
執筆者:辻 勝
会長税理士
医療法人の法人税|税率と計算方法を2026年対応で税理士が解説

医療法人の法人税とは(誰に何が問題か)
医療法人の法人税とは、医療法人が事業で得た利益(正確には課税所得)に対して国に納める税金です。院長・理事長にとっての悩みは、「決算で黒字なのに、申告書では課税所得が増減して税額が読みにくい」点ではないでしょうか。特に役員報酬や交際費、減価償却の判断で税負担が大きく変わります。本記事では、医療法人の法人税の税率と計算手順を、実務目線でわかりやすく解説します。
医療法人の法人税率(医療法人 税率)
法人税率は「法人区分」と「所得の金額」で決まる
医療法人の法人税率は、まず「普通法人(中小法人等)に該当するか」で大枠が決まり、次に「所得の金額のうち年800万円以下か超か」で段階的に適用されます。ここでいう中小法人等は、原則として資本金1億円以下等の要件があります。
代表的な税率(年800万円を境に段階課税)
医療法人で多いケースを中心に、税率を整理すると次のイメージです(地方法人税や地方税は別枠で発生します)。
| 区分 | 年800万円以下の部分 | 年800万円超の部分 | 実務上のポイント |
|---|---|---|---|
| 普通法人(中小法人等) | 15%(一定の場合17%) | 23.2% | 「資本金1億円以下等」でまず判定 |
| 普通法人(上記以外) | 23.2% | 23.2% | 大法人側は原則一律 |
| 特定の医療法人(承認要件あり) | 15%(一定の場合17%) | 19% | 一般の23.2%より低い特例枠 |
法人税の計算方法(法人税 計算)
法人税は「会計の利益」ではなく「税務の所得」で計算する
法人税の出発点は決算書の利益ですが、税務では「損金算入できない支出」や「税務上の償却限度」などがあるため、会計の利益=税金計算の利益とは限りません。医療法人の申告では、別表四で利益を課税所得に調整していくのが基本です。
計算の流れ(ステップ形式)
Step 1: 決算利益(税引前当期純利益)を確認する
まずは決算書ベースの利益を把握します。ここがゼロでも、税務調整で課税所得が出る場合があります。
Step 2: 税務調整で課税所得を算定する(加算・減算)
交際費、役員給与、寄附金、減価償却、引当金などを中心に、会計と税務の差を調整します。ここで役員報酬や交際費の扱いが税額に直結しがちです。
Step 3: 税率を当てはめて法人税額(概算)を出す
年800万円以下と超の部分に分けて計算します(特定の医療法人は超過部分19%の枠が特徴です)。
Step 4: 税額控除・既納税額を差し引き、納付税額を確定する
源泉所得税の控除等がある場合はここで反映します。
具体例(イメージ)
- 決算利益:1,200万円
- 税務調整(損金不算入等の加算):+150万円
- 税務調整(損金算入等の減算):▲50万円
- 課税所得:1,300万円
この場合、年800万円以下部分と超過部分に分けて税率を適用し、法人税額を算定します。実務では、地方法人税や地方税(法人住民税・法人事業税)も加わるため、「法人税だけ」を見て資金繰りを組むのは危険です。
医療法人で税額が変わりやすいポイント(医療法人 税金)
1. 役員報酬の設計(期中変更はリスク)
役員報酬は、原則として期首からの定期同額給与など要件を満たす必要があります。期中に金額を動かすと損金算入が否認されるリスクがあり、結果として法人税が跳ね上がることがあります。
2. 交際費・会議費の線引き
医療法人は取引先対応も多い一方、交際費は損金算入に制限があります。会議費として整理できる実態・証憑があるか(参加者、目的、場所、内容)が分岐点です。
3. 減価償却と設備投資のタイミング
医療機器や内装は金額が大きく、耐用年数・償却方法の違いが課税所得に影響します。導入時期が期末に寄ると、当期の償却が限定され、税負担が想定より残るケースがあります。
4. 欠損金(赤字)の扱い
赤字が出た場合でも、申告をしないと欠損金の繰越控除ができません。資金繰りが厳しい期ほど申告を後回しにしがちですが、翌期以降の税負担に直結します。
ケーススタディ(匿名事例)
当法人(税理士法人 辻総合会計)では、クリニック・医療法人の税務相談を継続的に受けています。たとえば、年商2億円規模の医療法人で、設備投資を優先した結果「利益は出たが納税資金が薄い」状態になった事例がありました。決算3か月前から納税予測を作り、支出の時期調整と役員報酬の整合を取ったことで、資金繰りの不安を抑えつつ税額のブレを小さくできました。重要なのは、節税の可否より先に「ルールを満たす設計」と「資金繰り」を同時に見ることです。
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2026年以降に押さえる制度変更の見取り図
防衛特別法人税(新設)の影響に注意
2026年(令和8年)4月1日以後に開始する事業年度から、法人税が課される法人は防衛特別法人税の対象となり、申告書の提出が必要になる旨が公表されています。税率そのものだけでなく、申告・事務負担が増える可能性があるため、早めに顧問税理士と論点整理をしておくと安全です。
「特定の医療法人」を検討するなら要件と運用をセットで
特定の医療法人の税率特例は魅力がありますが、承認要件・申請手続・運営実態の維持が前提です。医療法人のガバナンスや運営方針と整合するかを含めて検討しましょう。
よくある質問
Q: 医療法人の法人税は、個人開業(所得税)より必ず安いですか?
A:
一概には言えません。所得税は累進課税、法人税は法人区分に応じた税率ですが、役員報酬設計、社会保険、退職金設計、内部留保方針まで含めたトータルで比較する必要があります。Q: 「年800万円以下の15%」は、医療法人なら必ず使えますか?
A:
いいえ。資本金1億円以下等の中小法人等に該当するか、完全支配関係のある大法人がいないか等の判定が必要です。医療法人の資本関係・グループ状況によっては適用できません。Q: 特定の医療法人になると何が変わりますか?
A:
法人税率の特例があり、通常の普通法人よりも低い税率が適用される枠があります。ただし承認要件があり、申請手続と運営管理が必要です。節税効果だけで判断すると、運用負担が課題になる場合があります。Q: 決算で利益が出たのに、手元資金が増えないのはなぜですか?
A:
医療法人は保険請求の入金タイミングが遅れることがあり、利益とキャッシュがズレやすい構造です。設備投資や借入返済も重なると、納税資金が不足しやすくなります。まとめ
- 医療法人の法人税は、会計利益ではなく課税所得を基準に計算する
- 税率は「法人区分」と「年800万円以下/超」で段階的に決まる
- 役員報酬、交際費、減価償却、欠損金が税額変動の主要因
- 2026年以降は防衛特別法人税など、申告実務面の変更にも注意が必要
- 税額最適化は「ルール適合」と「資金繰り」を同時に設計するのが実務的
参照ソース
- 国税庁「No.5759 法人税の税率」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5759.htm
- 国税庁「令和7年版 法人税のあらましと申告の手引」: https://www.nta.go.jp/publication/pamph/hojin/aramashi2025/01.htm
- 国税庁「C5-1 特定医療法人としての承認を受けるための申請」: https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/iryo/annai/01.htm
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
ご注意事項
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