
執筆者:辻 勝
会長税理士
医療法人の相続対策|出資持分評価と節税方法を税理士が解説

医療法人の相続対策は、出資持分の「相続税評価」を正しく把握し、承継スキーム(誰に・いつ・どう移すか)を先に設計することが要点です。特に持分あり医療法人は、相続税負担が重くなりやすい一方、制度活用や財務・報酬設計で手当てできる余地もあります。院長・理事長ご本人にとっては「親族に継がせたいが、税負担と法人の資金繰りが不安」という悩みが、最大の論点ではないでしょうか。
本記事では、出資持分の評価の基本、持分あり・なしの違い、節税の打ち手、そして医療法人における「事業承継税制」との関係を、税理士法人 辻総合会計の実務視点で整理します。
医療法人の相続とは?まず押さえる論点
医療法人の相続は、一般の株式会社の相続(非上場株式の承継)と似ているようで、入口が異なります。結論として、相続税の対象になり得るのは「法人の資産」そのものではなく、出資者が保有する出資持分や、役員貸付金・個人所有不動産など周辺資産です。
持分あり・持分なしで相続税の悩みが変わる
持分あり・持分なしは、相続対策の設計思想を分けます。ざっくり言えば、持分ありは「評価が上がるほど相続税が重い」、持分なしは「相続税の悩みは相対的に軽くなるが、出口(退任・解散・利益処分)の設計が重要」という構図です。
| 観点 | 持分あり医療法人 | 持分なし医療法人 |
|---|---|---|
| 相続税の主な論点 | 出資持分の相続税評価が課題 | 出資持分が存在しないため、持分課税の悩みは縮小 |
| 価値が高いほど起きる問題 | 相続税負担増、納税資金の確保 | 役員報酬・退職金・賃料など「出口設計」の最適化 |
| 実務で多い相談 | 「評価が高すぎる」「相続人が複数」「後継者が未確定」 | 「資金の残し方」「後継理事長への権限移譲」「退任時の手当」 |
| 打ち手の方向性 | 評価圧縮・移転計画・制度活用 | ガバナンス・利益配分・退職金規程の整備 |
出資持分の評価方法|類似業種比準方式の考え方
相続税の計算では、出資持分は「取引相場のない株式(出資)」に準じた考え方で評価されます。医療法人は剰余金配当が禁止されるなど、一般会社と異なる特色があるため、評価の入口で迷いやすい領域です。
国税庁の考え方:業種目は「その他の産業」になりやすい
国税庁の質疑応答事例では、医療法人の出資を類似業種比準方式により評価する場合、類似する業種目が見当たらないことから業種目を「その他の産業」として評価する旨が示されています。また、会社規模区分の考え方として、医療法人はサービス業の一種と捉え「小売・サービス業」に該当する旨も整理されています(注記として、令和7年8月1日現在の法令・通達に基づく旨の記載があります)。
評価が上がりやすい法人の特徴
実務上、出資持分の評価が上がりやすい典型パターンは次のとおりです。
- 内部留保(剰余金相当)が厚く、純資産が積み上がっている
- 収益力が安定しており、将来利益の見込みが強い
- 不動産や高額医療機器など、資産構成が重い
- 理事長交代や分院展開などで、財務が拡大局面にある
ここで重要なのは、「評価が高い=悪」ではなく、地域医療を継続できる強い法人である可能性も高い点です。相続は“税金の最小化”だけでなく、“医療提供の継続性”まで含めた設計が必要です。
節税方法の全体像|評価・移転・納税資金の3点セット
医療法人の相続対策は、(1)評価の把握、(2)持分の移転設計、(3)納税資金の確保を同時に進めることが鉄則です。部分最適(例えば「退職金だけ増やす」など)にすると、別のところで詰まることが少なくありません。
代表的な打ち手(方向性)
- 役員退職金の規程整備と支給タイミングの設計(法人・個人のバランス)
- 役員報酬の適正化(将来の利益・内部留保の積み上がり方をコントロール)
- 資産入替・設備投資計画(医療の質向上と財務バランスを両立)
- 後継者への段階的な承継(理事長交代、権限委譲、ガバナンス整備)
- 相続人間の調整(遺言・種類株式のような手法は使えないため、周辺資産の配分設計が重要)
医療法人の事業承継税制とは?一般の制度との違い
「医療法人 事業承継税制」で検索される方が増えていますが、一般に国税庁が案内する「法人版事業承継税制」は、円滑化法の認定を受けた非上場会社の株式等を承継した場合の納税猶予制度です。医療法人は株式会社の株式とは制度的に性格が異なるため、ここは混同が起きやすいポイントです。
医療法人で実務上の軸になるのは「認定医療法人制度」
持分あり医療法人が持分なし医療法人へ移行する際に活用を検討するのが認定医療法人制度(移行計画認定制度)です。厚生労働省の案内では、本制度の期限が「令和8年12月31日まで」とされ、利用するには当該期日までに移行計画の認定を受ける必要がある旨が明示されています。また、相続が既に発生している場合は相続税申告期限(相続開始から10か月以内)までに認定を受ける必要がある旨も示されています。
制度活用の可否は、法人の財務状況、出資者構成、相続の発生時期、移行計画の内容(要件充足)により大きく変わります。早期に「使えるかどうか」の一次判定を行うことが重要です。
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相続対策の進め方|評価→方針→実行の手順
ここでは、実務で事故が起きにくい進め方を、ステップ形式で整理します。
Step 1: 現状把握(持分の有無・出資者・財務)
定款・出資者名簿・直近3期の決算書を確認し、持分の有無、出資者構成、純資産の推移、役員貸付金や関連当事者取引の有無を整理します。
Step 2: 相続税評価の概算を出す
国税庁の考え方を踏まえ、類似業種比準方式等による概算評価を行い、「どの程度の相続税インパクトがあるか」を見える化します。ここで初めて、制度活用や財務施策の優先順位が決まります。
Step 3: 承継方針の決定(親子承継/親族内/第三者も含む)
後継者の有無、医療提供体制(診療科・勤務医体制)、家族関係(相続人構成)を踏まえ、承継ルートとスケジュールを決めます。理事長交代のタイミングは、税だけでなく診療・採用・金融機関対応にも影響します。
Step 4: 打ち手の組み合わせ(制度・退職金・報酬・資産)
認定医療法人制度の適用可否を検討しつつ、退職金規程、役員報酬、設備投資、周辺資産の分配設計(遺言等)を組み合わせて実行計画に落とします。
Step 5: 実行とモニタリング(毎期の見直し)
評価は業績・純資産で動きます。毎期の決算で評価と納税資金の見通しを更新し、必要なら計画を修正します。承継は「1回で終わる手続き」ではなく、数年単位のプロジェクト管理が肝心です。
よくある質問
Q: 出資持分の評価は、毎年同じになりますか?
A:
同じとは限りません。純資産の増減、収益力、資産構成の変化により評価は動きます。特に内部留保が積み上がる局面では評価が上がりやすいため、決算ごとに概算評価を更新する運用が実務的です。Q: 認定医療法人制度はいつまで使えますか?
A:
厚生労働省の案内では、本制度の期限は令和8年12月31日までとされ、利用する場合は当該期日までに移行計画の認定を受ける必要があります。期限直前は申請が混み合う可能性があるため、早めの検討が推奨されています。Q: 退職金を出せば必ず相続税対策になりますか?
A:
退職金は有効な打ち手になり得ますが、金額・根拠・タイミングが重要です。過大な設定は税務上の否認リスクがあり、法人の資金繰りを悪化させると医療提供にも影響します。規程整備とシミュレーションを前提に検討してください。まとめ
- 医療法人の相続対策は出資持分の評価把握が出発点
- 持分ありは相続税評価が重くなりやすく、持分なしは出口設計が重要
- 国税庁の考え方では、医療法人の類似業種比準方式の業種目は「その他の産業」と整理される
- 節税は「評価・移転・納税資金」を同時に設計し、退職金・報酬・資産計画を組み合わせる
- 認定医療法人制度は期限(令和8年12月31日)を意識し、早期に適用可否を判定する
免責事項 本記事は一般的な情報提供を目的としています。具体的な評価方法や税務判断は、定款・出資者構成・財務内容・相続人関係等により異なります。実行前に税理士等の専門家へ個別相談してください。
参照ソース
- 厚生労働省「持分の定めのない医療法人への移行計画の認定申請について(認定医療法人制度)」: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000205627.html
- 国税庁「医療法人の出資を類似業種比準方式により評価する場合の業種目の判定等(質疑応答事例)」: https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/hyoka/13/02.htm
- 国税庁「法人版事業承継税制」: https://www.nta.go.jp/publication/pamph/jigyo-shokei/houjin.htm
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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