
執筆者:辻 勝
会長税理士
眼科開業費用の目安|白内障手術対応の資金計画|税理士が解説

眼科クリニック開業の結論:白内障手術対応は「設備投資+運転資金」が厚くなる
眼科クリニックの開業費用は、外来中心か、白内障手術(特に日帰り)まで対応するかで資金規模が大きく変わります。結論として、白内障手術対応では手術室・滅菌・手術機器が追加されるため、初期投資が一段上がります。
当法人(税理士法人 辻総合会計)での支援実務で多いレンジは、概ね次のイメージです(新品導入・標準的なテナント想定、地域・坪数で変動)。
- 外来中心(手術なし):概ね 7,000万〜1.5億円
- 白内障手術対応(手術室整備あり):概ね 1.5億〜3.0億円
特に重要なのは、設備の見積額だけでなく、開業後に資金繰りを崩さないための運転資金(最低3〜6か月)を別枠で確保することです。
眼科開業の流れ:手続きと工事を並走させるのが基本
白内障手術対応の場合、物件選定から開業までの目安は10〜18か月です。検査機器・手術機器は納期が長いことがあり、工程管理が重要になります。
開業までのステップ(チェックリスト形式)
Step 1: コンセプト設計(0〜1か月)
診療領域(一般眼科/コンタクト/小児/ドライアイ/白内障手術など)を決め、必要な部屋数・動線(外来導線と手術導線)を定義します。ここで「何をやらないか」まで決めると、設備投資が締まります。
Step 2: 物件選定・事業計画(1〜3か月)
テナントは医療区画としての制約(給排水・電源容量・空調・搬入動線)が核心です。白内障手術対応では、手術室・滅菌室・回復スペースを確保できる面積が必要になります。
Step 3: 基本設計・見積取得(2〜4か月)
内装・医療ガス(必要なら)・電源・照度・空調を含め、設計段階で機器ベンダーと擦り合わせます。手術機器は設置条件(床荷重、電源、空調、搬入)が厳格なケースがあります。
Step 4: 融資交渉・契約(2〜5か月)
見積の精度が上がった時点で金融機関に提出します。審査では「自己資金」「返済余力」「稼働計画(患者数・手術件数)」「管理体制(人員計画)」が見られます。
Step 5: 工事・採用・各種届出(3〜6か月)
工事と並行してスタッフ採用、就業規則、労務・社保、医療安全体制(インシデント報告、感染対策)を整備します。届出・申請は自治体運用も絡むため早めに着手します。
Step 6: 立ち上げ(開業前1〜2か月)
機器設置・動作確認、スタッフ研修、レセコン・電子カルテ・予約導線、術前説明資材の整備を行い、内覧会や紹介ルート(近隣医療機関)も整えます。開業後3か月は増患より“事故ゼロ運用”を優先するのが定石です。
白内障手術対応で増える設備投資:必要設備と「部屋」の考え方
白内障手術に対応する場合、検査機器に加えて「手術の前後を安全に回す環境」が必要になります。設備投資は大きく4ブロックです。
1) 外来検査機器(手術あり・なし共通の土台)
- スリットランプ、眼圧計、視力検査一式
- オートレフ/ケラト、角膜形状解析(方針次第)
- 眼底カメラ、OCT(導入優先度は高め)
- 視野計(緑内障の比率が高い立地なら重視)
- 生体計測(IOL選定に関係、手術対応では重要度が上がる)
2) 手術室・滅菌・回復(白内障手術対応の“追加投資”)
- 手術室(清潔区域の設計、導線分離)
- 滅菌(オートクレーブ等)、器械洗浄・保管
- 回復(リカバリー)スペース、術前説明・同意取得の運用
- 感染対策(手洗い設備、物品管理、廃棄物動線)
3) 手術機器(中核投資)
- 手術顕微鏡
- 白内障手術装置(超音波乳化吸引装置等)
- 手術台、無影灯、モニター、周辺機器
- 予備器具・消耗品(初期在庫)
4) IT・バックオフィス(見落としやすいが効く)
- 電子カルテ/レセコン、予約・問診、画像連携
- オンライン資格確認等の対応(導入スケジュール管理)
- 会計・キャッシュレス、監視カメラ(安全面)
手術なし/白内障手術ありの比較(投資・運用の違い)
| 項目 | 外来中心(手術なし) | 白内障手術対応(手術あり) |
|---|---|---|
| 必要面積の目安 | 25〜35坪でも成立 | 35〜60坪程度を検討しやすい |
| 追加で必要な部屋 | 検査室の最適化が中心 | 手術室、滅菌、回復、物品庫 |
| 初期投資の増え方 | 検査機器が主 | 手術機器+手術環境が上乗せ |
| 人員計画 | 外来オペ中心 | 外来+手術日の体制設計が必要 |
| リスク管理 | クレーム・待ち時間 | 医療安全・感染対策の比重が増 |
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資金計画の作り方:見積を「固定費化」して返済余力で判断する
開業資金は「いくら借りられるか」ではなく、「いくらなら安全に返せるか」で設計します。手術対応は売上が伸びやすい一方で、固定費も上がります。
1) 必要資金の内訳テンプレ(実務で使う分解)
- 物件取得・保証金等
- 内装工事(手術室を含む)
- 医療機器(検査+手術)
- 開業準備費(採用、広告、研修、消耗品初期在庫)
- IT(カルテ・レセコン・予約)
- 運転資金(最低3〜6か月)
ここでのポイントは、設備投資を一括で見ず、毎月の返済+固定費を足した「毎月の必要粗利」を可視化することです。損益分岐(固定費÷粗利率)が見えると、融資交渉も院内の意思決定も一気にブレなくなります。
2) 融資で見られる論点(金融機関目線)
- 院長の経歴・専門性(手術経験、紹介ネットワーク)
- 設備投資の妥当性(過剰投資になっていないか)
- 手術件数の立ち上がり計画(保守的か)
- 人員計画と人件費率(採用難リスク)
- 返済余力(DSCRの確保)
3) よくある相談:見積が膨らんだときの対処
当法人の支援では、「設計が進むほど追加が出る」のは珍しくありません。対処は次の優先順位が基本です。
- まず内装の“やりたい”を削る(将来増設できるものは後ろ倒し)
- 検査機器は導入順序を決める(初年度必須/2年目以降)
- 手術は安全性を落とさない範囲で標準化(予備品・動線は削らない)
よくある質問
Q: 白内障手術対応にすると、必ず開業費用は大きく増えますか?
A:
はい、増えるのが一般的です。理由は手術機器だけでなく、手術室・滅菌・回復スペースなど「環境」を整える必要があるためです。ただし、運用設計(手術日を限定する、導入機器を段階化する等)で増加幅をコントロールできます。Q: 開業の届出は、何から手を付ければよいですか?
A:
実務上は「自治体(保健所)との事前相談→設計確定→各種申請・届出→保険医療機関の指定申請→施設基準の届出」という順番で詰めることが多いです。手続きは地域差があるため、物件が固まった段階で早期に相談して工程表に落とし込むのが安全です。Q: 日帰り白内障手術は、運用で最もつまずきやすい点は何ですか?
A:
「術前説明と同意取得」「術後フォロー(翌日の状態確認等)」「滅菌・物品管理」「手術日の人員配置」です。設備を整えても、業務フローが未整備だと事故リスクと待ち時間が増えます。開業前にロールプレイまで行うことを推奨します。Q: 手術対応にすると利益は必ず増えますか?
A:
増える可能性は高い一方、固定費(人件費・減価償却・保守料)も増えます。勝ち筋は「地域の需要に合う症例構成」「紹介ルート」「安全運用の標準化」「稼働計画の保守性」です。数字は個別条件で大きく変わるため、事業計画での検証が必須です。まとめ
- 白内障手術対応の眼科開業は、手術機器に加え手術室・滅菌・回復の整備で初期投資が上がる
- 開業工程は10〜18か月を見込み、設計・機器納期・届出を並走させる
- 資金計画は設備投資だけでなく、運転資金(最低3〜6か月)を別枠で確保する
- 成功の鍵は、設備よりも「術前説明〜術後フォロー」までの安全運用フローの標準化
- 融資では返済余力と稼働計画の保守性が評価されるため、損益分岐を見える化する
参照ソース
- 厚生労働省「医療法(抜粋)」: https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/isei/shikarinsyo/gaiyou/kanren/iryo.html
- 地方厚生局「保険医療機関・保険薬局の指定等に関する申請・届出」: https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kinki/shinsei/shido_kansa/hoken_shitei/index.html
- 厚生労働省(資料)「短期滞在手術等基本料」: https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001326381.pdf
- 地方厚生局「基本診療料の届出一覧(令和6年度診療報酬改定)」: https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/kantoshinetsu/shinsei/shido_kansa/shitei_kijun/kihon_shinryo_r06.html
- e-Gov法令検索「医療法施行令」: https://laws.e-gov.go.jp/law/324CO0000000140
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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