
執筆者:辻 勝
会長税理士
医療法人とは?個人開業との違いとメリット【2026年】|税理士が解説

医療法人とは?結論からわかりやすく
医療法人とは、医療法に基づき、病院や常勤医師が勤務する診療所等の開設を目的として設立される法人です。個人開業との最大の違いは、利益が院長個人ではなく法人に帰属する点にあります。税金の計算方法だけでなく、社会保険、資金調達、承継(後継者・相続)まで設計が変わるため、「節税になるか」だけで判断するとミスマッチが起きやすいのが実務上の論点です。税理士法人 辻総合会計では、医療機関の法人化相談を継続的に扱ってきた経験から、判断の軸を整理してお伝えします。
医療法人の仕組みと種類(わかりやすく)
医療法人は「非営利性」が前提
医療法人は株式会社のように配当で利益を分配する仕組みではなく、事業の継続と医療提供体制の確保を前提に制度設計されています。ここでいう非営利性は「利益を出してはいけない」ではなく、「剰余金を出資者に配当しない」趣旨で理解すると整理しやすいでしょう。
出資持分の有無は“出口設計”に直結
医療法人には、歴史的経緯から「持分の定めがある法人(いわゆる持分あり)」と「持分の定めがない法人(持分なし)」が存在します。持分ありは退社・解散時の財産権が論点になりやすく、持分なしは役員報酬・退職金・賃料などで出口をどう作るかが核心になります。
医療法人と個人開業の違い(比較表で整理)
個人開業(個人事業)と医療法人(法人)の違いを、意思決定に直結する論点に絞って比較します。
| 項目 | 個人開業(個人事業) | 医療法人(法人) |
|---|---|---|
| 所得・利益の帰属 | 院長個人に帰属(事業所得) | 法人に帰属(法人所得) |
| 税金の体系 | 所得税(累進)・住民税など | 法人税等+役員報酬に所得税 |
| 社会保険 | 原則、従業員は加入(院長は国保等のケースあり) | 原則、役員・従業員とも社会保険(加入が前提になりやすい) |
| 資金調達・信用 | 院長個人の与信が中心 | 法人の決算・ガバナンスが評価対象になりやすい |
| 承継(後継者・相続) | 院長交代=事業の実質引継ぎが難しいことも | 持分・役員構成・退職金等で設計可能(ただし複雑) |
| コンプライアンス | 比較的シンプル | 認可・定款・事業報告等の事務が増える |
税率の“見え方”に注意(令和7年4月1日現在)
法人税率は法人区分・所得金額等で変動します。国税庁の「法人税の税率(令和7年4月1日現在)」のように、制度は定期的に更新されるため、試算は必ず最新の税率・前提で行う必要があります。
役員報酬は「損金」ルールがある
医療法人にすると、院長の取り分は「役員報酬」として設計するのが基本です。ただし、役員給与は何でも経費になるわけではなく、定期同額給与や事前確定届出給与などの要件を満たさないと損金算入できない取り扱いがあります。役員報酬の決め方は法人化後の税務リスクに直結します。
医療法人化のメリット・デメリット
医療法人の主なメリット
- 所得の分散が可能になり、役員報酬設計により税負担の最適化余地が生まれる
- 法人としての決算・規程整備により、金融機関への説明力が増しやすい
- 承継を「役員交代」「退職金」「持分(ある場合)」など複数の手段で設計できる
- 採用面で社会保険加入が明確になり、人材確保にプラスに働くケースがある
医療法人の主なデメリット
- 認可手続、定款管理、事業報告等、運営・事務コストが増える
- 役員報酬を柔軟に変えにくく、設計を誤ると損金否認などの税務リスクが出る
- 持分ありの場合、評価・承継で論点が重くなりやすい
- 取り崩し(資金の個人移転)に“自由度の制約”が生じる
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医療法人設立の流れ(手順をステップで解説)
医療法人の設立は、都道府県等の認可を前提とした実務が中心です。一般的な流れは次のとおりです(詳細は地域・類型で異なります)。
Step 1: 法人化の目的を明確化する
節税、採用、分院展開、承継など、狙いを言語化します。目的が曖昧だと、役員報酬や退職金の設計がぶれます。
Step 2: シミュレーション(税金・社会保険・キャッシュ)
個人と法人の税負担差だけでなく、社会保険料、役員報酬の固定性、内部留保の必要額を含めて試算します。
Step 3: 類型・ガバナンス設計(役員、定款、持分の考え方)
持分の扱い、役員構成、議決権設計、附帯業務の範囲などを整理します。ここで出口設計の骨格も決まります。
Step 4: 認可申請・設立登記・各種届出
都道府県への認可申請、認可後の設立登記、税務署・年金事務所等への届出を行います。
Step 5: 運用開始後のルール整備
役員報酬の支給方法、経理規程、事業報告の体制、分院・介護事業との連携などを整えます。
判断のポイントと注意点(リスク回避)
「法人化すべきタイミング」は利益だけで決まらない
利益水準は重要ですが、それだけでなく、院長のライフプラン(いつ引退するか)、後継者の有無、設備投資の予定、分院計画の有無で結論が変わります。特に、法人化後は役員報酬の設計変更に制約があるため、短期の損得より中期計画が重要です。
税務調査で見られやすい実務ポイント
- 役員報酬がルールに沿って決議・運用されているか
- 親族への給与・外注費が実態に即しているか
- 法人と個人の支出区分(家事関連費の混入など)が適切か
ケーススタディ(よくある相談)
例えば、自由診療が伸びて利益が厚くなった一方で、採用強化や分院展開を検討しているクリニックでは、法人化により資金調達・管理体制が整うメリットが出やすいです。一方、院長の引退が近く後継者が未定の場合、拙速な法人化は承継を難しくすることがあります。個別の状況で最適解が変わるため、試算と設計をセットで行うことが重要です。
よくある質問
Q: 医療法人にすると必ず節税になりますか?
A:
必ずとは言えません。所得税の累進課税が重い場合に法人化が有利になることはありますが、社会保険料や事務コスト、役員報酬の固定性まで含めると不利になるケースもあります。税金だけでなくキャッシュフローで比較するのが安全です。Q: 医療法人の役員報酬は自由に変えられますか?
A:
原則として、期中に任意に増減させると損金算入できないリスクが高まります。国税庁が示す「定期同額給与」等の要件に沿って運用する必要があるため、期首に設計し、合理的な理由がない変更は避けるのが基本です。Q: 個人の借入や資産は医療法人に引き継げますか?
A:
そのまま自動的に引き継がれるわけではありません。資産の売買・賃貸、債務の引受、契約の変更など、法務・税務の論点が発生します。移転方法によって税負担や資金繰りが変わるため、手順設計が必要です。まとめ
- 医療法人とは、医療法に基づき医療提供を目的に設立される法人で、利益は法人に帰属する
- 個人開業との違いは、税金・社会保険・ガバナンス・承継設計まで幅広い
- メリットは最適化余地(報酬設計・信用力・承継手段)、デメリットは運営負担とルール制約
- 設立は認可手続が前提で、税務・法務・労務を一体で設計することが重要
- 最終判断は「節税」だけでなく、中期の経営計画と出口設計で決める
参照ソース
- 厚生労働省「医療法人・医業経営のホームページ」: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/igyou/index.html
- 国税庁「No.5759 法人税の税率(令和7年4月1日現在法令等)」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5759.htm
- 国税庁「No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5211.htm
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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