
執筆者:辻 勝
会長税理士
持分なし医療法人移行の手順|認定医療法人制度を税理士が解説

持分なし医療法人への移行とは|結論と押さえるべき論点
持分あり医療法人から持分の定めのない医療法人(いわゆる持分なし医療法人)へ移行するとは、「出資持分に基づく財産権(払戻し・残余財産分配の前提)を消滅させ、残余財産の帰属先を国等に限定する」方向へ法人の設計を切り替えることです。
誰にとって何が問題かというと、持分ありのままだと、相続・退社・解散局面で出資持分評価が膨らみ、納税資金の手当てや院内ガバナンスが不安定になりやすい点が課題です。一方、持分なしへ移行すれば「相続税評価のねじれ」を抑えられますが、移行過程では持分放棄や払戻しに伴う税負担・資金負担が論点になります。
このギャップを埋める制度が認定医療法人制度(移行計画認定制度)であり、税制上の特例を使いながら計画的に移行するのが実務上の王道です。
認定医療法人制度(移行計画認定制度)とは|メリット・期限・要件
認定医療法人のメリット(税務面と実務面)
認定医療法人制度は、持分あり医療法人が持分なしへ移行する「計画」を作り、厚生労働大臣の認定を受ける枠組みです。実務的なメリットは次のとおりです。
- 相続発生時に、一定要件のもとで相続税の納税猶予・免除の道が開ける(移行期限までに持分放棄等が完了することが重要)
- 移行過程で発生し得るみなし贈与税等の負担を軽減できる可能性がある
- 「いつまでに何をするか」を計画化することで、金融機関・医療従事者・親族への説明が通りやすい
当法人(税理士法人 辻総合会計)でも、院長の世代交代や相続対策の相談で「まず認定の可否を判定し、移行計画の実現可能性(資金・意思決定・運営要件)を先に固める」案件が増えています。
期限(いつまでに何を完了すべきか)
認定医療法人制度は期限付きの措置で、制度を利用する場合は移行期限を逆算した行動が必要です。制度期限が近づくと申請が集中し、差戻しリスクも高まります。
また、既に相続が発生しているケースでは「相続税の申告期限(原則10か月)」までに認定を受ける必要があるなど、税務のタイムラインが別途乗ってきます。
認定の要件(ざっくり把握)
細目は個別確認が前提ですが、概ね次の論点が重要です。
- 社員総会で移行計画を議決できるか(意思決定の安定性)
- 移行計画が「有効かつ適正」か(工程・資金・持分処理の現実性)
- 運営要件(遊休財産など)を満たせるか(医療法人としての非営利性・適正運営)
持分放棄とは|持分あり医療法人との違いと“税務の落とし穴”
「持分あり」と「持分なし」の違い(ここだけは必読)
持分あり医療法人は、出資持分に応じた財産権が制度設計の背骨にあります。これが相続税評価の対象になり、相続時に資金流出(納税)が起きやすい構造です。
一方、持分なしは、出資持分に基づく払戻し・残余財産分配を前提としません。ここが「承継のしやすさ」に直結しますが、移行には「持分の消滅手続き」と「定款の抜本変更」が必要です。
持分放棄のイメージ(よくある誤解)
持分放棄は「出資者が持分をゼロにする意思表示」です。実務上は、出資者(多くは院長・親族)が将来の財産権を捨てることになるため、親族間の合意形成が最大の難所になります。
よくある誤解として「放棄すればすぐ持分なしになる」がありますが、実際には放棄(または払戻し等)で持分を消滅させたうえで、定款変更の認可・登記・報告まで一連の手続きが続きます。
税務の落とし穴(みなし贈与・経済的利益)
持分放棄により、法人や他の出資者が経済的利益を得たと評価されると、税務上の論点が発生します。認定医療法人制度の活用可否で、負担感が大きく変わるため、移行に着手する前に「現状の持分評価」と「誰がどの利益を受ける構造か」を整理することが重要です。
特に、出資者が複数いる医療法人では、放棄の順序や割合によって、残存出資者側の課税論点が出やすくなります。
医療法人の移行手続き(実務フロー)|認定申請から定款変更まで
ここからは、現場で使える形に落とした移行の全体像です。案件の難易度は「出資者構成」「資金余力」「都道府県運用」の3点で大きくブレます。
Step 1: 現状把握(持分評価・出資者名簿・ガバナンス確認)
- 出資者名簿の整備、持分割合の確定(過去の変遷も含む)
- 持分評価の概算(相続・贈与の影響を把握)
- 役員構成、社員総会運営、親族関係(合意形成リスク)を棚卸し
Step 2: 移行方針の決定(放棄か払戻しか、期間設計)
- 持分処理の方法(放棄・払戻し・組合せ)と順序
- 移行期間中の資金繰り(金融機関説明の材料)
- 役員報酬・退職金・賃貸借(MS法人含む)など“出口設計”の整合
Step 3: 移行計画の作成と認定申請(認定医療法人)
- 移行計画を作成し、社員総会で議決
- 申請書類一式を整備し、厚労省へ提出(原則メール提出)
- 差戻しに備え、根拠資料(財務諸表、要件説明資料)を丁寧に用意
Step 4: 認定後の実行(持分処理・定款変更・認可)
- 計画に沿って持分放棄等を実施
- 定款変更(残余財産の帰属先、持分規定の整理等)を行い、都道府県の認可へ
- 認可後、登記・関係先への説明(金融機関、主要取引先、院内体制)
Step 5: 報告とアフターフォロー(運営要件の継続)
- 認定後は進捗・運営状況等の報告が求められる
- 遊休財産や運営要件の維持、ガバナンス運用を継続
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比較表|認定医療法人を使う場合・使わない場合の整理
| 観点 | 認定医療法人制度を活用 | 活用しない(通常移行) |
|---|---|---|
| 税務 | 相続税の納税猶予・免除等の特例が射程に入る/移行過程の税負担が軽減され得る | 持分放棄・価値移転の局面で課税論点が出やすい |
| スケジュール | 申請・認定・報告が工程に追加されるが、計画で管理しやすい | 早く動ける一方、後で税務・法務の手戻りが起きやすい |
| 対外説明 | 「国の認定を受けた計画」により金融機関・親族説明が通りやすい | 説明材料を自前で厚くする必要がある |
| 実務負荷 | 申請書類・報告の事務負荷が増える | 認定関連の負荷はないが、税務リスク対応が重くなる場合 |
よくある相談(ケーススタディ)|親族が出資者の医療法人
例えば、出資者が「院長70%、配偶者30%」で、院長の相続が近いケースです。
この場合、院長の持分評価が高いと、相続税の納税資金のために金融機関借入を増やすか、役員退職金等で評価を圧縮する検討が必要になります。ただし、評価圧縮だけを急ぐと、配偶者側の持分や将来の遺産分割で揉めやすくなります。
実務では、(1) 認定医療法人制度の活用可否、(2) 5年程度の工程で持分を段階的に処理できるか、(3) 役員報酬・退職金・賃貸借の“出口設計”を同時に組めるか、の順に検討すると整理が進みます。
よくある質問
Q: 持分ありから持分なしへの移行は、必ず認定医療法人制度を使うべきですか?
A:
一概にはいえません。制度を使うと申請・報告の事務負荷は増えますが、税務面の特例が適用できる余地があり、特に相続が視野に入る場合は検討価値が高いです。出資者構成、持分評価、相続の見込み時期で判断します。Q: 持分放棄をすると、すぐに税金がかかりますか?
A:
取引の構造によっては、法人や他の出資者が経済的利益を得たとして課税論点が生じ得ます。認定医療法人制度の要件を満たすか、放棄の順序・割合、持分評価の前提により結論が変わるため、実行前に税務シミュレーションが必要です。Q: 移行にどれくらい時間がかかりますか?
A:
目安は「認定申請〜認定取得」「持分処理」「定款変更の認可」の3段階で、それぞれにリードタイムがあります。親族合意や金融機関調整がある場合は長期化しやすいため、期限から逆算した工程表の作成が重要です。まとめ
- 持分なし医療法人への移行は「持分の消滅」と「定款変更」が核心
- 認定医療法人制度は、移行を計画化し、税務面の特例を狙える枠組み
- 期限・相続税申告期限・都道府県認可のリードタイムを同時に管理する
- 実務のボトルネックは、書類作成よりも親族合意と資金繰り設計
- 着手前に持分評価・課税論点・工程表をセットで整備すると手戻りが減る
参照ソース
- 厚生労働省「持分の定めのない医療法人への移行計画の認定申請について(認定医療法人制度)」: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000205627.html
- 厚生労働省「持分なし医療法人への移行に関する手引き書」: https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000940229.pdf
- 国税庁「No.4150 医療法人の持分についての相続税の納税猶予の特例」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4150.htm
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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