
執筆者:辻 勝
会長税理士
美容クリニック開業費用の資金計画|高額機器の回収を税理士が解説

美容クリニック開業の資金計画とは
美容クリニック開業の資金計画は、「初期費用をいくらで抑えるか」ではなく、高額機器の投資回収と固定費を踏まえたキャッシュ設計が核心です。特に美容医療は自費比率が高く、単価は作れても集患が揺れるため、設備投資の判断が利益と資金繰りを分けます。
当法人(税理士法人 辻総合会計)では、30年以上にわたりクリニックの開業・経営支援を行い、設備投資と資金調達の実務相談を多数受けてきました。本記事では、レーザー等の高額機器を想定した回収シミュレーションと、融資設計の実務ポイントを整理します。
美容クリニック開業費用の内訳と相場感
美容外科・美容皮膚科の初期費用は何に消えるか
開業費用は大きく「箱(物件・内装)」「機器」「立上げ費」「運転資金」に分かれます。美容系は内装グレードと機器ラインナップが費用を押し上げやすい点が特徴です。
| 区分 | 主な内容 | 目安(レンジ) |
|---|---|---|
| 物件・内装 | 敷金礼金、内装工事、サイン、家具 | 2,000万〜8,000万円 |
| 医療機器 | レーザー、IPL、RF、HIFU、麻酔機器等 | 1,000万〜8,000万円 |
| 立上げ費 | 採用・教育、HP/予約、広告初期、開業届出 | 200万〜1,500万円 |
| 運転資金 | 人件費、家賃、広告費、消耗品、返済原資 | 月商の3〜6か月分 |
ポイントは、初期費用の合計よりも、開業後6か月の「資金の谷」を越えられるかです。運転資金は削ると後で一番高くつきます。
高額機器投資が必要な代表例
- レーザー(脱毛、シミ・タトゥー等の適応)
- HIFU、RF、IPLなどのエネルギーデバイス
- 手術対応の場合:オペ室設備、麻酔関連、滅菌・安全管理設備 など
高額機器ほど「稼働率」と「メニュー構成」が回収のカギです。買った瞬間から回収が始まるという前提で、導入前に数字を置く必要があります。
医療機器(レーザー等)の投資判断:買う・リース・共同利用
判断軸は「月次の粗利」と「稼働率」
高額機器は、会計上は減価償却(費用配分)になりますが、資金繰り上は「返済・リース料」が毎月発生します。したがって、意思決定は次の2つで整理します。
- 月次の限界利益(施術単価 − 変動費)
- 必要稼働(返済+保守+固定費増分を賄う件数)
導入方法別のメリット・注意点
| 手段 | メリット | 注意点 |
|---|---|---|
| 購入(融資) | 資産計上、自由度が高い | 初期の返済負担、保守費が別途 |
| リース | 初期現金を抑えやすい | 中途解約制限、総支払は高くなりがち |
| レンタル/委託 | 立上げの試運転に向く | 単価設計が難しく、利益率が下がる場合 |
| 共同利用 | 稼働の平準化が可能 | 契約・責任範囲の設計が要る |
結論として、開業直後は「必須機器」と「段階導入」を分け、稼働が読めない機器はレンタルや小さめの投資から始める設計が堅実です。
回収シミュレーション:レーザー3,000万円をどう回収するか
まず置くべき前提(テンプレ)
回収シミュレーションは難しく見えますが、式はシンプルです。
- 月次必要粗利 =(返済・リース料+保守費+関連固定費増分)
- 必要件数 = 月次必要粗利 ÷ 1件あたり粗利
- 必要患者数(成約率考慮)= 必要件数 ÷ 成約率
具体例:機器3,000万円(5年返済想定)
前提(例)
- 機器価格:3,000万円
- 借入:5年(60回)、年2.0%想定 → 月返済 約52.6万円
- 保守費:月10万円
- 施術単価:2.5万円
- 変動費(消耗品等):0.5万円 → 1件粗利 2.0万円
この場合の月次必要粗利は、(52.6+10)=62.6万円。
必要件数は、62.6万円 ÷ 2.0万円 = 約32件/月(=約1〜2件/日)です。
一見すると達成可能に見えますが、実務上の落とし穴は次の3点です。
- 実際は広告費や人件費の増分が乗る(受付・看護師・カウンセラー等)
- メニューが割引競争に巻き込まれると単価が下がる
- 稼働が季節変動し、月次がブレる
したがって、投資判断は「32件で黒字」ではなく、稼働が6割でも耐える設計に落とし込むのが安全です。
感度分析(最低限ここまで見る)
- 単価が2.5万円→2.0万円に下がる
- 粗利が2.0万円→1.5万円に下がる
- 稼働が32件→20件に落ちる月がある
- 広告費が想定比+20万円増える
この4条件を入れたときに資金繰りが破綻しないかが、開業計画の合否ラインです。
資金調達の組み立て方:融資審査に通る事業計画の要点
美容クリニックは「自費中心」「広告依存」「高額機器」が重なるため、資金調達では説明責任が増します。作り込みは次の順で進めると破綻しにくくなります。
Step 1: 6か月の資金繰り表を作る
月次で「売上(患者数×単価)」「変動費」「固定費」「返済」「手元資金残高」を並べます。黒字でも資金ショートするケースを可視化できます。
Step 2: 投資を必須・準必須・後追いに分ける
開業日に必要な機器だけを確定し、稼働を見て追加する設備は別枠にします。ここで機器導入の順番を決めます。
Step 3: 借入と自己資金の役割分担を決める
自己資金は「運転資金バッファ」として厚めに残すのが原則です。借入は「初期投資」と「立上げ費」に寄せると管理しやすくなります。
Step 4: 返済原資の説明を数式で示す
「誰が、どの導線で、何件獲得し、いくら粗利が出て、返済に回せるか」を、回収シミュレーションと同じ粒度で示します。
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失敗しやすい注意点:広告規制とキャッシュアウトの管理
医療広告・ウェブ表示は開業前から確認
美容医療はウェブ集患が中心ですが、医療法上の広告規制に留意が必要です。特に自由診療では、費用、リスク・副作用等の情報提供など、いわゆる限定解除要件の考え方を踏まえた表示設計が求められます。院内掲示だけでなく、LPやSNS導線も含めて、開業前にチェック体制を作ってください(厚生労働省資料参照)。
キャッシュアウトは「広告費・人件費・返済」が三重苦になりやすい
開業直後は、広告費を投下しながら採用コストもかかり、さらに返済が始まります。ここで手元資金が薄いと、短期的な値引きで売上を作りにいき、粗利が崩れて回収が遅れます。値引きで回収を遅らせないために、最初から運転資金を厚めに置くべきです。
税務・会計のポイント:減価償却と意思決定を分ける
減価償却は「税金」を平準化するが「現金」は出ていく
高額機器は原則として減価償却資産となり、取得時に全額費用にはなりません(国税庁の解説参照)。会計上の費用は年次配分でも、支払い(購入・返済・リース)は月次で発生します。したがって、意思決定は「損益計算書」だけでなく「資金繰り表」が必須です。
小額資産の特例は“効く”が、資金繰りの代替ではない
10万円未満・20万円未満の取扱い、30万円未満の特例など、小額資産の制度は税務上有効な場合があります。一方で、節税はキャッシュを生みません。節税よりも回収の確度を優先し、設備投資は稼働計画とセットで判断してください。
免責事項
本記事は一般的な考え方の整理であり、資金調達可否、税務の取扱い、広告規制の適否は個別事情で変わります。必ず所轄官庁・専門家に確認のうえ意思決定してください。
よくある質問
Q: 美容クリニック開業で自己資金はどれくらい必要ですか?
A:
一律の正解はありませんが、実務上は「運転資金として月商の3〜6か月分を手元に残す」設計が安全です。自己資金を内装に使い切ると、立上げ期の広告費と返済が重なった時に資金繰りが崩れやすくなります。Q: 高額レーザーは最初から入れるべきですか?
A:
メニューの中核として早期に稼働が見込めるなら有力ですが、開業直後は稼働が読みにくいため、段階導入(レンタル→購入、または小さめの投資から開始)が堅実です。回収は「必要件数/月」を必ず数値化してください。Q: 返済が始まる前に何を準備すべきですか?
A:
6か月の資金繰り表、損益分岐点(患者数)、広告導線(成約率)、人員計画(固定費)を同じ粒度で固めることです。返済原資を“説明できる状態”が、融資審査と開業後の運用の両方で効きます。まとめ
- 美容クリニック開業費用は「内装・機器・立上げ・運転資金」に分解し、運転資金を厚めに確保する
- 高額機器投資は「月次必要粗利」と「必要件数」で回収を数式化し、稼働6割でも耐える設計にする
- 導入手段(購入・リース等)は資金繰りと自由度で選び、段階導入を基本戦略に置く
- 事業計画は6か月の資金繰り表から作り、返済原資を患者導線まで含めて説明する
- 医療広告・ウェブ表示の規制と、減価償却と資金繰りの違いを踏まえて意思決定する
参照ソース
- 厚生労働省「医療法における病院等の広告規制について」: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/kokokukisei/index.html
- 厚生労働省「医療広告規制におけるウェブサイト等の事例解説書(第5版)」: https://www.mhlw.go.jp/content/001439423.pdf
- 国税庁「No.2100 減価償却のあらまし」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2100.htm
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
ご注意事項
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