
執筆者:辻 勝
会長税理士
開業医の老後資金の作り方|iDeCo・小規模企業共済・不動産投資

開業医の老後資金とは?「公的年金+自助努力」で設計する
開業医の老後資金は、現役時代の収入が高い一方で、引退後の収入が急減しやすい点が課題です。特に個人事業主の場合、公的年金の土台は国民年金が中心となり、生活費を公的年金だけで賄う設計は現実的ではないケースが多いでしょう。
結論としては、税制優遇のある制度で「手取りを落としすぎずに積み立てる」ことが出発点になります。その上で、医療機関特有の資金需要(設備投資・人件費・借入返済)を踏まえ、流動性を確保しながら分散するのが王道です。
税理士法人 辻総合会計では、クリニック顧問を中心に、役員報酬設計・退職金・資産形成を含めた相談を継続的に受けています。現場で多いのは「節税を意識しすぎて資金繰りが苦しくなる」「運用商品を選ぶ前に制度の制約を見落とす」といった失敗です。
iDeCoと小規模企業共済は何が違う?医師の資産形成に効く使い分け
iDeCo(個人型確定拠出年金)は、老後資金を“年金”として積み立てる制度です。制度要件(加入できる人の条件など)は公表情報を確認し、該当するかをまず整理します。
一方、小規模企業共済は、主に個人事業主や小規模法人の経営者等の「退職金づくり」に近い位置づけで、掛金の所得控除が大きな特徴です。
国税庁は、iDeCoの個人型年金加入者掛金や小規模企業共済の掛金などについて、「小規模企業共済等掛金控除」としてその年に支払った掛金の全額を所得控除できること、控除適用には証明書の添付等が必要であることを示しています。
比較表:開業医が押さえるべき3手段の性格
| 項目 | iDeCo | 小規模企業共済 | 不動産投資 |
|---|---|---|---|
| 目的 | 老後の年金原資を作る | 退職金的な原資を作る | 家賃収入・資産分散 |
| 税制の主軸 | 掛金が所得控除の対象になり得る | 掛金が所得控除の対象 | 所得区分・経費計上等で結果が変動 |
| 流動性 | 原則として老後まで引出制約が強い | 受取時期・受取り方で性格が変わる | 売却まで現金化に時間がかかる |
| 医師に多い落とし穴 | 制度要件・拠出枠の誤認 | 資金繰りを圧迫する掛金設定 | 借入依存と空室・金利上昇 |
開業医がiDeCoを使うときのポイント|制度要件と投資設計
iDeCoは、加入条件や手続きが制度として整理されており、要件に当てはまるかの確認が最初の関門です。厚生労働省の公表情報で概要と条件を確認し、勤務形態や企業年金の有無など、自身の属性に照らして判断します。
運用設計では、医師は「忙しくて見直せない」ケースが多いため、商品数を絞り、長期・分散を前提にしたルール化が実務的です。短期の値動きに一喜一憂するより、積立の継続性を優先します。
具体例として、仮に年間24万円を掛金として拠出できる場合、所得控除の枠を通じて課税所得を圧縮できる可能性があります(上限は属性で異なるため要確認)。ここで重要なのは、節税額だけで制度を選ばず、資金拘束(引出制約)も含めて意思決定することです。
小規模企業共済の活用|「掛金全額控除」と受取設計が肝
小規模企業共済は、掛金が所得控除の対象となり、毎年の税負担を抑えながら将来資金を積み上げやすい制度です。国税庁は、当該控除の対象となる掛金の範囲、控除額(当年支払額の全額)、申告手続(証明書の添付または提示)を明確にしています。
開業医の論点は、掛金設定と受取り方です。掛金を最大化しすぎると、診療報酬の入金タイミングや設備更新で資金が足りなくなることがあります。
当法人の相談例では、開業5年目で増患に成功したものの、人件費と機器更新が重なったタイミングで資金繰りが逼迫したケースがありました。掛金を「節税になるから」と固定化していたのが原因で、掛金は“経営の余力”に連動させる必要があります。年1回、損益とキャッシュフローを見ながら再点検する運用が現実的です。
医療機関専門の税理士にご相談ください
40年以上の実績。クリニック・医療法人の経営を税務・会計の両面からサポートします。
平日 9:15〜18:15(土日祝休業)
不動産投資は老後資金の柱になる?医師が押さえるべきリスク管理
不動産投資は、家賃収入によるインカムと、資産分散の効果が期待できます。一方で、借入を使う投資になりやすく、金利・空室・修繕・災害などの変動要因を抱えます。国土交通省の資料でも、不動産に関わる主体が収益性と不確実性を適切に判断し、リスクに見合うリターンを確保する「リスクマネジメント」の重要性が述べられています。
医師の場合、「本業が多忙で管理が外部任せになりやすい」「税務・法務・修繕の意思決定が遅れやすい」点が特に注意です。老後資金として組み込むなら、投資の入口よりも出口(売却・相続・管理継続)まで含めた設計が必要になります。
開業医の老後資金づくり|実務の進め方(手順)
制度を知っても、順番を誤ると失敗します。おすすめは「現状把握→制度枠→投資→点検」の流れです。
Step 1: 老後の必要額を概算する
引退後の生活費、住居費、医療費、教育・相続の意向を踏まえ、年間いくら不足しそうかを見積もります。ここで“理想”ではなく“下振れ”も想定します。
Step 2: キャッシュフローの安全域を確保する
クリニックの運転資金(最低数か月分)と、設備更新・賞与などの見込み支出を先に確保します。老後資金の積立は、この安全域の外側で行います。
Step 3: iDeCo・小規模企業共済の適用可否と掛金を決める
加入要件を確認し、掛金は「無理なく継続できる水準」にします。所得控除を狙う場合も、資金拘束と資金繰りへの影響を同時に評価します。
Step 4: 不動産投資は“分散の一部”として検討する
不動産は集中投資になりやすいので、全資産の構成比、借入比率、出口戦略(売却・相続・管理)を明文化します。判断基準を作り、定期点検できる体制を整えます。
よくある質問
Q: 開業医はiDeCoと小規模企業共済、どちらを優先すべきですか?
A:
目的が異なるため「優先」より「役割分担」で考えるのが実務的です。老後まで引出しにくい資金でも問題なければiDeCo、退職金的に積み上げつつ控除を活かしたいなら小規模企業共済、という整理が有効です。最終的には資金繰り余力と加入要件で決まります。Q: 節税を目的に掛金を最大化すると問題がありますか?
A:
あります。掛金はキャッシュアウトなので、設備更新や人件費増などの局面で資金が不足すると、借入増や投資の解約を招きかねません。掛金は「継続可能性」と「安全域」を優先し、年1回は見直してください。Q: 不動産投資は老後の家賃収入として有効ですか?
A:
有効になり得ますが、空室・修繕・金利などの不確実性を前提に、リスク管理と出口戦略が不可欠です。購入前に複数シナリオで収支を検証し、管理体制を確保できる場合に限定して検討するのが安全です。まとめ
- 開業医の老後資金は「公的年金+自助努力」で設計し、引退後の収入減を前提にする
- iDeCoと小規模企業共済は性格が違い、税制優遇と資金拘束をセットで判断する
- 国税庁は小規模企業共済等掛金控除として、当年支払掛金の全額控除や証明書添付等を示している
- 不動産投資は分散に有効だが、流動性と借入リスクを数値で管理し出口まで設計する
- 「現状把握→安全域→制度→投資→点検」の順に進めると失敗しにくい
参照ソース
- 厚生労働省「iDeCoの概要」: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/nenkin/kyoshutsu/ideco.html
- 国税庁「No.1135 小規模企業共済等掛金控除」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1135.htm
- 国土交通省「不動産リスクマネジメント研究会(PDF)」: https://www.mlit.go.jp/common/001205288.pdf
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
ご注意事項
本記事の内容は、公開日時点における一般的な情報提供を目的としており、 特定の個人や法人に対する専門的なアドバイスを構成するものではありません。
税務・会計・法務等に関する具体的なご相談については、 必ず資格を持った専門家にご確認ください。 本記事の情報に基づいて行われた判断や行動により生じた損害について、 当事務所は一切の責任を負いかねます。
記事の内容は法令の改正等により変更される場合があります。 最新の情報については、関係省庁の公式サイト等でご確認ください。
