
執筆者:辻 勝
会長税理士
第8次医療計画と地域医療構想|開業影響2026を税理士解説

結論:第8次医療計画と地域医療構想は「連携設計」と「需要の読み違い防止」に効く
第8次医療計画と地域医療構想は、地域の医療提供体制を「どの機能を、どこで、どう連携して担うか」という観点で整理する行政計画です。病院の病床再編が主題になりやすい一方、クリニック開業でも、紹介・逆紹介の流れ、在宅医療の受け皿、救急や感染症対応の分担などに間接的に影響します。開業で本当に重要なのは、地域の将来需要と連携先医療機関の役割変化を読み違えないことです。
税理士法人 辻総合会計では、クリニックの開業支援・医療法人の会計税務支援の現場で、「立地は良いのに紹介が集まらない」「在宅の需要を過小評価して人員が足りない」といった計画段階のミスマッチ相談を多く見てきました。第8次医療計画・地域医療構想は、このミスマッチを減らすための“公開情報の地図”として活用できます。
第8次医療計画とは(クリニックが押さえるべき要点)
医療計画は、都道府県が医療法に基づき策定する計画で、地域の医療提供体制(疾病・事業・在宅医療など)の整備方針を示します。第8次医療計画では、地域の医療ニーズ変化や医療人材確保、ICT活用、感染症への備えなどを踏まえた計画策定が求められています(「医療計画について」通知)。
医療計画の「対象領域」:外来も在宅も含む
医療計画は入院だけでなく、がん等の疾病別の体制、救急・災害等の事業、そして在宅医療まで含む枠組みです。つまりクリニックの主戦場である外来・在宅も無関係ではありません。特に、5疾病・6事業や在宅医療の「連携体制(誰が、どこまで担うか)」が、紹介先・逆紹介先の設計や診療範囲の決め方に影響します。
第8次で意識したい論点(開業計画に直結しやすいもの)
開業の実務に落とし込みやすい論点は、次の3つです。
- 在宅医療:在宅の受け皿づくり、介護計画との整合、病院・訪問看護・薬局との連携の設計
- 医療人材:医師・看護師等の確保が地域課題になるほど、採用コスト・委託費・シフト設計に跳ね返る
- 感染症対応:新興感染症の「有事の医療」の位置付けが計画に組み込まれ、平時からの役割分担が意識される
地域医療構想とは:病床再編だけでなく「機能分化・連携」の合意形成
地域医療構想は、中長期の人口構造や医療ニーズの変化を見据え、医療機関の機能分化・連携を進め、効率的に医療提供体制を確保するための枠組みです。実務上の中心は、将来の必要病床数の議論と、関係者が協議する地域医療構想調整会議です。
「削減ありき」ではないが、役割の再整理は進む
厚労省は、地域医療構想の推進が「病床の削減や統廃合ありきではなく、地域の実情を踏まえ主体的に取り組む」趣旨であることを示しています。一方で、各医療機関の役割を明確にし、機能分化・連携を進める方針自体は継続しているため、連携の前提(紹介先の機能、受け皿、地域の重点)が変わる可能性は織り込むべきです。
クリニックにとっての核心:紹介の流れと在宅の受け皿
地域医療構想は主に入院機能の議論ですが、入院機能が再整理されると、外来→入院→在宅の流れ(退院後フォローや在宅移行)が変わります。開業後に「想定した連携先が、回復期へシフトしていた」「急性期の受入が厳格化していた」となると、診療オペレーションも収支計画もズレます。
地域医療構想が開業判断に与える影響(2026)
ここからが本題です。地域医療構想 開業 影響 2026という検索意図に対し、税理士としては「売上予測の前提条件が変わるポイント」を押さえることが重要だと考えます。
影響1:診療圏の需要予測の精度が上がる(ズレると資金繰りに直撃)
人口動態により、同じ立地でも患者数・疾患構成は変わります。地域医療構想や医療計画の資料は、構想区域や疾病・事業ごとの課題を可視化しているため、「何科が不足しやすいか」「在宅需要をどう見ているか」を推定する補助線になります。
- 需要を過大評価:固定費(家賃、人件費、リース)だけが重くなり、運転資金が枯渇しやすい
- 需要を過小評価:採用・予約・導線が追いつかず、機会損失とクレーム増につながる
影響2:連携先病院の機能転換で、紹介・逆紹介の設計が変わる
地域医療構想の議論が進むと、病院の役割(急性期・回復期・慢性期)が再整理されます。結果として、紹介状の受け入れ条件、逆紹介の方針、退院後のフォローの範囲が変わることがあります。開業前に、候補となる連携先が「どの役割を強める方向か」を仮説立てするだけでも、診療内容・検査機器投資の判断が安定します。
影響3:在宅・救急・感染症など「地域の役割分担」に乗れると強い
医療計画では、救急、災害、新興感染症等の体制整備が論点になります。クリニックとしては、いきなり“地域の指定役割”を担う必要はありませんが、地域で不足している役割(例:在宅の急変対応、かかりつけ機能の強化、周辺薬局・訪看との連携)に乗れると、紹介・人材採用・地域からの信頼形成が進みやすくなります。
医療計画と地域医療構想の違い(比較表)
両者は似て見えますが、開業判断での使いどころが異なります。違いを押さえると、資料の読み方が速くなります。
| 項目 | 第8次医療計画 | 地域医療構想 |
|---|---|---|
| 主体 | 都道府県 | 都道府県(構想区域単位の議論が中心) |
| 目的 | 疾病・事業・在宅医療など医療提供体制全体の整備 | 病床機能を中心に将来の医療需要に合わせた機能分化・連携 |
| クリニックへの主な影響 | 5疾病・6事業、在宅、感染症等の連携体制が診療設計に影響 | 連携先病院の機能転換により紹介・逆紹介、退院後フォローが変化 |
| 開業での使い方 | 「地域課題に沿った診療領域・連携」を決める | 「連携先・競合の役割変化」を読む |
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クリニック開業で確認すべき資料と読み方(手順)
ここでは、開業準備の実務に落とすための手順を示します。ポイントは「読む」だけで終わらせず、事業計画の数値に反映することです。
Step 1: 都道府県の第8次医療計画と地域医療構想資料を特定する
都道府県サイト上で「第8次医療計画(または医療計画)」「地域医療構想」「構想区域」「調整会議」などの資料を収集します。まずは“最新版”かどうか(策定年度、改定履歴)を確認してください。
Step 2: 構想区域と連携先候補病院の「役割」を仮説立てする
自院の診療圏がどの構想区域に属するかを特定し、候補病院の役割(急性期・回復期等)や、地域で不足する機能を仮説化します。ここで地域医療構想調整会議の議論の方向性がヒントになります。
Step 3: 5疾病・6事業/在宅医療の体制から「提供価値」を決める
医療計画の疾病・事業の章を見て、地域の重点課題(例:救急の逼迫、在宅の不足、周産期の偏在)を抽出します。自院が担える範囲(診療時間、検査、訪問、連携)を具体化し、紹介・逆紹介の設計に落とします。
Step 4: 事業計画(売上・人件費・投資・運転資金)に反映する
税理士の立場では、最終的に次の数字へ落とすことが重要です。
- 患者数の前提(外来単価、在宅件数、紹介比率)
- 人員配置(看護師、事務、在宅対応の増員タイミング)
- 設備投資(検査機器、ICT、訪問車両、リースの可否)
- 運転資金(月次赤字の想定と、資金ショート回避ライン)
開業後に効いてくる注意点とリスク(税理士のチェック観点)
第8次医療計画・地域医療構想を踏まえた開業で、よく出るリスクは「想定外の固定費増」と「採用難」です。2026年に向けて、次の観点を事前に織り込むと安全です。
- 連携オペレーションの負荷:紹介状対応、検査結果共有、退院後フォローで事務負荷が増え、人件費が膨らみやすい
- 在宅対応の拡張:夜間・休日の体制整備が必要になり、オンコール手当や委託費が増える
- ICT投資:情報共有のためのシステム投資が必要になり、減価償却・リース負担が固定費化する
- 感染症対応:動線整備や備品・換気等のコストが、内装・設備投資を押し上げる
これらは、医療計画・地域医療構想の方向性(地域が求める役割)と、開業する診療モデル(提供時間、在宅の範囲、連携の深さ)が噛み合わないと顕在化しやすい点です。
よくある質問
Q: クリニックでも地域医療構想調整会議に参加する必要がありますか?
A:
多くの場合、必須ではありません。ただし、在宅医療の連携や地域で不足する機能を担う場合、医師会や連携病院を通じて情報が入ることがあります。少なくとも「調整会議で何が議論されているか」を把握できるルートは確保しておくと、連携設計が安定します。Q: 病床の再編が進む地域は、クリニック開業に不利ですか?
A:
一概に不利とは言えません。入院機能が整理されるほど、外来・在宅・退院後フォローの役割分担が明確になり、クリニックの提供価値が作りやすい面があります。重要なのは、連携先の機能転換に合わせて、自院の診療範囲と人員・投資を整合させることです。Q: 2026年の開業を見据えて、今すぐやるべきことは何ですか?
A:
(1)都道府県の第8次医療計画と地域医療構想資料を収集し、構想区域と連携先候補の役割を仮説立てする、(2)その仮説を前提に事業計画の患者数・人件費・設備投資・運転資金を再計算する、の2点です。計画段階での前提修正が最もコストが小さく済みます。まとめ
- 第8次医療計画は、疾病・事業・在宅医療を含む医療提供体制全体の方針で、クリニックの連携設計に影響する
- 地域医療構想は機能分化・連携が中心で、連携先病院の役割変化が紹介・逆紹介の設計を左右する
- 2026年の開業では、将来需要と連携先の機能転換を前提に、事業計画の数字を組み直すことが重要
- 読みどころは「外来・在宅の需要推定」と「地域の役割分担」。入院データの読み過ぎは判断ブレを招く
- 最後は売上・人件費・投資・運転資金に落とし込み、資金ショートの確率を下げる
参照ソース
- 厚生労働省「医療計画」: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/iryou_keikaku/index.html
- 厚生労働省「医療計画について(通知)」: https://www.mhlw.go.jp/content/001108169.pdf
- 厚生労働省「地域医療構想」: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000080850.html
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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