
執筆者:辻 勝
会長税理士
医療法人 設立費用の目安|法人化コストを税理士が解説

医療法人の設立費用は、結論として「実費は数万円〜十数万円程度、専門家に依頼する場合は報酬を含めて数十万円〜100万円超まで幅が出る」ものです。特に専門家報酬の範囲(どこまで丸投げするか)と、法人化に伴う資産・契約の整理(賃貸借、医療機器、スタッフ体制)で総額が変わります。ここでは「何にいくらかかるか」を分解し、院長が意思決定しやすい形で目安を示します。
医療法人の設立費用はいくらかかる?相場の捉え方
医療法人の設立費用は、「設立そのもののコスト」と「法人化に付随して発生するコスト」に分けると理解が早くなります。前者は書類作成・申請・登記のためのコスト、後者は運営を法人に切り替えるためのコストです。
- 設立そのもののコスト:行政手続の実費、登記・印鑑関連、専門家報酬
- 付随コスト:契約名義変更、規程整備、会計・給与体制の切替、必要に応じて資産整理
医療法人化の費用内訳:実費と専門家報酬を分解する
実費(外部に払う“固定費目”)
実費は「証明書取得」「印鑑・登記関連」「申請書類の作成・提出に伴う費用」が中心です。金額は地域や状況で前後しますが、設立時の現金支出としては比較的読みやすい領域です。
- 印鑑作成費(代表印・銀行印・角印など)
- 印鑑証明書・登記事項証明書などの取得費
- 書類作成・発送・交通費(郵送中心でも一定額は発生)
- 登記申請に付随する諸費用(委任状、添付書類の整備等)
専門家報酬(変動の中心)
費用の振れ幅を生むのは、ほぼこの領域です。典型的には次のように分業します。
- 行政書士:都道府県への認可申請書類の作成・折衝支援
- 司法書士:設立登記(法務局)手続
- 税理士:法人化設計(役員報酬・決算期・消費税・資産整理)、設立後の会計税務運用
依頼範囲が「書類作成のみ」か「ヒアリングから要件整理、スケジュール管理、差戻し対応まで」かで金額が大きく異なります。見積を比較する際は、金額そのものより「対応範囲(スコープ)」を揃えることが重要です。
法人成りコストが増えやすいポイント
医療法人化は“手続を通す”だけでなく、“運営を法人に載せ替える”ことが本丸です。次の論点がある場合、付随コストが増えやすくなります。
1) 既存契約の名義・条件変更(賃貸借、リース、保守)
院長個人契約のままにできるもの、医療法人へ切替が必須のものが混在します。切替時に手数料が発生したり、再審査・保証条件の見直しが入ることがあります。
2) 資産の整理(医療機器・内装・車両など)
個人から法人へ資産を移すときは、税務(譲渡・時価・消費税の論点)や会計処理が絡みます。ここは資産移転の税務が論点化しやすく、税理士の関与範囲も広がりやすい部分です。
3) 人・規程・給与計算の切替
スタッフがいる場合は、雇用契約、就業規則、給与計算、社会保険の整理などが必要になります。外部社労士の関与が増えると、費用は増える一方で、運用リスク(未整備のまま走るリスク)は下がります。
設立費用の見積テンプレ:自走と外注でどう変わる?
医療法人設立の“コスト構造”を把握するため、よくあるパターンを比較します(あくまで目安で、地域・難易度・依頼範囲で変動します)。
| 項目 | 自走(最小) | 外注(標準) | 外注(フルサポート) |
|---|---|---|---|
| 行政手続の実費(証明書・印鑑等) | 数万円〜 | 数万円〜 | 数万円〜 |
| 申請書類作成(都道府県認可) | 0円(自作) | 報酬発生 | 報酬発生(調整含む) |
| 設立登記(法務局) | 0円(自分で申請) | 報酬発生 | 報酬発生(迅速対応) |
| 法人化設計(税務・会計) | 最小限 | 相談・設計費が発生 | 体制構築まで発生 |
| 合計イメージ | 実費中心 | 実費+報酬で数十万円〜 | 100万円超もあり得る |
ポイントは、「どこまでを“設立費用”に含めるか」を事前に定義することです。特に、会計・給与・規程まで含めた設立後の運営コストの立上げ支援は、見積に入っていないことがあり、後から追加費用になりがちです。
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費用を抑えるための進め方(手続きの段取り)
費用を抑えるコツは、値引き交渉よりも「差戻しの回数を減らす」「依頼範囲を整理する」ことです。以下の段取りで進めると、無駄な追加対応が減ります。
Step 1: “設立”と“運営切替”を分けて費目を棚卸し
設立(認可〜登記)に必要な作業と、運営切替(契約・資産・労務・会計)の作業を分け、論点ごとに担当者を決めます。
Step 2: 依頼範囲(スコープ)を文章で固定する
「申請書類の作成のみ」「都道府県との照会対応まで」「スケジュール管理・差戻し対応込み」など、見積の前提を揃えます。
Step 3: 先に決めるべき“設計項目”を確定する
決算期、役員体制、役員報酬の方針、資産の扱い、スタッフの雇用形態などを先に決めると、手戻りが減ります。
Step 4: 設立後3ヶ月の運用まで見据えて体制を整える
会計ソフト、給与計算フロー、請求・支払、稟議・承認など、最初の3ヶ月で破綻しやすい運用を先に固めます。
よくある質問
Q: 医療法人の設立に「資本金」は必要ですか?
A:
医療法人は株式会社のような資本金制度が前提ではありません。ただし、設立時点の資産状況(資産の総額など)を示す書類が求められるため、運転資金や設備資金を含めた資金計画は別途重要です。Q: 医療法人化で、個人の資産を法人に移すと税金がかかりますか?
A:
資産の種類と移し方によっては、譲渡に伴う課税や消費税の論点が生じる場合があります。個別性が高い領域のため、資産一覧を作ったうえで、税務面の影響を事前に試算するのが安全です。Q: 設立費用を抑えるために、どこを自分でやるのが効果的ですか?
A:
効果が出やすいのは、(1)必要書類の収集・整理、(2)意思決定(役員・決算期・運営設計)を早く固めることです。一方、都道府県認可や登記は差戻し対応がコスト化しやすいため、負担感に応じて専門家活用を検討するとよいでしょう。まとめ
- 医療法人の設立費用は「実費+専門家報酬」で構成され、総額の振れ幅は主に依頼範囲で決まる
- 付随コスト(契約・資産・労務・会計の切替)が見積外になりやすいので、先に費目定義を行う
- 進め方は「設立」と「運営切替」を分け、論点ごとに担当とスコープを固定するのが有効
- 資産の移転は税務論点が出やすく、事前の資産棚卸しと試算が重要
- 個別事情で最適解が変わるため、見積比較では金額より対応範囲の揃え込みが重要
参照ソース
- 厚生労働省「医療法人設立等の手続等について」: https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/isei/igyou/igyoukeiei/tetuduki.html
- 宮城県「医療法人の申請・届出 ガイド(登記の届出について)」: https://www.pref.miyagi.jp/documents/53493/maruwaka_touki.pdf
- 法務局「医療法人設立登記申請書(PDF)」: https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/content/001252952.pdf
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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