
執筆者:辻 勝
会長税理士
開業医 年収の目安は?勤務医比較と診療科別|税理士が解説

開業医の年収はいくらが目安か(結論)
開業医の年収は「勤務医より必ず高い」とは言い切れません。なぜなら、開業医の収入は医業収益(売上)と医業費用(人件費・家賃・材料費等)の差で大きく変動し、さらに「個人開業」か「医療法人」かで、手元に残るお金の出方(所得・税目・社会保険)が変わるからです。
厚労省の「医療経済実態調査(第25回)」では、一般診療所の損益や、医療法人の院長(常勤)の平均給料年額(賞与込)が示されています。これらを使うと、開業医の収入は概ね「2,000万円台〜3,000万円台が見える一方で、設備投資・人件費・患者数でブレる」という現実が読み取れます(後述)。
厚労省データで見る「開業医」と「勤務医」の収入比較
ここでは、厚労省「第25回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告(令和7年11月26日公表)」の数値をもとに整理します。開業医は「一般診療所(個人)」の損益差額、医療法人は「院長の役員報酬(賞与込)」と「診療所の損益差額」を組み合わせて見ます。
主要データ(1施設当たり/1人当たりの目安)
| 区分 | 指標 | 直近(前年)の目安 | 読み方のポイント |
|---|---|---|---|
| 開業医(個人の一般診療所・全体) | 損益差額(概算) | 約2,631万円 | 医業収益(約9,086万円)+介護収益(約35万円)−費用(約6,489万円)で概算。院長の生活費原資に近いが、内部資金化も起こる |
| 開業医(個人の一般診療所・入院収益あり) | 損益差額 | 約5,420万円 | 入院ありは規模が大きく、変動も大きい |
| 開業医(医療法人の一般診療所) | 院長の平均給料年額(賞与込) | 約2,898万円 | 院長=役員報酬の水準。ここから所得税・住民税・社会保険等が発生 |
| 開業医(医療法人の一般診療所・全体) | 損益差額 | 約905万円 | 役員報酬等の費用計上後に残る法人利益(内部留保され得る) |
| 勤務医(一般病院) | 医師の平均給料年額(賞与込) | 約1,485万円 | 病院勤務医の給与水準の目安(施設類型・地域・年齢で差) |
| 勤務医(医療法人の一般診療所) | 医師の平均給料年額(賞与込) | 約1,099万円 | クリニック雇用医師の給与水準の目安 |
上表から、医療法人の院長(役員報酬)が約2,900万円、病院勤務医が約1,500万円という「見かけ上の差」は確認できます。一方で、開業医側は固定費(人件費・家賃・リース・借入返済)の設計次第で、損益差額が大きく動きます。特にスタッフ構成や人件費上昇局面では、売上が伸びても利益が伸びないケースが現場で増えています。
診療科別データの考え方(公的統計の限界と、実務で使える代替指標)
「診療科別の年収データ」を探すと、実は公的統計で“診療科別に院長の年収”を一直線に並べた資料は多くありません。そこで実務では、診療科ごとに「収益構造(単価×患者数×稼働日)」「必要スタッフ数」「高額材料・検査外注」「設備投資の重さ」を分解して、年収を推計します。
以下は、開業検討時に使われる“診療科タイプ別の収益構造”の整理です(あくまでモデル化であり、個別条件で変わります)。
| 診療科タイプ(例) | 収益ドライバー | コストの重さ | 年収が伸びやすい条件(概念整理) |
|---|---|---|---|
| 外来・回転型(皮膚科、耳鼻科等) | 患者数×稼働日 | 中 | 予約設計と導線で回転数が上がる。スタッフ運用が鍵 |
| 検査・機器型(眼科、整形外科等) | 検査・処置×単価 | 高 | 設備投資と稼働率が勝負。資金繰り設計が重要 |
| 小児科・総合診療型 | 継続通院×信頼 | 中 | 感染症流行等で波が出やすい。診療時間と人員の平準化が課題 |
| メンタル系(精神科・心療内科) | 面談枠×単価 | 低〜中 | 予約枠設計が直結。採用とキャンセル率管理が重要 |
「診療科別データ」を“数字”として見たい場合は、次のようにシミュレーションでレンジを置くのが現実的です。
診療科別の年収レンジを作る簡易シミュレーション
Step 1: 月の患者数(延べ)と単価を置く
- 例:延べ患者数 2,000人/月、1人当たり平均単価 7,000円 など
Step 2: 医業収益(月)=患者数×単価+(検査・処置の上振れ)
- 検査・処置型はここが伸びやすい一方、設備投資の回収が必要です。
Step 3: 医業費用(人件費・家賃・材料・外注・減価償却)を率で置く
- スタッフ厚め:費用率 70〜80%
- 効率運営:費用率 60〜70%
Step 4: 年間利益(概算)=年収益×(1−費用率)
- ここが「個人開業の事業所得」や「法人利益+役員報酬設計」のベースになります。
この手順でレンジを置くと、「外来回転型で患者数が確保できる」「機器型で稼働率が高い」などの条件差が、年収差として見えるようになります。
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開業医の「手取り」はどう決まるか(個人開業と医療法人の違い)
検索で多いのが「開業医 年収 手取り」です。ここで重要なのは、年収=手取りではないという一点です。
個人開業(個人事業)の手取りの考え方
- 収入の核:損益差額(売上−経費)=事業所得のイメージ
- ここから:所得税・住民税・国保(または医師国保等)・年金、事業の将来投資(更新費)を支払う
個人は「利益がそのまま院長の所得」になりやすい反面、税率が上がると手取りの伸びが鈍化し、また設備更新費を内部に残すかどうかの判断が難しくなります。
医療法人の手取りの考え方(役員報酬+法人利益)
- 収入の核:院長の役員報酬(給与)+(法人に残る利益)
- 役員報酬:所得税・住民税・社会保険の対象
- 法人利益:法人税等の対象。将来の設備投資や退職金原資として内部留保する設計が可能
厚労省データでは、医療法人診療所の院長の平均給料年額(賞与込)が約2,898万円、同じく診療所の損益差額が約905万円という形で「給与+利益」の二階建て構造が見えます。つまり、開業医の“実力値”を見るには、給与だけでなく利益の残り方も確認が必要です。
よくある質問
Q: 開業医は勤務医より年収が高いのが普通ですか?
A:
平均的には高く見えることが多い一方で、固定費が重いと利益が出にくくなります。厚労省調査では、医療法人診療所の院長の平均給料年額(賞与込)が約2,898万円、一般病院の医師が約1,485万円という差が見えますが、開業医は患者数・人件費・家賃・設備投資でブレ幅が大きい点に注意が必要です。Q: 開業医の年収を「手取り」で見ると何割くらい残りますか?
A:
所得水準・家族構成・社会保険の加入形態で変わるため一律の割合は危険です。高所得帯では税・社会保険の合計負担が大きくなりやすく、また開業医は設備更新や借入返済に資金を残す必要があります。手取りは「生活費として使えるお金」と「事業に残すお金」を分けて試算するのが実務的です。Q: 診療科別の年収データはありますか?
A:
診療科別に院長年収を網羅した公的統計は多くありません。そのため実務では、患者数・単価・稼働日・必要人員・設備投資の重さを置いて、診療科タイプ別にレンジ試算を作ります。本記事のステップ(患者数×単価×費用率)で、候補地と運営モデルに合わせた試算を作るのが現実的です。Q: 医療法人化すると、院長の手取りは増えますか?
A:
増える場合もありますが、必ずではありません。役員報酬の設計、法人利益の残し方、社会保険、退職金設計、将来の承継方針で結果が変わります。税務だけでなく、資金繰りとガバナンスを含めて総合判断する必要があります。まとめ
- 開業医の年収は「売上−経費」または「役員報酬+法人利益」で決まり、勤務医よりブレ幅が大きい
- 厚労省データでは、医療法人診療所の院長の平均給料年額(賞与込)は約2,898万円、一般病院の医師は約1,485万円が目安
- 個人開業の損益差額(概算)は約2,631万円、入院収益ありでは約5,420万円と、規模で大きく変動する
- 診療科別の公的な“院長年収一覧”は少ないため、患者数×単価×費用率でレンジ試算を作るのが現実的
- 「年収」だけでなく、手取り・設備更新・借入返済・承継まで含めて意思決定することが重要
参照ソース
- 厚生労働省「第25回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告(令和7年11月26日公表)」: https://www.mhlw.go.jp/content/10808000/001599546.pdf
- e-Stat(政府統計の総合窓口)「賃金構造基本統計調査(医師等の職種別賃金の参照に利用可能)」: https://www.e-stat.go.jp/stat-search/database?layout=dataset&query=%E5%8C%BB%E5%B8%AB&statdisp_id=0004007961
- 国税庁「所得税の税率(超過累進税率の確認)」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2260.htm
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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