
執筆者:辻 勝
会長税理士
診療報酬改定2026で産婦人科は?分娩料・妊婦健診|税理士が解説

診療報酬改定2026で「分娩料・妊婦健診」はどう変わる?
結論から言うと、産婦人科の収益で大きな比率を占める「正常分娩」や「妊婦健診」は、現行では保険診療(診療報酬)の枠外・または公費助成が中心であり、診療報酬改定の影響は“すべての出産・健診に一律”ではありません。最大の論点は、正常分娩の負担軽減(自己負担無償化)をどう制度化するかと、現場の請求・会計を混乱させずに運用できるかです。
一方で、異常分娩(帝王切開等)や合併症管理、周産期の医療的介入は保険診療に該当し、改定内容次第で算定ルール・点数体系の影響を受けます。税理士法人 辻総合会計の視点では、「自費・公費・保険の境界が曖昧になったときに、現場の会計オペレーションが破綻しやすい」点が最大の実務リスクです。
分娩料は「診療報酬」なのか?正常分娩と異常分娩の切り分け
まず押さえるべきは、分娩=すべて診療報酬ではないことです。正常分娩(経腟分娩で医学的介入がない範囲)は、一般に保険給付の対象外として扱われてきました。一方、帝王切開など医療上の必要性がある処置は保険診療となり、診療報酬(点数表)に基づいて請求します。
分娩に関する収益構造の全体像(比較表)
| 区分 | 主な内容 | 支払の仕組み(典型) | 改定2026の影響が出やすい領域 |
|---|---|---|---|
| 正常分娩(経腟分娩) | 医学的介入がない標準的な出産 | 自費(出産育児一時金の直接支払等と組合せ) | 制度変更(保険適用/無償化)の設計次第で大きく変動 |
| 異常分娩(帝王切開等) | 手術・麻酔・入院等、医療行為 | 保険診療(診療報酬)+一部自費 | 点数・算定要件・包括範囲の変更が影響 |
| 付帯サービス | 個室加算、食事のグレード、オプション等 | 自費 | 「標準部分」との切り分け、表示・説明責任が課題 |
2026で注目される論点:自己負担無償化・保険適用の検討
国の検討会では、標準的な出産費用の自己負担を無償化する方向性(目途として2026年度)が議論されており、実現する場合は「正常分娩を含む出産関連サービス」をどう給付設計するかが焦点になります。ここは“診療報酬改定”そのものというより、医療保険制度・公費の組合せ設計とセットで動きます(診療報酬側の評価は中医協で議論される想定)。
妊婦健診は保険?公費助成?診療報酬との関係
妊婦健診は、一般に市区町村の受診券(補助券)等を用いた公費助成が中心です。国が示す受診回数の目安は14回程度で、最新の調査でも全市区町村で14回以上の公費助成が行われていることが報告されています(令和6年4月時点)。妊婦健診=診療報酬の点数でレセプト請求という理解だけで運用を組むと、会計・請求が破綻しやすくなります。
妊婦健診が「保険」になり得るケース(誤解が多いポイント)
- 妊婦健診(スクリーニング)自体は公費助成が基本
- ただし、症状・異常所見があり「傷病の診断・治療」として医療行為が必要な場合は保険診療となり得る
- このとき、同一日・同一受診の中で「健診(公費/自費)」と「診療(保険)」が混在し得るため、院内のオペレーション設計が重要です
産婦人科クリニックが改定2026でやるべき実務対応(会計・請求・説明)
制度が動く局面では、「点数が上がった/下がった」より、請求区分の再設計と、患者説明(同意・選択)を含むフロー整備が重要です。特に分娩は高額で、未収金・返金・クレームが経営に直結します。
Step 1: 収益の棚卸し(自費・保険・公費のマッピング)
分娩関連(分娩料、入院、処置、検査、付帯サービス)と、妊婦健診関連(受診券範囲、追加検査、紹介状等)を、科目・コード・伝票区分まで落として一覧化します。
Step 2: 「標準」と「オプション」を院内定義し、価格表・同意書を整備
自己負担無償化や保険適用が進むと、標準部分の範囲が問われます。現時点でも、患者が選択できる項目は見える化しておく方が安全です。厚労省の「出産なび」は施設ごとの費用・サービスの情報提供を行っており、患者側の比較可能性は上がっています。
Step 3: レセコン・会計システムの分岐条件を先に作る
- 同日混在(公費健診+保険診療+自費)の会計分岐
- 出産育児一時金の直接支払の入金タイミング
- 返金・追加徴収の発生条件(個室変更、延泊、追加処置等)
ここをルール化しないと、受付の属人化でミスが増えます。
Step 4: 月次で「単価差・未収・返金」をKPI化する
改定期は単価が乱れます。分娩は件数が少ない分、1件のブレが損益に与える影響が大きいため、月次で例外処理をレビューできる体制が必要です。
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今後の見通し:分娩の制度変更と「見える化」への備え
2026年前後の産科領域は、診療報酬改定と並行して「出産費用の負担軽減」「標準化」「情報公開」が進む流れです。検討会では、標準的な出産の範囲整理、公費・保険・自己負担の組合せ、既に保険適用されている異常分娩との整合などが論点として示されています。
院内では、制度が決まってから動くのではなく、次の2点を先行して整えるのが現実的です。
- 分娩・健診の全メニューを「標準/オプション」に区分できる状態にしておく
- 自費・公費・保険が混ざる前提で、会計・説明・記録を標準化しておく
よくある質問
Q: 正常分娩が保険適用になったら、分娩料はそのままレセプト請求になりますか?
A:
「保険適用=レセプトで一律請求」とは限りません。自己負担を公費で補填する設計や、標準部分のみ給付対象とする設計など、制度の立て付け次第で請求実務が変わります。公費・保険・自費の分岐条件を想定した運用設計が必要です。Q: 妊婦健診を保険で算定できるのはどんな場合ですか?
A:
健診(スクリーニング)ではなく、症状や異常所見に基づく診断・治療として医療行為が必要な場合に保険診療になり得ます。同一日に健診(公費/自費)と診療(保険)が混在するケースがあるため、受付・会計の切り分けルールを整備してください。Q: 出産育児一時金(50万円)と、クリニックの分娩費用の差額対応で注意点は?
A:
直接支払制度を利用する場合でも、差額の追加徴収・返金が発生します。個室や付帯サービス、延泊、追加処置の扱いを事前に明確化し、説明資料と同意の取り方を標準化することが重要です。Q: 「出産なび」に費用が掲載されると、価格改定は難しくなりますか?
A:
患者比較が進むため、価格の根拠(標準部分とオプションの切り分け、サービス内容)を説明できる状態が求められます。単に値上げ・値下げではなく、内容の見える化とセットで整備するのが現実的です。まとめ
- 産婦人科の「分娩」「妊婦健診」は、診療報酬(保険)だけで完結しない領域である
- 正常分娩は制度変更(自己負担無償化・保険適用の設計)次第でインパクトが大きい
- 妊婦健診は公費助成が中心で、自治体差・券面範囲外の扱いが実務リスクになる
- 改定対応は「点数」より、自費・公費・保険の切り分けと会計フローの標準化が重要
- 価格・サービスの見える化が進むため、標準/オプションの整理と説明体制を先行整備する
参照ソース
- 厚生労働省「令和8年度診療報酬改定について」: https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_67729.html
- 中央社会保険医療協議会「令和8年度診療報酬改定について(案)」: https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001610164.pdf
- 厚生労働省「妊娠・出産・産後における妊産婦等の支援策等に関する検討会(資料)」: https://www.mhlw.go.jp/content/12501000/001488083.pdf
- 厚生労働省「出産育児一時金等について」: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/shussan/index.html
- 厚生労働省「出産なび」: https://www.mhlw.go.jp/stf/birth-navi/index.html
- 厚生労働省「妊婦健康診査の公費負担の状況に係る調査結果について」: https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001477164.pdf
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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