5.7%を継続しやすくなります。
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税制で取り戻す:賃上げ促進税制をセットで検討する
中小企業向けの賃上げ促進税制は、前年度より給与等支給額を増加させた場合に、その増加額の一部を法人税(個人事業主は所得税)から税額控除できる制度です。医療機関 賃上げの意思決定では、「税効果まで織り込んだ実質負担」で比較すると、院長の納得感が上がります。
実務ポイント
- 賃上げをした“後”に効く(キャッシュフロー計画に組み込む)
- 要件(雇用者給与等支給額の増加率など)を年度初めにチェックする
- 診療報酬の賃上げ財源と“二重取り”ではなく、賃上げ実行の背中を押す設計で使う
よくある失敗パターンと回避策
-
看護補助者だけ上げて、事務職員が置いていかれる
→ 上乗せ対象は両方。配分ルールを先に合意し、説明資料を用意する。 -
賃上げ原資が「どこから来たか」院内で追えない
→ 診療報酬(評価料等)・給付金・内部努力(残業削減等)を“別財布”で管理する。 -
月次の収支が見えず、翌年に賃上げが止まる
→ 月次試算表で、人件費率・部門別収支・患者数/単価のKPIをセットで見る。
FAQ(看護補助者・事務職員の賃上げ)
Q1. 5.7%は「必ず」上げないといけませんか?
制度上は“支援する目標水準”として示された考え方で、院内の最終設計(どの項目をどれだけ上げるか)は、就業規則・賃金規程・運用で決まります。ただし、上乗せ措置の政策目的(確実な賃上げ)に沿うよう、賃上げの実効性確保が重視されています。
Q2. 事務職員のベースアップは、医療事務だけが対象ですか?
院内の職務区分で整理します。受付・会計・レセプト・総務など、事務職員として一括管理している場合は、その単位で賃上げ設計・実績把握ができるよう区分を整えるのが実務的です。
Q3. 診療報酬だけで原資が足りないときは?
(1)評価料等の取りこぼしを潰す、(2)給付金で業務改善投資を行い残業/外注/ミスコストを削減する、(3)賃上げ促進税制の税効果を織り込む——の順で組み立てると、継続性が上がります。
参考資料(公的機関)
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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