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クリニック向けコラム
作成日:2026.01.12
更新日:2026.01.12
辻 勝

執筆者:辻 勝

会長税理士

医療法人の税務調査ポイント|個人クリニックとの違いを税理士が解説

8分で読めます
医療法人の税務調査ポイント|個人クリニックとの違いを税理士が解説

医療法人の税務調査の特徴とは(結論)

医療法人の税務調査は、個人クリニックと比べて「法人としてのお金の動き」を広く確認されます。具体的には、役員報酬・退職金・交際費・関係者取引・資金移動に加え、源泉所得税や消費税の論点が中心になりやすい点が特徴です。
個人の場合は事業所得の計上漏れや家事按分などが論点になりがちですが、医療法人では「法人と理事長個人の線引き」が核心になります。

税理士法人 辻総合会計では、クリニック・医療法人の顧問実務や税務調査の立会いを通じて、指摘が出やすいパターンと、出にくい体制(証憑・規程・運用)には一定の共通項があると実感しています。本記事では、その共通項を“調査目線”で整理します。

医療法人 税務調査 ポイント:法人で見られやすい論点5つ

1. 役員報酬・賞与・退職金(「損金性」と「決定手続」)

医療法人では、理事長・役員への支払が多様化しやすく、調査では「法人の経費として認められるか(損金性)」が丁寧に見られます。
典型論点は、定期同額給与の要件逸脱、臨時の上乗せ、役員賞与の扱い、退職金の根拠(規程・議事録・算定)などです。

ここがポイント
役員報酬や退職金は、金額の妥当性だけでなく「決定プロセス(議事録・規程・改定理由)」が重要です。運用実態と書面が一致していないと、説明コストが跳ね上がります。

2. 交際費・会議費・福利厚生費(私的性質の混入)

調査で頻出なのが交際費周辺です。医療法人は“非営利性”の制度的背景もあり、支出の説明が弱いと「法人のための支出か」が問われやすくなります。
飲食費・贈答・旅行・高額品などは、参加者、目的、相手先、議事メモの有無まで確認される想定で、証憑の粒度を揃えることが肝要です。

3. 関係者取引(理事長個人・親族・MS法人・不動産賃貸)

医療法人の税務調査では「関連当事者取引」が重視されます。代表例は、理事長や親族所有の建物の賃料、車両・保険・通信費、MS法人(医療関連サービス法人)との委託料、役員貸付金・役員借入金です。
相場や契約の合理性が説明できないと、使途不明金認定や役員賞与認定など、論点が連鎖することがあります。

4. 源泉所得税(納付漏れ・区分誤り・納期の特例の運用)

医療法人はスタッフ・外注が増えやすく、源泉徴収の対象判定(給与・士業報酬・講師料等)が論点化しやすい分野です。
源泉所得税は、原則「支払月の翌月10日納付」という期限管理が基本で、納期の特例を使う場合も対象範囲の誤解が起こりやすい点に注意が必要です。

ここがポイント
源泉所得税は原則、支払月の翌月10日までの納付です。一定要件のもと半年分まとめて納付できる「納期の特例」もありますが、対象となる所得区分が限定されます。

5. 消費税(非課税・課税の混在とインボイス周辺)

医療は非課税取引が多い一方、美容・健診・予防接種の一部、自費診療、物販等は課税になり得ます。医療法人は取引が複線化しやすく、消費税区分の誤り(課税売上計上漏れ、仕入税額控除の区分、共通仕入の按分)が調査で確認されやすい領域です。
インボイス制度対応後は、適格請求書の保存・記載要件や、外注先の登録状況も整合性チェックの対象になりやすいと考えておくとよいでしょう。

医療法人 税務調査 個人 違い:比較表で整理

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観点医療法人個人クリニック
主な税目法人税・法人住民税・事業税、消費税、源泉所得税所得税、消費税、源泉所得税
調査の焦点役員・関係者取引、法人支出の合理性、資金移動売上計上漏れ、経費の私的混入、家事按分
よく見られる勘定役員報酬、交際費、外注費、地代家賃、貸付金旅費交通費、車両費、地代家賃、事業主貸
証憑・社内ルール規程・議事録・契約書の整備が重要レシート・領収書+事業目的の説明が中心
“線引き”の論点法人と理事長個人の分離(資産・負担・便益)事業と家計の分離(按分・私用)

個人は「家計との線引き」、医療法人は「法人格としての線引き」が本質的な違いです。医療法人は、線引きに失敗すると金額インパクトが大きい(役員認定や損金否認が連鎖する)点が特徴です。

税務調査の流れと、医療法人が準備すべきこと(手順)

税務調査は、手続が制度化されており、事前準備の完成度が当日の説明負荷を左右します。医療法人が押さえるべき準備を、実務の順序で整理します。

Step 1: 対象期間・論点を仮説立てする
直近の決算書・総勘定元帳から、役員報酬の改定、交際費の増減、外注費・委託料、地代家賃、貸付金残高など“変動の大きい科目”を抽出します。変動理由を一言で説明できる状態にしておきます。

Step 2: 3点セット(根拠・契約・実態)を揃える
関係者取引は、(1)根拠(相場・算定)、(2)契約書、(3)実態(支払・役務提供の証跡)を揃えます。MS法人や親族賃貸は、議事録・稟議の整備が有効です。

Step 3: 源泉・消費税の“区分チェック”を先に終える
源泉は「誰に・何を・いくら払ったか」を一覧化し、源泉対象の判定と納付状況を突合します。消費税は課税・非課税・不課税の区分と、仕入控除の根拠資料(請求書・領収書・インボイス)を点検します。

Step 4: 当日の想定問答と提示資料の順番を決める
質問は「売上→経費→資金→人(役員・従業員)」の順で広がることが多いため、提示順を決めておくと説明が安定します。担当者が複数いる場合は、回答の窓口を一本化します。

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指摘が出やすい“よくある相談”と再発防止(ケース)

以下は匿名化した典型例です。医療法人の税務調査では、個別の否認よりも「管理の弱さ」が同時多発的に見つかることがあります。

  • ケース:理事長の会食費が会議費・福利厚生費に分散
    結果:参加者・目的の説明ができず、一定割合が私的と判断され、損金性の説明に時間を要した。
    再発防止:飲食費は相手先・参加者・目的・医療法人の業務との関連を統一フォーマットで記録し、勘定科目のルールを固定化。

  • ケース:親族所有ビルの賃料が相場検証なし
    結果:相場との差の説明が必要となり、契約更新の合理性が論点化。
    再発防止:近隣相場資料(不動産会社の査定等)を保存し、契約更新時に議事録・稟議で根拠を残す。

  • ケース:外注(講師料・委託費)の源泉判定が未統一
    結果:源泉漏れの可能性が論点化し、過年度分の精査が必要に。
    再発防止:支払先マスタに「源泉区分」を持たせ、支払起票時に必ず判定が通る運用へ。

よくある質問

Q: 医療法人の税務調査は、個人よりも厳しいのですか? ▼

A:

“厳しさ”というより、確認範囲が広くなりやすい点が違いです。医療法人は役員・関係者取引、源泉、消費税など論点が増えるため、結果として準備事項が多くなります。
Q: 税務調査で最初に見られる資料は何ですか? ▼

A:

一般に、申告書・決算書、総勘定元帳、現金出納帳、預金通帳(入出金)、請求書・領収書などの基本資料から始まり、論点に応じて契約書・議事録・給与台帳・源泉関連資料へ展開します。個別の進め方は事案により異なります。
Q: 源泉所得税の納期の特例を使っていれば、納付は半年に1回で問題ありませんか? ▼

A:

要件を満たし、対象となる所得区分に限って適用される場合に、半年分まとめて納付できます。対象外の支払まで含めてしまう、あるいは要件を外れているのに継続運用していると、別論点化しやすいので注意が必要です。

まとめ

  • 医療法人の税務調査は「法人と理事長個人の線引き」が核心で、役員報酬・関係者取引・資金移動が重点になりやすい
  • 個人は家事按分や売上計上が中心になりがちだが、医療法人は源泉・消費税など論点が増え、確認範囲が広い
  • 交際費・賃料・委託料は、根拠・契約・実態の3点セットが揃っているかで説明負荷が大きく変わる
  • 調査対応は、科目変動の理由整理→関係者取引の証跡整備→源泉・消費税の区分点検→想定問答の順で準備すると安定する
  • 個別事情で最適解は変わるため、事前の論点整理と資料の“出し方設計”が重要

参照ソース

  • 国税庁「税務調査手続について(国税通則法第7章の2等)」: https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/sonota/sozokuchosatetsuzuki/index.htm
  • 厚生労働省「医療法人・医業経営のホームページ(医療法人制度の概要等)」: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/igyou/index.html
  • 国税庁「No.2505 源泉所得税及び復興特別所得税の納付期限と納期の特例」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/gensen/2505.htm

この記事を書いた人

辻 勝

辻 勝

会長税理士

税理士 / 行政書士

税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。

ご注意事項

本記事の内容は、公開日時点における一般的な情報提供を目的としており、 特定の個人や法人に対する専門的なアドバイスを構成するものではありません。

税務・会計・法務等に関する具体的なご相談については、 必ず資格を持った専門家にご確認ください。 本記事の情報に基づいて行われた判断や行動により生じた損害について、 当事務所は一切の責任を負いかねます。

記事の内容は法令の改正等により変更される場合があります。 最新の情報については、関係省庁の公式サイト等でご確認ください。

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