
執筆者:辻 勝
会長税理士
皮膚科開業の全体像|美容皮膚科の違いと注意点・実務ガイド

皮膚科開業とは、保険診療(レセプト)を基盤に、地域の皮膚疾患ニーズへ継続的に応える医療提供体制をつくることです。一方で美容皮膚科を併設・主軸にする場合、自由診療の価格設計・説明体制・広告表現が経営成否を左右します。勤務医から独立する先生にとっての課題は、「保険×美容の収益構造の違い」を理解し、物件・設備・人員・法令対応を矛盾なく組み上げる点にあります。
皮膚科開業とは?保険診療中心の基本設計
皮膚科クリニックの中核は、湿疹・アトピー・蕁麻疹・感染症・皮膚腫瘍の一次対応など、地域の反復受診ニーズに支えられる外来運営です。経営設計では、まず保険診療(レセプト)を基盤にしたオペレーションを固め、必要に応じて美容(自由診療)を加える、という順序が安全です。
皮膚科(保険)で最初に決めるべき3点
- 診療範囲:一般皮膚科中心か、アレルギー・小児・皮膚外科まで含めるか
- 設備優先順位:視診・処置動線、必要最低限の機器(例:電気メス、顕微鏡等)
- 体制:医師1名で回すのか、非常勤医師や看護師増員を前提にするか
美容を後から足す場合の考え方
美容は単価を上げやすい反面、カウンセリング・同意取得・アフターフォローが増え、予約枠設計が難しくなります。保険外来の回転と競合させないよう、曜日・時間帯・スタッフ配置を分離する発想が重要です。
美容皮膚科との違い|収益構造・集患・法令対応
皮膚科と美容皮膚科の本質的な違いは「誰が、何を理由に、どの頻度で来院するか」です。加えて、自由診療は情報提供(費用・リスク等)と広告表現の要求水準が上がり、運用ルールが経営品質に直結します。
| 項目 | 皮膚科(保険診療中心) | 美容皮膚科(自由診療中心) |
|---|---|---|
| 主な収益源 | 診療報酬(再診・処置・検査) | 施術単価(レーザー、注入、内服等) |
| 集患導線 | 近隣・かかりつけ需要、紹介 | Web検索・SNS・口コミ、比較検討 |
| 来院動機 | 症状の改善、継続管理 | 期待値(見た目改善)、体験価値 |
| 必要体制 | 受付〜診察〜処置の回転最適化 | カウンセリング品質、同意取得、術後対応 |
| リスク | 待ち時間・クレーム、感染対策 | 期待値ギャップ、説明不足、広告違反リスク |
| 価格・税務 | 原則として患者から消費税を受け取らない設計 | 施術内容により課税/非課税が分かれる可能性 |
| KPI例 | 再診率、待ち時間、処置件数 | 相談→成約率、リピート率、キャンセル率 |
皮膚科クリニックの開業資金|モデル別の目安と内訳
開業資金は「物件条件」「内装仕様」「医療機器の範囲」「スタッフ採用数」で大きく変動します。ここでは実務で検討しやすいよう、資金項目を分解して見積もる考え方を示します。
資金項目の基本セット
- 物件関連:保証金・仲介・前家賃、看板、駐車場
- 内装・設備:待合、診察室、処置室、動線、空調・給排水
- 医療機器:診察・処置機器、滅菌、(美容なら)レーザー等
- IT:レセコン、電子カルテ、予約・問診、会計、セキュリティ
- 採用・教育:求人、研修、開院前人件費
- 運転資金:開院後数か月分(家賃・人件費・リース等)
保険中心か、美容併設かで変わるポイント
保険中心は「処置の回転」と「待ち時間」の設計が中心です。美容併設は追加で、施術室の確保、同意書・説明資料、カウンセリング時間、機器投資(購入/リース)を織り込む必要があります。特に美容機器は固定費化しやすいため、稼働率(予約枠を埋められるか)を保守的に置いて損益分岐を試算します。
皮膚科開業の手順|物件選定から届出・指定申請まで
開業は「医療としての要件」と「事業としての要件」を同時に満たすプロジェクトです。診療圏調査と収支計画で勝ち筋を確認した上で、届出・指定申請の段取りを逆算します。
Step 1: 診療方針とターゲットを確定する
保険中心か、美容をどの程度扱うかを決めます。メニューの幅が広いほど、必要設備・人員・説明体制が増えます。
Step 2: 事業計画と資金調達(借入・自己資金・リース)
初期投資と運転資金を分けて設計します。美容機器の購入/リースは固定費化しやすいので、売上が立ち上がるまでの耐久力を見ます。
Step 3: 物件選定と設計施工(動線・処置室・待合)
皮膚科は処置・処方が多く、患者導線とスタッフ導線の分離が効きます。美容併設ならプライバシー動線も重要です。
Step 4: 採用・運用設計(予約・問診・同意・クレーム対応)
保険外来の回転、美容のカウンセリング時間、当日処置の枠を設計します。自由診療は説明の均質化が品質管理になります。
Step 5: 行政手続きと保険医療機関の指定申請
開設にあたっては保健所等への手続きが発生し、公的医療保険で診療するには地方厚生(支)局長による保険医療機関の指定が必要です。指定申請は提出先や必要書類が地域で整理されているため、管轄の地方厚生(支)局の案内を確認して準備します。
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開業でつまずきやすい注意点|美容併設で増えるリスク
最後に、独立後のトラブルや収益悪化につながりやすい論点を整理します。
医療広告・ウェブ表現の落とし穴
医療は広告規制の対象です。美容は比較検討されやすく、表現が過度になりがちです。医療広告規制に照らし、症例写真、体験談、限定解除の要件、費用・リスクの記載などを点検してください。
自由診療の「説明不足」は経営リスク
同意書の形式だけ整えても不十分です。期待値調整、術後対応の窓口、返金・キャンセル規定などを運用に落とします。
税務・会計:課税区分と原価管理
自由診療はメニュー別に粗利差が大きく、さらに課税区分も論点になり得ます。消費税の課税区分、仕入税額控除、インボイス対応、材料費・外注費の原価把握まで含めて、月次で見える化することが重要です。
人材:受付と看護師の役割が収益に直結
皮膚科は待ち時間がブランドを左右します。美容併設では受付・カウンセラーの説明品質が成約率に影響します。教育設計を「属人化させない」ことが重要です。
よくある質問
Q: 皮膚科と美容皮膚科、どちらから始めるのが安全ですか?
A:
多くのケースでは、保険診療中心で外来オペレーションを固めてから美容を段階的に追加する方が安全です。美容を主軸にする場合は、集患コストとカウンセリング体制を厚めに設計してください。Q: 美容を併設すると、行政手続きが大きく変わりますか?
A:
開設手続きや保険医療機関の指定申請といった枠組み自体は大きくは変わりません。ただし自由診療の運用として、説明資料、同意取得、料金表示、ウェブ表現の点検など追加の整備が必要になります。Q: 自由診療の売上はすべて非課税ですか?
A:
一律ではありません。国税庁は社会保険医療等は非課税取引に該当する一方、美容整形等は非課税取引に当たらない旨を示しています。メニューごとの課税区分は、個別の内容に応じて整理が必要です。まとめ
- 皮膚科開業は保険診療の回転設計が土台で、美容併設は運用ルールと説明体制が成否を左右する
- 美容皮膚科は集患導線・KPI・リスクが異なり、広告表現と情報提供の要求水準が上がる
- 開業資金は内装・機器・採用・運転資金に分解し、特に美容機器は稼働率前提で保守的に試算する
- 公的保険で診療するには、地方厚生(支)局長による保険医療機関の指定が必要
- 自由診療は課税区分や原価管理も含め、月次で見える化する体制が重要
参照ソース
- 厚生労働省「医療法における病院等の広告規制について」: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/kokokukisei/index.html
- 地方厚生(支)局「保険医療機関・保険薬局の指定申請」: https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kantoshinetsu/shinsei/shido_kansa/hoken_shitei/ichiran_shitei_shinsei.html
- 国税庁「No.6201 非課税となる取引」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6201.htm
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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