
執筆者:辻 勝
会長税理士
クリニック開業の流れ|準備〜開院スケジュールを税理士が解説

クリニック開業の流れは、「事業計画→物件・資金→内装・機器→採用→届出→開院」で進みます。問題は、工事・納品・採用と行政手続きが同時並行になり、どれか一つの遅れが開院日に直結しやすいことです。そこで本記事では、開業日から逆算してタスクを配置する実務的なスケジュールと、届出の要点を整理します。税理士法人 辻総合会計では、クリニック顧問を中心に開業前後の会計・資金繰り設計を長年支援してきた経験を踏まえ、現場で詰まりやすい論点に絞って解説します。
クリニック開業の流れとは(全体像)
一般的に、テナント開業なら「6〜10ヶ月」、戸建て新築なら「12ヶ月以上」を見込みます。最短化の鍵は、意思決定の順序を誤らないことです。特に「物件確定」「融資内定」「設計確定」は、後工程(工事・採用・届出)を連鎖的に決める“起点”になります。
| フェーズ | 目安時期 | 主なタスク |
|---|---|---|
| 構想・調査 | 12〜9ヶ月前 | 診療圏調査、コンセプト、収支計画(患者数・単価・稼働率) |
| 物件・資金 | 9〜6ヶ月前 | 物件選定、家賃・保証金交渉、金融機関打診、見積比較 |
| 設計・機器 | 6〜3ヶ月前 | 内装設計、工事契約、医療機器・IT(レセコン等)選定 |
| 人材・運用 | 3〜1ヶ月前 | 採用、就業規則、研修、導線・予約設計、導入リハ |
| 届出・開院 | 1ヶ月前〜当日 | 各種届出、保険指定、広告・HP整備、内覧会、開院 |
| 開院後 | 1〜3ヶ月 | レセプト運用安定、患者動向分析、資金繰りモニタリング |
クリニック開業スケジュールの作り方(逆算の手順)
ここでは、開業に必要なタスクを「逆算」で組み立てる手順を示します。ポイントは、契約(賃貸借・工事)と手続き(届出・保険指定)を「いつ動かすと開院日に間に合うか」で管理することです。
Step 1: 開業日(診療開始日)を仮決めする
採用難・工事遅延を想定し、開業日は繁忙期や連休を避けて仮置きします。ここで“月初開院”を狙う場合、保険指定との整合が重要です(後述)。
Step 2: 診療圏調査→コンセプト→収支計画を作る
患者数の前提(来院頻度・新患数・稼働率)を置き、保険診療のレセプト入金タイミングも織り込みます。収支計画は、融資審査の土台になります。
Step 3: 物件選定と契約条件の調整
賃料だけでなく、工事区分(A工事/B工事)、原状回復範囲、看板設置、医療機器搬入経路を詰めます。ここが曖昧だと、工事費が膨らみやすいです。
Step 4: 資金調達(融資内定)を取る
資金計画は「設備資金+運転資金」で設計します。特に開院直後は人件費・家賃が先行し、レセプト入金は後追いになりがちです。運転資金(最低3〜6ヶ月分)を別枠で確保すると、開院後の意思決定が安定します。
Step 5: 設計・内装工事を確定する
設計確定が遅れると、発注・納品・検査が連鎖して遅れます。動線(受付〜待合〜診察〜処置)と感染対策、スタッフの作業動線を優先して設計します。
Step 6: 医療機器・IT(レセコン/電子カルテ等)を選定する
開院直前にITを入れると、研修時間が不足し、レセプト事故の原因になります。導入・リハーサル日をあらかじめ確保します。
Step 7: 採用・就業ルール・研修を回す
採用は「必要人数」より「立ち上げ力(接遇・多能工)」を重視します。就業規則・雇用契約、社会保険・労働保険の段取りも同時に整えます(保険指定の添付書類で加入状況確認が求められる運用もあるため)。
Step 8: 届出・指定申請を行う(開院に直結)
- 医療法上、臨床研修等修了医師等が診療所を開設した場合、開設後10日以内に所在地の都道府県知事へ届出が必要とされています(医療法第8条)。
- 保険医療機関の指定日は、原則として「指定申請をした翌月1日」とされます。保険医療機関の指定日を月初に合わせたい場合、前月の締切(各府県事務所等で運用)から逆算して申請準備が必要です。
Step 9: 広報(HP/内覧会)と開院後1ヶ月の運用計画を作る
予約枠、初診導線、電話対応、クレーム対応、現金・キャッシュレスの締め処理など、開院後の“日次運用”を先に決めると混乱が減ります。
個人開業と医療法人(法人開設)の違い
開業形態は、税務・資金繰り・将来の承継(持分や役員報酬設計)まで影響します。初期は個人で始め、一定規模で法人化する設計も一般的です。
| 観点 | 個人開業 | 医療法人(法人開設) |
|---|---|---|
| 初期スピード | 比較的早い | 設立手続き分だけ前倒しが必要 |
| 税務 | 所得税(累進)中心 | 法人税+役員報酬設計が中心 |
| 資金管理 | 事業と家計が混ざりやすい | 口座・経理分離しやすい |
| 将来の承継 | 個人資産の相続設計が主 | 定款・ガバナンス・役員設計が重要 |
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開業でつまずきやすい注意点(遅延と赤字の典型)
- 工事費の増額:要因は「仕様の後出し」「追加配線・設備」「大家工事区分の誤認」。見積は“含まれるもの/含まれないもの”を文書で固定します。
- 採用の長期化:募集開始が遅い、給与テーブルが市場と乖離、面接回数が多すぎる、が典型です。採用計画は3ヶ月前に遅くとも開始します。
- レセプト運用の立ち上げ:導入直後は入力ルールが揺れます。スタッフ研修とダブルチェック体制を最初から作るのが安全です。
- 資金繰りの見誤り:開院後は「固定費+借入返済」が先行します。月次で損益・資金繰りをモニタリングし、想定患者数との差を早期に補正します。
よくある質問
Q: クリニック開業は最短で何ヶ月かかりますか?
A:
テナントで仕様が固まっている場合は6ヶ月程度で進むことがありますが、物件確定・融資・工事・採用・届出が同時並行になるため、実務上は6〜10ヶ月を見込むケースが多いです。Q: 保険診療で開院したい場合、いつまでに何を準備すべきですか?
A:
保険医療機関の指定日は原則「指定申請の翌月1日」とされるため、希望する開院月の前月締切(運用は各府県事務所等)に間に合うよう、申請書・添付書類・オンライン資格確認の準備などを前倒しで進めます。Q: 開設届はいつ出す必要がありますか?
A:
医療法では、臨床研修等修了医師等が診療所を開設した場合、開設後10日以内に所在地の都道府県知事へ届出が必要とされています。実務の提出窓口は自治体の案内に従ってください。まとめ
- クリニック開業は「事業計画→物件・資金→内装・機器→採用→届出→開院」の順で進む
- スケジュールは開業日から逆算し、物件・融資・設計確定を起点に組み立てる
- 医療法の届出は開設後10日以内が原則(医療法第8条)
- 保険診療で月初開院を狙うなら、保険医療機関の指定日(原則:申請翌月1日)から逆算が必須
- 開院直後の資金繰り対策として運転資金(最低3〜6ヶ月分)を厚めに確保する
参照ソース
- 厚生労働省「医療法(医療法第8条:開設後10日以内の届出等)」: https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=80090000&dataType=0
- 厚生労働省 地方厚生局「保険医療機関・保険薬局の指定等に関する申請・届出(指定日は原則 申請翌月1日)」: https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kinki/shinsei/shido_kansa/hoken_shitei/index.html
- 厚生労働省「医療法における病院等の広告規制について」: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/kokokukisei/index.html
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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