
執筆者:辻 勝
会長税理士
"医療機器の減価償却|耐用年数と計算方法を税理士が解説"

医療機器の減価償却とは?クリニックで最初に押さえるべき全体像
医療機器は高額になりやすく、購入した年に全額を経費にできないケースが多いのが実務の基本です。原則として、取得価額を法定耐用年数にわたって配分し、各年の必要経費(または損金)として処理します。これが減価償却です。
クリニックの現場で論点になりやすいのは、次の3点です。
- 資産区分の判定:医療機器(器具・備品)なのか、工事に近いもの(建物附属設備)なのか
- 耐用年数の選定:機器名ではなく「省令別表の分類」に合わせる必要がある
- 期中取得の月割計算:開業年や設備更新の年は、月割で償却費が変動する
税理士法人 辻総合会計では、クリニックの設備投資に関する相談(耐用年数の選定、内装・設備の区分、リース判断など)を日常的に受けています。減価償却は「正しい分類」と「計算の一貫性」が最重要です。
医療機器の耐用年数:機器名ではなく“分類”で決まる
法定耐用年数は、減価償却資産の耐用年数表(省令別表ベース)に沿って判断します。医療機器は「器具・備品」の中に整理されており、同じ“医療機器”でも用途・方式(電子装置の有無等)で耐用年数が分かれます。
医療機器の耐用年数(代表例)
実務で照会が多い分類を、耐用年数表に沿ってまとめると次のとおりです。
| 区分(耐用年数表の分類) | 具体例(イメージ) | 耐用年数 |
|---|---|---|
| 消毒殺菌用機器 | オートクレーブ等 | 4年 |
| 手術機器 | 手術関連装置・器具 | 5年 |
| 血液透析又は血しょう交換用機器 | 透析装置等 | 7年 |
| 作動部分を有する機能回復訓練機器 | リハビリ系訓練機器 | 6年 |
| 調剤機器 | 調剤支援機器等 | 6年 |
| 歯科診療用ユニット | 歯科ユニット | 7年 |
| 光学検査機器 | 眼科系検査機器等 | 6年 |
| ファイバースコープ | 内視鏡(ファイバー) | 8年 |
| レントゲン等の電子装置を使用する機器(移動式等) | 移動式X線、救急用、自動血液分析器等 | 6年 |
| レントゲン等の電子装置を使用する機器(その他) | 上記以外の電子装置使用機器 | 3年 |
ポイント:同じ「検査機器」でも、耐用年数表上の分類に当てはめる必要があります。迷う場合は、購入仕様書・カタログの「用途」「構造」「電子装置の有無」など、分類に必要な情報を先に揃えると判断が安定します。
実務メモ(要注意)
医療機器本体は「器具・備品」でも、設置工事が“建物附属設備”に寄る場合があります(例:配線・配管・専用電源工事、据付が建物と一体になるケース)。見積書が「本体」「工事」「周辺機器」に分かれている場合は、区分ミスの予防になります。
減価償却の計算方法:定額法を中心に、月割まで一気に理解する
クリニック(個人事業・法人いずれでも)で採用が多いのは定額法です。医療機器の償却費は、原則として毎年一定になり、収支の見通しが立てやすい点が評価されます。
定額法の基本式(実務で使う形)
- 年間の償却費 = 取得価額 × 定額法の償却率
- 期中取得の場合:上記金額を 12で割り、使用月数を掛ける(月割)
取得価額には、購入代金だけでなく、運送費・据付費など「事業の用に供するための費用」が含まれます(見積・請求書の内訳確認が重要です)。
定率法との違い(比較表)
| 方式 | 償却費の出方 | 向いている考え方 |
|---|---|---|
| 定額法 | 原則、毎年同額 | 毎期の費用を平準化したい |
| 定率法 | 初年度が大きく、年々減少(一定条件で同額へ移行) | 早期に費用化したいが、計算管理も必要 |
※建物附属設備や構築物など、資産区分によっては償却方法が実質的に限定される点にも留意してください(取得時期・資産区分で取扱いが変わります)。
計算手順(現場でブレない6ステップ)
- 資産が「減価償却資産」に該当するか確認(消耗品扱いでよいか含む)
- 資産区分を決める(器具・備品/建物附属設備など)
- 耐用年数表の分類に当てはめ、耐用年数を確定する(根拠メモを残す)
- 取得価額を確定(本体+付随費用、税込/税抜の経理方式も統一)
- 償却方法(通常は定額法)と、使用開始月を確定
- 償却費を計算し、固定資産台帳へ登録(翌期以降の整合性を確保)
10万円・20万円・30万円未満:クリニックで使える“簡便処理”の整理
減価償却は原則処理ですが、取得価額が小さい資産については、事務負担を軽くする制度があります。開業初年度や小規模な入替が続く年ほど効果が大きい論点です。
- 10万円未満(または使用可能期間1年未満):一定の場合に購入年の経費にできる
- 10万円以上20万円未満:一定要件のもと、3年均等で経費化できる(いわゆる一括償却資産)
- 10万円以上30万円未満:一定要件を満たす青色申告者は、一定限度まで購入年に経費算入できる特例がある(期限あり)
判断のコツ
同じ金額帯でも「制度が複数」あります。どれを使うかで、利益の出方・税負担が変わります。設備投資が重なる年は、翌期以降の利益見込みとセットで設計すると、選択ミスが減ります。
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クリニックで多い減価償却のミスとチェックポイント
最後に、実務で頻出するミスをチェックリスト化します。税務調査だけでなく、月次の利益管理にも直結します。
- (1)内装・設備工事を「医療機器」と混在:本体と工事は見積内訳で分けて管理
- (2)耐用年数の根拠が残っていない:分類・判断資料(カタログ等)を台帳に添付
- (3)期中取得の月割がズレる:使用開始日(引渡日/稼働日)を統一ルール化
- (4)“修理”のつもりが資本的支出:性能向上・価値増加なら資産計上の可能性
- (5)機器の除却・売却処理漏れ:入替時に台帳から消えていない資産が残りやすい
減価償却は「初年度の登録品質」で、その後の数年間の数字が決まります。開業時・大きな設備更新時ほど、台帳整備に時間をかける価値があります。
よくある質問(FAQ)
Q1. 医療機器はすべて同じ耐用年数ですか?
いいえ。医療機器は耐用年数表で細分化されており、用途や構造(例:電子装置の有無、移動式かどうか等)で年数が分かれます。
Q2. 中古の医療機器を買った場合の耐用年数は?
中古資産は原則の耐用年数ではなく、別ルールで「見積耐用年数」を用いる場面があります。購入形態・年式・使用状況で結論が変わるため、個別検討が必要です。
Q3. 据付費や搬入費は経費ですか?
原則として、資産を事業で使える状態にするための費用は取得価額に含め、減価償却で配分します。請求書が分かれていても、実態で判断します。
まとめ:医療機器の減価償却は「分類」と「根拠メモ」で勝負が決まる
医療機器の減価償却は、節税というより「正確な利益管理」の基礎インフラです。
特にクリニックでは、(1)医療機器の分類、(2)耐用年数の選定、(3)月割計算、(4)工事との区分、の4点でミスが出やすく、初年度の設計が肝になります。設備投資が多い年ほど、固定資産台帳を“税務に耐える形”で整えることが、翌期以降の意思決定を楽にします。
参照ソース(公的機関)
- 国税庁「No.2100 減価償却のあらまし」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2100.htm
- 国税庁「No.2106 定額法と定率法による減価償却(平成19年4月1日以後に取得する場合)」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2106.htm
- 国税庁「主な減価償却資産の耐用年数表(PDF)」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/pdf/2100_01.pdf
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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