
執筆者:辻 勝
会長税理士
診療報酬改定2026影響シミュレーション|税理士法人が解説

診療報酬改定2026でクリニック収入はどう変わるのか
診療報酬改定2026の影響は、「改定率がプラスでも自院が増収とは限らない」という点にあります。特にクリニックは、外来構成(初再診・検査・処置・在宅等)と患者動向のブレがそのまま収入に出ます。院長にとっての問題は、改定の方向性が見えないまま賃上げ・物価高への対応を迫られ、資金繰り判断が難しくなることではないでしょうか。
令和8年度の診療報酬は、令和8年6月施行とされ、全体の改定率(2年度平均)や賃上げ・物価対応の考え方が示されています。ただし、個々の点数(初再診料、外来管理、検査、在宅など)の増減は「ミックス次第」で、ここを分解して見ないと、経営判断に使えるシミュレーションになりません。
本記事では、改定発表の数字を「自院のレセプト構造」に落とし込み、増収・減収の幅を短時間で試算する方法をまとめます。
診療報酬改定2026とは(いつ・何が変わる)
令和8年度改定の基本情報(押さえるべき前提)
公表資料では、診療報酬(本体)の改定率が示され、賃上げ・物価対応などの内訳も整理されています。まずは「自院の売上に効く部分」を切り分けるのが重要です。
- 診療報酬(本体)は、2年度平均で+3.09%、令和8年度単年度で+2.41%と整理されています(国費規模も併記)。
- 賃上げ分は2年度平均で+1.70%、物価対応分は2年度平均で+0.76%とされ、施設類型ごとの配分の考え方が示されています。
- 薬価は▲0.86%、材料価格は▲0.01%で、薬価は令和8年4月施行、診療報酬本体は令和8年6月施行と区分されています。
ここで注意したいのは、クリニック収入は「本体の点数」と「薬剤等(院内の場合)」、さらに算定要件(施設基準・運用ルール)で実現可否が変わる点です。全体改定率は“平均”なので、自院のミックスに合わせた再計算が必要になります。
基本方針から読み解く「クリニックに効きやすい論点」
基本方針では、物価・賃金上昇、人材確保、医療DX、役割分担(外来・在宅・地域包括)などが強調されています。クリニック目線では、次の論点が「収入」と「コスト」の両方に効きやすいポイントです。
- 外来の評価(かかりつけ機能・逆紹介・機能分化の流れ)
- 在宅医療・訪問看護の評価の見直し
- 医療DX(オンライン資格確認、電子処方箋、情報連携等)に伴う加算・要件
- 後発医薬品、長期処方・リフィル処方の取組強化(効率化の文脈)
収入シミュレーションの考え方(単価×件数に分解する)
まずは「売上=点数×10円×算定回数」で分解する
診療報酬の売上は概ね次の式で分解できます。
- 売上(概算)=(算定点数)×10円×(算定回数)
- さらに、患者自己負担分と保険請求分に分かれますが、経営シミュレーションでは「総医業収入(レセプト総額)」で見てから、必要に応じて自己負担増減を別管理にします。
この分解をすると、改定影響は次の3つに整理できます。
- 単価要因:点数改定(上げ下げ)・加算新設/廃止・包括範囲変更
- 算定可否要因:施設基準・運用要件変更、算定ルールの明確化
- 件数要因:患者数、診療日数、検査実施率、在宅件数、紹介率など
最低限そろえるデータ(レセプトの粒度)
「完璧な原価計算」より、まずはスピード重視で90点の試算を作るのが現実的です。用意するデータは以下で足ります。
- 直近3〜6か月の月次:延べ患者数、初診/再診回数、検査・処置・画像など主要算定回数
- 訪問診療・在宅:件数、緊急往診、在宅患者訪問診療料等の算定回数
- 院内処方の有無(薬剤収入の比率、薬価改定の影響を見るため)
- 人件費(職種別)、委託費、光熱費など主要コスト(賃上げ・物価対応の判断に使う)
税理士法人 辻総合会計では、クリニックの月次試算表とレセプト集計を突き合わせ、「どの診療行為で粗利が出ているか」「改定でブレるポイントはどこか」を先に可視化する支援を行っています。現場では、改定影響の8割は上位10項目(点数・回数)で説明できるケースが多いです。
2026改定の影響を3シナリオで試算する方法
ここからは、改定内容が全て確定していない段階でも使える「シナリオ法」を紹介します。ポイントは、全体改定率を乱暴に掛けるのではなく、ミックス別に係数を置くことです。
シナリオ比較表(例)
| シナリオ | 単価(点数)影響の置き方 | 件数影響の置き方 | 想定される状況 |
|---|---|---|---|
| 保守(減収寄り) | 外来基本部分は横ばい〜微減、加算は取り逃し | 患者数▲1〜▲2% | 要件対応が遅れ、算定漏れが出る |
| 中央(現実線) | 主要項目は横ばい、DX/在宅で一部上積み | 患者数±0% | 施設基準を満たし、算定が安定 |
| 攻め(増収寄り) | 在宅・加算を確実に取得、算定設計を最適化 | 患者数+1% | 役割分担が進み紹介・在宅が伸びる |
上表の「単価影響」は、改定率の数字をそのまま当てはめるのではなく、「自院の売上上位項目がどう動くか」を仮置きします。たとえば、在宅比率が高い院は在宅項目の係数を厚めに、検査依存が高い院は検査の係数を別に置く、といった具合です。
ざっくり試算の例(手計算の入口)
たとえば、月商1,500万円のクリニックで、改定により「単価+0.5%相当(取得できた加算込み)」、患者数が「±0%」なら、
- 収入増=1,500万円×0.5%=7.5万円/月(概算)
一方、要件未対応で加算を落とし「単価▲0.5%」、患者数も▲1%なら、
- 収入減=1,500万円×(▲0.5%+▲1%)=▲22.5万円/月(概算)
ここに、人件費のベースアップや光熱費上昇が重なると、利益はさらに振れます。つまり、改定は「収入だけ」ではなく、賃上げ・物価を織り込んだ損益で見る必要があります。
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収入シミュレーション手順(Excelで作る最短ルート)
Step 1: 上位20項目の売上構成を出す
レセプト総括表やレセコン集計から、点数・回数・金額の上位項目を抽出します。初再診、管理料、検査、処置、画像、在宅、加算(院内のDX系、地域連携系)を少なくとも分けます。
Step 2: 項目ごとに「改定係数(仮)」を置く
確定情報がない項目は、保守/中央/攻めの3つの係数を置きます。たとえば外来基本を0%、在宅を+1%、DX加算を+0.3%など、院の実態に合わせて仮置きします。
Step 3: 件数係数(患者数・実施率)を別に置く
単価と件数を混ぜると原因分析ができません。患者数、在宅件数、検査実施率など、院のKPIに紐づけて係数化します。
Step 4: コスト側(人件費・委託費・光熱費)を同じ月次で連動させる
診療報酬の増減より、利益に効くのは人件費・外注費のことも多いです。賃上げを予定している場合は、人件費に+2%、+3%など複数パターンを置いて、資金繰り(手元資金月数)がどう動くかまで確認します。
Step 5: 「届出・算定運用チェックリスト」を作り、取り漏れを潰す
シミュレーションは、制度対応(届出、院内体制、記録、算定ルール)で実現します。改定後の加算は「取り切れる院」と「取り切れない院」で差が出るため、運用設計まで含めて1セットで管理します。
増収・減収を分けるチェックポイント(クリニック向け)
- 在宅・地域連携の比率が高いか(評価の方向性に乗れるか)
- 医療DX関連の体制整備が進んでいるか(算定要件を満たすか)
- 院内処方の比率が高いか(薬価改定の影響を受けるか)
- 予約導線・再診率・キャンセル率など、件数KPIを持っているか
- 算定漏れが起きやすい運用(記録、スタッフ教育、レセチェック)が残っていないか
改定は「制度の変更」ですが、経営にとっては「オペレーションの変更」です。院内の標準手順(誰が、いつ、何を記録し、どう請求するか)まで落とし込めると、シミュレーションが数字として回収されやすくなります。
よくある質問
Q: 改定率+2.41%なら、クリニックの売上も+2.41%ですか?
A:
いいえ、平均値なので一致しません。点数が上がる項目・下がる項目、要件変更による算定可否、患者数の増減が同時に起きます。自院の売上上位項目に分解して、単価と件数を別々に置いて試算するのが確実です。Q: シミュレーションはいつ作るのが良いですか?
A:
「方針・改定率が公表された段階で暫定版」を作り、点数表・告示が出た段階で係数を確定させるのが現実的です。令和8年度は診療報酬が6月施行、薬価は4月施行とタイミングが分かれるため、月次で影響月を分けて管理します。Q: 増収を狙うなら、まず何から着手すべきですか?
A:
まずは算定漏れ防止(運用・記録・レセチェック)です。その上で、院の戦略(外来中心か、在宅を伸ばすか、地域連携を強化するか)に合わせて、取得可能な加算・管理料を棚卸しし、必要な体制整備(届出、スタッフ配置、業務フロー)を逆算します。まとめ
- 診療報酬改定2026の影響は「改定率」ではなく、自院のミックス(上位項目)で決まる
- 単価(点数)と件数(患者数・実施率)を分けて、3シナリオで試算すると判断しやすい
- 賃上げ・物価高を織り込んだ損益と資金繰りで、改定対応を評価する
- 改定対応は制度理解だけでなく、届出・記録・レセ運用まで落とすと回収できる
- 点数確定前でも「暫定係数→確定係数」の二段階でシミュレーションは作れる
参照ソース
- 厚生労働省「令和8年度診療報酬改定について(令和7年12月24日)」: https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001620952.pdf
- 厚生労働省「令和8年度診療報酬改定の基本方針(令和7年12月9日)」: https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001618046.pdf
- 厚生労働省「中央社会保険医療協議会(総会)資料・議事録」: https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi-chuo_128154.html
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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