
執筆者:辻 勝
会長税理士
医療法人決算の流れと事業報告書届出|期限・必要書類を解説

医療法人の決算とは、税務署への法人税申告だけでなく、医療法にもとづく「事業報告書等」の作成・都道府県への届出(いわゆる決算届)まで含めて完了させる一連の手続です。特に、「会計年度終了後3か月以内の届出」を落とすと、行政手続・金融機関対応・ガバナンス面で不利益が生じやすくなります。院長・理事長にとっては「税務」と「医療法人行政」の二重の締切管理が問題になりがちです。
本記事では、医療法人の決算でやるべきことを、事業報告書の作成・届出、経営情報等報告、公告、税務申告の順に、期限と必要書類を中心に解説します。
医療法人の決算とは何か
医療法人の「決算」は、一般的に次の4領域がセットです。
- 会計:月次の締め・決算整理・計算書類(貸借対照表/損益計算書等)の確定
- 医療法務:事業報告書等の作成・監査・機関承認・都道府県への届出(決算届)
- 情報報告:病院・診療所ごとの経営情報等の報告(義務化されている範囲)
- 税務:法人税・消費税等の申告と納付
医療法人は「非営利法人」ですが、税務上は通常の法人と同様に課税関係が発生します。一方で、医療法上は決算書類の行政届出と閲覧制度が設けられており、ここが株式会社等と大きく異なる点です。
個人クリニックの確定申告との違い
個人事業(個人開業医)の場合、決算=所得税・消費税の確定申告が中心です。医療法人では、これに加えて「都道府県への決算届(事業報告書等)」と「経営情報等報告」が実務の山場になります。
医療法人の事業報告書等とは
医療法人は、毎会計年度終了後、事業報告書、財産目録、貸借対照表、損益計算書、監査報告書、関係事業者との取引の状況に関する報告書などを作成し、都道府県知事へ届出する枠組みが整理されています(医療法の枠組みとしての位置づけ)。この一式を一般に「事業報告書等」と呼びます。
事業報告書等の中身(イメージ)
厚労省資料でも、事業報告書等として代表的に次を挙げています。
- 事業報告書(法人概要・事業の概要)
- 財産目録(負債を含む財産状況)
- 貸借対照表(期末の資産・負債・純資産)
- 損益計算書(期中の収支)
- 監査報告書
- 関係事業者との取引状況に関する報告書 等
「医療法人特有の論点」として、関係事業者(役員や近親者等)との取引の透明性が問われる点は要注意です。MS法人や関連会社との取引がある場合は、契約書・稟議・見積の整備が決算期に効いてきます。
医療法人の届出(決算届)の期限と提出先
結論から言うと、期限管理は「2か月」「3か月」「(一部)4か月」を押さえるのが基本です。
期限の全体像(比較表)
| 手続(通称) | 根拠・位置づけ | 提出先 | 原則期限(会計年度末から) | 典型的な提出物 |
|---|---|---|---|---|
| 事業報告書等の届出(決算届) | 医療法人のガバナンス・透明性 | 都道府県(知事) | 3か月以内 | 事業報告書、財産目録、BS/PL、監査報告書、関係事業者取引報告 等 |
| 経営情報等の報告 | 医療法人データベース整備 | 都道府県(システム) | 3か月以内(外部監査対象は4か月以内) | 病院・診療所ごとの経営情報等 |
| 法人税等の確定申告 | 国税(申告納税制度) | 税務署 | 2か月以内(原則) | 法人税申告書一式、決算書、勘定科目内訳 等 |
| 消費税の確定申告(課税の場合) | 国税(申告納税制度) | 税務署 | 2か月以内(原則、延長特例あり) | 消費税申告書、課税売上・仕入集計 等 |
「3か月以内の都道府県届」と「2か月以内の税務申告」を同じ担当者が抱えると、決算が遅れた瞬間に両方が破綻します。したがって、決算整理は“税務2か月”が基準で逆算し、都道府県届出は余裕をもって並走させる設計が安全です。
事業報告書の作成と承認プロセス(手順)
医療法人の決算で躓きやすいのは「書類を作る」よりも、「監査・承認の順番」です。実務の基本形をステップで整理します。
Step 1: 決算整理(棚卸・未払計上・減価償却など)
会計ソフト上で決算仕訳を確定し、貸借対照表・損益計算書のドラフトを作ります。医療法人では、役員報酬、関連当事者取引(賃料・委託費等)、医療機器のリース/購入の区分が論点になりがちです。
Step 2: 事業報告書等の作成(様式に沿って落とし込み)
厚労省の通知で定める様式に沿って、事業報告書・財産目録・BS/PL等を整えます。特に、病院・老健等の有無で様式が分かれるため、テンプレートの取り違えを防ぐ運用が必要です。
Step 3: 監事監査(必要に応じて公認会計士等の監査)
監事が監査報告書を作成します。外部監査が必要な法人は、公認会計士等の監査手続も並行します。ここが遅れると、以降の機関承認が連鎖的に遅延します。
Step 4: 理事会・社員総会等での承認/報告
法人の機関設計(社員総会型、評議員会型等)に従い、理事会承認・社員総会承認/報告の順で確定させます。「誰が何を承認するか」を議事録テンプレで固定化すると、年度替わりの引継ぎが安定します。
Step 5: 都道府県へ届出(決算届)+閲覧対応の意識づけ
期限内に提出(オンライン/書面は都道府県運用による)します。届出書類は閲覧請求の対象となるため、形式面(押印、ページ、綴じ順)だけでなく、内容面(関連当事者取引の説明可能性)も含めて整合性を取るのが望ましい対応です。
Step 6: 税務申告(法人税・消費税等)と納付
法人税は原則2か月以内に確定申告が必要です。消費税(課税法人の場合)も原則2か月以内で、特例により期限延長がある点は制度確認が必要です。
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公告が必要なケース(貸借対照表・損益計算書)
医療法人の中には、貸借対照表・損益計算書の公告が求められる法人があります。公告方法は官報・日刊新聞・電子公告(ホームページ等)といった選択肢が整理されており、電子公告の場合は一定期間の継続掲載が必要とされています。
実務上は、次の判断を早めに行うと決算期の混乱を避けられます。
- 自法人は公告義務の対象か(規模基準・法人区分)
- 公告方法は何にするか(官報か電子公告か)
- 電子公告の場合、掲載ページのURL・掲載期間・差替ルールをどうするか
公告を外注する場合でも、原稿(要旨/全文)や掲載開始日の確認は法人側の責任で行う必要があります。
よくある失敗と防止策(実務ポイント)
税理士法人 辻総合会計では、クリニック・医療法人の顧問実務の中で、決算期に次のような相談が繰り返し発生します(匿名化して整理しています)。
- 決算届は出したが、経営情報等の報告が漏れていた
- 理事会・社員総会の順番が逆で、議事録を作り直した
- 関係事業者取引の説明資料がなく、都道府県照会に時間を要した
- 税務申告の期限延長は取っていたが、都道府県届出の期限は延長できない前提で詰んだ
対策としては、次の3点が有効です。
- 決算カレンダーを「税務2か月」で組み、都道府県は前倒し(監査・承認のバッファ確保)
- 「関連当事者取引」フォルダを通年管理(契約・見積・稟議・支払根拠)
- 様式と議事録テンプレートの固定化(担当交代に強い)
よくある質問
Q: 医療法人の「決算届」はどこに提出しますか?
A:
一般に「決算届」と呼ばれるものは、医療法にもとづく事業報告書等の届出を指し、都道府県(知事)に提出します。税務署への法人税申告とは提出先も目的も異なります。Q: 事業報告書等の提出期限はいつまでですか?
A:
事業報告書等は、会計年度終了後3か月以内に都道府県知事へ届出する枠組みです。内部では作成・監査・承認が必要となるため、実務上は会計年度末から逆算して早期に準備します。Q: 法人税の確定申告期限はいつですか?
A:
原則として、確定申告書は事業年度終了の日の翌日から2か月以内です。決算・税務調整・申告書作成に要する時間を踏まえ、決算整理を早めに着手するのが安全です。Q: 経営情報等の報告とは何ですか?事業報告書等と別ですか?
A:
別です。医療法人は事業報告書等に加え、病院・診療所ごとの経営情報等を都道府県へ報告する制度が整理されており、電子的届出が推進されています。期限も設定されているため、決算業務のタスクとして分離して管理するのが有効です。まとめ
- 医療法人の決算は、税務申告に加えて事業報告書等の作成・都道府県への届出まで含む
- 期限は「税務2か月」「都道府県3か月」を基準に、監査・承認を逆算して設計する
- 経営情報等の報告は事業報告書等と別枠で、電子的届出が推進されている
- 公告が必要な法人は、公告方法と掲載運用を決算前に確定しておく
- 関係事業者取引・議事録・様式の統一が、決算期の事故防止に直結する
参照ソース
- 厚生労働省「医療法人に関する情報の調査及び分析等について」: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000177753_00005.html
- 厚生労働省「医療法人の事業報告書等の届出事務・閲覧事務のデジタル化について(資料)」: https://www.mhlw.go.jp/content/12601000/000849707.pdf
- 厚生労働省「医療法人における事業報告書等の様式について(通知)」: https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001127721.pdf
- 国税庁「法人税及び地方法人税の申告(確定申告書は原則2か月以内)」: https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/hojin/shinkoku/01.htm
- 国税庁「No.6601 申告と納税(消費税の確定申告期限等)」: https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6601.htm
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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