
執筆者:辻 勝
会長税理士
医療法人化手続きの全体像|設立までの流れと必要書類を解説

医療法人化の手続きは、都道府県知事の設立認可を起点に、法務局での設立登記、さらに診療所・保険医療機関・税務等の切替届出までを一連で設計する作業です。院長が「いつ何を出すか」を誤ると、開院スケジュールや保険診療の継続、資金繰りに影響し得ます。この記事では、医療法人設立までの流れと必要書類を、実務で迷いやすいポイントに絞って整理します。
医療法人化とは何か
医療法人化とは、個人(院長)で開設している医療機関の運営主体を「医療法人」に切り替えることです。設立後は法人が医療機関を開設し、院長は理事長(または管理者)として運営に携わる形になります。
医療法人化は節税だけでなく、資金調達、分院展開、承継(後継者への引継ぎ)など経営上の選択肢を増やす一方、定款・役員体制・事業計画、各種報告や届出など、事務負担も増えます。したがって「設立できるか」ではなく「設立後に回るか」まで見越して設計することが重要です。
医療法人設立までの流れ
医療法人設立の実務は、大きく「認可」「登記」「切替届出」の3フェーズで整理すると見通しが良くなります。特に設立認可→登記→開設者変更の順序は崩せません。
| フェーズ | 主な目的 | 主な提出先 | 代表的な成果物 |
|---|---|---|---|
| 設立認可(行政) | 法人設立の許可を得る | 都道府県(担当課) | 設立認可書(認可の交付) |
| 設立登記(法務) | 法人格を発生させる | 法務局(登記所) | 登記事項(法人番号の付番等) |
| 切替届出(運用開始) | 医療機関運営を法人へ切替 | 保健所、厚生局、税務署 等 | 開設者変更・保険指定手続・税務届出 |
医療法人化手続きのステップ
ここからは、実務での標準的な流れをステップ形式で示します(都道府県の運用により前後・追加があり得ます)。
Step 1: 法人化の基本設計(型・役員・決算期)
社団医療法人(一般的)か財団医療法人かを選び、役員(理事・監事)構成、社員(社団の場合)構成、決算期、役員報酬設計の方針を固めます。ここで設計を曖昧にすると、認可申請書類の整合性が取れず差し戻しになりやすいです。
Step 2: 定款(または寄附行為)作成
定款は審査の中心資料です。厚労省が公表する定款例をベースに、法人名、目的、事業、機関設計、会計、解散等の条項を整えます。附帯業務を行う場合は、その記載と運営方法の整理が必要です。
Step 3: 資産・契約関係の棚卸し(移転・賃貸・承継の整理)
個人名義の設備や預金、リース、借入、テナント賃貸借、医療機器保守契約などを洗い出し、法人への帰属方法(売買・賃貸・引継ぎ等)を決めます。金融機関の同意や契約変更が必要になるケースもあります。
Step 4: 事業計画・予算の作成(通常2年分)
認可申請では事業計画・予算書(2年分)が実務上の要となります。診療体制、収支見込、人員、設備、資金繰りを「説明可能な根拠」で作り込み、定款や人員計画と齟齬がないか確認します。
Step 5: 設立認可申請(都道府県)
設立認可申請書に、定款、財産目録、役員名簿、就任承諾書、施設概要、権利関係を示す資料などを添えて提出します。提出前の事前相談で指摘事項を潰し、形式不備・記載揺れを減らすことがポイントです。
Step 6: 設立登記(法務局)
認可後、法務局へ設立登記を申請します。定款、理事長選出を証する書面、理事長就任承諾書、財産目録、設立認可書などの添付が典型です。ここで法人が成立します。
Step 7: 開設者変更・保険指定等の切替届出
設立後は運用を「法人前提」に切り替えます。診療所の開設者変更(または新規開設の扱い)、保険医療機関の指定(切替)、各種許認可・届出、税務関係の届出、口座・請求・契約名義の変更を一気通貫で進めます。
医療法人化の必要書類
必要書類は「認可申請」「登記」「切替届出」で分けて管理すると漏れが減ります。以下は代表例です(都道府県ごとに様式・追加資料が指定されます)。
設立認可申請(都道府県)で求められやすい書類
- 設立認可申請書
- 定款(または寄附行為)
- 財産目録、資産の帰属を示す資料(預金証明、不動産の権利関係資料等)
- 設立趣意書
- 設立決議録(社団の場合)
- 役員・社員(評議員)名簿、就任承諾書、履歴書
- 開設予定施設の概要(診療科目、人員、建物・設備の概要)
- 事業計画書・予算書(通常2年分)
- 管理者予定者に関する資料(医師免許証写し等)
- 設立代表者の選任・権限を示す資料
設立登記(法務局)で必要になりやすい書類
- 設立登記申請書
- 定款
- 理事長の選出を証する書面
- 理事長の就任承諾書
- 財産目録
- 都道府県知事の設立認可書(またはその謄本)
- 印鑑届書、委任状(代理申請の場合) 等
設立後の主な届出(運用開始の切替)
- 保健所:診療所の開設者変更(または新規)関連の届出
- 厚生局:保険医療機関の指定(切替)・施設基準等の届出
- 税務署:税務署への設立届、青色申告、源泉・給与関係 等
- 年金事務所/協会けんぽ(該当時):社会保険の適用関係(加入形態により異なる)
- 銀行・リース会社・取引先:契約名義、請求先、口座 等の変更
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つまずきやすい注意点とリスク
都道府県審査で差し戻しになりやすいポイント
- 定款の文言がモデルから逸脱し、趣旨説明が不足している
- 役員・社員構成の要件や、兼任関係の説明が不足している
- 事業計画・予算と、診療体制(人員計画)・施設計画の整合が取れていない
- 資産の帰属(誰のものか)や、法人への移転方法が曖昧で裏付け資料が弱い
登記・切替で事故が起きやすいポイント
- 登記添付書類の不足(理事長選出書面、認可書の扱い等)
- 既存の個人診療所からの切替で、請求・契約・雇用の名義変更が遅れる
- 保険指定の切替に伴い、レセプト運用や患者案内の準備が間に合わない
法人化後の運用負担を見落としやすいポイント
医療法人は設立して終わりではありません。会計・決算、議事録整備、役員改選、各種報告など、ガバナンス運用が前提になります。法人化の意思決定時点で「院内の事務体制」「顧問先(社労士・税理士等)との役割分担」まで設計しておく必要があります。
税理士法人の実務視点:失敗しない進め方
税理士法人 辻総合会計では、医療法人化支援で「認可の通し方」だけでなく、設立後に資金繰り・人件費・役員報酬・納税が安定するかを重視します。現場で多いのは、法人化が節税目的に偏り、保険指定や契約名義変更、金融機関手続きが後手に回るケースです。
実務上は、次の順序で管理すると安全性が高まります。
- 行政(認可)のスケジュールを最上流として、全体の工程表を確定する
- 認可申請書類は「定款・役員・計画・資産」の整合性を最優先で点検する
- 登記と同時並行で、保健所・厚生局・税務の切替タスクをチェックリスト化する
- 設立後3か月以内に集中する手続きを先に洗い出し、担当者と期限を割り当てる
なお、手続きや必要書類は都道府県の運用、診療科、施設区分、既存の許認可状況により変わります。必ず個別確認を行ってください。
よくある質問
Q: 医療法人化の手続きはどのくらいの期間がかかりますか?
A:
都道府県の受付回数(年1回・2回など)と審査期間に左右されます。実務では「事前相談~認可申請準備に数か月、認可後に登記・切替で数週間~」という設計が多いです。希望時期がある場合は、まず都道府県の受付スケジュールを確認して逆算します。Q: 必要書類は全国で共通ですか?
A:
主要項目(定款、財産目録、事業計画、役員関係など)は共通しやすい一方、様式、添付資料の粒度、押印・原本証明の扱い等は都道府県で異なります。厚労省の様式・定款例を基礎にしつつ、提出先の要領に合わせて調整するのが現実的です。Q: 個人の診療所を医療法人に変えると、保険診療はどうなりますか?
A:
原則として、保険医療機関の指定や各種届出を「法人として」整え直す必要があります。切替の手順を誤ると請求実務に影響が出るため、登記日を基準に、厚生局・保健所の手続き順序を事前に決めておくことが重要です。Q: 税務署への届出で最低限押さえるべきものはありますか?
A:
少なくとも法人設立届出(所轄税務署)と、青色申告を希望する場合の申請期限管理は優先度が高いです。あわせて、給与支払事務所の届出や源泉関係の手続きも、役員報酬・職員給与を支払う場合には早期に整えます。まとめ
- 医療法人化は「設立認可→設立登記→開設者変更等の届出」の三段階で設計する
- 都道府県の受付期間・事前相談の要否がスケジュールを決める上流要因
- 必要書類は「認可申請」「登記」「切替届出」に分けて管理すると漏れが減る
- 事業計画・予算、資産の帰属、役員体制の整合性が審査・実務の核心
- 設立後の保険指定・契約名義・税務届出まで含めて工程表化するのが安全
参照ソース
- 厚生労働省「医療法人設立等の手続等について」: https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/isei/igyou/igyoukeiei/tetuduki.html
- 法務局(法務省)「医療法人設立登記申請書(様式・記載例)」: https://houmukyoku.moj.go.jp/homu/content/001250691.pdf
- 国税庁「No.5100 新設法人の届出書類」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hojin/5100.htm
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
ご注意事項
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