
執筆者:辻 勝
会長税理士
税務調査の質問20選|クリニック想定問答を税理士が解説

クリニックの税務調査で質問されることとは
税務調査で聞かれるのは、「売上が正しく計上されているか」「経費が事業のためか」「帳簿と証憑が整合しているか」を確認する質問です。特にクリニックは、保険診療と自費診療が混在し、現金比率やスタッフ数も多いことから、売上の網羅性と現金・預金の動きが焦点になりやすい傾向があります。
本記事では、クリニック税務調査での「質問内容」と「回答例(想定問答)」を20個に厳選し、質問の意図と準備ポイントまで、税理士法人 辻総合会計の実務経験に基づいて解説します(個別事情により対応は異なります)。
税務調査の全体像と「聞かれる順番」の考え方
税務調査は何を確認するのか(質問検査の観点)
税務調査では、申告内容の裏付けとして帳簿書類、領収書、契約書、通帳、レセプト関連資料等との突合が行われます。多くのケースで、最初に院内の運用を把握する「ヒアリング(事業理解)」があり、その後に売上・経費・人件費など論点別に深掘りされます。
なお、実地調査は原則として事前に日程等の通知がされる運用です(例外はあります)。
クリニックで深掘りされやすい論点
- 現金売上(自費・物販・予防接種等)の計上漏れ
- 自費と保険の区分、返金・キャンセル・未収金処理
- スタッフ給与、外注費(業務委託)の実態
- 交際費・福利厚生費・旅費交通費の私的混入
- 消費税(課税・非課税の区分、インボイス対応の実務)
クリニック税務調査:質問内容20選と回答例(想定問答)
以下は、現場で頻出の「税務調査 質問」を20個に整理したものです。回答例は、一般的な型としてご利用ください(事実に反する説明は避けてください)。
A. 事業の全体像(1〜4)
1. 開業時期、診療科目、1日の患者数、スタッフ数は?
- 意図:売上規模・業務フロー・人件費水準の把握
- 回答例:「2018年開業、皮膚科と美容皮膚科です。平日平均80名、土曜120名程度。常勤3名、非常勤5名です。」
2. 保険診療と自費診療の割合は?どのメニューが多い?
- 意図:売上の構成比、課税関係や現金比率の想定
- 回答例:「保険7割、自費3割です。自費は主に施術と物販です。月次で区分集計しています。」
3. 売上計上のタイミングは?(施術日・入金日・請求日)
- 意図:期ズレ(期末の未収・前受)の有無
- 回答例:「原則として役務提供日基準で計上し、未収金は月末時点で計上しています。」
4. 会計処理の体制は?院内担当・会計ソフト・税理士関与は?
- 意図:記帳の信頼性、内部統制の把握
- 回答例:「受付で日計表を作成し、経理担当が月次で会計ソフトへ入力、当法人(税理士)が月次監査しています。」
B. 売上・現金管理(5〜10)
5. 現金売上はどれくらい?現金は誰が締める?
- 意図:現金計上漏れリスクの確認(典型論点)
- 回答例:「自費の一部が現金です。毎日、受付2名でレジ締めし、日計表とレジ集計を突合しています。」
6. レジ締めの手順は?日計表・レジジャーナル・予約システムの一致は?
- 意図:売上の網羅性(記録の連動)
- 回答例:「日計表、レジZレポート、予約システムの消込一覧を毎日保管し、差異が出た場合は当日中に原因を記録しています。」
7. 返金・クーリングオフ・キャンセルの処理は?
- 意図:売上除外の正当性、証憑の有無
- 回答例:「返金時は返金伝票を起こし、同意書と振込記録(または現金出金記録)を添付しています。」
8. 未収金(ツケ)や分割払いはある?回収管理は?
- 意図:期末未収の漏れ、貸倒処理の妥当性
- 回答例:「分割は決済会社経由のみで、未収はありません。万一の未収は患者別台帳で管理します。」
9. 売上の入金経路(現金・カード・振込・決済代行)は?入金差額は?
- 意図:手数料控除、入金差額の原因(取消・手数料)の説明
- 回答例:「カードは決済代行経由で入金、手数料は支払手数料で処理。月次で売上計上額と入金額を照合しています。」
10. 現金の保管場所と入金頻度は?金庫残高と帳簿残高は一致する?
- 意図:現金過不足、私的流用の疑い排除
- 回答例:「金庫で保管し、週2回入金。現金出納帳で残高管理し、差異は現金過不足で当日処理しています。」
C. 経費・私的混入(11〜15)
11. 家事関連費(自宅家賃・光熱費・通信費)の按分基準は?
- 意図:按分の合理性、過大計上の有無
- 回答例:「在宅事務はありません。按分は行っていません(行う場合は床面積・利用時間等で説明できる基準を用意)。」
12. 交際費は誰と何の目的で?領収書の記載は?
- 意図:交際費の実態、私的飲食の排除
- 回答例:「医療連携先との会食等です。参加者・目的を領収書裏に記載し、院内規程に基づき精算しています。」
13. 旅費交通費・学会費は業務関連と説明できる?
- 意図:私的旅行の混入、同伴者分の扱い
- 回答例:「学会参加が目的で、参加登録証・日程表・領収書を保管しています。私的部分がある場合は区分して精算します。」
14. 備品・医療機器の購入は固定資産計上している?耐用年数は?
- 意図:資産計上漏れ、減価償却の妥当性
- 回答例:「10万円超の備品は固定資産として台帳管理し、法定耐用年数に基づいて償却しています。」
15. 仕入(物販・化粧品・サプリ)や薬剤の棚卸はしている?
- 意図:期末在庫の漏れ(売上原価の歪み)
- 回答例:「期末に棚卸表を作成し、在庫評価を行っています。廃棄があれば廃棄記録を残しています。」
D. 人件費・外注費(16〜18)
16. 給与台帳・タイムカード・雇用契約書は整っている?
- 意図:人件費の整合、架空人件費や過大計上の排除
- 回答例:「雇用契約書、勤怠データ、給与明細、振込記録をセットで保存しています。」
17. 非常勤医師・看護師の支払いは給与?外注?区分根拠は?
- 意図:外注費(業務委託)への付替え、源泉・社保の論点
- 回答例:「勤務実態に応じて給与として源泉徴収しています。業務委託の場合は契約書・成果物・独立性を確認しています。」
18. 家族への給与・手当は業務実態がある?金額根拠は?
- 意図:同族関係者への過大支給、実態確認
- 回答例:「担当業務、勤務時間、成果を明確にしており、同職種相場に照らして金額設定しています。」
E. 役員・消費税・保存(19〜20)
19. 院長の役員報酬・事業主貸(個人流用)・貸付金はある?
- 意図:役員報酬の適正、資金流出、勘定科目の妥当性
- 回答例:「役員報酬は定期同額で議事録保管。個人支出は事業主貸で処理し、内容が分かるようメモを残しています。」
20. 消費税の課税・非課税の区分は?インボイスの運用は?
- 意図:課税売上割合、仕入税額控除の適用可否
- 回答例:「保険診療は非課税、自費は内容により課税/非課税を判定し、区分経理しています。請求書の保存と電子取引データの保存ルールも整備しています。」
質問に強くなるための「準備リスト」ステップ(当日までにやること)
Step 1: 売上の突合セットを作る
日計表、レジ集計、予約/会計システム出力、入金明細(カード・代行・振込)を月次で突合し、差異理由(手数料・取消・返金)をメモ化します。
Step 2: 現金・預金の説明資料を整える
現金出納帳、金庫管理ルール、入金頻度、両替・小口の運用を文書化します。現金過不足が出た場合の処理も一貫させます。
Step 3: 経費は「規程+証憑+目的」で束ねる
交際費・旅費・福利厚生など、私的混入が疑われやすい科目は、院内規程とセットで保管し、領収書に目的・同席者・場所を記載します。
Step 4: 人件費は「契約・勤怠・支払」の三点セット
雇用契約書、勤怠、給与台帳、振込記録がつながる状態にします。外注費は契約・成果物・独立性の根拠を用意します。
Step 5: 保存年限と保管場所を統一する
帳簿書類は原則7年(状況により10年)など、法令上の保存期間を意識して、紙と電子の保管ルールを統一します。
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平日 9:15〜18:15(土日祝休業)
よくある指摘に直結する「論点×証憑」比較表
| 論点(質問領域) | 税務署が見たがる主な証憑 | 指摘に発展しやすい例 |
|---|---|---|
| 現金売上 | 日計表、レジZ、現金出納帳、入金記録 | 日計表と入金額が継続的に不一致 |
| 自費診療 | 施術同意書、契約書、返金伝票、決済明細 | 返金が多いが根拠書類がない |
| 物販・在庫 | 棚卸表、仕入明細、廃棄記録 | 期末棚卸をしていない |
| 交際費・旅費 | 領収書、参加者/目的メモ、規程 | 私的な飲食・旅行が混在 |
| 人件費・外注費 | 契約、勤怠、給与台帳、支払記録 | 実態は雇用なのに外注で処理 |
| 消費税区分 | 区分経理表、請求書、電子取引データ | 課税/非課税の判定が曖昧 |
よくある質問
Q: 税務調査は事前に連絡が来ますか?
A:
一般的な実地調査は、調査開始日前までに電話等で事前通知が行われる運用です。ただし、例外的に事前通知が行われない類型もあり得ます。まずは通知内容(税目・期間・日時・場所など)を整理し、準備範囲を明確にします。Q: 税務調査で「その場で答えられない」と不利になりますか?
A:
直ちに不利とは限りません。記憶で回答して後から訂正が生じる方が、結果的に疑義を招きます。資料を確認して、事実ベースで回答する運用にしましょう。Q: クリニックで特に見られるのは自費診療ですか?
A:
自費は現金比率や返金処理など、売上の網羅性を検証しやすい領域のため、深掘りされやすい傾向があります。日計表・決済明細・同意書等をセットで保管し、説明可能な状態にしておくことが重要です。Q: 帳簿や領収書は何年保管すべきですか?
A:
法人は原則として申告書提出期限の翌日から7年(欠損金等の状況により10年)など、税目・状況で保存年限が定められます。電子取引データも含め、保存ルールを整備してください。まとめ
- 税務調査の質問は「売上・経費・証憑の整合性」を確認するために設計される
- クリニックは保険と自費が混在し、現金管理と区分経理が深掘りされやすい
- 回答は「事実+根拠資料名」を基本にし、曖昧な推測回答を避ける
- 準備は「突合(売上)」「三点セット(人件費)」「規程(経費)」が中核
- 最適解は状況次第のため、疑義が出そうな論点は事前に税理士へ相談する
参照ソース
- 国税庁「税務調査手続に関するFAQ(一般納税者向け)」: https://www.nta.go.jp/information/other/data/h24/nozeikankyo/ippan.htm
- 国税庁「調査手続の実施に当たっての基本的な考え方等について(事務運営指針)」: https://www.nta.go.jp/law/jimu-unei/sonota/120912/index.htm
- 国税庁「No.5930 帳簿書類等の保存期間」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5930.htm
- 国税庁「(消費税)自己の負担で行う保険診療(質疑応答事例)」: https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/shohi/07/01.htm
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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