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クリニック向けコラム
作成日:2025.09.10
更新日:2026.01.02
辻 勝

執筆者:辻 勝

会長税理士

クリニック労務管理の基本|就業規則と残業対策を税理士が解説

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クリニック労務管理の基本|就業規則と残業対策を税理士が解説

クリニックの労務管理とは?経営と医療安全に直結する理由

クリニックの労務管理とは、スタッフが適切な条件で働けるように、労働時間・賃金・休日休暇・服務規律・評価や懲戒などのルールを整備し、日々の運用で守れる状態にすることです。特に医療機関は、患者対応の変動が大きく「気づけば残業が常態化」しやすい構造があります。

労務管理が弱いと、残業代の未払い、シフトの不公平感、退職増、採用難などの経営課題に直結します。さらに、疲労蓄積はミスの誘因になり、医療の質・安全にも影響します。したがって、労務管理は「人件費の抑制」だけでなく、診療体制の持続性を高める経営基盤と捉える必要があります。

税理士法人 辻総合会計では、開業医・医療法人を中心に、給与設計や人件費管理と併せて労務面の整備支援を行ってきました。現場で多い相談は「就業規則はあるが実態とズレている」「36協定は出しているが運用が追いつかない」「残業の原因が受付・会計・カルテ周辺に偏っている」といった“運用不全”です。

就業規則はいつ必要?医院就業規則の必須ポイント

就業規則は、医院のルールブックです。常時10人以上の労働者を雇用する場合は、就業規則の作成と労働基準監督署への届出が必要とされています(労基法第89条)。また、作成・変更時は労働者の意見聴取が必要です。

就業規則に最低限入れるべき内容(抜けやすい項目)

一般に「始業終業・休憩・休日」「賃金」「退職」は必須として整理されますが、クリニックでは次のような“揉めやすい論点”を明文化しておくと運用が安定します。

  • 遅刻・早退・欠勤の連絡ルール(連絡先、期限、代替要員の扱い)
  • 変形労働時間制・シフト制のルール(変更手続、確定時期)
  • 研修・勉強会の扱い(労働時間該当性、交通費・手当)
  • 兼業・副業の可否(医療機関特有の情報管理も含めた条件)
  • ハラスメント防止、個人情報・患者情報の取扱い
  • 懲戒事由と手続(“何がNGか”を抽象で終わらせない)
ここがポイント
常時10人未満でも、就業規則(に準じるルール整備)は強く推奨されます。口頭運用のままだと「誰がどこまで裁量を持つか」が曖昧になり、残業やトラブルが発生した際に説明が難しくなります。実態に合う“簡易規程”から始め、増員タイミングで正式化する設計が現実的です。

クリニック残業の基本ルール|36協定と上限規制を押さえる

残業(時間外労働)を行わせるには、いわゆる36協定(時間外・休日労働に関する協定)の締結と届出が前提となります。さらに、時間外労働には法律上の上限があり、原則として「月45時間・年360時間」を超えられません。臨時的な特別の事情がある場合でも、年720時間以内、複数月平均80時間以内(休日労働を含む)、月100時間未満(休日労働を含む)などの枠が設定されています。

クリニックで混同しやすい書類・ルールの整理(比較表)

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項目目的ない場合のリスククリニックでの典型論点
労働条件通知書(雇用契約)個々人の労働条件を明示条件相違・解雇紛争シフト/所定労働時間の明確化
就業規則院内ルールを統一服務・懲戒・休職等で揉めやすい研修・当番・情報管理・兼業
36協定残業・休日労働を合法化残業命令ができない、是正指導繁忙期の特別条項設計、管理職扱いの誤り
時間外労働の上限規制長時間労働の抑制罰則リスク、レピュテーション低下月末のレセ/締め作業、急患・延長対応

「協定はあるが、実態として上限を超えそう」「残業申請が形骸化している」といった状態は、労務リスクが高いだけでなく、スタッフの不信感を招きます。残業対策は、制度(就業規則・36協定)と運用(診療設計・業務設計)の両輪が必要です。

残業が減らない原因と、現場で効く対策(制度×運用)

クリニックの残業は「突発」と「構造」に分かれます。突発は急患・クレーム対応など、構造は予約枠設計・会計締め・記録作成が集中する流れが原因です。構造要因に手を入れるほど、再現性のある削減につながります。

よくある残業の発生ポイント

  • 午前診の延長が、そのまま昼休憩を圧迫(結果として午後にしわ寄せ)
  • 受付・会計が特定スタッフに偏り、締め作業が属人化
  • カルテ入力・文書作成が診療後に集中(患者数に比例して増加)
  • 朝礼・ミーティングが長いが、業務の標準化が進んでいない

具体策:人・業務・時間の3点で設計する

  • 人(分担)

    • タスクシフト/シェア:問診入力、検査説明、物品補充、予約変更などを職種・スキルに応じて再配分
    • “引継ぎの型”を作る:終業前10分で翌日の注意点を共有(口頭依存を減らす)
  • 業務(標準化)

    • 受付・会計・電話対応のスクリプト化(よくある質問をテンプレ化)
    • 文書作成のテンプレ化、定型文の統一(作成時間のブレを抑制)
  • 時間(診療設計)

    • 予約枠を「診療時間」だけでなく「会計・片付け」まで含めて設計
    • 月末・繁忙期(レセ、健診シーズン)に、締め作業の前倒し日をカレンダー固定

ケーススタディ(匿名)

ある内科系クリニックでは、「会計締めが毎日30〜45分かかる」「締め担当が固定で負担が偏る」ことが課題でした。対策として、締め作業を“2工程”に分割し、日中の空き時間に仮締めを行う運用へ変更。さらに、レジ・自費売上の入力ルールを統一し、ミスが出やすい項目だけダブルチェックに限定しました。

結果として、締め作業の残業は月あたり約10時間相当減少し、担当固定も解消できました。ポイントは「頑張って早くする」ではなく、業務を分解して客観的な労働時間管理ができる形に変えたことです。

ここがポイント
残業削減は「残業禁止」の号令だけでは進みません。残業申請の承認ルール、終業間際の割り込み業務の扱い、業務量の見える化(誰が何に何分か)をセットで整備することで、現場の納得感が生まれます。

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医療機関の働き方改革と医師の上限|クリニックの留意点

2024年4月から医師にも時間外労働の上限規制と健康確保措置が適用されました。病院勤務医の実態として「年960時間超が約4割、年1,860時間超が約1割」とされ、制度的な対応が進められています。上限の区分として、A水準は年960時間、連携B・B・C水準は年1,860時間と整理されています。

クリニックでも、勤務医を雇用している場合や、複数医師で当直・オンコール相当の対応が発生する場合は、医師の労働時間の把握と健康確保(面接指導、休息時間の確保等)を前提に運用を設計する必要があります。また、医師に限らず、看護師・医療事務など他職種の残業上限と整合するシフト設計が重要です。

就業規則と残業対策の導入手順(実務フロー)

Step 1: 現状の労働時間を棚卸しする

タイムカードや勤怠システム、シフト表から、職種別・曜日別の残業発生点(受付締め、カルテ、清掃等)を洗い出します。「診療終了時刻」と「退勤時刻」の差を分解すると原因が見えます。

Step 2: 就業規則を“実態に合わせて”更新する

シフト変更の手続、研修の扱い、遅刻欠勤ルール、ハラスメント・情報管理など、揉めやすい点を中心に整備します。運用できない規程はリスクになるため、“守れるルール”に落とし込みます。

Step 3: 36協定と上限規制に合わせて残業枠を設計する

繁忙期に特別条項が必要か、必要なら「年・月の上限」「超過回数」「対象業務」を具体化します。上限に近づくスタッフが出る前提で、代替要員や業務分担の方針も決めます。

Step 4: 残業を減らす業務設計を実装する

予約枠、受付フロー、締め作業、文書テンプレなど、構造要因へ手を入れます。改善は一度に全部ではなく、2週間単位で一つずつ変えると定着しやすくなります。

Step 5: 3か月で効果測定し、規程と運用を再調整する

残業時間・離職率・有休取得状況・クレーム件数などを指標化し、改善の副作用(待ち時間増、ミス増)がないかも併せて確認します。

よくある質問

Q: 就業規則はスタッフが10人未満でも作った方が良いですか? ▼

A:

はい。法的な届出義務は「常時10人以上」が目安ですが、10人未満でもルール未整備だと、残業・欠勤・懲戒・退職などの局面で説明が難しくなります。簡易規程でもよいので、実態に合うルールを文書化することが有効です。
Q: 36協定があれば、残業はどれだけでもさせられますか? ▼

A:

いいえ。36協定は残業を合法化する前提ですが、時間外労働には上限規制があります。原則は月45時間・年360時間で、特別条項があっても年720時間以内、複数月平均80時間以内、月100時間未満(いずれも休日労働を含む)などの枠を超えられません。
Q: クリニックの残業が減らない場合、最初に疑うべきポイントは何ですか? ▼

A:

多くは「予約枠設計」「会計・締め作業の属人化」「カルテ・文書作成の集中」です。まずは“診療後に何が残っているか”を業務分解し、テンプレ化・分担・前倒しのいずれで解消できるかを検討すると効果が出やすいです。
Q: 医師を雇用している小規模クリニックでも、働き方改革対応は必要ですか? ▼

A:

必要です。医師にも2024年4月から上限規制と健康確保措置が適用されており、労働時間の把握と適切な運用が前提になります。宿日直やオンコールに類する勤務がある場合は、実態に応じて専門家と整理することをお勧めします。

まとめ

  • クリニックの労務管理は、離職防止と医療安全の両面で経営基盤になる
  • 常時10人以上なら就業規則の作成・届出が必要。10人未満でも整備が有効
  • 残業には36協定が前提で、上限規制(原則 月45時間・年360時間)を守る必要がある
  • 残業削減は、予約枠・締め作業・文書作成など「構造」に手を入れるほど再現性が高い
  • 医師の働き方改革(2024年4月施行)も踏まえ、職種横断で労働時間を設計する

参照ソース

  • 厚生労働省「人を雇うときのルール」: https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudouseisaku/chushoukigyou/koyou_rule.html
  • 厚生労働省「時間外労働の上限規制」: https://hatarakikatakaikaku.mhlw.go.jp/overtime.html
  • 厚生労働省「医師の働き方改革」: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/ishi-hatarakikata_34355.html

この記事を書いた人

辻 勝

辻 勝

会長税理士

税理士 / 行政書士

税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。

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本記事の内容は、公開日時点における一般的な情報提供を目的としており、 特定の個人や法人に対する専門的なアドバイスを構成するものではありません。

税務・会計・法務等に関する具体的なご相談については、 必ず資格を持った専門家にご確認ください。 本記事の情報に基づいて行われた判断や行動により生じた損害について、 当事務所は一切の責任を負いかねます。

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