
執筆者:辻 勝
会長税理士
診療報酬改定2026 美容皮膚科の線引き|専門家解説

診療報酬改定2026(令和8年度)で美容皮膚科が最初に押さえるべき結論は、保険診療は「疾病の治療」として必要かつ適切な範囲に限られ、審美(美容)目的の施術は原則として自由診療、という線引きです。問題になりやすいのは「同じ患者・同じ受診の流れで、保険と自費をどう分けるか」で、説明不足や記録不備があると返戻・指導リスクに直結します。
診療報酬改定2026の前提と、美容皮膚科で影響が出るポイント
令和8年度(2026年度)の診療報酬改定に向けて、国は基本方針や検討資料を順次公開し、中央社会保険医療協議会(中医協)で議論が進みます。改定の「点数」だけでなく、算定要件・施設基準・運用通知の更新で、請求実務の手当が必要になります。
美容皮膚科では、改定のたびに次の論点が実務を揺らしやすいです。
- 算定要件の文言(対象患者・対象疾患・回数・記載要件)の微修正
- オンライン診療等のルール変更が、自由診療の導線(事前相談・同意取得)にも波及
- 保険診療と自費メニューの導線が複雑化し、受付・会計・記録の整合性が問われる
美容皮膚科の保険適用範囲とは
保険適用(保険診療)になるのは、原則として「病気・外傷等の治療として医学的に必要」な診療です。反対に、見た目の改善を主目的とする審美医療(シミ・しわ・たるみ等の“美容目的”)は、原則として自由診療(自費)として扱われます。
ただし美容皮膚科は、院内に「保険皮膚科」と「美容」の両方があることが多く、同じ機器(レーザー等)でも、診断名・目的・治療過程によって保険か自費かが変わり得ます。
美容皮膚科 保険適用の考え方(チェック軸)
保険か自費かを判断する軸を、院内で言語化しておくとブレが減ります。
- 目的:疾病の治療か、審美改善か
- 診断:保険診療としての診断・必要性が説明できるか
- 標準性:公的な枠組み(点数表・通知等)に沿うか
- 記録:診療録に目的・所見・説明・同意・実施内容が残るか
シミ取り 保険はどこまで?(よくある誤解の整理)
一般に「シミ取り」と呼ばれる行為は幅が広く、ここが最大の混乱ポイントです。
- “美容目的のシミ取り”は、原則として自由診療で設計するのが安全です。
- 一方で、保険診療の枠組みの中に「皮膚レーザー照射療法」などが点数として存在し、一定の条件下で保険算定が行われ得ます。
重要なのは、レーザーという手段があること自体ではなく、「その患者に、保険診療として行う医学的必要性があるか」「点数・通知の要件に合致するか」です。曖昧なまま“保険で安くできます”と案内すると、後日の請求否認リスクが高まります。
保険診療と自由診療の線引き(混合診療の原則と例外)
美容皮膚科の運用で避けて通れないのが、いわゆる混合診療の考え方です。実務的には、保険診療と保険外(自費)を同一の治療過程で安易に混在させないことが鉄則になります。
例外として、国は「保険外併用療養費制度」という枠組みのもと、一定のルールにより保険診療との併用を認めています(評価療養・患者申出療養・選定療養)。
保険外併用療養費制度を“美容目的”に当てはめるとどうなる?
制度の趣旨は、将来的な保険収載を目指す先進的医療等や、患者の選択による特別サービスなどを、ルールの下で併用可能にする点にあります。
美容皮膚科の一般的な自費メニュー(シミ・しわ・たるみ等の審美施術)は、多くの場合この制度類型には乗りません。したがって「例外がある=美容も併用できる」と短絡しないことが重要です。
迷いやすい実務ケース別:線引きの落とし穴と安全策
美容皮膚科で相談が多い“あるある”を、判断の方向性がブレないように整理します(最終判断は個別事情と通知等で変動します)。
| ケース | 保険診療としての扱い | 自由診療としての扱い | 実務上の安全策 |
|---|---|---|---|
| 皮膚疾患(湿疹等)の診察+ついでに美容相談 | 疾病の診療として算定 | 美容相談が“施術前提の相談”なら自費設計が安全 | 相談だけで終わる場合でも、時間・内容・費用の扱いを院内で統一 |
| 同日に保険診療(皮膚疾患)+シミ取り施術 | 併用が問題化しやすい | シミ取りは多くが自費 | 原則「別日・別枠」に分離し、予約導線も分ける |
| レーザーを使う治療(疾病目的) | 点数表に位置づけがある行為もある | 審美目的は自費 | 目的・診断・記録を先に固め、機器名で判断しない |
| 物販(化粧品・サプリ等) | 保険診療とは別の取引 | 自費(物販) | レシート・領収の区分、返品対応、広告表現を整備 |
| 自費カウンセリングだけ受けたい | 保険算定しない設計が明確 | 自費 | 初診料・再診料の扱い(院内ルール)と同意書を用意 |
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2026改定に備える:保険と自費を“事故らず”運用する手順
美容皮膚科は「医師の判断」だけでなく、「受付・看護師・会計・レセコン」まで含めた統制が品質になります。税理士法人 辻総合会計でも、クリニックのバックオフィス相談でまず確認するのは、メニュー設計より先に“線引きの運用設計”ができているかです。
Step 1: メニューを「目的」で棚卸しする
- 疾病治療(保険)/審美改善(自費)/例外制度に該当し得る領域(要確認)に分類
- 「同じ施術名」でも、適応(目的・診断)が変わる可能性があるものは別メニューとして定義
Step 2: 予約枠・カルテ・会計を“分離設計”する
- 予約枠:保険枠/美容枠を分ける(同日併用を運用上起こしにくくする)
- カルテ:自由診療の同意・説明・料金・施術内容のテンプレを用意
- 会計:明細・領収の出し方、クレカ・分割等の扱いを標準化
Step 3: 監査に耐える記録を残す(診療録+同意)
- 保険:診断根拠、重症度・必要性、実施内容、算定要件に関わる記載
- 自費:施術目的、代替手段、費用、リスク、同意、写真管理ルール
- 迷う症例は「院内の判断基準(なぜ保険/自費か)」を短文で残す
よくある質問
Q: 美容皮膚科でも、一般の皮膚科診療(湿疹・ニキビ等)は保険でできますか?
A:
はい。美容皮膚科であっても、疾病の診療として必要かつ適切な範囲であれば保険診療として行えます。ただし同日に美容施術(自費)も行う運用は、導線・会計・記録の整合性が崩れやすいので、原則は別枠・別日での設計が無難です。Q: シミ取りは保険適用になりますか?
A:
一般に「シミ取り」として提供される審美目的の施術は、自由診療として設計するのが基本です。一方で、点数表上「皮膚レーザー照射療法」等の枠組みが存在し、一定の条件で保険算定が行われ得る領域もあります。適用可否は“レーザーかどうか”ではなく、診断・目的・要件適合と記録で判断してください。Q: 保険外併用療養費制度なら、保険と自費を一緒にできるのですか?
A:
制度上、評価療養・患者申出療養・選定療養などに分類され、一定のルールの下で保険診療との併用が認められます。 ただし美容皮膚科の一般的な審美施術が直ちにこの制度に該当するわけではありません。該当性は個別に確認が必要です。まとめ
- 保険診療は疾病の治療目的、審美目的は原則として自由診療という線引きが基本
- 迷いやすいのは「同じ受診の流れで保険と自費を混在させる」設計で、導線と記録が重要
- 例外として保険外併用療養費制度があるが、美容施術が当然に乗るわけではない
- 「シミ取り」は言葉が広く、美容目的は自費設計、保険可否は診断・目的・要件・記録で判断
- 2026改定に備え、メニュー棚卸し→分離設計→記録整備の順で院内統制を作る
参照ソース
- 厚生労働省「令和8年度診療報酬改定について」: https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_67729.html
- 厚生労働省「保険外併用療養費制度について」: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryouhoken/sensiniryo/index_00007.html
- 厚生労働省「医科診療報酬点数表(PDF)」: https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001251499.pdf
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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