
執筆者:辻 勝
会長税理士
クリニックスタッフ採用|求人から面接までの実務ポイント|税理士が解説

クリニックスタッフ採用で最初に押さえる結論
クリニックスタッフ採用とは、必要人材を定義し、法令に沿った求人で母集団を作り、面接で適合度を見極めて内定に至る一連のプロセスです。院長・事務長にとって採用の遅れは診療枠や患者対応に直結し、ミスマッチは離職と教育コストを招きます。特に小規模クリニックでは「1人の採用ミス」が現場を回らなくすることもあります。
採用の起点は募集媒体選びではなく、採用要件(業務・責任・必須スキル)の言語化です。ここが曖昧だと、応募数が増えても面接の判断がぶれ、入職後の不満が増えます。採用は単発のイベントではなく、経営管理(人件費率・残業・教育工数)と一体で設計するのが実務的です。
税理士法人 辻総合会計では、クリニックのバックオフィス支援の中で「人件費は増やせないが人が足りない」「採用できても定着しない」といった相談を継続的に受けています。採用手順を標準化するだけでも、面接の質と定着率が改善するケースは少なくありません。
採用計画の立て方(いつ・誰を・何人)
- 役割:看護師(外来・処置・オペ補助)、医療事務(受付・会計・レセプト)、クラーク等
- 稼働:常勤/パート、曜日固定の可否、繁忙時間帯(午前帯・夕方帯)
- 制約:賃金レンジ、教育担当者の確保、入職希望時期
人件費を抑えたい場合でも、教育時間を確保できないなら「即戦力」寄りの要件にせざるを得ません。逆に育成できる体制があるなら、経験年数よりも価値観や学習意欲を重視した方が定着するケースがあります。
求人から面接までの標準プロセス
Step 1: 採用要件を決める(業務分解と優先順位)
「必須」「あれば尚可」「入職後に教育で補う」を分けます。面接で見るべき項目もここで確定します。
Step 2: 求人票を作る(ミスマッチ防止の文章設計)
仕事内容は「1日の流れ」「担当範囲」「忙しい時間帯」を具体化します。曖昧な“アットホーム”より、現場の実態を丁寧に書く方が応募の質が上がります。
Step 3: 母集団形成(チャネル選定と運用)
応募導線(応募フォーム・連絡手段・返信速度)まで含めて設計します。返信が遅いと離脱します。
Step 4: 選考(書類→面接→条件提示)
面接は構造化面接(同じ質問・同じ評価軸)にすると、属人的な判断を減らせます。
Step 5: 内定・入職(労働条件通知と受入れ準備)
条件のすり合わせ不足が早期離職につながるため、文書での明示と入職前説明が重要です。
医院求人の作り方|求人票と募集チャネルの選び方
求人票は「誰に何をしてほしいか」を伝える設計図です。特に看護師・医療事務は、経験年数よりも院内ルールや接遇に馴染めるかが成果に直結します。
求人票の必須項目と書き方のコツ
- 業務内容:例「受付~会計」「レセプト(点検・返戻対応の有無)」「採血・点滴の頻度」
- 就業場所:分院の有無、応援勤務の可能性
- 勤務時間:シフト例、休憩、残業見込み
- 賃金:レンジと内訳(基本給・資格手当・職務手当等)、試用期間の扱い
- 休日:休診日、年間休日の目安、有休取得の方針
- 評価:昇給・賞与の考え方(実績連動か定額か)
「入職後に期待する行動」(例:電話応対の品質、患者導線の改善提案、レセプトのミス削減)まで書くと、価値観の合う応募者が集まりやすくなります。
募集チャネルの比較(医院求人でよく使う選択肢)
| チャネル | 費用感 | スピード | 向いているケース | 注意点 |
|---|---|---|---|---|
| ハローワーク | 低い | 中 | 地域密着、パート募集 | 応募対応の初動が重要 |
| 求人媒体(有料) | 中〜高 | 早い | 即戦力の確保、複数職種 | 掲載原稿の質で成果差が大きい |
| 紹介・リファラル | 低い | 中 | カルチャーフィット重視 | 紹介者への配慮と透明性 |
| 自院サイト・SNS | 低い | 遅い〜中 | ブランド採用、将来の母集団 | 6情報の表示と誤認防止 |
書類選考と面接の進め方|看護師・医療事務採用の実務
書類選考は「面接に進めるべき人を絞る」工程です。逆に言えば、完璧な経歴の人を選ぶ工程ではありません。現場適性が高い人材を見逃さない基準を用意しましょう。
書類選考で見るべきポイント(落とし穴も含む)
看護師採用では、病棟経験の長さだけでなく「外来でのマルチタスク適性」を見ます。例えば、処置の段取り、医師の指示待ちにならない工夫、患者対応(クレーム初動)の経験があるかを面接で掘れる人を残します。
医療事務採用では、レセプトの担当範囲(入力のみ/点検まで/返戻再請求まで)、会計(自費・保険の混在、返金・未収の扱い)、IT(レセコン・電子カルテ・Excelの頻度)を確認します。「できる/できます」という自己申告だけで判断せず、面接で業務手順を説明してもらうと解像度が上がります。
面接の設計:評価シートと質問例
面接の目的は、スキル確認だけでなく「一緒に働けるか」を相互に判断することです。忙しい現場ほど面接を短縮したくなりますが、ここで手を抜くと採用コストが跳ね上がります。
- 患者対応:言葉遣い、クッション言葉、説明の組み立て
- 協調性:報連相、他者の意見を受け止める姿勢
- ルール順守:手順を守る/改善提案のバランス
- 学習力:未経験業務への取り組み方
評価は“好き嫌い”ではなく観察事実で記録します。採用後の配置や育成計画にも使えます。
質問は“理想論”ではなく、過去の行動(行動事実)を引き出す設計にします。
- 「忙しい時間帯に、優先順位をどう付けましたか。直近の具体例を教えてください」
- 「クレームが起きたとき、最初に何を確認し、誰にどう共有しましたか」
- 「ミスが起きた経験と、その再発防止策(仕組み)を教えてください」
- 「当院で働く上で不安な点はありますか(条件面・業務面)」
面接で避けたい論点(トラブル予防)
- 私生活に踏み込む質問(家族構成、妊娠予定等)はリスクが高い
- 前職の内部情報を過度に聞き出す
- 条件提示を口頭だけで済ませる
医療機関専門の税理士にご相談ください
40年以上の実績。クリニック・医療法人の経営を税務・会計の両面からサポートします。
平日 9:15〜18:15(土日祝休業)
内定後の手続きと定着|労働条件明示と早期離職対策
採用は内定で終わりではありません。入職後3か月までに離職が出ると、再募集の費用と現場の疲弊が大きくなります。条件の明確化と受入れ準備が重要です。
労働条件の明示(2024年4月以降の留意点)
雇入れ時の労働条件の明示は、トラブル予防の基本です。2024年4月のルール見直しにより、明示事項が追加されています。モデル労働条件通知書等を活用し、少なくとも以下は文書で整理しましょう。
- 業務内容・就業場所(変更の範囲を含む)
- 契約期間(有期の場合)と更新基準
- 賃金の決定・計算・支払方法
- 所定労働時間、時間外労働、休日・休暇
- 試用期間の有無と本採用判断の基準
試用期間を“ただの様子見”にしない
試用期間中に確認する項目(接遇、遅刻欠勤、手順順守など)を事前に共有し、定期面談でフィードバックします。合否の透明性が高いほど、双方にとって納得感があります。
早期離職を減らす受入れチェック
- 初日の導線(制服・ロッカー・アカウント)を用意
- マニュアルの「最低限版」を渡す(全部は不要)
- 相談窓口を決める(院長ではなく教育担当を置く)
よくある質問
Q: クリニックの求人票で、最低限書くべきことは何ですか?
A:
募集広告としては、募集主の氏名(名称)・住所・連絡先・業務内容・就業場所・賃金の6情報を欠かさないことが重要です。加えて、勤務時間・休日・試用期間・仕事内容の具体化まで書くとミスマッチが減ります。Q: 面接は院長だけで行っても問題ありませんか?
A:
可能ですが、評価が属人化しやすいため、事務長やリーダー職が同席し「同じ質問・同じ評価軸」で見ることを推奨します。最低限、評価シートで観察事実を残すと判断の再現性が上がります。Q: 内定後に条件の食い違いが起きやすい点は?
A:
シフト(曜日固定の可否)、残業の見込み、レセプト担当範囲、試用期間の賃金・評価基準が典型です。口頭説明だけにせず、労働条件通知書等で文書化し、入職前に再確認してください。まとめ
- 採用の起点は募集媒体ではなく、採用要件の言語化(必須/尚可/教育で補う)
- 求人票は仕事内容を具体化し、募集広告の表示ルールも点検する
- 書類選考は経歴の優劣ではなく、外来適性・レセプト範囲など現場適性を見極める
- 面接は構造化(同じ質問・同じ評価軸)で、観察事実を評価シートに残す
- 内定後は労働条件の明示と受入れ準備で、早期離職を減らす
参照ソース
- 厚生労働省「職業安定法に基づく周知|労働者の募集広告の表示について」: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/haken-shoukai/r0604anteisokukaisei1_00006.html
- 厚生労働省「2024年4月から労働条件明示のルールが変わります」: https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_32105.html
- 厚生労働省「雇用管理に関する個人情報の適正な取扱いを確保するために」: https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudouseisaku/privacy/050308-1.html
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
ご注意事項
本記事の内容は、公開日時点における一般的な情報提供を目的としており、 特定の個人や法人に対する専門的なアドバイスを構成するものではありません。
税務・会計・法務等に関する具体的なご相談については、 必ず資格を持った専門家にご確認ください。 本記事の情報に基づいて行われた判断や行動により生じた損害について、 当事務所は一切の責任を負いかねます。
記事の内容は法令の改正等により変更される場合があります。 最新の情報については、関係省庁の公式サイト等でご確認ください。
