
執筆者:辻 勝
会長税理士
適時調査クリニック2026対策|改定後の指摘事項

適時調査とは?個別指導との違い(2026改定後の前提)
適時調査とは、地方厚生(支)局が、届出を行った施設基準等について「届出どおりの体制・運用になっているか」を確認する調査です。クリニックでは、外来系の加算(体制・研修・掲示・記録)と、算定の根拠(診療録・同意書・実施記録)が中心になります。
一方で「個別指導」は、保険診療全般(算定の適否、カルテ記載、請求内容など)まで射程が広がります。両者は準備物の重なりが多く、日常運用を整えるほど、どちらにも強くなります。
| 項目 | 適時調査 | 個別指導 |
|---|---|---|
| 主眼 | 届出した施設基準の「実態確認」 | 保険診療全般の「算定・請求の適否」 |
| 典型の論点 | 体制要件、掲示、研修・会議記録、勤務実績、届出内容の更新 | 算定要件、診療録記載、算定根拠の妥当性、返還リスク |
| クリニックの弱点 | 書類が分散(掲示・研修・同意書が部署ごと) | ルールの理解不足、記載の粒度不足、説明同意の欠落 |
| 対策の勘所 | 「届出→運用→証跡」まで一本化 | 「算定ルール→記載→請求」の整合 |
2026改定後に「よくある指摘」になりやすい領域
ここでは、改定の影響で運用が動きやすい論点と、適時調査・指導で指摘になりやすい“型”を整理します。
1) 届出と実態の不一致(人員・診療時間・管理者等)
届出後に起きやすいのが「人の異動」「勤務形態変更」「診療時間変更」「管理者変更」などの更新漏れです。届出は一度出して終わりではなく、変更があれば期日・手続に沿って更新が必要です。
- 常勤・非常勤の実態(勤務実績、雇用契約、シフト)
- 管理者・標榜・診療科目・診療時間
- 法人代表者や開設者情報
ポイントは「変更事実が発生した日」と「届出・届出書類の控え」「反映後の掲示・院内表示」までセットで保管することです。
2) 掲示(院内掲示・ウェブ掲載)の誤り・不足
適時調査で典型的に見られるのが、施設基準や明細書発行などの掲示の不備です。掲示は「作った」だけでは弱く、最新の届出内容と一致しているかが問われます。
- 届出した施設基準に関する掲示が古い、または誤っている
- 明細書発行の案内が不十分(公費負担等の取り扱いの記載漏れが起きやすい)
- 体制要件に紐づく掲示(例:相談窓口、担当者、時間帯など)の欠落
3) 体制要件の「証跡」不足(研修・会議・マニュアル)
外来感染対策、医療安全、個人情報、医療DXなど、体制要件が絡む加算は「実施したことを示す証跡」が要です。
- 研修の実施記録(日時、参加者、内容、資料)
- 会議録(議題、決定事項、是正の指示)
- 手順書・マニュアル(改定後の版管理、改訂履歴)
- 新人・非常勤を含む周知(配布記録、署名)
「口頭で周知」は監査対応として弱いため、A4一枚でもよいので記録に落とします。
4) 算定根拠の記載不足(診療録・同意書・実施記録)
適時調査の主眼は施設基準でも、実際には「その加算を算定するだけの根拠が診療録に残っているか」まで見られます。特に改定後は、算定要件の文言が変わり、記載テンプレが陳腐化しやすい点が落とし穴です。
- 診療録に「要件を満たす事実」が具体的に書かれていない
- 同意書や説明記録が分散し、提示できない
- 実施記録(日付・担当・内容)が欠ける
適時調査に備える準備手順(チェック表つき)
当法人(税理士法人 辻総合会計)では、クリニックの記帳・運用設計の支援を継続的に行う中で、「調査直前に慌てない仕組み」が最も費用対効果が高いと感じています。以下は、調査通知が来る前から回せる実務手順です。
Step 1: 届出一覧を“現況”と突合する
- 施設基準の届出控え(最新版)を1ファイル化
- 人員・診療時間・管理者などの現況と差分チェック
- 差分があれば「届出要否」「期限」「証跡」を整理
Step 2: 掲示物とウェブ掲載を棚卸しする
- 院内掲示(待合・受付周り)を写真で台帳化
- ウェブ掲載の該当ページURLを台帳化
- 届出内容・明細書発行等の表記が最新か確認
Step 3: 体制要件の証跡を“月次”で残す
- 研修:年次計画+実施記録+資料
- 会議:議事録テンプレ(議題/決定事項/宿題/期限)
- マニュアル:改定後の改訂履歴を残す
Step 4: 算定根拠のテンプレを改定版に更新する
- よく算定する加算ごとに「カルテ記載テンプレ」を更新
- 同意書・説明文書の版数管理(いつから差し替えたか)
- 監査・調査用に「提示場所(紙/電子)」を一本化
Step 5: 当日の提示順を決め、30分で出せる状態にする
- 「届出控え→体制図→掲示→証跡→算定根拠」の順で並べる
- スタッフが迷わない置き場(共有フォルダ/バインダー)を固定
- “担当者不在でも出せる”運用にする
調査当日の動き方と是正対応(返還リスクを広げない)
調査当日は「質問に答える」より、「事実を示す」ことが中心です。
- その場で結論を急がず、根拠資料で説明する(口頭推測を避ける)
- 不備が見つかったら、是正計画(いつ・誰が・何を)を即日メモ化
- 追加提出が必要な場合、提出物の控えと提出日を台帳管理する
また、個別指導に繋がるリスクを抑えるには、指摘事項を「施設基準の運用改善」と「算定の適否(請求)」に分けて整理します。後者に踏み込む場合は、返還や修正請求を含め、専門家(医療事務の実務者、社労士、税理士等)と連携して判断するのが安全です。
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個別指導対策にもなる“日常運用”の作り方
適時調査と個別指導は別物ですが、強いクリニックは共通して「運用が型化」されています。
- 施設基準は「届出→体制→掲示→証跡→更新」までの流れを固定
- 算定は「要件→カルテ記載→同意→請求」までテンプレ化
- 人の入替に備え、手順書と教育記録を残す
2026改定後は制度変更の吸収がテーマになります。改定対応を一度きりのプロジェクトにせず、「月次点検(15分)」として習慣化すると、調査対応コストが一気に下がります。
よくある質問
Q: 適時調査は、通知が来てから準備しても間に合いますか?
A:
物理的には間に合う場合もありますが、掲示の整備や研修記録の作成は「過去に実施した事実」が必要になるため限界があります。通知前から、届出一覧と掲示、証跡の置き場だけでも固定しておくと安全です。Q: 適時調査で指摘されたら、すぐ返還になりますか?
A:
施設基準の運用不備は、まず是正(改善)で終わるケースもあります。一方、算定要件を満たさない請求が疑われると、修正請求や返還に繋がる可能性があります。指摘内容を「体制(施設基準)」と「算定(請求)」に分けて整理するのが実務的です。Q: 個別指導と適時調査、準備書類は同じですか?
A:
一部は共通します(届出控え、掲示、体制要件の証跡など)。ただし個別指導は診療録記載や算定根拠の確認が広く深いため、算定テンプレ・同意書・実施記録の整備まで踏み込む必要があります。Q: 2026改定後に、まず見直すべき優先順位は?
A:
①届出と現況の突合、②掲示とウェブ掲載、③体制要件の証跡(研修・会議)、④よく算定する加算のカルテ記載テンプレ更新、の順が実務的です。まずは“出せる状態”を作ることが優先です。まとめ
- 適時調査は「届出した施設基準の実態確認」が中心で、届出と運用の一致が最重要
- 2026改定後は「掲示」「体制要件の証跡」「算定根拠の記載テンプレ」がズレやすい
- 準備は「届出一覧の突合→掲示棚卸→証跡の月次化→テンプレ更新→提示順固定」で型化する
- 指摘は「体制(施設基準)」と「算定(請求)」に分けて整理し、返還リスクの拡大を防ぐ
- 日常運用を整えるほど、個別指導対策にも直結する
参照ソース
- 厚生労働省「保険診療における指導・監査」: https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/shidou_kansa.html
- 厚生労働省「適時調査実施要領等」: https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/shidou_kansa_jissi.html
- 厚生労働省「令和8年度診療報酬改定について」: https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_67729.html
- 地方厚生(支)局(例:東北厚生局)「令和5年度 適時調査における主な指摘事項(PDF)」: https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/tohoku/000360588.pdf
- 地方厚生(支)局(例:関東信越厚生局)「個別指導・新規個別指導に係る事前提出書類」: https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kantoshinetsu/iryo_shido/kobetsu.html
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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