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クリニック向けコラム
作成日:2025.07.07
更新日:2026.01.02
辻 勝

執筆者:辻 勝

会長税理士

医療法人化メリット・デメリット|法人成りのタイミングを税理士が解説

9分で読めます
医療法人化メリット・デメリット|法人成りのタイミングを税理士が解説

医療法人化とは?個人開業との違い

医療法人化とは、個人(院長)の事業として運営していたクリニックを、医療法人(法人格)として運営する形に切り替えることです。結論から言うと、医療法人化は「節税のため」だけで決めると失敗しやすく、資金繰り・社会保険・承継設計まで含めた経営判断が必要です。

個人開業と医療法人の最大の違いは、利益の帰属先です。個人開業は利益が院長個人に帰属し、所得税(累進課税)で課税されます。一方、医療法人は法人に利益が残り、院長は役員報酬等として受け取る設計になります。

当法人(税理士法人 辻総合会計)では、クリニックの顧問・法人化相談を長年多数扱ってきましたが、「税率の差」よりも「毎年の設計と運用(報酬・退職金・資金残し・承継)」で差が出るケースが一般的です。

医療法人化のメリット

税負担を「分散」できる(所得のコントロール)

個人開業は所得が増えるほど税率が上がります。所得税は5%〜45%の7段階の累進税率です。医療法人化すると、法人に利益を残しつつ、院長個人は役員報酬として受け取るため、所得の山をならす設計が可能になります。

特に、院長の課税所得が高く「高い税率帯」に入っている場合、法人に利益を残す余地が生まれやすい点がメリットです。ただし、法人に残した利益は法人税等がかかるため、後述の損益分岐の考え方が重要です。

退職金・承継など「出口設計」がしやすい

医療法人化は、将来の引退や世代交代を見据えた出口設計と相性が良い手段です。役員退職金の活用余地や、事業の権利義務を法人に集約することで、引継ぎの設計が整理しやすくなります。

一方で、持分(出資)や残余財産の取り扱いは制度上の論点になりやすく、特に古い形態の医療法人が絡む場合は早めの設計が重要です。

信用力・採用・多院展開の土台になりやすい

金融機関との交渉や、採用・組織運営の観点で、法人であることがプラスに働く場面があります。とくに勤務医の採用や分院計画がある場合、「個人の器」から「組織の器」へ移す意義が出やすくなります。

医療法人化のデメリット

社会保険負担が増える可能性が高い

医療法人は原則として社会保険(健康保険・厚生年金)の適用事業所となります。個人開業で国保中心だった場合、法人化により院長・スタッフの保険設計が変わり、手取りや院内コストに影響します。

ここは「税金で得しても、社会保険で相殺される」ことがある代表論点です。必ず税務と社会保険を同じ表で比較し、年間のキャッシュアウトで判断してください。

設立・運営コスト、事務負担が増える

医療法人は設立認可や運営ルールがあり、会計・決算・議事録等の事務が増えます。顧問料や登記費用などの外部コストも増えるため、利益が不安定な時期に無理に法人化すると、固定費化が経営の足かせになり得ます。

利益の出し入れが自由ではない(非営利性・規律)

医療法人は制度上、非営利性が求められ、会社のように自由に利益配当する仕組みではありません。「法人に残した利益は、将来の使い道まで含めて設計する」必要があります。ここが“節税目的だけの法人化”が危険な理由です。

ここがポイント
持分のある医療法人から持分のない医療法人への移行に関しては、認定医療法人制度など制度面の動きがあります。期限や要件は改正・延長されることがあるため、該当可能性がある場合は最新の公的情報と個別状況の照合が不可欠です。

法人成りすべきタイミングと「損益分岐」の考え方

タイミング判断の実務的サイン

法人成り(医療法人化)を検討すべき典型パターンは次のとおりです。

  • 利益が毎年安定しており、投資や内部留保の余地がある
  • 院長の課税所得が高止まりし、累進税率の影響が重い
  • 分院計画、勤務医採用、家族役員の活用など組織化の必要がある
  • 引退・承継(後継者、M&A、スタッフ承継等)を見据えたい
  • 設備投資(医療機器更新)が定期的にあり、資金残しを強めたい

逆に、患者数・売上が不安定、運転資金が薄い、院長の生活費を毎年大きく変動させる必要がある場合は、法人化が合わないことがあります。

損益分岐は「税率差」ではなく「キャッシュ残高」で見る

損益分岐は、「個人の税率が高いから法人化すれば得」という単純式ではありません。実務では次の3点で判定します。

  • 個人側:院長の役員報酬(給与所得)にかかる税・社会保険
  • 法人側:法人に残る利益にかかる法人税等
  • 資金繰り:毎年の手残り(法人・個人トータルのキャッシュ)

法人税率は法人区分・所得金額等で異なり、中小規模の一般的な法人では年800万円以下の部分に15%が適用される枠があります。一方、所得税は5%〜45%の累進です。したがって、院長個人の所得が高いほど、法人に利益を残す選択肢が効きやすくなります。

簡易シミュレーション例(考え方のイメージ)

前提:年間の「報酬・経費控除前の利益」4,000万円、院長が必要とする生活資金は年間2,500万円、法人に500万円〜1,000万円の投資余力を残したいケース。

  • 個人開業:4,000万円が個人所得に寄りやすく、高い税率帯に入りやすい
  • 法人化:役員報酬2,500万円+法人利益1,500万円(投資・内部留保に回す)という設計が可能

このときの損益分岐は「法人利益をどれだけ残すか」「社会保険負担がどれだけ増えるか」で大きく変わります。

比較表:医療法人化の向き・不向き(目安)

←横にスクロールできます→
観点医療法人化が向きやすい個人のままが向きやすい
利益の安定性3年程度、安定的に黒字変動が大きい、赤字が混ざる
院長の所得水準高い税率帯が続く所得が中〜低水準で推移
組織化採用・分院・役割分担を進めたい1拠点・少人数で完結
社会保険増負担を許容できる増負担が致命的
承継・引退5〜10年スパンで設計したいまだ検討段階
ここがポイント
損益分岐の試算は「税額」だけでなく、法人・個人の合算キャッシュと、設備投資・借入返済のスケジュールまで入れて行うのが実務です。税理士と社労士(または社会保険に強い税理士)が同じ前提表で検証してください。

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医療法人化の進め方(手順)

法人成りは、制度手続きよりも「設計」が重要です。実務では次の順序で進めると失敗が減ります。

Step 1: 現状把握(利益・生活費・投資計画の棚卸し)

直近3期の利益、設備投資予定、借入返済、院長の必要手取り(生活費)を整理します。ここが曖昧だと、法人化後に資金繰りが詰まります。

Step 2: 役員報酬・利益残しの設計(複数案で比較)

「報酬を厚めに取る案」「法人に残す案」など複数パターンで、税・社会保険・キャッシュを並べて比較します。“税額の最小化”より“資金繰りの安全性”を優先するのが医療業の基本です。

Step 3: 承継・出口設計(退職金、持分、次世代)

5〜10年後の引退・承継を想定し、退職金、資産の残し方、後継者への引継ぎ方法を同時に設計します。

Step 4: 実行計画(設立認可・移行スケジュール)

都道府県への認可・登記・契約名義変更(賃貸借、リース、融資、口座等)・スタッフ説明など、移行タスクを工程表に落とします。医療業は止められないため、現場の運用負荷を見込んだスケジュールが必要です。

よくある落とし穴と専門家が見るチェックポイント

医療法人化で多い失敗は、次の3つです。

  • 役員報酬を「税金だけ」で決め、社会保険と資金繰りで苦しくなる
  • 法人に利益を残したが、将来の使い道(投資・退職金・承継)が設計できていない
  • 事務負担・ガバナンスを軽視し、運営が回らない

税理士法人 辻総合会計では、法人化の可否を「損益分岐」だけでなく、診療科特性(自費比率、スタッフ構成、機器更新周期)まで踏まえて検証します。結論が「今はやらない」になることもありますが、その判断が長期的な安定につながるケースは少なくありません。

よくある質問

Q: 医療法人化すると必ず節税になりますか? ▼

A:

必ずではありません。所得税の累進が重いケースでは効果が出やすい一方、社会保険負担や運営コストで相殺されることがあります。法人・個人合算のキャッシュで比較するのが実務です。
Q: 医療法人化の「損益分岐」はいくらですか? ▼

A:

一律の金額はありません。院長の必要手取り、社会保険の増減、設備投資、借入返済により分岐点が変わります。一般には「利益が安定して高い」「法人に残す目的が明確」なほど法人化が有利になりやすい、という整理になります。
Q: 法人化するとお金を自由に引き出せなくなりますか? ▼

A:

個人よりは規律が強くなります。院長の受け取りは役員報酬等が中心となり、法人に残した利益は将来の投資や出口設計に使う前提で管理します。設計なしに法人に利益を残すと、資金が“動かしにくい”と感じる原因になります。

まとめ

  • 医療法人化は節税だけでなく、社会保険・資金繰り・承継まで含めた経営判断が必要
  • メリットは「所得の分散」「出口設計」「組織化の土台」
  • デメリットは「社会保険負担」「運営コスト」「利益の出し入れの規律」
  • 損益分岐は税率差ではなく、法人・個人合算のキャッシュで判定する
  • 検討は「現状棚卸し→複数案の試算→出口設計→実行計画」の順で進める

参照ソース

  • 厚生労働省「認定医療法人制度の延長等について(社会保障審議会資料)」: https://www.mhlw.go.jp/content/10801000/001341001.pdf
  • 国税庁「No.5759 法人税の税率」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5759.htm
  • 国税庁「No.2260 所得税の税率」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2260.htm

この記事を書いた人

辻 勝

辻 勝

会長税理士

税理士 / 行政書士

税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。

ご注意事項

本記事の内容は、公開日時点における一般的な情報提供を目的としており、 特定の個人や法人に対する専門的なアドバイスを構成するものではありません。

税務・会計・法務等に関する具体的なご相談については、 必ず資格を持った専門家にご確認ください。 本記事の情報に基づいて行われた判断や行動により生じた損害について、 当事務所は一切の責任を負いかねます。

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