
執筆者:辻 勝
会長税理士
クリニック閉院手続きの全体像|届出・スタッフ対応・清算|税理士が解説

クリニック閉院手続きとは(結論:届出・人・お金を同時に整理します)
クリニック閉院手続きとは、診療の終了に伴い、行政への届出、スタッフの雇用整理、資産・負債の清算までを一連で進める実務です。院長にとっての本質的な課題は、「患者対応」と「期限のある届出」が並行し、意思決定が遅れるとトラブルが連鎖する点にあります。
現場では「保健所への診療所廃止」「厚生局への保険医療機関の廃止」「税務の廃業・解散」「雇用の終了手続き」が同時期に発生し、抜け漏れが起きやすくなります。
税理士法人 辻総合会計でも、閉院のご相談では「誰に、何を、いつまでに」が整理できた瞬間に、コストと心理的負担が大きく下がるケースが多いと感じます。
閉院と廃業の違い(診療所の廃止・休止・法人解散を切り分ける)
「閉院」と一口に言っても、手続き上は複数の概念が混ざります。最初に整理すると、届出先と必要書類が明確になります。
| 区分 | 位置づけ | 主な届出先 | 実務のポイント |
|---|---|---|---|
| 休止 | 一時的に診療を止める | 保健所(自治体) | 再開前提。休止期間の扱いは自治体ルールを確認 |
| 廃止(閉院) | 診療所をやめる | 保健所(自治体) | 診療所 廃止届(閉院届)。医療機器・カルテ整理まで必要 |
| 保険指定の廃止 | 保険診療の指定をやめる | 地方厚生(支)局 | 保険医療機関の廃止届(指定手続き) |
| 法人の解散・清算 | 医療法人等そのものをたたむ | 都道府県・法務局・税務署 | 解散・清算は別工程。決算・残余財産の処理が核心 |
クリニック閉院の全体スケジュール(手順をステップで整理)
閉院は「期限がある届出」と「期限がないが後回しにできない実務」の混在が難所です。まずはゴール日(最終診療日)から逆算し、60〜90日前に骨格を作ると安全です。
Step 1: 最終診療日・閉院方針を決定する
最終診療日、診療予約の締切、紹介状対応の方針を先に決めます。ここが曖昧だと、患者対応とスタッフ調整が同時に崩れます。
賃貸物件の場合は、原状回復や解約予告の期限が先に来るため、契約書の確認を最優先に置きます。
Step 2: 関係者への告知(患者・スタッフ・取引先)
患者への告知は「院内掲示+Web+紹介先の確保」をセットで行います。紹介状や診療情報提供書の発行が増えるため、受付・看護の工数も見積もります。
取引先(医薬品卸、検査会社、医療機器、清掃、廃棄物、リース)には、解約条件と最終請求の締め日を確認します。
Step 3: 行政届出(保健所・厚生局・税務・労務)
保健所には診療所 廃止届(閉院届)を提出します。提出期限は自治体ごとに異なりますが、廃止後10日以内を求める例が多く、事前相談が実務上は確実です。
保険診療を行っている場合、地方厚生(支)局へ保険医療機関の廃止(休止・再開)届を提出します(様式・提出方法は各厚生局で確認)。
Step 4: 診療記録・個人情報・医療資材の整理
カルテ(診療録)は、医師法の規定により原則5年の保存が求められます。閉院後に院内で保管できない場合は、保管場所・管理者・アクセス権限を決め、委託するなら契約書で責任分界を明確化します。
薬品・診療材料は返品可否と廃棄区分が混在します。感染性廃棄物は委託契約に沿って処理し、領収・マニフェストの保管も意識します。
Step 5: お金の整理(未収金・支払・解約・売却)
閉院前後で最も揉めやすいのが未収金回収です。自由診療や物販がある場合は、入金口座の継続、請求フロー、督促の方針を決めます。
リース・割賦・保守契約は中途解約金が発生することがあります。資産売却(医療機器・什器)は、売却益課税や撤去費用も含めて採算を見ます。
Step 6: 税務の手続き(個人/医療法人で異なる)
個人開業なら、税務署へ「個人事業の開業・廃業等届出書(廃業届)」を提出します。青色申告を取りやめる場合の届出や、消費税の追加手続きが必要になることもあります。
医療法人の場合は、閉院(診療所廃止)に加えて、法人の解散・清算をするか、事業縮小として存続させるかで工程が大きく変わります。
スタッフ対応の実務(退職・保険・最終給与で揉めない設計)
スタッフ対応は、制度論よりも「説明の一貫性」と「書面化」が結果を左右します。特に閉院は感情が動く局面なので、事前に“型”を作っておくと安全です。
退職までの進め方(ポイントは時系列と個別面談)
- 閉院決定後、まず管理職・キーパーソンに説明し、次に全体説明を行う
- 雇用契約(正社員・有期・パート)ごとに、終了日・有給消化・引継ぎを整理する
- 退職合意の書面(退職届・合意書)を整備し、口頭だけで終わらせない
最終給与・退職金・有給消化
最終給与は「締め日・支払日」「残業代」「有給の扱い」「立替経費精算」を一括で確認します。退職金規程がある場合は、支給要件と源泉徴収の扱いを再確認します。
社会保険・雇用保険の資格喪失、離職票などの発行実務も並走します。期限が短い手続きもあるため、社労士や給与ベンダーと連携し、タスクの担当者を固定します。
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清算(閉院後に残る“見えない負債”を潰す)
閉院後に想定外で出やすいのは、請求漏れと解約漏れです。診療は終わっても、支払や事務は数か月残ります。
清算チェックリスト(抜けやすい項目)
- 家賃・共益費・原状回復・保証金精算
- リース・保守(電子カルテ、レセコン、医療機器、電話・ネット)
- 医薬品・検査委託の最終請求、返品・廃棄
- 産廃(感染性含む)の最終回収と証憑保管
- 口座・クレカ・決済端末の解約、引落の停止
- 反社チェック等がある場合のデータ削除証明(委託先)
ケーススタディ(よくあるつまずき)
たとえば、閉院後にレセコンやクラウド電子カルテの契約が自動更新され、数十万円単位で支払が継続していた例があります。診療現場が止まると“気づきの機会”が減るため、契約一覧表を作り、解約完了の証跡(メール・解約受付番号)まで保管するのが実務的です。
よくある質問
Q: クリニック閉院届(診療所廃止届)はどこに出しますか?
A:
原則として、診療所の所在地を管轄する保健所(自治体)へ提出します。様式・添付書類・提出期限は自治体で異なるため、最終診療日が決まった段階で事前相談するのが確実です。Q: 保険診療をしている場合、厚生局への手続きは必要ですか?
A:
はい、必要です。保険医療機関の指定に関する手続きとして、地方厚生(支)局へ廃止(休止・再開)届を提出します。保健所の廃止届とは制度が別のため、両方の提出を前提に段取りを組みます。Q: 閉院後のカルテ(診療録)はどう保管すべきですか?
A:
原則として5年間の保存が必要です。閉院後も管理責任者と保管場所を明確にし、委託する場合は契約で責任分界と個人情報管理(アクセス権・廃棄手順)を定めることが重要です。Q: 個人開業の廃業届はいつまでに出しますか?
A:
国税庁の案内では、事業を廃止した日から1か月以内が目安です。青色申告の取りやめや、消費税に関する追加手続きが必要になるケースもあるため、税理士に早めに確認してください。まとめ
- クリニック閉院手続きは「保健所・厚生局・税務・労務」を同時に整理する実務
- 「診療所の廃止」と「保険医療機関の廃止」は別制度のため、届出先を分けて管理する
- スタッフ対応は、閉院日・最終出勤日・支払日を先に固定し、説明資料を一枚化する
- カルテ(診療録)は原則5年保存。閉院後の保管体制と責任者を明確にする
- 清算は未収金・契約解約・最終請求の漏れがリスク。契約一覧と証跡保管が有効
参照ソース
- 国税庁「A1-5 個人事業の開業届出・廃業届出等手続」: https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/shinkoku/annai/04.htm
- 関東信越厚生局「保険医療機関・保険薬局の廃止・休止・再開の届出」: https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kantoshinetsu/shinsei/shido_kansa/hoken_shitei/ichiran_haishi.html
- 厚生労働省「診療録の保存年限に係る現行法令上の規定について(PDF)」: https://www.mhlw.go.jp/content/10601000/001230827.pdf
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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