
執筆者:辻 勝
会長税理士
クリニック確定申告の経費と節税ポイント|2026年版 税理士が解説

クリニック確定申告の結論:経費の線引きと節税設計が9割
クリニックの確定申告は、売上(保険・自費)の整理よりも「どこまでを必要経費にできるか」「節税策をどう組むか」で税額が大きく変わります。特に個人クリニックの院長にとっては、経費が過少だと税負担が重くなり、過大だと否認リスクが上がる――このバランスが課題ではないでしょうか。結論として、経費の根拠(目的・金額・証憑)を揃えたうえで、青色申告・減価償却・役員ではなく事業主としての設計(専従者等)を早めに固めるのが最短ルートです。
税理士法人 辻総合会計では、クリニック顧問の実務で「経費の誤解」「消費税の論点」「設備投資の処理」でつまずくケースを多く見ています。本記事は、開業医が年度末に慌てないための実務チェックとしてまとめます。
クリニック確定申告とは:開業医は何を申告する?
個人クリニック(院長=事業主)の基本
個人で開業している場合、原則は「事業所得」として所得税の確定申告を行います。売上(収入)から必要経費を差し引いた所得に対して、所得税・住民税が課税されます。加えて、条件により消費税申告が必要になることがあります。
医療法人との違い(“確定申告”の意味が変わる)
医療法人の場合、法人税申告が中心で、院長個人は役員報酬や配当等を個人の確定申告で申告します。この記事は主に「個人クリニック」の確定申告を想定しつつ、医療法人でも共通する経費判断の考え方も含めます。
申告期限(2026年版の目安)
令和7年分(2025年分)の所得税・贈与税の申告・納付期限は「令和8年3月16日(月)」、個人事業者の消費税等の申告・納付期限は「令和8年3月31日(火)」が案内されています(国税庁の確定申告特集に基づく整理)。期限直前は予約枠や提出回線が混みやすいため、2月中に「数字の確定」まで進めるのが安全です。
医師が知っておくべき経費:認められる例と判断軸
経費の原則は「事業に必要(業務関連性)」「金額が妥当」「証憑がある」です。クリニックは私生活と混ざりやすく、家事按分と“目的の説明”が要点になります。
クリニックで典型的に経費になりやすいもの
- 医薬品・衛生材料・医療消耗品
- 医療機器の保守料、ソフト利用料(電子カルテ等)
- 人件費(スタッフ給与・賞与・法定福利費)
- 地代家賃、共益費、駐車場代(事業分)
- 水道光熱費・通信費(事業分)
- レセプト請求関連費用、委託費、外注費
- 広告宣伝費(Web制作、看板、求人広告等)
- 研修費・学会参加費(業務関連性が説明できる範囲)
- 損害保険料(事業用)、リース料
グレーになりやすい(説明と按分が必要)
- 自宅兼診療所の家賃・ローン利息、光熱費、ネット回線
- 車両費(ガソリン・駐車場・保険・修理)※訪問診療や通勤混在など
- 接待交際費(相手・目的・内容の記録が重要)
- 書籍・情報サービス(医療関連性が薄いと否認されやすい)
原則としてNGに近い(否認されやすい)
- 明確な私的支出(家族旅行、私的な衣類・嗜好品等)
- 事業との関連性が説明できない高額支出
- 領収書がなく、内容も不明な出金
節税の基本:青色申告・設備投資・制度活用の優先順位
節税は「経費を増やす」よりも、「制度要件を満たして控除を取りにいく」方が再現性が高い傾向があります。
青色申告特別控除(55万/65万円)を取りにいく
青色申告は、一定の帳簿・決算書類を整備した上で申告すると、所得から控除を受けられます。特に青色申告特別控除(最大65万円)は、要件を満たすだけで効果が大きい代表例です。65万円控除は、電子帳簿保存の要件を満たす、またはe-Taxで期限内申告する等の条件があるため、運用(会計ソフト・電子保存・提出方法)まで含めて設計します。
減価償却:高額機器は“買い方”より“処理”が税額に効く
医療機器・内装・什器などは、支出時に全額経費にならず、原則は減価償却で年ごとに費用化します。年度末に導入した機器の処理を誤ると、当期の利益が想定より大きくなり、納税資金が不足することがあります。リース・割賦・購入の違いも含め、契約形態と会計処理をセットで確認します。
クリニック特有の論点:社会保険診療と制度(措置法26)を知っておく
一定の条件下で、社会保険診療に係る必要経費を「租税特別措置法第26条」に基づく計算方法で求める選択肢が案内されています(いわゆる“措置法差額”の考え方)。ただし適用可否には収入規模等の要件があり、全員に有利とは限りません。
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確定申告の方法・手順:開業医が迷わない進め方
期限直前に「レシートの山」から始めると、経費の取りこぼしと否認リスクが同時に増えます。以下の順で進めると、手戻りが減ります。
Step 1: 申告区分を確定する(青色/白色、消費税の有無)
青色申告承認の状況、課税事業者かどうか、インボイス登録の有無などを整理します。ここが確定しないと、必要書類と処理が変わります。
Step 2: 売上を保険・自費で区分し、未収を把握する
支払基金・国保連の入金、窓口収入、自費売上を突合します。月次での突合が難しい場合、少なくとも年末までに整合表を作ります。
Step 3: 経費を「科目」より先に“用途”で整理する
家事按分が必要な支出(家賃・光熱費・車両費・通信費等)を先に抜き出し、按分根拠(面積、使用時間、走行記録など)を決めます。
Step 4: 設備投資・契約(リース/割賦)を棚卸しする
医療機器・内装工事・ソフトウェア等を一覧化し、取得日・金額・用途・契約形態を確認します。減価償却の計算に直結します。
Step 5: 申告書作成と提出(e-Tax推奨)
65万円控除の要件にも関係するため、可能であればe-Taxで期限内提出を基本線にします。提出後は、帳簿・領収書・契約書等の保存体制(紙/電子)を整えます。
よくある失敗と注意点:税務調査・消費税・資金繰り
“経費の取りこぼし”より危険なのは“根拠なき計上”
節税を意識するほど、経費計上が攻めに寄りがちです。重要なのは「説明できる形で計上する」ことです。特に交際費、研修費、車両費は、相手先・目的・業務関連性のメモがあるかどうかで説明力が変わります。
消費税:医療は非課税が多いが、論点が消えるわけではない
保険診療は非課税取引が中心になる一方で、自費診療や物販等の課税売上が混在する場合があります。課税・非課税が混ざると、仕入税額控除や経理処理が複雑になり、年度後半での修正が起きやすい点に注意が必要です。
資金繰り:納税資金は“利益”より“現金残”で見る
医療機器導入や人件費増がある年は、帳簿上の利益と手元資金が乖離しがちです。納税見込みを早めに出し、別口座で積み立てる運用が実務的です。
| 論点 | ありがちな誤解 | 実務の着眼点 | リスク |
|---|---|---|---|
| 家事按分 | 「だいたい半分」で良い | 面積・時間・走行記録など根拠で按分 | 否認・追徴 |
| 設備投資 | 「買った年に全額経費」 | 原則は減価償却、契約形態も確認 | 利益の過大/過少 |
| 青色控除 | 「青色なら自動で65万円」 | e-Tax期限内提出等の要件管理 | 控除減額 |
| 交際費 | 「医師の付き合いだからOK」 | 相手・目的・内容の記録が必須 | 否認 |
| 消費税 | 「医療は非課税だから不要」 | 課税売上の有無、登録状況で判断 | 申告漏れ |
よくある質問
Q: 開業医の確定申告はいつまでですか?
A:
令和7年分(2025年分)の所得税・贈与税は令和8年3月16日(月)まで、個人事業者の消費税等は令和8年3月31日(火)までが案内されています。実務上は、2月中に売上・経費・投資の確定まで終えるのが安全です。Q: 医師の経費はどこまで認められますか?
A:
原則は「事業に必要」「金額が妥当」「証憑がある」です。迷いやすい支出(車両費、研修費、交際費、自宅兼用の費用)は、業務関連性の説明と家事按分の根拠が重要になります。Q: 青色申告の65万円控除を取るには何が必要ですか?
A:
複式簿記での記帳・決算書の添付等の基本要件に加え、電子帳簿保存の要件を満たす、またはe-Taxで期限内提出する等の追加要件が必要です。会計ソフト運用と提出方法をセットで設計してください。Q: 設備投資(医療機器)をした年は、税金が下がりますか?
A:
多くの場合、医療機器等は減価償却となり、購入年に全額が費用化されるとは限りません。契約形態(購入/リース/割賦)と取得時期により当期の費用化額が変わるため、導入前に試算するのが確実です。まとめ
- クリニックの確定申告は「経費の線引き」と「納税資金の見通し」が核心
- 経費は職種ではなく“取引の実態”で判断し、証憑と用途メモで説明力を確保
- 青色申告特別控除と減価償却は、要件と運用を整えるほど効果が安定
- 家事按分・交際費・研修費は根拠づけが重要(記録を残す)
- 申告期限から逆算し、2月中に数字を固めると手戻りとリスクが減る
参照ソース
- 国税庁「令和7年分 確定申告特集」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/tokushu/index.htm
- 国税庁「No.2072 青色申告特別控除」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2072.htm
- 国税庁「所得税青色申告決算書(一般用)付表《医師及び歯科医師用》記載要領(PDF)」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/shinkoku/tebiki/2024/pdf/043.pdf
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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