
執筆者:辻 勝
会長税理士
クリニック事業計画書の書き方|融資審査のコツを税理士解説

結論:融資審査を通すクリニック事業計画書とは
融資審査を通すためのクリニック事業計画書とは、「診療コンセプト」と「数字(患者数・売上・資金繰り)」が矛盾なくつながり、返済原資を説明できる資料です。開業医にとっての問題は、理想の医療像だけでは資金が動かず、返済可能性を数字で示せないと審査が止まる点にあります。税理士法人 辻総合会計でも、計画書の弱点は「患者数の根拠」「人件費の見積り」「運転資金の不足」に集中しがちです。ここでは、融資目線で“通る型”に落とし込む手順を示します。
「事業計画書とは」:審査側が見たい3点
- 事業の実現可能性:立地・競合・人員・導線が現実的か
- 収益性:患者数と単価が整合し、利益が出る設計か
- 安全性:資金繰りに余裕があり、返済が回るか(赤字月の耐性)
クリニック事業計画書の構成|書き方の基本フレーム
事業計画書は、A4数枚でも構いませんが、項目が欠けると“追加資料依頼”が増え、審査が長引きます。最低限、次のブロックで組み立てると説明が通ります。
1. 開業概要(誰に・何を・どこで)
- 診療科目、診療時間、想定患者層(年齢・来院動機)
- 立地(駅距離、駐車場、導線)と選定理由
- 競合との差別化(診療内容・予約動線・在宅対応など)
2. サービス設計(オペレーション)
- 予約・受付・会計・検査の流れ(混雑対策)
- スタッフ体制(受付、看護師、放射線技師等)とシフト
- 委託範囲(レセ、清掃、検査外注)とコスト影響
3. 設備投資と資金計画(初期費用の内訳)
- 内装、医療機器、IT(電子カルテ、オンライン資格確認対応等)
- 敷金礼金、保証金、開業前家賃、広告費
- 自己資金と借入の配分(運転資金を別枠で確保)
4. 数字計画(患者数→売上→利益→資金繰り)
- 患者数の根拠(診療圏、競合数、診療日数、リピート率)
- 売上(保険・自費の構成、平均単価、季節要因)
- 固定費(人件費・家賃・リース・委託費)と変動費
- 資金繰り(借入返済と税金・賞与・更新費用)
比較:融資に強い計画/弱い計画(審査目線)
| 項目 | 融資に強い計画 | 融資に弱い計画 |
|---|---|---|
| 患者数の根拠 | 診療日数×想定来院数×成長カーブを提示 | 「地域ニーズがあるはず」で終わる |
| 費用見積り | 相見積り・根拠資料がある | ざっくり一式、漏れが多い |
| 資金繰り | 月次の資金残高と安全余裕を示す | 損益だけで資金ショートが見えない |
| 返済説明 | 返済原資(利益+減価償却等)を整理 | 「売上が伸びれば返せる」 |
融資審査で通る数字の作り方|患者数・収支・資金繰り
審査で最も差が出るのは「患者数の置き方」と「資金繰り」です。損益が黒字でも、支払いタイミングで資金が尽きれば返済不能と見なされます。
患者数予測の“型”(最小限で良いが筋を通す)
- 診療日数:月20日、午後・土曜の稼働など
- 新患:立地要因×広告導線×競合状況で上限を抑える
- 再来:再診率(例:慢性疾患は高め、急性は低め)を分ける
- 成長カーブ:開業直後は控えめ、3〜6ヶ月で立ち上がる前提が現実的
簡易モデル例(イメージ)
| 月 | 1日平均患者数 | 月間患者数(20日) | 平均単価 | 月売上 |
|---|---|---|---|---|
| 1ヶ月目 | 18人 | 360人 | 8,000円 | 288万円 |
| 3ヶ月目 | 28人 | 560人 | 8,000円 | 448万円 |
| 6ヶ月目 | 35人 | 700人 | 8,000円 | 560万円 |
※単価や診療科で大きく変動します。重要なのは、患者数→売上の式を開示し、前提を説明できることです。
資金繰り表で必ず入れる4項目
- 開業前支出:内装・機器・保証金・採用費・広告費
- 入金サイト:診療報酬の入金タイミング(立替期間を意識)
- 税金・社会保険:開業後に遅れて来る支払いを織り込む
- 更新・突発費:機器修繕、追加採用、広告再投下
医療機関専門の税理士にご相談ください
40年以上の実績。クリニック・医療法人の経営を税務・会計の両面からサポートします。
平日 9:15〜18:15(土日祝休業)
融資審査を通すコツ|面談で刺さる説明ロジックと注意点
計画書が整っても、面談で説明が崩れると再提出になります。ポイントは「不確実性の扱い方」です。
審査側の質問に対する“答え方”
- 「なぜその立地か」:競合比較+患者導線(駐車場、導入施設、生活動線)で説明
- 「患者数の根拠は」:診療日数・想定来院数・成長曲線を示し、上振れ下振れも言語化
- 「人件費が増えたら」:増員条件(1日患者数○人超など)と資金繰りへの影響を提示
- 「返済は大丈夫か」:返済原資(利益+減価償却等)と安全余裕(月末残高)で説明
落ちやすい注意点(税理士が見ている“赤信号”)
- 高額機器を初年度からフル装備:稼働率が低いと固定費化しやすい
- 採用計画が楽観的:開業直後に採用難でオペレーションが崩れる
- 競合分析が薄い:価格や診療時間の差別化が曖昧
- 届出・指定のスケジュール不整合:開業日から逆算できていない
作成手順(この順で作るとブレない)
Step 1: コンセプトを1文にする
「誰の、どんな困りごとを、どの提供価値で解決するか」を1文で固定します。計画書全体の軸になります。
Step 2: 患者数モデルを置く
診療日数と1日平均患者数からスタートし、再来率と季節要因で補正します。
Step 3: 固定費を“硬め”に積む
人件費・家賃・リース・委託費を過小にしないことが、信頼につながります。
Step 4: 資金繰りで安全余裕を確認する
月末残高が薄い月があれば、借入額・自己資金・投資時期・採用時期を調整します。
Step 5: 面談用の補足資料を用意する
見積書、物件資料、採用計画、競合メモを添付し、質問への即答力を上げます。
よくある質問
Q: 事業計画書は何ページくらい必要ですか?
A:
形式よりも「前提の一貫性」が重要です。A4で5〜10ページ程度でも、患者数モデル・収支・資金繰り・投資内訳が揃っていれば審査は進みます。逆に長くても根拠が薄いと追加質問が増えます。Q: 患者数の根拠に診療圏調査は必須ですか?
A:
必須ではありませんが、説得力は上がります。最低限、診療日数、競合数、立地導線、ターゲット患者層をもとに、上限を抑えた推計式を示すと納得されやすくなります。Q: 自己資金はどのくらい必要と考えるべきですか?
A:
金額はケースにより異なりますが、審査では「自己資金の厚み」と同等に、運転資金の余裕が重視されます。設備に寄せ過ぎず、赤字月でも支払いと返済が回る設計を優先してください。Q: 法人ではなく個人開業でも計画書は同じですか?
A:
収益・費用・資金繰りの基本は同じです。個人の場合は、国税の開業手続等も含め、税金・社会保険の支払いタイミングを資金繰りに織り込むことが重要です。まとめ
- 融資に通る計画書は「コンセプト」と「数字(患者数・収支・資金繰り)」が矛盾なくつながっている
- 患者数は式で示し、成長カーブと上下振れ要因も説明する
- 損益だけでなく、月次の資金繰りで赤字月の耐性を示す
- 面談では不確実性への備え(増員条件、費用増の対策)を言語化する
- 設備投資に偏らず、運転資金と安全余裕を確保することが審査上の信頼につながる
参照ソース
- 中小企業庁「創業支援等事業計画について」: https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/chiiki/sougyo_keikaku.html
- 厚生労働省(地方厚生局)「保険医療機関・保険薬局の指定等に関する申請・届出」: https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kinki/shinsei/shido_kansa/hoken_shitei/index.html
- 国税庁「個人事業の開業届出・廃業届出等手続」: https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/shinkoku/annai/04.htm
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
ご注意事項
本記事の内容は、公開日時点における一般的な情報提供を目的としており、 特定の個人や法人に対する専門的なアドバイスを構成するものではありません。
税務・会計・法務等に関する具体的なご相談については、 必ず資格を持った専門家にご確認ください。 本記事の情報に基づいて行われた判断や行動により生じた損害について、 当事務所は一切の責任を負いかねます。
記事の内容は法令の改正等により変更される場合があります。 最新の情報については、関係省庁の公式サイト等でご確認ください。
