
執筆者:辻 勝
会長税理士
整形外科開業の立地選定|診療圏調査と競合分析のポイント|税理士が解説

整形外科の立地は「診療圏×競合×導線」で決まります
整形外科に適した立地を探すなら、結論は「診療圏の需要が見込め、競合密度が過度でなく、患者導線(徒歩・車・送迎)が合う場所」を選ぶことです。
問題になりやすいのは、物件条件や家賃だけで判断してしまい、想定患者数・競合の強さ・リハビリ運用が噛み合わないケースです。特に整形外科は、初診だけでなく再診・リハビリ通院が収益と評判を左右します。立地選定は、開業後に取り返しがつきにくい「経営の土台」です。
整形外科の診療圏調査とは何か
診療圏調査とは、想定エリア(徒歩圏・車圏など)における「来院可能性のある患者の母数」と「その取り合い構造」を見立てる作業です。整形外科では、次の特徴を前提に設計します。
- 需要は「高齢者(変性疾患)」「働く世代(腰痛・頸肩腕)」「スポーツ/外傷」で構成されやすい
- 再診・物理療法で通院頻度が上がりやすく、リハビリ導線(通いやすさ)が重要
- 近隣の病院(手術・救急)や他科(内科、脳外、リウマチ等)との連携が差別化要因になり得る
診療圏の「半径」は1つではありません
整形外科は、患者層と提供サービスで来院距離が変わります。実務上は「徒歩圏(例:~10分)」「自転車圏」「車圏(例:10~15分)」のように複数レンジを同時に評価します。
駅前で若年〜働く世代を狙うのか、ロードサイドで高齢者と家族送迎を取りに行くのかで、診療圏の設計が変わります。
競合分析のやり方:見るべきは「数」より「強さ」と「分業」
競合分析は「整形外科が何件あるか」を数えるだけでは不十分です。整形外科の競合は、同業(整形外科)だけでなく、周辺の提供機能で分解して把握します。
競合を4分類して評価する
- 同業クリニック:外来・画像・注射・リハビリの提供範囲
- 病院整形:手術、救急、紹介の受け皿(逆紹介の可能性も含む)
- 代替(周辺サービス):整骨院、リラク、フィットネス等(患者の意思決定に影響)
- 送客元:内科、脳外、リウマチ、皮膚科、在宅、介護事業所(紹介連携の候補)
ここで重要なのが、競合の「提供機能の幅」です。例えば、同じ整形外科でも、物理療法の台数・スタッフ体制・予約運用・駐車場の有無で処理能力が大きく変わります。患者側から見れば「近いかどうか」以上に、「待たずに診てもらえるか」「継続通院しやすいか」が選択理由になります。
競合が多いエリアでも勝てるケース
競合が多い=避けるべき、とは限りません。整形外科は需要が大きいエリアも多く、一定の競合があること自体は市場成立のサインにもなります。勝ち筋は次のいずれかです。
- 待ち時間・予約・回転の設計で、同じ需要を取りに行く
- 駐車場やバリアフリーなど、導線で取りこぼしを減らす
- リハビリの専門性(運動器リハ、スポーツ、術後フォロー等)で役割を明確化する
- 紹介連携(病院・介護・他科)を仕組み化して流入経路を増やす
立地タイプ別の勝ち筋比較(整形外科向け)
以下は、立地タイプ別に「狙える患者層」「運用上の要点」を整理した比較です。
| 立地タイプ | 強み | 注意点 | 向いているモデル |
|---|---|---|---|
| 駅前・繁華 | 通勤通学動線、初診獲得が早い | 駐車場弱・賃料高・混雑対応必須 | 外来中心、働く世代、スポーツ整形 |
| ロードサイド | 車来院・送迎と相性、面積確保しやすい | 交通規制・視認性・出入口設計が重要 | リハビリ強化、家族/高齢者、広域集客 |
| 住宅地・生活道路 | 固定患者化しやすい、口コミが効く | 新規流入は遅め、認知設計が必要 | かかりつけ型、慢性疼痛・変性疾患 |
| メディカルモール | 相互紹介・ワンストップ利便性 | テナント規約、差別化が難しい場合 | 他科連携、検査連携、紹介設計重視 |
| 病院近接 | 紹介・逆紹介の余地、術後フォロー | 病院の外来機能が強いと吸収される | 役割分担が明確な地域で有効 |
ポイントは、立地タイプごとに「患者導線」と「オペレーション(回転・リハ・スタッフ)」がセットで決まることです。立地だけで勝つのではなく、立地が要求する運用に耐える設計になっているかを検証します。
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診療圏調査の実務手順(競合分析込み)
税理士法人 辻総合会計では、資金計画や損益シミュレーションの前段として、次の流れで立地仮説を固めることが多いです。数字に落とし込める形で進めると、融資面談でも説明力が上がります。
Step 1: 診療コンセプトを固定する(誰の何を診るか)
外傷中心か、慢性疾患中心か、スポーツ/リハ強化かで、診療圏の距離・必要面積・スタッフ体制が変わります。コンセプトが曖昧だと、良い物件でも「選ばれる理由」を作れません。
Step 2: 導線ベースでエリアを分割する
徒歩10分圏、車10分圏など複数レンジを作り、駅・幹線道路・バス・坂・川で「分断」される境界を地図上に落とします。商業施設(スーパー、ドラッグストア)周辺は生活動線の核になりやすいです。
Step 3: 競合を棚卸しし、機能で格付けする
同業クリニック・病院・代替サービスを抽出し、提供機能(画像、注射、リハ、予約、営業時間、駐車場)で点数化します。「距離が近い競合」より「処理能力が高い競合」を重く見ます。
Step 4: 想定患者数を“幅”で置く(悲観・標準・楽観)
診療圏人口×受療の起こりやすさ×自院シェア、で概算します。ここで重要なのは単一の数字にしないことです。開業後の立ち上がりは広告・口コミ・紹介連携で変動するため、幅で資金繰りを守ります。
Step 5: 立地要件チェックと損益シミュレーションに接続する
想定患者数の幅から、必要な診察枠、リハ枠、スタッフ人数、設備(例:X線、リハ機器)の投資額を逆算します。リハビリ導線(受付→診察→処置→会計→次回予約)が詰まると、患者満足と回転が同時に落ちます。
立地選定で見落としがちな注意点とリスク
「医療圏」と「地域の医療計画」を最低限押さえる
整形外科は外来中心のため、病床規制ほど直接的ではない一方、地域の医療提供体制(病院機能、回復期、在宅、救急)の方向性は紹介連携・役割分担に影響します。二次医療圏などの枠組みは、地域の医療資源を把握する際の前提として使われます。
物件の“使い勝手”が整形外科の体験を決める
- 入口から受付までの段差、車椅子導線、雨の日の動線
- 待合の過密(高齢者の滞在が長い)
- 画像・処置・リハの移動距離と視線(プライバシー)
- 騒音・振動(テナントの場合、上階/隣接業種)
整形外科は「痛い状態」で来院する方が多く、導線の小さなストレスが不満につながりやすい診療科です。立地と同時に、建物条件まで一体で評価してください。
免責事項
本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定地域・個別案件の適否を保証するものではありません。地域の医療提供体制や競合状況、開業者の経歴・診療内容により最適解は異なります。最終判断は、現地調査と専門家への個別相談を前提に行ってください。
よくある質問
Q: 診療圏調査は何kmで見れば良いですか?
A:
一律の正解はありません。徒歩圏(例:10分)と車圏(例:10~15分)など複数レンジを作り、患者層(高齢者中心か、働く世代中心か)と提供サービス(リハ比率)に合わせて評価します。Q: 競合が多い駅前は避けるべきですか?
A:
競合が多くても、需要が厚く回転で勝てる、または差別化(リハ特化・スポーツ・予約運用)で役割が立つなら成立する場合があります。競合の「数」より「処理能力」「提供機能」「患者導線」を見て判断します。Q: 病院の近くに出すメリットはありますか?
A:
役割分担が成立する地域では、紹介・逆紹介や術後フォローで相性が良いことがあります。一方で病院外来が強いと吸収されるため、地域の病院機能と連携の現実性を事前に確認することが重要です。まとめ
- 整形外科の立地は「診療圏(需要)×競合(強さ)×導線(通いやすさ)」の掛け算で判断する
- 診療圏は徒歩/車など複数レンジで設計し、生活動線ベースで境界を見立てる
- 競合は件数ではなく、提供機能(リハ・予約・駐車場・処理能力)で格付けする
- 立地タイプごとに勝ち筋が異なるため、運用(回転・リハ導線)まで一体で検証する
- 想定患者数は単一ではなく「幅」で置き、資金計画と損益に接続して意思決定する
参照ソース
- 厚生労働省「医療施設調査・病院報告の結果の概要」: https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/79-1a.html
- 厚生労働省「地域医療構想」: https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000080850.html
- 厚生労働省「医療圏、基準病床数、指標(総論)について」: https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000998508.pdf
この記事を書いた人

辻 勝
会長税理士
税理士 / 行政書士
税理士法人 辻総合会計の会長。40年以上の実務経験を持ち、相続税・事業承継を専門とする。多くの医療法人・クリニックの顧問を務める。
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