
執筆者:辻 勝
会長税理士
診療報酬改定2026|心療内科の通院精神療法と処方制限|税理士が解説

診療報酬改定2026(令和8年度)で心療内科・精神科が最初に確認すべきは、通院精神療法の「時間・実施形態・記録」の要件と、処方料(F100)に紐づく向精神薬の多剤投与・長期処方の取扱いです。
誰にとって何が問題かというと、院長・事務長・請求担当にとっては「算定可否の判断が現場運用と直結し、誤算定が返戻・減点・指導リスクに直結する」点が最大の課題です。2026改定はまだ最終確定前の部分がありますが、公開されている審議資料から、求められる方向性(適正化と記録の精緻化)を先回りして整備しておくことが重要です。
診療報酬改定2026の全体像と精神科外来の位置づけ
診療報酬改定は原則2年に1度で、令和8年度改定は2026年4月施行が基本線です。2025年末時点で「基本方針」が公表され、個別項目は中医協で議論が進みます。
精神科外来は、外来患者数の多さと継続受診の長期化を背景に、医療資源の最適配分・適正化の議論に入りやすい領域です。そのため、点数の増減だけでなく「要件の明確化」「不適切事例の抑止(多剤・漫然処方など)」がセットで出やすい点に注意が必要です。
通院精神療法とは:算定ルールの基本と2026の論点
通院精神療法は、外来で精神療法を行った場合に算定する代表的な区分で、実務上は「誰が」「どのくらいの時間」「どの形で」実施したかの管理が肝になります。特に、次の留意事項は返戻・減点の起点になりやすい項目です。
- 患者ごとに行うこと(集団的に行った場合は算定できない)
- 医師が患者の同意を得て実施すること
- 30分未満・30分以上など、時間区分に沿った算定であること
- 精神療法中に単なる一般的な助言や短時間の説明に留まらないこと(実質の提供内容が問われる)
現行の算定区分を「運用目線」で整理
通院精神療法は点数表上の区分が複数あり、初回・再診や時間、対象患者などで枝分かれします。運用上は、電子カルテや予約枠の設定とセットで設計するのが確実です。
| 観点 | 現行の考え方(要点) | クリニック実務のチェックポイント |
|---|---|---|
| 実施形態 | 原則として患者ごとの個別実施(集団は不可) | グループプログラムは別体系で管理し、同一枠で混在させない |
| 時間管理 | 30分以上などの時間区分に沿って算定 | 予約枠と実測の差異を最小化。カルテに開始・終了時刻または実施時間を記録 |
| 同意・内容 | 同意を得て、精神療法としての内容があること | 目的・介入(支持的、認知行動的、家族面接など)・次回方針をテンプレ化 |
| 加算・対象 | 年齢や疾患特性等で評価見直しが議論されることがある | 児童思春期、依存症、身体合併など対象別の算定要件を事前に棚卸し |
2026改定で見え始めている論点
中医協資料では、児童思春期支援の評価設計に関連して、20歳未満加算の評価見直しが示されています。外来における精神療法は、診療の質(支援体制・連携・専門性)をどう担保するかが論点になりやすく、単に「時間を満たした」だけでは不十分になっていく流れが想定されます。
したがって、2026に向けては「算定要件を満たす証跡(記録)」を強化し、監査・指導で説明できる状態に整えることが、実務上の最優先事項です。
心療内科・精神科の処方制限:多剤投与と長期処方の実務
心療内科・精神科の「処方制限」は、法律上の一律禁止というより、診療報酬上の適正化ルールとして、算定点数や報告義務でコントロールされている部分が中心です。特に請求実務で影響が大きいのが、F100処方料における次の2点です。
向精神薬多剤投与の定義と対応
向精神薬多剤投与は、1回の処方で一定種類数以上の抗不安薬・睡眠薬・抗うつ薬・抗精神病薬等を投与するケースを指し、該当時は点数が低い区分での算定となる扱いが基本です。さらに、該当する保険医療機関は、所定の様式で厚生局へ実施状況を定期報告することが求められています。
実務上の論点は「種類数カウント(原則一般名)」「例外要件(臨時投与、切替期間、初診の引継ぎ等)」「摘要欄記載」の3つです。
向精神薬長期処方(ベンゾ系など)の考え方
向精神薬長期処方は、不安・不眠症状に対して、ベンゾジアゼピン受容体作動薬等を同一成分・同一1日用量で1年以上継続処方している場合など、漫然投与を抑制する趣旨で整理されています。
ここで重要なのは、長期処方に該当すると処方料の算定区分に影響し得ること、そして「研修修了医による処方」や「直近1年以内の精神科医の助言」等で該当除外となる扱いがある点です。医師側の医学的判断と、請求側の形式要件(証跡)を分離して管理すると、運用が安定します。
2026改定に向けた実務対応:算定漏れと返戻を減らす手順
ここからは、改定の確定を待たずに着手できる「運用整備」を、手順で整理します。ポイントは、診療(医師)と請求(事務)を分断せず、データと記録で共通言語化することです。
Step 1: 通院精神療法の算定プロトコルを作る
予約枠(例:15分、30分、45分)と算定区分を対応づけ、カルテ記載テンプレ(実施時間、同意、介入内容、次回方針)を固定します。これにより、時間不足・記載不足の返戻を減らせます。
Step 2: 向精神薬の種類数カウントを自動化する
処方箋発行システムや薬剤データから、抗不安薬・睡眠薬・抗うつ薬・抗精神病薬の種類数を抽出し、閾値超過をアラート表示します。切替期間や臨時投与のルールも一緒に運用ルール化します。
Step 3: 長期処方の「1年カウント」を見える化する
同一成分・同一用量の継続期間をリスト化し、1年到達前に減量・スイッチ・非薬物療法の併用を検討できるタイミングを作ります。研修修了や精神科医の助言など、除外根拠がある場合は証跡(修了証、紹介状、助言記録)を整理します。
Step 4: 監査目線のセルフチェックを月次で回す
「通院精神療法の時間記載」「集団実施の混在」「多剤・長期の摘要欄記載」「厚生局報告の要否」を月次で点検し、是正履歴を残します。税理士法人 辻総合会計では、クリニックの月次監査の中でレセプト運用のチェックポイントを会計数値(単価・算定構成)と合わせて確認するケースが増えています。
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ケーススタディ:よくある算定ミスと改善例
当法人でご相談が多いのは、点数そのものより「運用のズレで起きる返戻」です。匿名化した典型例を挙げます。
- 予約は30分枠だが、実診療は20分前後の日が多い
改善:開始・終了の記録を徹底し、短時間日は別の診療行為に整理。枠設計を見直して患者説明も統一。 - 面談スペースで複数患者に同一テーマの説明を行い、個別精神療法として算定していた
改善:集団実施に該当しない運用へ切り分け。説明会型は算定対象外として経営計画上も分離。 - 薬剤切替中の一時的併用が、摘要欄の要件記載漏れで多剤扱いとなった
改善:切替開始日・対象薬剤・新規薬剤をテンプレ入力し、レセプトコメントまで自動反映。
2026改定で要件が微修正されても、上記の「時間」「形態」「記録」「種類数」「根拠」の軸が崩れなければ、実務の耐性は高まります。
よくある質問
Q: 通院精神療法は、初診日に算定できますか?
A:
初診日に算定できるかは、点数表の区分と実施内容・時間・同意の要件を満たすかで決まります。初診料・再診料との組合せや算定回数の制限も絡むため、院内で「初診日に算定するケース」をあらかじめ定義し、記録テンプレを統一すると安全です。Q: 向精神薬多剤投与の「種類数」はどう数えますか?
A:
原則は一般名で数えます。切替期間や臨時投与など、例外要件を満たす場合は減算扱いにならないことがありますが、その場合でも摘要欄への理由記載など、形式要件が必要になります。Q: 向精神薬長期処方の「1年」は、途中で屯服に変えた場合も継続とみなされますか?
A:
長期処方の定義は「同一成分・同一1日用量で連続」と整理されており、定期処方と屯服の変更は同一用量の連続に該当しない、とされる取扱いがあります。個別の処方設計は医学的妥当性が前提になるため、請求要件と臨床判断を切り分けて管理してください。Q: 2026改定の内容はいつ確定しますか?
A:
改定の枠組み(基本方針)は先に示され、個別点数・留意事項は告示・通知で確定します。実務では、確定前でも「現行要件の厳格運用」と「記録・報告体制の整備」を進めることで、改定後の混乱を最小化できます。まとめ
- 心療内科・精神科の改定影響は、点数増減よりも算定要件の明確化と適正化が焦点になりやすい
- 通院精神療法は「時間」「個別実施」「同意」「記録」が最重要で、運用設計がそのまま請求品質になる
- 処方料(F100)は向精神薬の多剤投与・長期処方の取扱いで点数や報告義務が変わり得る
- 2026に向けては、種類数カウントと長期処方の見える化、摘要欄記載・証跡管理を先に整える
- 最終確定は告示・通知で確認し、管轄厚生局の提出要領も必ず点検する
参照ソース
- 厚生労働省「令和8年度診療報酬改定の基本方針」: https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001610161.pdf
- 厚生労働省 中医協「個別事項について(その13)精神医療②」: https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001604903.pdf
- 地方厚生(支)局「(処方料F100)向精神薬多剤投与・長期処方の取扱い(通知等抜粋)」: https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kyushu/shinsei/shido_kansa/000342349.pdf
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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