
執筆者:辻 勝
会長税理士
開業医 節税対策10選|税理士がすすめる実務ポイント【2026年版】

開業医の節税とは:まず押さえる基本
開業医の節税とは、法律の範囲内で「課税所得」と「適用税率」を最適化し、手取りを最大化する設計です。ポイントは、支出を増やすことではなく、税務上認められる控除・経費・制度を取りこぼさないことにあります。
特に個人開業医は、所得が伸びるほど累進税率の影響を受けやすく、同じ売上でも「申告の型」と「制度の使い方」で納税額に差が出ます。クリニック節税は、医療機器の投資判断やスタッフ採用とも密接に関わるため、経営判断として扱うのが実務的です。
節税手段は大きく次の3つに分類できます。
| 区分 | 代表例 | 効果が出るタイミング | 実務の要点 |
|---|---|---|---|
| 所得控除 | iDeCo、小規模企業共済、生命保険料控除 | 年間の確定申告 | 証明書の管理、上限の把握 |
| 必要経費 | 減価償却、家賃・通信費、研修費、外注費 | 毎月の記帳〜決算 | 証憑・合理性・按分ルール |
| 税率最適化 | 法人化、家族への給与設計、退職金設計 | 1〜3年の中期 | 損益分岐点、社会保険、出口設計 |
開業医の節税対策10選(税理士がすすめる方法)
ここでは「個人開業医 税金対策」として汎用性が高く、クリニック節税に直結する10項目を整理します。自院の状況により優先順位は変わるため、まずは取りこぼしの有無から点検してください。
1. 青色申告で基礎体力を上げる(控除と帳簿の整備)
青色申告は、個人開業医にとって最優先の土台です。要件を満たすことで青色申告特別控除が使え、記帳・申告の整備が他の節税策の実行力にもつながります。電子化(e-Tax等)を前提に運用設計すると、業務負荷も下げやすくなります。
2. 申告の“制度枠”を使い切る(小規模企業共済等掛金控除)
掛金が所得控除になる制度は、節税と資産形成を同時に進めやすい領域です。代表が小規模企業共済等掛金控除で、対象制度の掛金を「所得から差し引ける」点が強みです。控除は年末や申告直前に慌てやすいため、年初に月額を決めて平準化する運用が現実的です。
3. iDeCoを“節税口座”として位置づける(掛金=所得控除)
iDeCo(個人型確定拠出年金)の掛金は、上記の小規模企業共済等掛金控除の枠で所得控除の対象になります。クリニックのキャッシュフローに影響しない範囲で、毎月の固定費として設計すると、年度末の対策に依存しにくくなります。
4. 生命保険を「保障」ではなく「控除」と「必要性」で設計する
生命保険料控除は、多くの院長がすでに利用している一方で、保障内容が経営実態とズレたまま継続しているケースがあります。節税のために保険料を増やすのではなく、万一時の保障(遺族保障・借入返済・生活費)を棚卸しし、控除の範囲内で最適化するのが実務的です。
5. 家事按分をルール化する(自宅兼用の家賃・光熱費・通信費)
自宅兼事務所、スマホ・ネット回線、車両などは、合理的な基準で按分できれば経費化の余地があります。重要なのは、家事按分の根拠を毎年同じルールで説明できることです。床面積、利用時間、走行記録など「客観資料」を揃えるほど、税務リスクが下がります。
6. 研修・学会・書籍の「業務関連性」を明確にする(医師ならではの経費)
医師の研修・学会参加は、診療の質向上や新規施術導入に直結します。旅費・宿泊費・参加費を計上する場合は、テーマ、参加目的、院内での共有(報告書・院内勉強会)まで残すと説明力が上がります。自由診療の導入検討など、収益に紐づく理由付けがあるとより明確です。
7. 設備投資は「減価償却」と「キャッシュ」を分けて考える
医療機器は高額になりやすく、導入判断がそのまま税務に波及します。税務上は減価償却により複数年で費用化される一方、支払いは一括・割賦・リースで変わります。節税目的で導入すると投資回収が歪むため、まずは診療単価・稼働率・保守費用まで含めて損益を見ます。
8. 少額資産・消耗品の線引きを統一する(会計処理のブレをなくす)
PC・周辺機器・備品などは、金額や性質によって処理が分かれます。ここでの実務ポイントは、毎年の処理を統一し、購入時点での判断基準を院内で共有することです。会計のブレは税務調査で論点になりやすく、結果として説明コストが上がります。
9. 消費税の“非課税・課税”区分を点検する(自由診療・物販がある場合)
保険診療は非課税が基本ですが、自由診療や物販、文書料などが混在すると、消費税の区分が実務上のリスクになります。特に美容・予防・サプリ等を扱うクリニックは、税区分の設計を初期から整えておくべきです。医師 節税対策のつもりが、後から追徴リスクにならないよう、提供メニューと請求体系を棚卸ししてください。
10. 法人化(医療法人化等)を“節税だけで”判断しない
所得が一定水準を超えると、法人化による税率差・所得分散・退職金設計などが検討テーマになります。一方で、社会保険、役員報酬の固定、事務負担、資金繰り、将来の承継まで影響します。法人化の損益分岐点は「税金」だけでなく「運用コスト」と「出口」まで含めて試算することが重要です。
医療機器はリースと購入どちらが得?(節税と資金繰りの比較)
医療機器導入は「医療機器 リース 購入」で検索されやすい論点ですが、税務だけで結論を出すと失敗しやすい領域です。実務では、(1)資金繰り、(2)保守・更新、(3)税務処理、(4)金利・総支払額、を同時に見ます。
| 観点 | 購入(現金・割賦) | リース |
|---|---|---|
| 初期資金 | 大きい(頭金・一括) | 抑えやすい |
| 税務上の費用化 | 減価償却で複数年 | 料⾦が費用になりやすい(契約形態による) |
| 更新・陳腐化リスク | 院側が負担 | 更新設計を組みやすい |
| 総支払額 | 条件次第で低いことも | 手数料込みで高くなることも |
| 中途解約 | 売却・処分で対応 | 制約が強いことが多い |
「節税効果」だけを比較すると短期視点になりがちです。導入機器が収益を生む構造(稼働率、保険点数、自由診療単価)を先に固めたうえで、資金調達手段を選ぶのが合理的です。
医療機関専門の税理士にご相談ください
40年以上の実績。クリニック・医療法人の経営を税務・会計の両面からサポートします。
平日 9:15〜18:15(土日祝休業)
開業医の節税を失敗しない進め方(年間の手順)
節税は思いつきで行うより、年間運用に落とし込むほど成果が安定します。以下は、個人開業医が実行しやすい標準的な流れです。
Step 1: 期首に「今年やること」を決める
青色申告の運用(会計ソフト・e-Tax)、掛金系(iDeCo・共済)、設備投資の上限、家事按分のルールを決めます。ここで意思決定しておくと、年末の“駆け込み”を減らせます。
Step 2: 期中は「証憑の型」を固定する
レシート・請求書・契約書・業務メモを同じ場所に集約し、用途が曖昧な支出はその場でメモします。経費否認は、金額より「説明不能」が原因になることが多い点が実務の肝です。
Step 3: 期末に“決算対策”をやる前に「利益の見える化」
月次で利益が見えていないと、節税策が投資・採用・返済計画と噛み合いません。税理士と数字を共有し、設備投資や共済掛金の調整余地を判断します。
Step 4: 申告前に「控除の取りこぼし」を潰す
控除証明書(共済・iDeCo等)、生命保険料控除、医療費控除(該当する場合)、寄附金控除などを一覧化し、必要書類を揃えます。制度は「知っている」だけでは節税になりません。
よくある質問
Q: 節税のために経費を増やすのは正しいですか?
A:
原則としておすすめしません。経費は「必要な支出の結果」として最適化するもので、節税目的で投資回収の悪い支出を増やすと、手元資金が減って経営リスクが上がります。Q: 個人開業医でもiDeCoや小規模企業共済は使えますか?
A:
多くのケースで検討対象になります。掛金が所得控除になる制度は、税負担の軽減と将来資金の確保を同時に狙えます。ただし上限や併用関係があるため、家計・借入・事業資金繰りを踏まえて設計してください。Q: 美容や自由診療を始めたら、税金で注意する点はありますか?
A:
消費税の課税・非課税の区分が実務上の重要論点になります。提供メニュー、請求形態、物販の有無によって処理が変わるため、開始前に税理士と論点整理するのが安全です。Q: 法人化はいつ検討すべきですか?
A:
一般に所得が増えた段階で検討価値が上がりますが、判断軸は税金だけではありません。社会保険、事務負担、資金繰り、将来の承継まで含めたシミュレーションで意思決定することが重要です。まとめ
- 開業医の節税は、控除・経費・税率最適化を「制度として取りこぼさない」ことが核心
- 青色申告の整備が、節税策の実行力と税務リスク低減の土台になる
- 共済・iDeCo等の掛金控除は、税負担軽減と将来資金確保を同時に狙える
- 設備投資は「税務」だけでなく、稼働率と資金繰りを含めて判断する
- 法人化は損益分岐点と運用コスト、出口設計まで含めて試算する
参照ソース
- 国税庁「No.2072 青色申告特別控除」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2072.htm
- 国税庁「No.2075 青色事業専従者給与と事業専従者控除」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2075.htm
- 国税庁「No.1135 小規模企業共済等掛金控除」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1135.htm
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
ご注意事項
本記事の内容は、公開日時点における一般的な情報提供を目的としており、 特定の個人や法人に対する専門的なアドバイスを構成するものではありません。
税務・会計・法務等に関する具体的なご相談については、 必ず資格を持った専門家にご確認ください。 本記事の情報に基づいて行われた判断や行動により生じた損害について、 当事務所は一切の責任を負いかねます。
記事の内容は法令の改正等により変更される場合があります。 最新の情報については、関係省庁の公式サイト等でご確認ください。
