
執筆者:辻 勝
会長税理士
精神科開業ガイド2026|費用・年収・成功の要点を税理士が解説

精神科開業とは|誰にとって何が問題か
精神科・心療内科の開業は、外来中心で設備投資を抑えやすい一方、集患導線と診療設計の精度が収益と継続性を大きく左右します。勤務医から独立を考える医師にとっての悩みは、「いくらかかるのか」「生活できる年収になるのか」「患者対応・人員体制で破綻しないか」の3点に集約されます。
結論としては、成功確度を上げるには「診療圏分析→提供メニュー→予約枠設計→人員配置→保険指定・運用」の順で固めることです。精神科は“回転率”よりも“継続率”で経営が決まるため、開業前に数字と運用を同時に設計しておく必要があります。
精神科と心療内科の違い|開業の事業モデルを決める
精神科は、うつ病、不安障害、統合失調症、双極性障害、発達特性、依存など精神症状全般を扱う領域です。心療内科は、ストレス関連で身体症状が前面に出るケース(消化器症状、頭痛、動悸など)を含むことが多く、標榜や実務運用は地域慣行も影響します。
開業で重要なのは“診療科名”より、診療内容(強み)を患者に伝える設計です。例えば「復職支援」「睡眠外来」「児童思春期」「依存」「漢方併用」「心理検査」など、提供価値が明確だと紹介と検索の両方が安定します。
| 比較項目 | 精神科中心 | 心療内科寄り |
|---|---|---|
| 主要ニーズ | 精神症状全般、薬物療法、継続通院 | ストレス由来の身体症状、併診ニーズ |
| 患者導線 | 口コミ・紹介・検索、復職支援連携 | 内科等からの紹介、職域・企業連携 |
| 運用の要点 | 継続率、再診枠、急性増悪時の対応 | 併診先連携、検査・紹介状運用 |
| 収益の作り方 | 再診の積み上げ、適切な加算算定 | 初診〜中期の継続、併診の整理 |
心療内科・精神科の開業費用|初期投資と運転資金の目安
精神科・心療内科は、外科系に比べて高額医療機器が少ない一方、内装(個室性・防音)やIT(予約、問診、オンライン対応)の比重が高くなりがちです。費用は「物件の形態(テナント/居抜き)」「内装の作り込み」「スタッフ人数」で大きく動きます。
初期費用の代表的な内訳(レンジ感)
- 物件取得(保証金・仲介・前家賃等):300万〜1,500万円
- 内装工事(防音、動線、待合の工夫含む):1,200万〜3,500万円
- 医療機器・備品(心電図等を置くかで変動):200万〜800万円
- IT(電子カルテ、予約、問診、レセコン、セキュリティ):150万〜600万円
- 広告・Web(サイト、MEO、写真、初期運用):50万〜300万円
- 開業前後の運転資金(3〜6か月分):500万〜2,000万円
目安として、テナント開業で総額2,500万〜6,500万円程度を想定するケースが多い印象です。居抜きや小規模であれば圧縮可能ですが、「防音・個室性・安全性」は後戻りしにくいため優先度を上げてください。
精神科特有のコスト注意点
- 個室カウンセリング室や処置室の設計:音漏れ、プライバシー導線
- 待合のストレス低減:視線、距離、掲示物、呼出方式
- セキュリティ:受付での情報取扱、カルテ端末の管理、院内掲示の配慮
精神科医の年収はどう決まる?|収益構造とシミュレーション
精神科・心療内科の院長年収は、「患者数×診療単価×稼働日数」から人件費・家賃・IT等の固定費を引いた利益の中で、役員報酬(または事業主所得)として確定します。したがって“患者数”だけでなく、再診比率と予約枠の設計が決定因子です。
年収シミュレーション(簡易モデル)
前提例(保険診療中心、土曜午前あり)
- 稼働:月20日
- 1日患者数:30人(初診2〜3、再診中心)
- 平均単価(初診・再診混合の平均):6,000円
- 月売上:30人×6,000円×20日=360万円
- 固定費(家賃+人件費+IT+水道光熱等):180万〜240万円
- 概算利益:120万〜180万円/月(年1,440万〜2,160万円)
ここから、税務・社会保険の設計(個人/法人、役員報酬、退職金、家族給与、設備投資)で手取りが変わります。特に開業初年度は投資と資金繰りの影響が大きいため、年収の見込みは「2年目以降の平常運転」で見るのが安全です。
“高年収”より“安定運営”が重要な理由
精神科はキャンセル・予約変更が一定割合で起きやすく、院長が長時間診療を続けると燃え尽きリスクも上がります。売上最大化より、以下を優先してください。
- 初診枠を絞りすぎず、紹介・急性期に対応できる余白を残す
- 再診枠の確保と、フォロー体制(電話・再来誘導)の整備
- 予約・問診の標準化で、診察の集中時間を守る
医療機関専門の税理士にご相談ください
40年以上の実績。クリニック・医療法人の経営を税務・会計の両面からサポートします。
平日 9:15〜18:15(土日祝休業)
精神科開業の手順|許認可・指定申請を含む実務フロー
開業は「開設の手続き」と「保険診療の開始」の二段階で考えると迷いません。特に保険医療機関の指定申請はスケジュールを誤ると売上開始が遅れ、運転資金を圧迫します。
Step 1: 診療圏分析とコンセプト設計
- 商圏の人口動態、競合(精神科/心療内科/メンタルクリニック)を把握
- 強み(復職、睡眠、児童、依存、心理検査など)を明文化
- 予約枠(初診・再診比率)、診療時間、スタッフ数を決める
Step 2: 物件選定と内装基本設計
- 駅距離、導線、エレベーター、遮音、看板可否、同一フロア業種を確認
- 個室の音漏れ対策、待合の配置、安全動線を確定
- 電子カルテ・予約・問診の要件を内装と同時に詰める
Step 3: 資金計画(融資・自己資金)
- 初期費用+運転資金(最低3か月、可能なら6か月)を一体で見積る
- 月次の損益分岐点(必要患者数)を算出し、開業後のKPIを決める
Step 4: 開設手続き(保健所等)
- 医療機関の開設に必要な届出・検査・図面等を準備
- 地域により提出様式や事前相談の要否が異なるため、保健所・自治体窓口で早期確認
Step 5: 保険診療開始の準備(指定申請・施設基準等)
- 地方厚生(支)局への保険医療機関指定申請を行う
- 受付時に社会保険・労働保険加入状況の確認があるため、雇用計画と同時に整備
- レセプト運用、算定ルール、返戻対応の体制を作る
成功のポイント|集患・運用・リスク管理を設計で勝つ
税理士法人 辻総合会計では、クリニック顧問の現場で「売上が伸びない院」と「安定する院」の差は、開業後の努力より開業前の設計で決まるケースを多く見てきました。精神科・心療内科で特に重要なポイントを整理します。
1) 集患は「検索×紹介×再来」の3本柱で作る
- 検索:診療内容を言語化(例:不眠、復職、パニック、児童思春期)
- 紹介:近隣内科・産業医・EAP・訪問看護との連携導線
- 再来:予約の取りやすさ、診察の予測可能性(待ち時間・説明)を担保
2) 予約と初診枠の設計で収益が決まる
- 初診を増やしすぎると再診枠が不足し、患者満足と継続率が下がる
- 初診枠は“診察時間”だけでなく、問診・同意・説明の工数で決める
- キャンセル率を織り込んだ運用(リマインド、当日枠、オンライン活用)
3) スタッフ体制は「受付品質」と「安全配慮」が核
- 受付の言葉遣い、プライバシー配慮、会計導線が口コミに直結
- クレーム対応のエスカレーションと記録ルールを事前に整備
- トラブル予防の院内ルール(呼出、同伴者対応、録音・撮影)を明文化
4) 会計・税務は“開業初年度”で差がつく
- 設備投資と減価償却、役員報酬、家賃、車両、家族の関与などを整理
- 資金繰り表と月次試算表で、患者数・単価・固定費のブレを早期に把握
- 法人化のタイミングは「利益水準」「将来の分院・承継」「退職金設計」で判断
よくある質問
Q: 精神科と心療内科、どちらで標榜すべきですか?
A:
診療対象と地域ニーズで決めます。精神症状全般を広く扱うなら精神科中心、身体症状を伴うストレス関連が多いなら心療内科寄りの設計が合います。標榜名よりも、サイトや院内表示で「対応領域」を具体化することが重要です。Q: 開業後、いつから保険診療を始められますか?
A:
医療機関の開設手続きと、地方厚生(支)局の保険医療機関指定の手続きが揃って初めて本格的に保険診療を開始できます。スケジュールは地域・申請タイミングで変動するため、物件契約と同時に逆算して準備するのが安全です。Q: 精神科は広告やWeb集患に依存しすぎませんか?
A:
依存しすぎると広告費が重くなります。検索流入は重要ですが、紹介(内科・産業医・訪問看護)と再来(予約・運用品質)を同時に作ると、広告費率を抑えながら安定します。Q: 年収を上げるために患者数を増やすのが正解ですか?
A:
一概に正解ではありません。精神科は診療の集中力と継続性が品質に直結します。患者数増より、初診・再診枠の最適化、キャンセル対策、スタッフ運用で“安定して回る最大値”を作る方が結果的に利益が残りやすい傾向があります。まとめ
- 精神科・心療内科の開業は設備投資を抑えやすい一方、診療設計と運用設計が収益を左右する
- 初期費用は物件と内装で変動し、運転資金(3〜6か月)を含めた資金計画が重要
- 年収は患者数だけでなく、再診比率・予約枠・固定費の設計で決まる
- 開設手続きと保険医療機関指定は別工程のため、スケジュールを逆算して準備する
- 成功の鍵は「検索×紹介×再来」と、受付品質・安全配慮・会計管理の仕組み化
参照ソース
- 地方厚生(支)局「保険医療機関・保険薬局の指定申請」: https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kantoshinetsu/shinsei/shido_kansa/hoken_shitei/ichiran_shitei_shinsei.html
- 厚生労働省「医療経済実態調査(医療機関等調査)」: https://www.mhlw.go.jp/bunya/iryouhoken/database/zenpan/iryoukikan.html
- 厚生労働省「令和6年賃金構造基本統計調査 結果の概況」: https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2024/index.html
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
ご注意事項
本記事の内容は、公開日時点における一般的な情報提供を目的としており、 特定の個人や法人に対する専門的なアドバイスを構成するものではありません。
税務・会計・法務等に関する具体的なご相談については、 必ず資格を持った専門家にご確認ください。 本記事の情報に基づいて行われた判断や行動により生じた損害について、 当事務所は一切の責任を負いかねます。
記事の内容は法令の改正等により変更される場合があります。 最新の情報については、関係省庁の公式サイト等でご確認ください。
