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クリニック向けコラム
作成日:2025.06.07
更新日:2026.01.02
辻 勝

執筆者:辻 勝

会長税理士

クリニック事業承継の進め方|親子・第三者を税理士が解説

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クリニック事業承継の進め方|親子・第三者を税理士が解説

クリニックの事業承継とは

クリニックの事業承継とは、診療・スタッフ・設備・取引関係を維持しながら、経営主体(開設者・法人の経営)を次世代へ移すことです。問題になりやすいのは、院長交代だけで終わらず、許認可・保険診療の手続や雇用・賃貸借・医療機器契約まで波及する点ではないでしょうか。
とくに「親子に継がせたい」「後継者がいないので第三者へ」といった場面では、承継の型(個人か医療法人か)によって手順と税務が変わります。

個人開設と医療法人で「承継の設計」が変わる

  • 個人開設(院長=事業主)の場合
    原則として「事業(資産・負債・契約・スタッフ)をどう移すか」を設計します。承継の実務は、事業譲渡・賃貸借や雇用の再締結・各種届出が中心です。
  • 医療法人の場合
    「理事長交代」だけでなく、持分の有無、役員構成、定款、出資・資産の帰属などが絡みます。医療法人の承継は、税務とガバナンス設計が核心になります。

事業承継で引き継ぐ範囲(チェック観点)

承継対象は「設備や売上」だけではありません。以下を棚卸しすると、手戻りが減ります。

  • 人(後継者、勤務医、看護師・事務、外部委託)
  • 施設(賃貸借、内装、駐車場、看板、医療廃棄物)
  • 収益構造(保険診療比率、自費、検査・リハ、紹介元)
  • 契約(医療機器、リース、電子カルテ、広告、清掃等)
  • 行政・保険(開設関連、保険医療機関の指定・届出)
  • 数字(直近3期の損益・資金繰り、借入、未収、在庫)
ここがポイント
「院長が変わる=そのまま続く」と思い込みがちですが、実務では“手続の連鎖”が発生します。最初に「個人か法人か」「開設者(代表者)が変わるのか」を確定させることが、承継の起点になります。

親子承継・院内承継の進め方

親子承継(家族)や院内承継(勤務医・スタッフ)では、買い手探しよりも「育成」「権限移譲」「税務の段取り」が重要です。税理士法人 辻総合会計では、30年以上にわたり医療機関の承継・法人運営の相談を受けていますが、よくある失敗は「引継ぎを直前に詰め込み、手続と資金繰りが同時に破綻する」パターンです。

後継者育成と権限移譲(時間軸の目安)

  • 1〜2年前:診療体制(診療時間・担当枠)の共同運営、主要取引先の引継ぎ
  • 6〜12か月前:スタッフ面談、給与体系・評価の見直し、後継者の経営会議参加
  • 3〜6か月前:金融機関説明、契約切替の段取り、行政・保険の届出準備
  • 直前〜直後:患者への周知(必要最小限・不安を煽らない)、運営のモニタリング

親子承継の税務パターン(代表的な考え方)

  • 個人開設:事業用資産の売却・贈与・相続の組合せ
    承継時点の資産移転は、譲渡所得や贈与税・相続税の検討が必要です。設備だけでなく、敷金・保証金、未収金、在庫、借入引継ぎの扱いまで整理します。
  • 医療法人:理事長交代+持分・資産の出口設計
    持分の定めがある場合は、持分評価が論点になり、相続・贈与の設計が必要です。

第三者承継(M&A)の進め方

第三者承継は、後継者不在の解決策である一方、交渉・デューデリジェンス(調査)・契約条件の調整が不可欠です。第三者承継は「高く売る」よりも「診療を止めない」設計が成果を左右します。

第三者承継の代表スキーム

  • 事業譲渡:資産・契約を選別して移す(個人開設で多い)
  • 持分譲渡(出資持分の移転):医療法人の持分が対象(持分ありの場合は要注意)
  • 合併・事業統合:地域医療の継続を目的に選択されることがあります

交渉で見られるポイント(現場感)

買い手は「売上」だけでなく、継続性を見ます。

  • 院長依存度(院長が抜けた後の稼働)
  • スタッフの定着、採用難易度、キーマンの存在
  • 保険診療の構成、紹介元・地域連携の強さ
  • 借入条件、リース残、未収管理、コンプライアンス
ここがポイント
匿名事例:地方の内科系クリニックで、院長の突然の体調悪化により第三者承継を急いだケースがありました。先に「スタッフ残留条件」と「診療体制の移行計画」を固め、価格交渉はその後に置くことで、患者流出を抑えながら承継できた例です(個別事情は異なります)。

親子承継と第三者承継の違い

承継の意思決定では、「感情」と「実務」を切り分けると整理しやすくなります。

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比較項目親子・院内承継第三者承継
ゴール家業として継続、文化の維持後継者不在の解消、規模拡大・統合
期間感育成に時間を使う(1〜2年推奨)交渉と調査に時間(半年〜1年目安)
価格形成税負担・資金繰りを優先し調整市場・競争環境で変動しやすい
重要論点権限移譲、相続・贈与、持分設計DD、契約条件、移行計画、リスク配分
つまずきやすい点家族内の合意形成、役割分担情報開示、スタッフ離職、条件の食い違い

失敗しないクリニック事業承継の手順

以下は、親子承継・第三者承継いずれにも共通する実務フローです。

Step 1: 承継方針を確定する(個人か法人か、親子か第三者か)
「開設者(代表者)が変わるのか」「医療法人の持分があるのか」を最初に確定します。ここが曖昧だと、手続と税務が後から崩れます。

Step 2: 現状診断(数字・契約・手続の棚卸し)
直近3期の損益・資金繰り、借入、リース、委託契約、雇用条件、未収管理を一覧化します。買い手の有無に関わらず、ここが承継の土台です。

Step 3: 承継スキームと税務設計を決める
親子承継なら相続・贈与・売買の組合せ、第三者承継なら事業譲渡・持分移転等を選びます。税負担と資金繰りが両立する形に落とし込みます。

Step 4: 行政・保険診療の手続を並走させる
保険医療機関の指定・届出事項変更など、期限のある手続を工程表に入れます。書類の不備は開業遅延に直結します。

Step 5: 引継ぎ期間の運営(患者・スタッフ・連携先の移行)
「誰が何をいつ説明するか」を決め、スタッフ離職と患者不安を最小化します。引継ぎ後3か月はKPI(稼働、予約、クレーム、離職)を重点モニタリングします。

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医療法人承継の注意点|持分と認定医療法人制度

医療法人は「非営利性」が制度設計の前提で、持分の有無が承継の難易度を左右します。厚生労働省資料では、持分あり医療法人から持分なしへの移行を促す制度として、認定医療法人制度が整理されています。また、同資料には医療法人の概数推移や、制度活用の割合といったデータも示されています(出典は末尾)。
とくに持分あり医療法人では、出資持分の評価・移転が相続税・贈与税の論点となりやすく、承継計画を「税務」と「ガバナンス」の両面で作り込む必要があります。

出資持分の評価(目線合わせ)

国税庁の質疑応答事例では、医療法人の出資を類似業種比準方式で評価する場合の考え方が示されています。評価の入口が揃わないと、家族間でも第三者でも交渉が成立しません。評価の前提条件(直近決算、特殊要因、資産の整理)を整備してから進めるのが安全です。

認定医療法人制度は「期限」と「要件」を要確認

認定医療法人制度は、持分ありから持分なしへの移行計画を策定し認定を受けることで、一定の税制上の取扱いが整理される制度です。制度は期限や運用が更新される可能性があるため、承継を検討し始めた段階で最新情報を確認してください。

手続の落とし穴|保険医療機関の届出事項変更

承継で見落とされやすいのが、保険診療の手続です。地方厚生(支)局の案内では、保険医療機関(保険薬局)について、指定の申請事項(名称や開設者等)に変更が生じた場合は速やかに届出を行う必要がある旨が示されています。
承継スケジュールにこの手続を織り込まないと、請求実務や運営に影響するリスクがあるため、行政手続と契約切替を“同じ工程表”で管理することが重要です。

よくある質問

Q: 親子承継なら、M&Aのような契約は不要ですか? ▼

A:

不要とは限りません。個人開設の場合でも、資産の売買・賃貸借の切替、雇用条件の再整備、借入の引継ぎなど、契約実務が発生します。親子間でも「条件を文書化」しておくと後日のトラブルを防げます。
Q: 第三者承継は、売上が安定していないと難しいですか? ▼

A:

売上の水準だけで決まりません。院長依存度、スタッフ定着、紹介元、借入・リースの状況、コンプライアンス等を総合的に見られます。改善余地がある場合でも、移行計画が現実的なら選択肢になり得ます。
Q: 医療法人の「持分あり」は必ず問題になりますか? ▼

A:

必ずしも「不可」ではありませんが、持分評価と移転が論点になりやすく、承継コストや税負担の見通しを立てにくい傾向があります。制度活用や出口設計を含め、早期に専門家と設計するのが安全です。

まとめ

  • クリニックの事業承継は、診療継続に加えて許認可・保険診療の手続を同時進行で管理するプロジェクト
  • 親子・院内承継は「育成と権限移譲」、第三者承継は「調査と移行計画」が成否を分ける
  • 個人開設と医療法人では承継スキームが変わり、医療法人は持分とガバナンスが重要
  • 承継は工程表で管理し、契約・雇用・行政手続を並走させる
  • 個別事情で最適解が変わるため、早期の現状診断と専門家連携が有効

参照ソース

  • 厚生労働省「認定医療法人制度の延長等について(資料)」: https://www.mhlw.go.jp/content/10801000/001341001.pdf
  • 国税庁「医療法人の出資を類似業種比準方式により評価する場合の業種目の判定等」: https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/hyoka/13/02.htm
  • 厚生労働省(地方厚生局)「保険医療機関・保険薬局の届出事項変更の届出」: https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kantoshinetsu/shinsei/shido_kansa/hoken_shitei/ichiran_todoke_henko.html

この記事を書いた人

辻 勝

辻 勝

会長税理士

税理士 / 行政書士

税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。

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